第28倭 【堕天之章】悪意の綴り直霊、暴かれし原罪顕現せん
遺された漆黒の魂玉。
それは、「他化自在天」の権能の根源、「主なる神」より授かりし権能。
荒々しくも秩序を正し、世界を管理、支配する「荒魂」。
「ヒヒッ! 『お館様』……いいや、『アイツ』、偉そうにしていて結局負けちゃったみたいだねぇ!
まぁ良いさ。
この権能も……僕がもっともっと『有用』に綴り直霊してあげるよ!
ほうら! ヒャハハハハ!」
他化自在天が敗れ、「魂玉」が彼から離れるのを、ジェスターは手ぐすね引いて待ち構えていた。
ジェスターは、遺された荒魂に、かつてないほどの「魔闘氣」を注ぎ込む。
浮かび上がりし漆黒の幻影。
「ヒヒッ! コイツをこうして……こうだ!」
得意の「人形繰り」で操る。
それは、自由意思など微塵もない、純然たる支配と管理の顕現「昏き魔王」。
「もっと面白くなるように『綴り直霊』してあげるよ。そおらそら、ヒャハハハハ!」
ジェスターはさらに徹底的に「記述」を書き込んで「綴り直霊」してゆく。
顕れた「昏き魔王」。
それは、互いの想いのすべてを曝け出し、全力でぶつかり合った「他化自在天」とは、似ても似つかぬ機械的で冷淡な姿であった。
「さぁ『魔王』くん、彼等に最高の花道を顕してくれたまえ!」
ジェスターが、真輝金の怪しく煌く糸を繰ると、「昏き魔王」は頷いて城壁に拳を撃ち付ける。
「――強い! あんなでたらめな突きでなんて威力……!」
腕を振り回しながらの、武の欠片もない力任せの一撃。
だがその拳は、武を極めんとしているミチヒメを驚嘆させるものであった。
ジェスターは、巫山戯てお道化ているが、魔王の一撃は紛れもない本物。
已む無く一行は、用心しながら動向を伺う。
「さぁこっちだよ。おいでおいで! 最高の見世物小屋だよ! ヒャハハハハ!」
ヤチホコは、ジェスターの誘いに対し、らしからぬ躊躇と戸惑い、そしてあろうことか恐怖を露にする。
「ジェスター! あなたはいつも! 仮にも主君に対して……あなたも彼等の比武、観ていたでしょ!」
拳を握り締め憤るミチヒメに対し、至上の歓喜を露わにジェスターは高笑いする。
「ヒャハハハハ! とっても『ゲンコツ娘』らしいねぇ! まぁ黙ってついてくるとイイさ。とっても面白い見世物を披露してあげるからねぇ!」
今にも跳び掛かろうとする彼女を、ヤチホコは縋る様に捕まえて制す。
「ヤチホコくん!? どうしたの? アイツは……。
『あなたと真剣に比武した』、他化自在天……さまの事も、嘲笑って踏み躙っているのよ?」
額より流れ落ちる冷たい汗。
そう……彼女も、彼女達も曝け出した……。ならば自分だって……!
(どうであろうと……『事実』は変わりませんし覆りません……!)
生唾を呑み込み、意を決し皆に振り向く。
「……ごめんなさい、みんな、行きましょう……!」
撃ち抜かれ直霊された隧道を抜けた先……。
「い、いやぁぁぁっ!! な、なんですのーっ!」
理屈抜きの凄惨さを観じ、両の掌で青ざめた顔を覆い飛び出すミヅチの悲鳴。
「な、なんてことを……これってもしかしてみんな……!」
呆然と立ち尽くすスセリからの絶望。
「さぁさぁ、『管理の記述』を詠い直霊す不届き者の皆さん、ご覧あれ!
これこそは、そこの英雄気取りの統治之神威さんが、『根源神威』の頃に仕出かした最っ高の『原罪』だよっ!
この非道なる所業は一見の価値ありだよ!
とっくとご覧あれぇ! ヒャハハハハ!」
湧き上がる狂おしい歓喜を噴き出すように、響き渡るジェスターの囃子。
眼前より否応なしに視線を引き寄せる、根源神威の犯した罪……。
それは、夥しい数の、「城」の動力源にされている神威達。
『供犠の棺』に納められ、永久的に氣力を搾り取られている。
その最たる動力源とされているのが……四方に安置されている、ミチヒメの師匠達……。
四獣王の真なる姿である、彼等の神威之色身体であった……。
平坦な声が響く。それは、昏き魔王からの冷徹で無情な通達。
「英雄気取りの根源神威、最終確認を。
あなたの所業によって、この『城』が動き、我等が『主なる神』の傷を癒さんとしている真実を……」
「なんだと? この城の力の源が……この供犠の棺……だと!
そしてオマエ等の『主なる神』って奴を……『治す手助け』をしているというのかっ!!」
ミケヒコの魔王に対する激昂。
スセリは、あり得ない光景を眼にして、言葉に出来ない想いを露わにする。
彼女の口から漏れ出すのは、もう一柱の内なる囁き。
「……ヤチ……。いいえ、『我が背』……。
これが、あなたが根源神威として、血の涙を流しながらも、『主なる神』に操られた『わたくし』を救う為に犯した、愛ゆえの罪……ですわね」
スセリの内なるイザナミは、深く反芻する様に、確認する様に、息を呑んでその惨状を見据えながら問う。
「……はい。『ナミ』。
……『あの刻』、あなたの待つ次元……。
他化自在天が、『主なる神』と呼ぶ存在、そして『創造主』の住まう世界へ辿り着き、その喉元へ詰め寄る為に……。
この、禁忌の権能を以って『絶対なる天』へと翔け昇りました……」
ヤチホコは、根源神威としての想いを吐露する。
一行に戦慄が疾る。
信じ、慕い、付き従って共に歩んできたヤチホコ……。
新たな希望を詠う統治之神威……。
その根源にある、筆舌に尽くし難き非道な所業を前に、緋の神威に連なる徒達は、彼へ抱いてきた想いが大きく揺らぎ、崩れ去ろうとしていた……。




