詩片の狭間 目覚める神威の乙女、呪縛されし神威の城
「……皆の衆、忝き……!」
一頻り想い交歓し終えた兜跋毘沙門天が、全員を見渡す。
皆、一同に満面の笑みを湛え祝福する。
「とっても良かったですの。でも、ミヅチにはちょっと刺激強すぎですの……!」
ミヅチは、伝えるや否や両の掌で顔を覆う。
「そ、そうよね……ボクもちょっと……ううん、すっごく胸が高鳴っちゃった」
スセリも頬を赤らめて深く頷く。
「二人にも特別な方との、静謐な契りの機会が得られますように」
布施之乙女は、慈愛を籠めて二人を祝福する。
途端、兜跋毘沙門天より放たれる紺碧の瑞光。
「では、番たる我からも。ふたりに青蓮華の加護を!」
兜跋毘沙門天から迸る紺碧の蓮華。
眩い光を放ち、輝く華が彼女達を包み込む。
それは、彼からの守護権能の布施。
「……これでそなたらも、我が鎧の如き頑健さ、誇るであろう!」
兜跋毘沙門天は抱拳の礼をして微笑む。
彼女達の加護が終わった途端、全員が輝き始めた事にヤチホコが気付く。
「こ、これは!? 僕達にも加護が働いている……のでしょうか?」
「い、いえ、これは兜跋毘沙門天殿の御力とはまた異なる者かと存じま……!」
ヒメが輝きを見つめ言いかけた刻、天界に響く、天之鳥船雷鳥の声。
『……緋の神威に連なる徒……十柱の集結、確認できました……』
その声に重厚な低音が応じる。
『しからば、雷鳥殿の真なる目覚めの儀、取り計らわん!』
「……え? 今何て……な、何、この地響き!?」
ミチヒメが聴こえし声に尋ねようとすると、途端鳴り響く轟音。
それは、聖塔に接続された「天之磐船」の咆哮。
『……ミチヒメ……皆さん、ご安心ください……。あなた方が真に揃いし因果の帰結です。参ります……!』
磐船と化したオオトシの合図とともに、意図せずヤチホコ達から膨大な氣力が迸る。
「これは……僕らの氣力が纏め上げられています!」
驚いたヤチホコが虚空を見据える。
様々に色彩を織りなす珠玉の氣力達が、掌を取り合う様に折り重なってゆく。
『『……合わせ放たん!』』
響き渡るオオトシと天之磐船の絶唱。
すると、彼等の氣力が磐船に吸い込まれ、朱金の輝きを放って雷鳥を包み込む。
彼女の真輝金の翼が、究極の緋緋色金へと詠い直霊されてゆく。
翼をたたみ身体を丸め揺籃と化す。
「……体幹……骨盤……四肢……完了……頭部……完了。眞理乃命脈、各経絡へ浸透完了。
フミルィは今ここに……『天翔神威之乙女』と成り……大いなる翼を拡げ顕現致します……!」
声の主は、音もなく天界へと飛翔して舞い降りる。
それは、輝く緋緋色金の一対の美しい翼を携えた存在。
透き通り純白に煌く、極薄の法衣を纏う巨大な神威の乙女。
顕れし彼女が、ヤチホコの眼前にて微笑みを湛え恭しく跪く。
「……『造物主』……。
天之鳥船雷鳥、ここに真なる姿顕現叶いました。
――フミルィ、この姿でしたら、全高度、全時空飛翔叶いますわ!
さぁ、『あの城へ飛翔せよ』とお申し付けくださいませ!」
今迄のやや無機質な口調に対し、情熱的で甘やかな囁き。
「雷鳥……そうか……そうでしたね! 思い出しましたその姿!
カンナさんと対に……そしてあの城と三位一体と成る……僕の……最高の相棒たち!
参りましょう天翔神威之乙女!!」
「造物主」たるヤチホコの声が響き渡る。
フミルィは、満面の笑みを湛えて十柱をその胸に抱く。
「……これはまさにワラワの身体、『如意宝珠』と同様……」
抱かれた身体の柔らかさを観じ、察したヒメが感慨深そうに頬を寄せる。
「そして……師匠達と同様、生命之法具の波動を観じるわ!」
ミチヒメも頷きながら、呼応するかのように鳴り響く青龍の籠手を翳す。
「……素晴らしい。まさに六天を自在に翔け廻りし大いなる翼なり!」
タカヒコは、女神に秘められた境涯の高さを悟り感嘆する。
「大地と対極の波動を観じるわ!
まさに『天』の氣力だわ!」
キクリは、自身の大地と惹き合う氣力を観じとる。
「この状態なら……ボクの大凬を吹き込むほどに高く舞い上がりそう!」
スセリは、彼女の底知れぬ許容量を頼もしく想う。
「……それだけじゃありませんの!
ミヅチの大海まで、どんなけがも治せるくらいに高まっていますのっ!」
自身の氣力を高める波動を放つ彼女に、ミヅチは感嘆の声を漏らす。
「ミヅチさん、その通りですわ。
フミルィは五大が揃った皆様の波動を受け、高めてお還し叶いますわ。
フミルィ、そして『カンナ』と同様の名を冠するあの城の中、きっとお役に立てると思いますわ!」
「まさか雷鳥……あなたがこんな素晴らしい女神だったなんて……!
わたしと英雄王さまの『無理筋』ではとても出来なかったわ。
ヤチホコくん、あなたの歩みはまさに『天啓』よ! さぁ行きましょう!」
ミチヒメは、遥かなる刻に想いを馳せる。
そして、今のヤチホコの「王道の歩み」を鑑み、確信の笑みを浮かべ拳を握り締める。
「はい! フミルィ、お願いします!」
「お任せを。天翔神威之乙女、彼の城を目指し天へ舞い上がりますわ!」
音もなくフミルィは浮かび上がり、緋緋色金の翼を大きく広げた途端、瞬時に音を置き去りに、遥かなる虚空を目指して天を斬り裂いてゆく。
「な、なんて迅さ! ボクの翼以上……!」
同じく翼を湛える、大凬の四氣王であるスセリが舌を巻く。
「わたしが出せるスザクの翼では、全く叶わないわ!」
ミチヒメも同様に、己を遥かに凌ぐ飛翔に驚愕する。
「しかもすっごいですのーっ!
雷鳥さんの中に乗っている刻とおんなじで、全く苦しくありませんのっ!」
「その通りですわ。心地良い飛翔の為、大凬と大地の氣力を遣い、風を塞いで重さの足場を産み直霊していますわ!」
フミルィは驚くミヅチに対して、得意気に笑みを浮かべる。
「む、観えてきたぞ! 凄まじい迅さ、見事だフミルィ!」
眼前に迫る神威の城を眼に、ミケヒコはフミルィを褒める。
「光栄ですわ若き大焔の王。さぁ……参りますわ!」
フミルィは、城の周囲を滑るように飛翔して上空に躍り出る。
「……敵対者発見……。攻撃開……否、この虚空の氣力……波動……。
携えた天尾改斬神威之儀刀、共に飛翔せん天翔神威之乙女……。
『造物主』と認識。隔離結界解除します……」
天超飛翔神威之城は、ヤチホコとフミルィを認識した途端、驚く事に、張り廻らされた結界を解いて彼等を受け入れた。
城の前、大きく開けた処へとフミルィは降り立つ。
「何を……! 天超飛翔神威之城よ、我の命に従うが良い!」
城の最奥から響き渡る「他化自在天」の咆哮。
突如湧き上がりし真輝金の鎖が、城を縦横無尽に縛り上げてゆく。
断末魔のように一瞬光を放ち、程無く城は沈黙する。
一拍置いて、静かに再び結界が展開されてゆく。
「これは……! 皆の、此処へ長く留まりし事、危ういと存じます。疾くと中へ参りましょう!」
ヒメが七絃の瞳を輝かせて叫ぶ。
全員頷いて門へと走り出す。
「……『造物主』たる僕がここに命じます。門よ、我等を受け入れよ!」
重厚で荘厳な城門が、地響きを立てて開かれてゆく。
「みんな、入りましょう!」
一同駆けこむ中、先程の城の「誤作動」に対し、フミルィは静かに言葉を還す。
「……天超飛翔神威之城……。
あなたは……まだ目覚めていないのね……」
「な、何これぇ!」「本当ですの、ちょっと怖いですの……!」
スセリとミヅチがその異質さに強張る。
「……成程ですわ。これは、一朝一夕に目覚めさせる事は……叶いませんわね」
城の内部を観て、フミルィが言葉を漏らす。
それは、夥しいほどの記述の縛鎖……。
(……間違いないです……。これはカンナさんの『法理』、『神速呪文』……!)
記述を眼にし、読み解き戦慄くヤチホコへの静かなる「返答」。
「その通りです、我が愛すべき主。この記述、『流石』、と言っておきます。
私でも即座に解けない程の『執念』を観じます……! ですが……」
背負う真輝銀の剣、カンナも、戦慄と関心を顕す様に鍔なりを響かせる。
一行の最後尾を担う、巨大な神威の乙女も続いて力強く頷く。
「ええ! 『城』よ、今しばしお待ちくださいませ。
きっとフミルィとカンナ、そして我が造物主が直霊してさしあげますわ!」
城が一瞬朱金に明滅するも、すぐさま呪縛されるかの如く鎮まり還る。
「……みなさん、行きましょう!」
真輝金に輝く縛鎖の杜を、十柱の使徒は翼の女神と共に奥へと進んでゆく……。




