↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第壱部 『神威息衝く古代國』編
59/100

第27倭 矜持と慟哭 絶望超えて直霊せん 前編

『起 無理筋徹し立ちはだかる執念と絶望』



――壱幕 北の王が待つ神殿――


「ありがとうスセリちゃん。降ります!」


 ヤチホコは、スセリの翼から勢いよく飛び降りる。

 そして、北の神殿の門前に立ち、静かに見据える。

 刹那、周囲の空間すべてを呑み込まんばかりの、爆発的な虚空(ニス)が放出される。


(桁外れの巫山戯た氣力(トゥム)……! まさに総ての存在が輪を廻らされんと覚悟する程の……。ついに、来たりしか……!)


 神殿奥にて待ち構える、財宝之神威(クヴェーラ)が観じ取った、あまりに途轍もない、天を吞まんとする巨濤(おおなみ)の如き氣力……。

 その強大さに、思わず全身を粟立たせる程の、戦慄と恐怖を覚える。

 だが、瞬時に、護る事叶わなかった後悔と自責の執念(イレンカ)が湧き上がり、「強大さに対する恐怖」を、再度襲い掛からん「奪われ失墜させられる恐怖」が塗りつぶし、喰らい尽くす。


(……その強大な敵を、『城』を護らんと撃ち倒さんとしてこその栄光……そして贖罪……!)


『……左様。彼の刻の失態、今がまさに挽回の刻なり』


 何者かの、強い執念(イレンカ)の籠った決意(ピリマ)。


(そう、だ……。恐るることなどない。我は……『天界(カンナ=モシリ)と城の守護者』、財宝之神威(クヴェーラ)!)


『……その執念(イレンカ)を以って……その身、その存在毎我に捧げよ……さすれば悲願、叶わぬことなどありはせぬ!』


(御意……! 我の更なる権能よ、そなたの執念(イレンカ)のままに……!)


 想いと共に、財宝之神威(クヴェーラ)の「想い」が深く沈んでゆく……。

 噴き上がる爆発的な魔闘氣。

 それは、「護れなかった事への憤怒」と、喪失への恐怖が翻った、「全てを欲する妄執」。


 真輝金(オリハルコン)の憤怒を、妄執の紫焔が取り囲んで燃え上がる。

 身体が軋み、悲鳴を上げるも構わずに取り込んでゆく。

 全身を斬り刻まれた様に裂け目が覆い、裂傷から紫焔を爆発的に噴き上げる。

 先程とは比較にならぬ強大なる氣力。

 それは、まさに「魔王の風格と気勢」。


 「それでも到らぬ刻は……」。


 それは、財宝之神威(クヴェーラ)へ憑依顕現した「権能」の独言(ピリマ)……。


「……門を潜り参るが良い。この『財宝之神威(クヴェーラ)』が、貴様等の身の程、此処で見定めん!」


 神殿から響き渡る、強き執念(イレンカ)。


「――強い……! あの刻の羅刹王(ラーヴァナ)よりも。でも、やるんでしょ、ヤチホコくん」


 かつてミチヒメが比武したと言う、「神威を超越せん者」。

 それ以上の強大さを彼女は観じ取る。


 戦慄くも、それ以上の信頼と自身の想いを籠め、ミチヒメはヤチホコへ微笑みかける。


「……はい。比武として……輪を廻らさず、超えます! ミチヒメさん、スセリちゃん、みんな、参りましょう!」


 重厚で荘厳な門を超え、緋の神威に連なる徒は財宝之神威(クヴェーラ)に相対する。



――弐幕 決死の執念で超越せん 財宝之神威(クヴェーラ)――


 圧倒的な神威を放つ同士、彼等が相対しただけで暴風が吹き荒れる。


「……我等が王よ、アイツは、『護れなかった後悔と自責』の『痛み』を抱えた存在。観てやってくれ……!」


 ミケヒコの静かなる懇願に、ヤチホコは紅玉の神瞳(アラフレ=インカラ)を輝かせる……。

 だが……。


「あ、ありません……! 以前観じていたあの想いが……まるで観えません……!」


 驚愕し戸惑うヤチホコに対し、財宝之神威(クヴェーラ)が雄叫びを上げる。


「何やらせんと欲したようだな? ならば……参る……ぞっ!!」


 昏き深淵の鉄紺(てつこん)に輝く、三頭水龍神がヤチホコを強襲する。


「ミヅチの中の鏡水さま! お願いですのっ!!」


 彼女の内なる龍神が、静かに猛り紺碧の沖つ波で迎え撃つ。


「――あの刻の増長天さまのように。ボクの大凬(レラ)よ……巨濤(おおなみ)をうんと激しく猛らせてぇ!!」


 スセリより吹き荒れる、純白と新緑が掌を取り合いし『清浄之大凬』。

 それは、ミヅチの沖つ波を浄め極大化する。


「ミヅチ! アタシが絶対に支えてみせるわ!

 大地より産まれ直霊すると良いわ! やぁっ!!」


 キクリが豊饒の金色を輝かせ、大地之神威器(モシリ=カムイオイペ)を産み出してミヅチの巨濤(おおなみ)をしかと支える。


「猪口才な! この我の御前、愚蛇も狡狐も駄龍も平伏せよ!」


 三頭が絡み合い強大な三叉戟と化し、その身を激しく廻天させる。


「撃ち抜かせぬ。 おぉっ! オレの大焔(アペヌィ)よ、姉妹の絆、盤石へと焼き締めろ!!」


 ミケヒコが自身の紅蓮の大焔を猛らせて、彼女たちの権能を焼成する。


「ここでございます! ミチヒメとワラワの根源を、ヤチホコ殿の虚空(ニス)にて!!」


「ヒメ! わかったわ。受け取ってヤチホコくん! 啊啊啊啊啊啊(やぁぁあああ)っ!!」


 ヒメの絶唱とミチヒメの咆哮。

 ヤチホコは、己の虚空に根源の氣力と霊力を受け入れて、神威として全力付与する。


 刹那の硬直。

 響き渡る乾いた破裂音。

 三頭の水龍神も、焼成されし器も、天使の囁き(ピリマ)と言われる霧華(きばな)の如く、相打ちと成りて煌めきの中粉砕されてゆく。


「や、やったわ! アタシたちで止めきれたわ! ヤチホコ、これでアンタの其の神威が重なれば……いけるわ!」


 即座に現状を直感的に観じとり、キクリが高揚する。

 その言葉を聴き、財宝之神威は、静かに統治之神威を見据える。


(彼奴等がここまで到りしとは……!

 だが……『綴られし者共』に後れを取る事など……断じて許すまじ!!)


「良いだろう……我も絶対なる覚悟、此処に顕さん!!」


 途端に湧き上がる気勢。

 それは、絶望を悟るに十分すぎる程の、明らかに「個」を超えた強大さ。


「信じ、られない、わ……。あんな巨濤の如き権能(チカラ)、間違いなく身体(ケゥエ)が耐えきれないわ!!」

 

 迸る氣力のあまりの凶悪な大きさに、キクリは、理解の範疇を超えた未知との遭遇の如く呆然として戦慄く。

 その大きさを観じとり、ヤチホコも、冷たい汗が滴り落ちる。

 この巨大で凶悪な権能に対し出来るだろうか? 

 「輪を廻らさず救う」……その、あまりに無理筋な己の誓いと想いを徹しきることが……。

 彼の躊躇と裏腹に、絶対の覚悟を財宝之神威(クヴェーラ)は放つ。


「輪廻掌りし世界よ、そのすべてを我に『書き込み直霊』せよ!!」


 途端世界が煌き戦慄く。

 遥かなる虚空より、常軌を逸した権能が、財宝之神威(クヴェーラ)へと文字通り「叩き込まれて」ゆく!

 あまりの衝撃に身体中が軋みと悲鳴の絶唱を続けるも、断固たる彼の執念(イレンカ)が無理筋を徹し、莫大な権能を呑み込んで喰らい尽くしてゆく。


「はぁっ、はぁっ……。き、貴様の巫山戯た『想念(イレンカ)』……我を前に徹せるか否か……『覚悟』を以って受けてみよ!!」


 繰り出されるは……あの、「終焉の竜巻」を彷彿させる、まさに真なる絶望。

 大地に触れた瞬間、存在全てを吹き飛ばし薙ぎ倒してゆく。

 その衝撃は、遥か東方持国天(ドゥリタラーシュトラ)の神殿まで迸り貫通してゆく。


「な、なんと言う……!

 そしてこれは……『世界構成記述(モシリオカィ・コード)』!!

 莫迦な……。

 多聞天(ヴァイシュラヴァナ)よ、お主は何と言う無理筋を……。

 ――已む無き!」


 六天の存在自体の揺らぎを痛感し、持国天(ドゥリタラーシュトラ)は遥か北方の神殿へと飛翔してゆく。



――参幕 朋友と盟友、魂の参戦――


 天界すべてを揺るがす異常事態に、戒律を破り持国天(ドゥリタラーシュトラ)が財宝之神威(クヴェーラ)の前に降り立つ。


「我が朋友多聞天(ヴァイシュラヴァナ)よ……。お主のあの直向きさ、実直さ、想いを得た喜びの儘天界を護る『想いの熱さ』は、一体何処へ行ったと言うのだ! 想い改め、四大王の長たる雄姿、この眼に観せてくれと切に願わん!」


「……すべてこの執念(イレンカ)に集束したり! 今なお我は『許されざる来訪者の排除』に直向きであり、実直に遂行し、この天界を『地上の不浄』から護れし事、歓喜の想いの下に行わん!」


 その言葉に、愕然として戦慄く持国天に対し、容赦なく痛烈な一撃を喰らわせる。

 辛うじて防ぎきるも、躊躇する持国天に一方的に攻撃を浴びせ続ける財宝之神威(クヴェーラ)。

 

「……覚えているか? そなたが初めて真に目覚めし刻の、我の送りし言の葉を……?」


「無論だとも。『傀儡であった屈辱を 己が想いで覆すが良い』であろう?」


 瞬間、持国天(ドゥリタラーシュトラ)は裂帛の気合で財宝之神威の猛攻をはねかえす。


「……どこの誰かは解り得ぬ。だが、其方は断じて多聞天(ヴァイシュラヴァナ)ではない!」


 そう、彼の自由意思の芽生えと目覚めを、心より祝福したのが持国天であった。


「己が想い無き儘、従順に戒律護りしも良き事であろう。

 だが、己が想いと正義を以って鎮護にあたるその姿……。

 それこそがまさに四大王の矜持の体現たる、『我等が長の姿』なり!」


「同義であろう? 我は今、『己が執念(おも)いで天界の鎮護果たさん!』」


 財宝之神威(クヴェーラ)は、片方の口元を引き攣り上げて微笑む。


「……今のそなたには、『他者を慮り慈しみの顕れとして鎮護する』と言う、多聞天(ヴァイシュラヴァナ)が、己が想いで抱きし『戒律(イレンカ)』が、微塵も観じぬ!――『偽者』よ、我が親友の身体から早々に退場するが良い!」


 突如世界の大地すべてから権能が集束してゆく。


「あれって……もう一柱の母様(女媧)の本神の……!」


 莫大なこの星総てと言って良い大地の権能の集束に、誰よりもその魂の娘であるキクリが驚愕する。


 まさに今、持国天は女媧と感応道交し、己が限界まで大地の氣力を集め直霊している。


「……笑止。高々『地上総て』程度で、今の我に抗い切れると思うか!」


 突如背後の須弥山を翔け抜け、虚空の城をも突き抜ける程に漆黒の雷光が迸る。


「な! あの高みは……まさか其方!!」


「種明かしなら我が配下の道化師にさせん。貴様は此処で舞台より引き下がるが良い! 流転する世界よ、総て逆巻き万象を無に帰せよ! 『六道ノ(イワン=カリ)輪廻(=ラマトゥ)』!!」


 およそこの世界の存在には、絶対に防ぎきらぬ絶望の流転の波動。

 すべて吹き飛ばされる中、辛うじて踏みとどまるヤチホコとスセリ。

 程無く崩れ落ちようとするスセリを、慌ててヤチホコは支える。

 

「スセリちゃん!――っ! みんな!? 大丈……ぐっ……!」


 自神もかなりの存在の記述を無に帰せられるも、外なる「竜輝」の想いと魂が、辛うじて回帰の奔流から想いを繋ぎ止める。


「……実に良い。次撃で貴様すら無に還す事叶うであろう……!」


 激しく血を吐き出し、満身創痍の身体を引き摺って財宝之神威(クヴェーラ)は歓喜する。


(まさに執念(イレンカ)……! 一体なぜそこまで……!)



――肆幕 天地掌を取(ドゥルアンキ)り合う刻(=エウコテ)――


 その刻、突如世界に鳴り響く宣言(ピリマ)……。


「……天(アン)地(キ)の『翼と舞台』集結確認。

 これより、聖塔は彼等の揺籃となり、眞理乃命脈(シンノ・クスル)を顕現し、『希望の石舞台』を天へと導きます……」


「フ、雷鳥(フミルィ)……ではありません……まさかこの聖塔の声!」


 ヤチホコの驚きと同時に天が激しく鳴動する。

 紅玉の神瞳(アラフレ=インカラ)を虚空へ飛ばし、聖塔の全容を観て驚愕する。

 それは、『終焉(おわ)りと創世(はじま)りの石舞台』が、超大なる質量を押しのけて、激しく聖塔を昇り詰めようとしている姿。


「な、何だこの揺らぎは! も、もしや『地の奏者』……目覚めたりしか!!」


 財宝之神威(クヴェーラ)の怒声と重なる様に、すべてを揺るがす重厚なる響きが、世界をすべての存在の魂ごと震わす。


「……我等が王……『世界之王(カント=ルガル)』よ、お待たせいたしました。

 今此処に、地上之王(モシリルガル)、『緋の神威に連なる徒(フィト)』と共に馳せ参じました!」


 石舞台より響く、落ち着いた声質ながら、想いの熱さを秘めた声が響き渡る。


「――オオトシ兄!!」


 驚くヤチホコの声と共に巨大な石舞台……天之磐船(キ=ヴィマナ)より飛び立つ影。


「……待たせたな、そして……良くぞ耐えしなり! 流石は我が妹が見染し義弟なり!」


 力強く、彼等の歩みを認め湛えるタカヒコの賞賛(ピリマ)。


「本に素晴らしき弟妹ですわ。

 斯様な無理筋(バグ)相手によく健闘されましたわ……。

 ご安心頂くと宜しいですわ。

 ワタシがあなた方すべてを護らんとする『正義の闘い』の想いにて必ずや助くと、此処に「大いなる真理」に誓いますわ!」


 労いと安堵を与えるミカツヒメの宣誓(ピリマ)。


「はは、ずいぶん無茶してるね、前も今も。

 でも、だからこそ……民衆(ウタラ)の……緋徒(フィト)の歩みは須らく美しい。

 ぼくは、ぼくも魂(ラマトゥ)の奥底よりそう想うよ」


 飄々としていながら、すべてを肯定するアビヒコの祝福(ピリマ)。


「……緋徒(フィト)の身で、斯様な極まりし神威と比武せんとする想い……。

 流石は地上之王(モシリルガル)に認められし緋の神威に連なる徒達である!

 こやつは……我等に任せるが良い。

 双角武神(ヴェッサヴァナ)よ!!」


「我が裔ヴィジャーヤよ、委細承知なり。

 そして……財宝之神威(クヴェーラ)となりし存在よ。

 我が想いと研鑽、吹き荒れる執念(イレンカ)を以って、いざ尋常に比武致さん!」


 堂々たる名乗り。

 祖神顕現(カムイ=エウン)の伝承者ヴィジャーヤ。

 彼に宿りし、『民を護らんが為に無理筋を徹してきた』神威、双角武神(ヴェッサヴァナ)。


「……『緋の神威に連なる徒(フィト)』が……今、全員、この地に……揃いました……!」


 駆け付けた皆の想いに当てられて、ヤチホコは己を奮い立たせる。

 タカヒコはその様子を見て、峻烈にて静謐なる微笑を湛える。


「……世界に遍く精霊神(ヤオヨロズ)達よ……傷つき倒れし『我が家族』、慈しみ癒し給え……!」


 途端、天と地から同時に祝福の瑞光が齎される。

 瞬く間に全員が……眼前の財宝之神威(クヴェーラ)までもが癒し直霊されてゆく……。


「な!? こ、これは……? 貴様、正気であるか?」


 自神の回復に、財宝之神威(クヴェーラ)は呆気にとられる。


「一向にかまわん! 尋常な比武の為の故。等しき条件で想い比ぶらんと欲す!」


 驕りでも傲慢でもない。絶対の自信と覚悟。

 宣言するタカヒコを見据え、財宝之神威(クヴェーラ)はその境涯の格差に愕然とする。


(ば、莫迦な! あの梵天王之代行者(モンタサ・ブラフマー)すら遥かに超越せん、だと……!)


「き、貴様一体何奴?」


「……我が名は……猛ル宗像之大王……。

 『遍く精霊の声を聴きし者』なり」


「比武でございましたら……ワタシがいくらでも戯れて進ぜましょう」


 妖艶さと清廉さを併せ持ち、勇猛さと柔和さを輝かせてミカツヒメは満面の笑みを浮かべる。


「巫山戯……!? き、貴様、修羅の極みを……あ、在り得ぬ! それこそ下手な悟りよりも難きなり……」


「左様でございますわ。

 まさに、筆舌に尽くし難き苦難と行、でしたわ。

 ですが、到りし事、それもまた事実でございますわ」


 美しい黒髪を棚引かせ、ミカツヒメは微笑む。

 その姿、その根底に宿る恐怖に対し、財宝之神威(クヴェーラ)の表情が凍り付く。


「……我等とまともにやり合うことは得策ではない。

 故、尋常に比武せんと願いしなり」


 公正さと慈しみを兼ね備えたタカヒコの説得(ピリマ)。

 その禅定なる想いだけで、財宝之神威(クヴェーラ)の内に宿る存在は己との格差を痛感した。


(この世界の因果……境涯が高き者への絶対の絶望……。ふ、ふはは!)


 突如財宝之神威(クヴェーラ)は気が触れた様に高笑いする。


「良いだろう、魂の奥底より賞賛せん。

 其の高みに至りし事、実に素晴らしきなり!

 だが……我が執念(イレンカ)……侮るでない!

 全ては執念(おも)いの儘……『我が在るが儘』を徹さん!!」


 爆発的に集束される、虚空より降り注ぐ迸る漆黒の雷光。

 それは、「因果」と言う「世界の記述」を、「執念」で跳ね除けて無理筋を押し通す「覚悟」。


「な、なんて強い執念(イレンカ)……!

 まさにあれはヤチホコくんの様な……!」


 あまりに強い想いの無理筋に、ミチヒメは最愛の存在と姿重ねて驚愕する。


「凄まじい(凄まじきですわ)……。本当に(まさに)ヤチみたいだよ(無垢なる狂気ですわ)!」

 

 スセリ、内なるイザナミもそのすべてを省みず身命を賭す、儚くも美しいとも思える輝きに思わず見惚れる。


「はぁっはぁっ……。では、いざ尋常に……参るぞぉっ!!」


 財宝之神威(クヴェーラ)の掲げる宝塔に、六天の「世界構成記述(モシリオカィ・コード)」が集束してゆく。

 

「……すべて……集束せん……!

 如何な『高き者』であろうとも、この絶対量の差……。

 封じし事叶うのであるならば……遣(や)ってみるが良い!!」


「待て、その無理筋、揮うならば……そなたの身命尽きてしまうぞ?」


 瞬時に分不相応を見抜き、「聴き取り」、タカヒコは説得する。


「斯様な情けなど無用! 受けりし事叶うならば……受けてみよ!!」


 それは、熱く我武者羅な、直向きで真寧なる執念(イレンカ)。

 身命を賭した無理筋に、タカヒコは躊躇して直撃してしまう。


「……す、凄まじき……! おれの命の歩みで、まさに初めて、素晴らしきなり!」


 そこまで言うと、タカヒコ必勝の無敵の防楯、「深山神威」を展開してなお、深く損傷を被り、片膝をつく。


「我が背……! いえ、まだですわ。信じております……!」


 ミカツヒメは、自神の血が滲むのも構わず拳を握り締め、涙を湛えながら忍辱の行を決行する。


「……左様、其れで良い。ソナタの権能はあまりに危うき故……。案ずるでない。むぅん!」


 爆発的に氣力を放出すると、精霊神(ヤオヨロズ)から賜りし霊力(ヌプル)と重ね合わせ神威として放つ。

 観る間に修復直霊されゆく防楯。

 しかし、大きく氣力を消耗し、想いだけで財宝之神威(クヴェーラ)の前に立ちはだかる。

 

「……この災禍の決着、我等が裁き直霊せん! 緋徒(フィト)よ……祖神顕現(カムイ=エウン)!!」


 瞬時に湧き上がる紺碧の、清廉かつ峻烈な気勢。

 頭上には燦然と輝く水牛の双角。

 今、ヴィジャーヤと双角武神が重なり合いて武神として顕現する。


「『先代の矜持と慈悲』を以って、其方に引導を渡そう。いざ……参る!」


 瞬間、音を置き去り……いや、光さえも置き去らんばかりの瞬動。


「――観、観えない!! なんて迅さ! わたしの神威之眼(カムイ・インカラ)で全く捉えきれないなんて……!」


「……これは……ワラワの眼ならぬ、『真理眼(シンノ=インカラ)』を以ってわずかに『観ずる』事叶うほど……如何に研鑽を積めばこの極みに辿り着けるか、皆目見当もつきませぬ!」


 ヒメが真理眼を全開にして、辛うじて微かに観じとれる神域の闘い。


「素晴らしい! 双角武神(ヴェッサヴァナ)は勿論だが……財宝之神威(クヴェーラ)、アイツも凄いヤツだな!」


 まるで把握できないながらも、虚空(ニス)の揺らぎを紅蓮が伝え観じとり、ミケヒコは驚嘆する。


 天界を揺るがす神域の闘いの波動に、瀕死の持国天(ドゥリタラーシュトラ)が身体を起こし魂の底から絶唱する。


「お主の身体(ケゥエ)は傀儡なれど、宿りし魂(ラマトゥ)は真なる神威ではあるまいか! 魔王なぞに負けるでない! 我等が四大王の矜持、見せ付けてやろうではないか!」


「……私は……多聞天(ヴァイシュラヴァナ)の責を担う……者……!」


 彼の決死の想念(イレンカ)が、「宿りし権能」の執念(イレンカ)を一瞬上回り、動きを止める。



『承 絶望の一蓮托生、翻り直霊される狂気の根源 其之壱』



――壱幕 絶望の感応、翻り直霊されりし根源――


「今です! みんな、僕に氣力を!!」


 ヤチホコが、裂帛の想いと共に一蓮托生呪(イレンカ・シェアリング)を発動させる。


(……絶対……あなたの後悔と自責を……その奥底に眠る真なる慟哭を……!)


 深く、想いの深淵目指しヤチホコは強く想いを引き寄せる。


「一か八かの身命を賭した賭け……我の勝利なり……!

 受け取るが良い……我が真意の執念(イレンカ)を!!」



 財宝之神威(クヴェーラ)、その奥底から注ぎ込まれる真実……。

 彼の中に眠る、多聞天ならざる者の慟哭と妄執……。

 瞬間、世界の全てが「凍り付いた」……。



 凍れる刻の中……動けるのは、ただ一柱……ヤチホコ……いや、「彼」のみであった……。


「アハッアハハハッ! まさか……退転(もど)れるとは……待って観るものです、ねぇっ!」


 彼が指を弾いた瞬間、『世界の総て』は動き出す。


「――い、いったい今の? ヤチホ……あ、あなた誰?」


 ミチヒメの驚愕、絶望の面持ち、眼前の財宝之神威(クヴェーラ)以上の『絶対的な』恐怖……。

 真輝銀(シキンナカネ)の美しい長髪は、絶望の怨嗟を纏い、禍々しく輝く「深紅陰(ウェン=アラフレ)」となり、その眼差しは……完全なる虚無。

 「彼」は、輝く筈の無い「虚空之間隙(ニス オアリサム)」を輝かせて言う。 

「比武で……彼を『討ち』倒せば良いのでしょう? 簡単な事です。――そらっ!」


 「彼」は、財宝之神威(クヴェーラ)を見つめ指を軽く弾く。

 瞬間、「存在を却下」されるが如く、産み出された漆黒の虚空に圧壊する様に吸い込まれかける。


「ぐがぁっ! がぁぁああっ!!」


 全力を以って辛うじて「全てを喪失させる漆黒の虚空」より離脱する。


「アハッ、結構強いですね……ではこれでどうでしょう?」


 彼は前方に身構える財宝之神威(クヴェーラ)に向かって、指を弾いた。

 指し示された指先……その先に存在するすべてが「喪われた」


「が、はぁ……!」


 腹部が半円状に抉り取られ……いや「喪われた」。


「――な! 待って!! このままじゃ財宝之神威(クヴェーラ)が、輪を廻っちゃうわ! そうなってしまったらヤチホコくん、あなた退転してしまうのよ!」


 彼が己に課した「誓願」……「不殺の下に全てを救う」。

 その願いは遥かなる因果の理に届き、護る毎に彼に恩恵が齎されていた。

 善業には善なる結果がついてくるのである。


「必要なしに他者の輪を廻らせる……そんな事をしてしまったら!」


 異な事を言うとばかりに、「彼」は小首を傾げる。


「おかしいですね……退転も何も……僕は……元からこうですよ?

 でもそれも面白いかもしれません。

 では……『輪を廻らせない』程度に……ね!」


 「彼」は、嬉々として握りしめた拳を撃ち込む。

 技などお構いなしの無理筋な暴威。

 まさに、一撃で己の存在毎消滅させられる程の、星の終焉(おわ)りの如き拳。


「ごぼぉぉっ!」


 財宝之神威(クヴェーラ)の身体の上下が、無情にも離断する。

 強引に下半身を掴み、世界の権能を吹き込む。

 半分に抉られ後、無残にも離開させられた財宝之神威(クヴェーラ)の上下は、辛うじて癒し直霊叶う。


 無理筋を徹してなお、全くもって歯が立たない「真なる絶望」。

 このままでは間違いなく「輪を廻らされる」だろう。


(……だ、だが……貴様を道連れならば……! それこそ我が本懐なり!)


 絶望と激痛の最中、吐き出す喀血と共に響き渡る、高らかな狂笑。


「ハーッハッハ! いいぞ! もっと攻めるが良い! 汝を退転の憂き目に遭わせられるならば……この命……喜んで供犠として焚べん!!」


「――アハ、アッハハッ! 良いですね……じゃぁ真なる権能を……。

 『書き直霊』にて『喪堕霊(うしなおひ)』してあげますよ!」


 それは彼ら管理者が得意とする、神謡者(カムイ・ユカラ)の持つ負の神威、世界を「記述」する権能。


 無造作にカンナを掴む。

 すると、観る間にカンナが漆黒に染め上げられ、剣身から昏き深紅の雷光が迸る


 響き渡る残響……それは、直霊の女神の絶望の慟哭。

 一振り、一振りと、「彼」が供犠の剣を静かに振るたびに巻き起こる消滅。

 それと共に、切なく、苦おしく、彼を慮って絶叫(さけ)ぶような剣の「鍔なり(ピリマ)」……。


「いいですね……我ながら傑作です、この剣。ほら」


 剣を向ける、それだけで「喪堕霊(うしなおひ)」する北の大神殿。

 わずかに彼の左側を掠め翔んだ権能。

 それだけで、財宝之神威(クヴェーラ)の左腕が消滅させられる。


「――やれぃっ! 遣るが良い! ハーッハッハ!」


「しますが、少しおしゃべりですね、貴方」


 「彼」が財宝之神威(クヴェーラ)の口元を見つめる。

 瞬時に消滅したのは……下顎全て。


「アハッ。これで静かに『作業』できますね! さて、と……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。