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神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第壱部 『神威息衝く古代國』編
41/101

記述の行間 因果に抗い死守せん格差

 廻る世界の最上層、他化自在天。

 そこに浮かぶ世界の管理者の居城、天超飛翔(カンナ=カム)神威之城(イ・チャシ)。

 真輝金(オリハルコン)の輝く城の最深部、「記述の広間」にて、普段と違い苛立ちを露わにする道化師の姿が。


「……計算違い、処じゃないねぇ。

 まさかあのバグ……いや、『詠い手』が、よりによって僕達の土俵にまで上り詰めるとはねぇ。

 だけどまだ王手(チェックメイト)じゃないねぇ」


 ジェスターが四大遊戯盤(チャトランガ)を見遣る。

 清浄なる紅蓮に詠い直霊された魔神、そしてその横で輝く真輝銀(シキンナカネ)……。


「忌々しいぜ……! まさかこのオレがこんな目に遭わされるなんてなぁ!」


 自慢の真輝金(オリハルコン)の炎を、紅蓮に焼かれ半焼の状態で帰還したイーラが毒づく。


「これはこれはひどいねぇ。キミもアケィディアと同じように一度『効率化(オプティマイズ)』してあげようか? ヒャハハハ!」


 巫山戯るなと激昂してジェスターを吊るし上げる。

 その瞬間手応えが無くなると同時に、道化師の絵札と入れ替わり、イーラの背後にジェスターが音もなく立つ。


「その怒りの『執念(イレンカ)』があるならば大丈夫そうだねぇ!

 奴等にあの『聖塔』の扉を開かせないようにキミも協力してくれ」


「聖塔? ジェスターよ、何故そいつを『書き換えて』ぶっ潰さん?

 アイツ等ごと廃棄してしまえば……」


 途端、凍り付く様な圧倒的な恐怖を纏った気勢が吹き荒ぶ。

 瞬間、イーラは頭を残し氷像と化す。

 苦虫を噛み潰した様な表情で顕れたのは「他化自在天」。


「あなた様は! お、お館様……お、お許しを……!」


「……痴れ者。六百遡りし刻の大戦を忘れたか」


「そうでしたねぇ……。あの刻、英雄王(ラーマ)とあのゲンコツ娘(ミチヒメ)のせいで……!」


 ジェスターは膝を打ち、忌々しげに思い出す。


「左様。この『城』は護れしも、『天地を貫きし叡智の聖塔』の管理権限は我等より奪還され、本来の管理者たる『梵天王之代行者(モンタサ・ブラフマー)』へ返還されしなり」


「ハッ! 所詮『代行者』だろう? そんなヤツ……ぐぁぁああっ!!」


「……我が与えし『八大罪障(ウシュ ナムタグガ)』から、斯様な痴れ者が何故に生じておる?」


 他化自在天が睨むと、氷漬けのイーラに向かって漆黒の稲妻が襲い掛かる。

 血の気の引いた顔でジェスターが丁重に応える。


「これはこれは……どうやら『憤怒』は苦手だったらしく、記述の練り込みが足りなかったみたいですねぇ」


「ならば即刻『書き加え』るが良い。境涯の差も解せぬ愚か者では話にならぬ」


「すぐにでも。いかに世界の最上たるお館様でも、六道輪廻自体を超えた境涯……『梵天』サマには手が出せませんからねぇ。

 残念ながら『代行者』にも、境涯は同様に付与されていますからねぇ」


 ジェスターは身振り手振りを交え、残念そうに首を振る。


「や、奴等の掌には雷鳥(フミルィ)があるぞ? 大丈夫なのか?」


 戒めを解かれ踉きながらイーラが尋ねる。


「ヒヒッ! あいつだけじゃ不完全なのさ。

 『天(アン)』と対になる『地(キ)』がなけりゃ、この城はおろか聖塔の頂上すら届かないさ!」


「ならば今すぐにでも『地(キ)』の方を叩き潰せば良いじゃねぇか!」


「……キミには『歴史』の記述が足りなさ過ぎたねぇ……『記述之付与(アペンド)』!」


 ジェスターは、溜息と共に虚空を指でなぞる。

 観る間にイーラに対し、世界のあらましが書き足され、同時に損傷も書き直されてゆく……。


「……畜生! じゃぁ手出しは無理ってことか!」


 全てを解しイーラは悔しがる。


「ヒヒッ! 安心しなよ。『地(キ)』の奏者は、未だ目覚めていないからねぇ。ただ……」


 ジェスターは忌々しげに言う。

 聖塔の扉を開けられたら最後、最早天界(カンナ=モシリ)に奴等が来るのを阻む事は叶わないと。


「アレを開けられちゃったら最後さ……。

 僕等は勿論、お館様でさえ、『世界の記述』の理によって、正式に、魂(ラマトゥ)磨く試練として『六天統(イワン=アン)治王(=ルーガル)』にされるのさ。

 そして、記述の因果に『堕とされて』、奴等と対等に戦わされてしまうからねぇ……!」


 そう、ヤチホコたちが伝説の扉を開ける事。

 それは、世界の管理者たる彼等にとって最大の屈辱、「綴られしモノ」と対等に扱われる事が待っているに他ならない。


「解しているなら話は迅い。持ち得るすべての手段で奴等を阻め」


「……絶対に……やってみせるわ……。魂(ラマトゥ)磨くなんて以ての外……!

 それこそ私、怠惰(アドゥズィ)の真価……。

 『霊的堕落(アドゥズィ)』の生み出す幻の安寧に……。

 永久(とこしえ)に……沈めてあげる……わ」


 気怠そうにしながらも、以前とは違う「執念(イレンカ)」をその眼に宿し、アケィディアが顕れる。


「ヒヒッ! 良い眼になったねぇアケィディア、怨恨たっぷりだねぇ。

 なら、『貪食』と『淫蕩』を引き連れていくとイイさ。

 彼等に揺さぶりかけてもらった上で、扉を開けられない程、『霊的堕落(アドゥズィ)』の沼に、境涯ごと沈めてあげるとイイさ! ヒャハハハハッ!」


「オレ達が『支配と管理』から堕ちて『闘うべき試練』になるなんて、断じて許せねぇ!

 ゼッタイに扉の前で仕留めてやるぜぇっ!」


「『悲嘆』『強欲』『虚栄』は、様子を窺い、機会ありしならば獲物を狙うが良い。

 奴等が隠し持つ想念(イレンカ)の弱みを突かんとせよ」


「……『傲慢』はいないのか? 思えば観た事がないな」


「遥かなる原初の内、我等より別たれし存在こそが、最大の傲慢顕すモノなり」


「……ですよねぇ。

 アイツ、よりによってとんでもない事仕出かした上、我等が『主なる神』にさえ楯突いて、こんなに眠らなきゃならない程に傷つけたからねぇ! ヒッ!?」


 他化自在天より極寒の吹雪が吹き荒れる。

 瞬く間に「記述の広間」全てが氷壁に包み込まれてしまった。

 凍れる世界にただ一神、他化自在天が静かに戦慄く。


「……かつて我等と共に在りしも、自ら狭間へ飛び出せし原初の『無理筋(バグ)』……。

 あやつこそ我が『主なる神』はおろか、全能なる『創造主』の敵!

 その想い受け継ぎしヤチホコ……否さ統治之神威(シュメールカムイ)。

 貴様らに「神謡者(カムイ・ユカラ)」の権能を以って、聖塔の扉開けさせる事など……断じてさせぬ……!」


 言葉を発せぬ昏き咆哮。天超飛翔(カンナ=カム)神威之城(イ・チャシ)より四方八方へと漆黒の稲妻を迸らせる。

 だが、それすら、「法理之城(イレンカ・チャシ)」庇護下の地は被害を免れる。

 忌々しさで唇を噛み締め呪氷を解く。


「……行くが良い、ジェスター、そして八大罪障(ウシュ ナムタグガ)よ。

 彼奴等を霊的堕落(アドゥズィ)の深淵、堕天の憂き目へと貶めるが良い」


 天超飛翔(カンナ=カム)神威之城(イ・チャシ)の真下、聖塔の存在するタクシャシラーの都は、他化自在天の放った漆黒の稲妻の昏き波動に、法理之城(イレンカ・チャシ)を突き破られて侵された。

 己の尊厳を賭けた管理者達が、総力を挙げ、都の民を巻き込んで待ち受ける。

 その「執念(イレンカ)」は、まさにヤチホコ達の想念(イレンカ)の如く、彼等を一層高め、強めていた。

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