↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第壱部 『神威息衝く古代國』編
22/102

第14倭 天地の邂逅 集う七柱(後編)

 雷鳥《フミルィ》が緩やかに高度を下げてゆく。

 すると、眼下に顕れる、山に埋もれた巨岩。

 ――それは古き伝説に遺る「天之磐船」。

 だが、どう観ても、苔むした武骨で巨大な岩塊にしか観えない。


「あれが、天之磐船(キ=ヴィマナ)?

 天之鳥船(アン・ヴィマナ)と違って、ただの言い伝えの様ね……」


 岩塊を眼に、ミチヒメが露わにする落胆《ピリマ》。

 昇りゆく朝日の様に、輝きを放ち煌いて飛翔する天之鳥船(アン・ヴィマナ)。

 対照的に、山々に埋没し、落日の黄昏の様に沈黙する武骨な天之磐船(キ=ヴィマナ)。

 彼女の落胆も無理はない。


(……確かに。

 『磐船(あれ)』も……雷鳥同様、実は『神威之遺産』なのでしょうか……?)


 緩やかに扉が開き、一行が降り立つ。

 すると跪いて控える兵団の先頭に、静謐な威厳を放つ独りの武人が観える。

 大倭乃国の王、オオトシ。

 荒ぶる父神スサノヲとは対照的に、艶やかな黒髪を綺麗に二つに束ね、遍く命を慈しみ、育まんと照らす瑞光を想起させる佇まい。

 彼の氣力は、穏やかながらも力強さを観じさせている。

 そして、歩み寄るヤチホコの、呪痕に耐える姿を一瞬で見抜く。


「母君……クシイネダ揮いし『想念共鳴』にて、御言の葉、この魂(ラマトゥ)に賜っております。

 ヤチホコ、スセリ、よくぞ黄泉の坂駆け下りて、我が父神住まう『根源』に挑み還られましたね」


 落ち着き払い低く澄み渡る声。

 それは、聴く者の心を浄め穢れを祓うような響きを湛える。

 その声を耳にしたヤチホコは、魂の奥底で呼応する気配を微かに観じ、心なしか息が整う。

 

 対するスセリは、ヤチホコとは違う、磨き上げられ完成された武人の佇まいに対し、仄かに燻りし憧憬に抗おうと、隣の彼の掌を強く握る。

 しかし、その背後に佇む深紅は、「オオトシの放つ浄き波動」自体に抗い、重く纏わりつく昏き朱影を揺らめかせ、侵蝕せんと蠢く。

 内なる抗いの咆哮に、スセリの表情は命の灯を吹き消されたかの如く精気を喪う。


「……スセリ。

 『彼女』には、私(わたくし)の火(アペ)が少々気忙しいようですね。

 ご安心ください……。

 清濁併せ呑み、すべてを護らんと己が力を揮ってこそ、真の王であると私は想い抱いております。

 嘆く想念(イレンカ)に安寧を……『慰安之炎(シン・ヌラッパ)』……」


 それは、浄め祓うのではない。

 浮かばれぬ魂達を慰める、透き通る深緑の「炎の供養」。


 静かに優しく朱影を包み込んでいく。

 朱影に呪縛されし怨嗟の魂達が、輝きを放ち天へと還っていく……。

 スセリを侵食していた朱き影は、静かに地面へと、鎮まり還ってゆく。


(すごいです……!

 魂(ラマトゥ)達が、怨嗟の海より解き放たれて、『輪を廻り』に還っていきました……!)


 ヤチホコは、先ほどより明確に呼吸が楽になる。

 尊敬を籠めてオオトシを見つめる。

 そして、彼へと伝える、今世の父神スサノヲからの神威之啓示(カムイピリマ)。


「共に征け。

 旅の中、われ(スサノヲ)より継ぎし、『血脈への誇りと力』、必要なり」


 オオトシは、自身の黒曜石の如き深い漆黒の眼を、強い意思の輝きと共に見開く。


「……我が父神の御言の葉、しかと魂に……!

 しかし、私(わたくし)にも、『継ぎし』は恐らく緋徒《フィト》乃詩、としかわかりません。

 ですが、託されし以上、何を以っても、この言の葉を導《しるべ》とし、旅の中、理を掌中に修めてみせましょう……。

 我が大倭乃国に『始祖王の遣い』と伝わる、この『天之磐船(キ=ヴィマナ)』の御前において誓います……!」


 オオトシの誓いが響き渡る。

 すると、突然ヤチホコの足元がうねり、視界が揺らめき廻り始める。


(な、何ですこれは?

 天(アン)と地(キ)が混じり合う様に蠢く……?

 その狭間に何かが……?)


 どうやら先の感覚は、ヤチホコだけが観じた様である。

 「外」では、地響きと共に、天之磐船と呼ばれる大岩が、オオトシの誓いに応える様に鳴動している。


「……応えたけど、まだ何か足りないようね。――よしっゲンブ!」


 先の雷鳥同様、ミチヒメは玄武に頼み、磐船まで跳び上がって地の氣力を送り込もうとするが、弾かれてしまう。


「氣力(トゥム)が入っていかない!? ならば、セイリュウ!」


 青龍由来の水の氣力も同様に弾かれてしまう。


「……どうやら、何らかの別の方法が必要な様ですね……」


 その様子を観たヤチホコは雷鳥へ尋ねる。


(……雷鳥《フミルィ》、あなたはわかりますか?)


(……今はまだ、天之磐船(キ=ヴィマナ)の起動叶う奏者は存在していません……)


 今は……。

 やはりこれも「神威之遺産」に間違いないらしい。


「……カンナは何か知りませんか?」


 背中に背負った真輝銀の剣にも尋ねてみる。


「……私が産み直霊される以前の『遺産』の様ですね。

 特定の……『存在』が唱える『神呪』が必要……。

 そう、観えます」


 「……どうやら『今は』動かせないようですね……」

 

 優しく剣の柄を撫でながら、ヤチホコは皆に伝える。


「その様ね。今は、オオトシさまにご同行願って、向津日霊女(ムカツヒルメ)さまの処へ行きましょう」


 一頻り氣力を放出して、一息ついたミチヒメが促す。


「……それが先決でしょう。

 私が不在の間、意宇之國貴《オウナムチ》さまが、我が国の護りも兼ねられて下さるとの事。

 ヤチホコ、皆さん、参りましょう」


 再び雷鳥は西の空へ飛翔していく。

 今度は限りなく高く上昇し、雲の海を音を超える迅さで斬り裂いていく。


「……素晴らしいですね。

 あの磐船も動かす事叶えば……。

 斯様に旅する事叶うのですね」


 始めて空を舞うも、冷静に応えるオオトシの感嘆《ピリマ》。


「雷鳥《フミルィ》とカンナの話では、どうやら今は、磐船を起こせる存在自体がいないようです」


 ヤチホコの言葉を受け、オオトシは深く思考を廻らせている。


「……想い当たる事柄はありますが、断じる事は今はまだ出来かねます」


(おおよそ予想はついているのね……。

 憶測で言葉にしない辺りは流石。

 その辺りもラーマさまと似ているわね)


 ミチヒメはオオトシの言動に、王としての振る舞いを観て感心している。


「ヤチホコおにいさま、観て、眩しい位の陽光(トカㇷ゚チュㇷ゚)!

 もうすぐ着くみたいですの。

 あ、あそこにもう来られているみたいですの!」


 ミヅチに促されて映る景色を見遣る。

 すると、真昼の天光が紺碧の海を煌かせ、豊饒な日向《ひむか》の地へと降り注いでいる。

 港の横、広い砂浜に降り立つと、ミケヒコが足早に駆け寄ってくる。


「こちらの支度はすでに整っているぞ!

 ふん……お前らしいやり方だ。

 良い。道中の荒事はオレに任せるがいい!」


 ミケヒコは、満身創痍のヤチホコを鑑みる。

 その姿に彼らしさを観じ、不敵に笑う。

 そして逆手に力強く剣を握り、拳を前に突き出して水平に翳す。


「……久方ぶりでござい――こ、これは……!

 もしや、一蓮(イレンカ・)托生呪(シェアリング)……!

 ヤチホコ殿……。

 このヒメ、身命に変えてもこの旅路、完遂させてみせましょう……」


 孕む危険をも解し、何かを悟ったようなヒメの誓願《ピリマ》。


「我が愛すべき息子、ヤチホコや……。

 苦渋の判断、よくぞ……」


 変わり果て、憔悴しつつも、以前にもましてその眼を輝かせる「希望之神器《ヤチホコ》」。

 彼を前に、思わず歩み寄って抱きしめる向津日霊女の心中の咽び(ピリマ)。


「……これを。

 必ずや、大難を小難へと、貴方を護って下さるでしょう……」


 それは、彼女自身の祈りを籠め続けた八卦の首飾り。

 彼女はヤチホコの首に優しくかける。

 一瞬僅かに呪痕の痛みが吸い取られ、軽さを観じる。

 心なしか背負うカンナからも同様の波動が芽生えるのを観じる。

 不思議そうな面持ちのヤチホコ。

 最上の慈しみを籠め、見つめ返す向津日霊女の微笑《ピリマ》。


「……これは、彼の地にて待つ、神威への書状です。

 理の『外』なる、貴方について認(したた)めてあります」


 固く封された巻軸を掌に、ヤチホコは西の空を見据える。


「……ヤチホコよすまない。

 おれ達はここで一度降り、回復を図る。

 『想い』、託したぞ」


 無念ながらも彼を信じるタカヒコの委託《ピリマ》。


「より一層、虚空《ニス》として、そして善男乃子(ヲノコ)としての生長とご活躍……。

 心よりご期待申し上げますわ」


 清廉な微笑みを湛えたミカツヒメの冀望《ピリマ》。


(――この重ね合わせし『想い』……。

 定められし詩片の予見なんかに負けません……!)


 ヤチホコは、タカヒコ達の言葉をしかと胸に抱く。

 いつまでも見送っている向津日霊女を背に、雷鳥は透徹なる碧落へ吸い込まれるように飛び去ってゆく。

 強い意思を籠め、新たに石版に浮かび上がった「詩片」を、ヤチホコはしかと見据える……。


『捌 縛鎖抱えし天 地と邂逅果たし 集う希望の七柱 征く手阻みし理之神威』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。