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神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第壱部 『神威息衝く古代國』編
15/103

第11倭 消え去りし街 自由都市露丝

「……一旦、奴國《ナ・ラ》へ戻りましょう」


 ヤチホコは己の知り得ぬ事を求め、奴國へと戻ろうとする。


(……ウガヤ兄、義父王、そして向津日霊女《ムカツヒルメ》さま……。

 どんな情報でも良いです。

 あの『飢え』を解決できる糸口になるなら……!)


(……このまま楽浪郡上を通る航路をお勧めいたします……)


 突如響く雷鳥(フミルィ)の提案《ピリマ》。


(それは、ウガヤ兄が何か名案を持っているのですか、雷鳥《フミルィ》?)


(……この問いは、あらゆる危険性を孕み、現状応えかねます……)


 明示を控える雷鳥に、ヤチホコの歯噛みしながらの独白《ピリマ》。


(……また奴等の罠でもあるというのか……くそっ!

 待て、それでもこのままが良いのですか、雷鳥《フミルィ》?)


(……それが最適だと思われます……)


 まずは楽浪郡を通り奴國へ向かう。

 行ってみてから考えようと、気持ちを切り替え雷鳥を加速させる。


(言われたとおり楽浪郡……敵はいなさそ――!?)


「待ってください……。

 ここ、何かが『歪んで』……いや、『正されて』います?」


 違和感を観じ、ヤチホコが『観之眼(ヌプル=インカラ)』を凝らす。

 だが、そこにあるのは、ただ風に揺れる枯れた草波。


「観てくるわね」


 ミチヒメが、冬ざれの枯野に降り立つ。

 確かに敵の影は勿論、気配《けわい》すら観じられない。

 見渡す限り、何の変哲もないただの枯野原。

 歩いていると――突然ミチヒメは何かに衝突した様に弾かれる。

 驚いて彼女は掌で探る。


「痛っ! え、え? 何か……ある……?」


 突如、大気が陽炎のように揺らぐ。

 するとミチヒメの眼前に巨大な「門」が姿を顕す。

 驚いたヤチホコが目を凝らすと、終焉の滅びの砂が、何かの直前でそよぐ風へと直霊されて凪いでいる。


「あれは! 奴らの『滅びの詩』が届かない……。

 いや『詠い直霊』されています!

 そうか、僕ら『権能の遣い手(エィキ・クル)』の力を、あそこにある『何か』が中和しているのですね!

 これは探そうとすればするほど……よし……!」


 ヤチホコは、ミチヒメが普段は民衆《ウタラ》同然なのを思い出す。

 彼女に倣う様に自身の権能を「無」にしようと鎮めてゆく。

 しばらくして、完全に周囲にそよ吹く風と同化する。

 すると……触知《しょくち》される門の感触。

 一行が門を潜った扉の向こう……そこには、異質な活気を持つ街が広がっていた。

 外の崩壊をよそに、平穏ないつもの冬が此処には息衝いている。


「観て! この集落《コタン》の名前だと想うよ!」 


スセリが指差す入り口に刻まれしは、「自由都市露丝(ルース)」。


 門のすぐ横に、ぽつんと立つ店が一つ。

 看板には「万事屋ルース」。


「万事屋(よろずや)……その後のあれは何?

 あれも文字? はじめて観るわ?」


「本当! なんて書いてあるのかな?」


ミチヒメとスセリが、看板を眺め不思議がる。


 ヤチホコは戦慄いて刮目する。

 それは「音を記号化し、概念を定める」この世界の「記述」とは違い、「物語を綴り、想いを顕す為の詩」と観じたからである。


「……よく『入れたね』! ようこそぼくの故郷へ!」


「アビヒコ!」


一同声を合わせて驚く。

 聞くとアビヒコの両親は、この隠れ里の様な街で、民の為に勤しんでいると言う。

 彼に導かれ、生家でもある「ルース」へと入る。

 するとそこには、理知的で真剣な眼差しで手元を見つめ、油まみれで道具を修理している白衣を纏った壮年。

 その横で甲斐甲斐しくお茶を入れる姿。

 髪を横で結い、袖が無く着丈の短い薄手で動きやすそうな胡服を纏った、町娘の様な乙女。


「……お初にお目にかかります、奴國《ナ・ラ》は意宇之國の王子、ヤチホコと言います。

 まずはアビヒコのおかげで双方犠牲なく、無事に神聖城国(パセ=コル=モシリ)を奪還できたこと感謝いたします。

 お尋ねいたします、ここは、この空間は一体……?」


「『ヤチホコ』くん、か。

 まずは……『此処』に入れた事を評価しよう。

 そして、国は取り戻せたが、『何も解決出来ていない』……だろう?」


 正鵠を射抜ぬくルースにヤチホコは戦慄する。


「その理解力、いいえ『叡智』……。

 看板の『想いの籠められた文字』……。

 あなたはもしかして僕と同じ『外なる先世』の……」


「……残念ながらそうではない。

 だが、君の話をすべて理解出来る、数少ない存在だと伝えておこう。

 まずはこれを食べて暖を取りたまえ」


 期待を籠めたヤチホコの言葉に、少しだけ申し訳なさそうにルースは応える。


「はい、お待たせ! 香《シャン》ちゃん特製の美味しいコレよ!」


 出されたのは……なんと「竜輝」の好物の蕎麦……。


「そ、蕎麦! そんな、まさかこの世界で出逢えるなんて……!」


 確かに蕎麦の実自体、縄文時代にはすでに伝播していたが……。


(記憶では江戸の頃、『この辺り』から技術が――まさかこの『露丝《ルース》』から!)


「……私の編み出した製法だ。

 小さめの麦と、蕎麦の実の粉を混ぜ合わせて練り伸ばし、細切りにして茹でたモノだ。

美味で温まる。さぁ召し上がりたまえ」


 出汁を一口飲む。醤油の風味が五臓六腑に染み渡る。

 ここはあの『破滅の砂音』も聞こえない。

 懐かしさで張りつめていた緊張の糸が解け、ヤチホコ――竜輝の頬を熱い滴が伝い落ちる。


「そんなに美味しいの? じゃあボクも!」


「アビヒコが前に言っていたモノね。わたしも頂くわ」


 スセリとミチヒメも一口頬張り、顔を見合わせて驚いている。


「口にあったようで何より。

 醤《ひしお》の応用で造った油だ。

 何でも美味しくする優れモノだよ」


 ヤチホコは、一口一口噛み締める様に綺麗に飲み干して、ひとときの安らぎを噛み締める。

 彼を優しく眺めていたルースの視線が、ふとスセリに止まる。

 その視線はまるで深淵を覗く様に鋭い。


「ヤチホコくん。

 君の『神器《からだ》』は、まさに『希望の結晶』だ。

 外なる魂《ラマトゥ》を受け止める為、出来得る限りの権能が集約されている。

 ……矛盾に疑問は抱かないかね?

 対するスセリくんの、驚くほど脆弱な、ただの民衆《ウタラ》の如き緋徒《フィト》の器に」


 ヤチホコは息を呑む。


「……確かに、彼女は僕と違い『普通』です。でも……」


「スセリくんに眠る……『彼女』の想念《イレンカ》の強さ、そして恐るべき賢さ、素晴らしいと思わないかね?

 管理者の『叙事詩(シナリオ)』は、強大な輝きを放つ『歪み(バグ)』を決して認めない。

 故の辛苦は既に承知だろう。

 『彼の刻』を救済したミチヒメくんも然り。

 だからこそスセリくんは、あえて『最も弱き、名もなき器』の中に沈み込み、自らを封印したのだよ。

 叙事詩に紛れ、ただの村娘として『輪を廻り』ながら……。

 それは……君が『この刻』に還るまで、幾度も代を重ね耐え忍んだ、『究極の賭け』と言うべきものだろう」


 まさに青天の霹靂(へきれき)。

 ヤチホコは感極まりスセリの掌を強く握り締める。


「スセリちゃん……僕を待つために、あえてそんな脆い身体を……」


「どうしたのヤチ? 大丈夫、ボクだってもっと強くなって見せるよ?」


 気遣われ向けられた笑顔に、「愛ゆえ耐えし悠久」を観じ、ヤチホコは堪え切れずに嗚咽する。


「ヤチ? もぅ本当に大丈夫だよ! 心配しないで、ね?」


「今度は、今度こそ僕が、君を、君の『器(いのち)』を護り抜いてみせます……!」


 二人を見つめルースも天を仰ぐ。

 しばし後……ルースは静かに、そして重々しく口を開ける。


「いつしか……封印が解ける刻……。

 彼女の『器』は耐え切れないかもしれない。

 それを救えるのは……『希望之神器《きぼうのうつわ》』たる君の空(ニス)だけだ」


 ルースの予言。

 それは余命を告げるに等しい。

 重く厳しい現実が、ヤチホコの心を昏く塗り潰す。


「……今は心に留めておくだけで大丈夫だろう。

 まずは……当面の問題を話し合おうか」


 そう、それは今考えても仕方ない事。

 それよりもと、ヤチホコは頷いてルースを見つめる。


「既にお解りでしょうが、『食』こそが問題です……!」


 ルースは深く頷いて合図を送る。

 すると香(シャン)が何かを持ってくる。


「……こうやって粉にして寝かせてある。

 練って餅にするならすぐ食べられるだろう。

 『天之鳥船《アレ》』で来ているのだろう?

 積めるだけ持って行くと良い」


「……ありがとうございます! これで当座は……」

 

「……ヤチホコくん。

 君の願いは、『極寒の地で命を芽吹かせる智慧』だったね?」


 ルースが語りだしたのは……。

 まさに神威(魔法)と喪われし理(科学)の融合。


「陽光(トカㇷ゚チュㇷ゚)だけを通し、寒風《ウェンレラ》を防ぐ『透明な布』があれば、冬でも作物は育つ。

 海水から『稲妻(カンナ・カムイ)』で電気分解を行い、『塩素』を取り出す。

 それをウガヤ殿が以前掘り出してくれた『石油』と化合させれば……可能だ」


(プラスチック……! 塩化ビニルの生成工程をこの時代に!?)


 ヤチホコは、記憶の中の化学知識を総動員する。

 そしてルースの驚愕の理論を反芻する。


(――確かに出来ます。『電気』さえあれば!)


「ルースさんあなたは……『この刻』にプラスチックやビニールを……!」


 驚き露わなヤチホコに対し、不敵な笑みをルースは浮かべる。


(まさにこれは……!

 奴等がこの刻より排除した『禁じ手』!

 しかし……遣い方を誤れば……一国をも滅ぼす毒ガスにも……!)


「……全ての事象に善悪はない。

 『真なる智慧』とは、毒をも薬に変える『正しき想念(イレンカ)』だ」


(想念《イレンカ》……!

 まさにそうです。

 たとえ『銃』だって、生きる為に狩りをするなら――悪ではありません……!)


 ルースの言葉を真摯に受け止めるヤチホコをよそに、香は静かに変貌していく。

 そこに顕れたのは……先ほどの愛嬌のある町娘とは隔絶した、崇高なる気配《けわい》を纏った存在。


「……わたくしの事は『ラィラ』とお呼びくださいませ。

 その『布』、無事出來ましたら、どうかこれを。

 ……これは遥か東方の旅の中、捧げられた供物。

 地《モシリ》の中にて、誰も知らぬ間に命を紡ぐ力を育みます。

 まさにあなた方の生きざまそのものですわ」


 「香《シャン》」から変貌した『ラィラ』は、ヤチホコに祝福を与えるように言葉を授け、何かを差し出す。

 それは、遥かな東の果てから旅してきた「希望の礫《つぶて》」――「ジャガイモの種イモ」。


(ジャガイモ! こ、これなら!

 北海道でさえ育つくらいです!

 『アレ』さえ出来上がれば確実に……!)


 眼に光が宿っていくヤチホコを、二人は優しく見つめている。

 ふと見上げたヤチホコの目に映る二人……。

 彼等の間に垣間観える、永劫の刻を共に超えてきた様な信頼感。

 突然何かが頭の内に浮かぶ。


 それは――天より堕ちる傷ついた翼。

 寄り添う女神。

 共に詠う姿――。


「うぅっ!

 永劫の刻……翼……女神……?

 あなた方は……?」


「……無理をしない方が良い。

 それも刻が来ればそれも解るだろう。

 まずは、今すべき事に専念したまえ」


 ルースが優しく諭す。

 ラィラも、慈愛の微笑を湛え頷く。


「……『己が想念《イレンカ》』で、地に足つけ、『希望』として歩まんとすること、心よりうれしく思いますわ……。

 さぁ、また一つ、歩まれて下さい……」


(ラィラさん……? 

 いえ……そうです……!

 今は出来る事を行い、『前へ』、です!)


「ヤチホコさん、カンナ・カムイでございましたら……。

 ワタシは一柱《ひとり》で造り出せます故、ご助力いたしますわ!」


 ミカツヒメの想いを籠めた「口添え《ピリマ》」。

 一行は、街の囲いの外、身を斬るような凍える風吹く「門」の手前にて始める。

 まず、タカヒコが「地」の権能で巨大な池を作り海水を溜める。

 そこへミカツヒメは変成男子にて、「雷神ノ剣(カンナカムイ=エムス)」を揮う。

 ヤチホコ達も、五大の氣力と想いを重ね、雷雲を産み直霊する。 

 そして落雷を生じさせて溜池の海水へ撃ち込む。


『雷神之剣閃《カンナ・カムイ トゥィエ》!』


 幾度かの施行の末、解《ほど》かれた海水に代わり、異臭を放つ液体が顕れる。


「海の水から塩が出来たのかな……?」


 舐めようとするスセリを慌ててヤチホコが止める。


「こ、これは塩とはまた別の理を持つモノです。

 肌が荒れますので触らない様に。

 さぁ今の内に渡された入れ物へ!」


 異臭放つ水を大量にルースの元へと届ける。


「有難う、これでうまくいく。

 出来るまでは街の散策でもしてくれたまえ」


 街の中で目にするのは……まさに驚きの連続。


「わぁ……きれい……。

 どの家にも玻璃《ガラス》が……。

 それになんだかとても暖かそう」


 美しい玻璃に、眼も心も奪われたスセリの恍惚《ピリマ》。


「こっちも信じられない。

 玻璃の中で火《アペ》が灯って辺りを照らしているわ」


 焚火や灯明ならぬ明かりに対するミチヒメの驚嘆《ピリマ》。


「ミカツヒメ、観るが良い。

 これはまさに真輝銀《シキンナカネ》!

 オオトシ殿がスサノヲ様より受け継ぎし剣以外、観た事ないぞ!

 ヤチホコ、これに持ち換えたらどうだ?」


 タカヒコに言われてヤチホコが掌《て》にする。

 すると……かなりの重さだが、吸い付く様に納まる。

 軽く氣力を流し込もうとするが、いつもと違い上手くいかない。


(何だ? 氣力《トゥム》が……?

 真輝銀《シキンナカネ》?

 銀ではなさそうですが、遥かに硬く似た輝きを持つ……?)


 白銀に輝く剣は、刻を待つ様に、ヤチホコの「想い」を値踏みするかの様に、静かに光を放っている……。


 「気に入ったかい?

 綺麗だけど重いだろう?

 『天降《あめふ》りし岩』で出来ているのさ。

 剣として鍛えるのも物凄いチカラいるし、そもそも重すぎて誰も遣えないんだよ。

 べっぴんさ……いやあんちゃんかい?

 良かったら家にでも飾っておくかい?」


(天降りし……そうか!

 真輝銀《シキンナカネ》は『ニッケル合金』!

 オオトシ兄の話では、確か銅以上に氣力《トゥム》を徹すはず……?)


 この重量、確かに民衆《ウタラ》ではとても振れないだろう。

 それもだが……。

 「この商人」、ここしばらくにはない「普通の反応」を示している。


「どうやら、僕等の権能《チカラ》……。

 この街では完全に抑え込まれているようです……!」


 ヤチホコは、剣を受け取りそう伝える。

 試しに氣力《トゥム》を解放しようとしたタカヒコも、全く解放出来ない。


「……故の護りの強さ……か!

 このような護り方もあるという事か……!」


 強さばかりが力では無い事をふたりとも観じ、さらに散策する。

 すると、街の奥、その中央に小ぶりながら厳かな神殿が観えてくる。

 最初に足を踏み入れたミチヒメが思わず上げた感嘆《ピリマ》。


「この気配《けわい》!

 今の状態でもありありと観じる程の!

 あの『城』と同等……もしくはそれ以上の……!」


 一同が神殿内より観じる、『神威之城』が放っていた絶望的な圧迫感とは正反対の、しかし「同等の質量」を持つ神威。

 その包み込まれる様な慈愛の波動を観じ、一同思わず息を呑む。

 ヤチホコ達に静かに告げる祭祀を司る神官の伝承《ピリマ》。


「ここは『真理の導き手』と言い伝えられし神威が眠る処……。

 この街は、彼とその伴侶、二柱の愛によって護られし聖域なのです」


「……その言葉、なんでかな、すごく気になる……?

 前に、そんな事をボクもしたような?

 ――ぅんっ! あ、頭が痛い……」


 ヤチホコも、何故か胸が締め付けられ、苦しむスセリの肩をそっと抱く。


「『無理をしない方が良い』……。

 そうルースさんが言っていました。

 さぁ……戻りましょう」


 様々な疑問が飛び交うも、今すべき事へと、ヤチホコは再度気を引き締める。


 明くる朝、ヤチホコ達は雷鳥の翼をはためかせ、再び北の凍土へ舞い降りる。

 当座を凌ぐ「粉」と、ルースから授かりし「透明な布」、そして香《シャン》とラィラより授かった「蕎麦の実」と「種イモ」。

 ヤチホコ達は、正気に還り今をしのぐオロチ族と共に、雪明かりを受けて輝く透明な覆いを組み上げて征く。


「これなら……お日さま(トカㇷ゚チュㇷ゚)の温もりだけがここに入れます」


 ヤチホコは、自ら耕した大地へ種イモを埋める。

 神威ならぬ、緋徒《フィト》の、民衆《ウタラ》の祈り。

 数日すると雪原に並ぶ「希望の繭」の中、種イモも蕎麦の実も青々と芽吹く。

 目にするやオロチの民は跪いて嗚咽する。


「……この地のお天道(トカㇷ゚チュㇷ゚=)様(カムイ)が……地(モシリ)に宿って下さった……!

 ありがたや……。

 俺たち、もう飢えなくて良い、良いんだ……!」


 それは、管理者の綴りし、絶望を顕す「終焉の詩」を、智慧と想いの絆で「生命の詩」へと塗り替えた瞬間である。


(これが、誰の『詩』でもない、僕達だけで掴み取り詠いあげる、『希望の明日』だ!)


 強い想念(イレンカ)を籠め、ヤチホコは、遥かな空を睨むように見上げる。


 「熱っ……これは! みなさん、新たな詩片です!」


『陸 呪縛の城を退けて 緋徒《フィト》と民衆《ウタラ》掌を取り合い

 大地に希望の繭造り 虚空は挑む 目覚めの儀』


 今度は、砂時計の上に浮かび重なるも、『詩片』は消えずに刻まれている。

 一旦露丝へ還り、ルースの下へ石版を携えて伺う。


「……『目覚めの儀』って一体どんな事でしょうか?」


 ヤチホコが新たな詩片を観せて尋ねると、一息置いてルースはゆっくりと応える。


「君が『空《ニス》』と誓約(うけい)をする為には、その理を司る『向津日霊女(ムカツヒルメ)』殿に、正式にまみえる必要がある」


(……『四氣王』との契約以外に何かあるのでしょうか……?)


 まだ知り得ぬ儀があることを知り、ヤチホコは素直に頷く。


「解りました、母上の元へ……!」


 一行は露丝《ルース》を後に南下してゆく。

 そして、日向《ひむか》の首都、大陸との玄関口を担う、「港ありし都(ヤ=マ=タイ)」へと向かう。


 今世ヤチホコの「母」であり、前乃世で、己の「子神」として想いを託した、向津日霊女(ムカツヒルメ)が統治する地、「港ありし都」。

 「親子の再会」、そして「神威としての誓約(うけい)」。

 新たな動乱の予感《ピリマ》。

 ヤチホコは雷鳥に想いを伝える。

 征き先は……眩く煌く陽光(トカㇷ゚チュㇷ゚)と、力強く吹き荒れる潮風(レラ)湛える海。

 その先に在る「母が待つ都」へと、真輝金に輝く翼をはためかせた。

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