第三章 四つの見開き
〇雲霧山・道場裏の修練場(四季の移り変わり) 激しい修行の連続をあらわすカットイン。 春の嵐、灼熱の夏、紅葉散る秋、そして雪吹き荒ぶ厳しい冬。四季が巡る中で、沈陽の身体は引き締まり、その佇まいには「二千年の理」に挑む武術家の面影が宿り始める。
【見開き1演出:第一式『受』】
〇崖下・荒涼とした岩場(春)画面を圧迫する巨岩(重量約5トン)が、遥か上方の断崖から重力に従って直下してくる。影が地上を覆い、沈陽を飲み込もうとする瞬間。沈陽、両脚を泥に深く踏み込み、眼光を鋭く見開いて両腕を掲げる全開の構え!
(ズドォォォォン!!!!)
山揺らぐ激しい着地音。激しい泥弾けと風圧の衝撃波が画面いっぱいに放射状に拡がる。 沈陽の足元の岩盤が円形に大きく陥没し、クモの巣状に亀裂が走る。しかし、沈陽の身体は、上半身から指先に至るまで一ミリのグラつきすらなく巨岩を支えている。
沈陽「……がはっ……!は、吐きそう……!身体中の骨が軋んで……破裂する……!」
冷汗と血交じりの唾を吐き捨てる沈陽。
顧長青「力で受け止めたと思うな。全身の骨格、関節、そして毛穴に至るまでを水の如き流体となし、天から降る全エネルギーをそのまま『大地』へと逃がす。それが第一式『受』だ」
【見開き2演出:第二式『打』】
〇深い樹林帯(夏)一転して、静寂のなか立ち尽くす沈陽と巨岩。沈陽は大きく呼吸を整え、足先から腰、背筋、拳へと極小の波動を連動させる。
沈陽「フッ……!!」
(バシィィィン!!!!)
甲高い澄んだ打撃音が響く。沈陽の拳が巨岩の表面を捉えるが、岩にはヒビひとつ、微かな傷すらついていない。
沈陽「……え?嘘だろ……全開で叩き込んだのに、ビクともしない……!?割れないですよ師匠!」
顧長青「当たり前だ。我が拳は石を砕くためのものではない。破壊の力など一切与えておらん」
顧長青が顎で岩の『裏側』をしゃくる。沈陽が首を巡らせると、岩の背後に聳え立っていた巨木だけが、まるで目に見えない巨大な砲弾をぶち込まれたかのように、幹の中央から凄まじい風圧で一瞬にしてへし折れていた。
顧長青「表面を破壊せず、運動エネルギーの『方向』と『波動』だけを内部へ完璧に透過させる。これが第二式『打』だ」
【見開き3演出:第三式『破』】
〇大雨の練武場(秋)冷たい雨が打ち付ける中、沈陽は自らの内に湧き上がる「力」の感覚を掴みかける。両腕に全身の筋力をみなぎらせ、岩を真っ二つに破壊しようと拳を振り上げる構え。その瞬間。(パシッ!)顧長青の手が沈陽の手首を鉄の万力のような力で強く掴み、制止する。
沈陽「っ……師匠!?」
顧長青の表情は、いつになく苛烈で重い。
顧長青「『破』……二千年の歴史の中で生まれた、最も愚かな型。身体の理を無視し、力を込めて対象そのものを粉砕しようとする構えだ。……だが、沈陽。これは絶対に使うな。禁じ手だ」
沈陽「えっ……!?でも僕たちの技は『隕石破壊拳』ですよ!? 壊さなきゃ、破壊しなきゃ意味がないんじゃないですか!?」
顧長青は冷たい雨に打たれながら、沈陽の目をまっすぐ見つめ返す。
顧長青「愚者め。巨大な天体を力任せに壊してみろ。数百万の灼熱の破片となって地球全土に降り注ぐ死の雨となる。……覚えておけ。人間ごときの傲慢な破壊など、天の前では何の意味もなさん。真に世界を救うのは『破壊』ではないのだ」
【見開き4演出:第四式『運(天返し)』】
〇雪舞う山頂の崖際(冬)絶壁の上から、大木をそのまま削り出したような巨大な丸太が落ちてくる。大気を引き裂く重低音。
沈陽は、恐怖を一切捨てる。力も、破壊への欲求も削ぎ落とし、ただ流れる水のように滑らかな構え。丸太の先端が沈陽の頭上に迫った一瞬 。沈陽の掌が、滑り込むように丸太の側面に軽く接触する。(スッ……)一切の打撃音はない。しかし次の瞬間 (パツゥゥゥン!!)空間が弾けるような乾いた衝撃音とともに、数トンの丸太が、まるで目に見えない薄氷の膜に弾かれたように、空中で鋭角に折れ曲がる!丸太は勢いを殺されるどころか、その莫大な運動エネルギーを維持したまま、沈陽の頭上をかすめて遥か斜め後ろの深い谷底へと勢いよく飛んでいく!
沈陽「……っ!?な、なんだ今のは……!?触れただけなのに……軌道が……変わった……!?」
沈陽は自らの傷だらけの掌を見つめ、身体の奥から震え上がる。
顧長青「力と力をぶつけるのではない。力学と質量、そして天体運動のベクトルへ極小の干渉を行う。二千年間、歴代の継承者が無数の計算と研鑽を重ねて到達した唯一の秘伝『運』。またの名を……『天返し』だ」
舞い散る白雪の中、顧長青の言葉が静かに、力強く響き渡る。




