EX - 7話 星降り祭
どれくらいの時間が経っただろうか。
すっかり夜の帳が下りた頃、上流の方から、ぽつり、ぽつりと淡い光が流れ込んできた。
それは瞬く間に数を増し、川幅いっぱいに広がっていく。
赤、青、黄色、緑……色とりどりの魔力を帯びた光が、人々の切なる願いを乗せて、緩やかな川面を滑っていく。
その色の一つ一つに、願いが込められていると思うと、さらに壮観に思える。
無数の光り輝く木船が川を埋め尽くすその光景は、まるで夜空から零れ落ちた『天の川』のようだった。
「すごい……」
私は、そのあまりの美しさに息を呑んだ。
星降り祭は、こんなにも綺麗な景色を描くお祭りだったんだ。
幼い頃の惨めな記憶ばかりがこびりついていて、今までこんな風に、純粋にこの光景を美しいと思ったことは一度もなかった。
「……この願いは全部、リゼ、あなたが守ったものなんだよ」
私の横顔を見つめながら、お姉ちゃんが優しく語りかけてきた。
「この綺麗な願いを、私が……」
目の前をゆっくりと流れていく無数の光。その一つ一つに、誰かの大切な想いが込められている。
もしあのマナイーターを逃がしていたら、この光は全て無残に食い散らかされていた。
流れていく景色を見て、自分がそれを守り抜くことができたのだという実感が、ようやく半分だけ湧いてきた。
「……お姉ちゃん、今日はありがとう」
私は、お姉ちゃんの膝へとそっと頭を預けた。
お姉ちゃんは少し驚いたようだったけれど、すぐに優しく私の髪を撫でてくれた。
「お姉ちゃんのおかげで……少しだけ、自分のことを誇れるようになれたかもしれない」
心地よい膝枕と、一定のリズムで撫でてくれる手の温もり。私は目を細めながら、もう一言付け足した。
「あと、あの演技もね」
「ふふっ。あれは、私がやりたくてやっただけだから」
お姉ちゃんは照れ隠しのようにクスッと笑ったけれど、撫でる手は止めずに、ぽつりと本音をこぼした。
「でも……そうかも。少しでも、リゼの気が晴れてくれればいいなって、思ってたかも」
やっぱりそうだよね、あんな演技を100パーセント、自分がやりたいからやっていたというのは、無理がある。
あの演技はお姉ちゃんなりの、私への優しさ。
「……そっか。優しさって、自分から渡すのは心地よいけど、相手から素直に受け取るのは……結構難しいね」
私が素直な気持ちを口にすると、お姉ちゃんは私の額にかかった前髪を優しく払いながら、静かに微笑んだ。
「それが、人と人とが好きでいられる理由なのかもしれないわね」
「……そうだね」
お互いを思いやり、不器用ながらも優しさを渡し合う。
その過程があるからこそ、私たちはこんなにもお互いを愛おしく思えるのだろう。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なあに?」
私は、膝枕からお姉ちゃんの顔を見上げて、ふと気になっていたことを尋ねた。
「お話の王子様は、このあとヒロインをどうするの?」
その質問に、お姉ちゃんは一瞬パチクリと目を瞬かせ……やがて、夜の闇の中でも分かるくらい、ふわりと頬を赤く染めた。
「それはね……」
お姉ちゃんは私の顔にそっと自分の顔を近づけ、甘い声で一言だけ囁いた。
「……秘密、だよ」
チュッ、と。
額に落とされた、柔らかくて温かい感触。
――それが答えなのだろう。
流れる天の川の光と、遠くで響くお祭りの音。
私は顔が真っ赤になるのを感じながら、大好きな
『王子様』の優しさに包まれて、静かに目を閉じたのだった。
EXエピソード 星降祭・完
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R・D




