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空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D
第一部

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第59話 - α 未来を繋ぐ剣

 白銀の盟剣『アリィス』を授与されてから戴冠式が完全に終わるまでの時間は、まさに嵐のようだった。


 厳粛な儀式が終わった途端、広間の空気は一変し、お祝いのパーティーという名の社交の場へと移行した。


 すると、次から次へと見知らぬ貴族たちが私とおじさんの元へと押し寄せてきたのだ。


「新総帥閣下」と「皇帝陛下から直々に剣を授かった英雄」に、顔を売っておこうという魂胆だろう。


 矢継ぎ早に飛んでくる難しい言葉の問いかけや、仰々しい挨拶。


 私は完全に頭がパンクしてしまい、何をどう返したのか、そもそも何があったのかすらほとんど覚えていなかった。


 そんな窮地を救ってくれたのは、あの名も知らぬ付き人の店員さんだった。


 彼女は私の斜め後ろにピタリと控え、私が答えに窮する前に、貴族の作法に則った完璧な相槌と挨拶を代行してくれた。


 ……おじさんが「今日限定の付き人」として彼女を雇った理由が、痛いほどよくわかった。


 そうして、慣れない人波と緊張感で私がすっかり立ちくらみを起こしそうになっていた時。


「――お姉様」


 ふいに、波が引くように周囲の貴族たちが道を空け、その中心から鈴を転がすような優しい声が聞こえた。


 煌びやかな正装に身を包んだ新皇帝陛下……お姫様が、護衛を連れて私のもとへ挨拶に来てくれたのだ。


 あまりのオーラに私が思わず背筋を伸ばし、ガチガチに緊張して構えてしまうと、お姫様は困ったように、ふわりと微笑んだ。


「お姉様、そんなに緊張しないでください」


 国を統べる立場になっても、彼女は以前と全く変わらない口調で、私を『お姉様』と呼んでくれた。


 その響きに、私を縛り付けていた見えない糸のような緊張が、スルリと解けていくのを感じる。


 お姫様は、私が大事に胸に抱えている白銀の剣に視線を落とし、愛おしそうに目を細めた。


「この剣は……お姉様のために、私が新皇帝としての初めての『王命』で、打たせたものなんです」


 意外な話だった、この剣、完成させるのに最短でも一週間近くかかりそうだ。


 つまり私のために、真っ先に作ってくれたものなんだ。


「……私のため、に?」


「はい」


 お姫様は静かに頷き、真っ直ぐに私の目を見た。


「盟友として、私たちと繋がり、未来へと繋ぐ剣。……帝国では、『アリィス』という言葉には『未来』という意味があるんです」 


 未来。


 記憶を失い、自分の過去すら分からない私。


 戦いの中でしか生きる道を知らなかった私に、彼女は『未来』を銘した剣を贈ってくれた。


「きっとこの剣が、お姉様の未来を、優しく繋いでくれるはずです」


 戦火の中で、私を信じて命を預けてくれたあの時と同じ。


 気高く、強くて、優しさに満ちた微笑みで、彼女はそう紡いでくれた。


 その言葉が、白銀の剣の重みと一緒に、私の胸の奥深くまで温かく染み込んでいく。


「……そっか。ありがとう、お姫様」


 私は自然と顔を綻ばせ、ありったけの感謝を込めて、そう答えた。


 手の中の盟剣『アリィス』が、広間のシャンデリアの光を反射して、まるで祝福するようにキラキラと輝いていた。

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