第53話 - α 復興とお買い物
家を出て、隣を歩くおじさんと共に街の通りを進む。
私の腰には、皇剣の他にもう一本、ひときわ目を引く立派な剣が刺さっていた。
家を出る直前に、おじさんが「ほれ」と強引に押し付けてきた帝剣『インペル』だ。
「ねえおじさん。これ、国宝なんでしょ?なんで私に持たせてるの?」
ダボダボの服に短剣四本、さらには国宝の剣を二振り。
歩くたびにガチャガチャと物騒な音を立てる自分の腰回りを見下ろしながら、私は尋ねた。
「もう少し、ちゃんとした所に保管しておいた方が……」
絶対いいはずなのに……、あの公爵に盗まれたのがトラウマなのかも?
「皇女たっての希望だそうだ。正式に皇位を継承するまで、お前に持っていてほしいらしい」
「はあ……。こんな貴重すぎるもの預けられても、困っちゃうかなぁ」
私が思わず苦笑いをこぼすと、おじさんも「そればっかりは同意見だ」と言わんばかりに肩をすくめてみせた。
「うちのセキュリティも万全じゃないからな。置いていくわけにもいかず、わざわざ持ち出さざるを得ないというわけだ。お前の腰に差しておけば、一番安全だろうからな」
「……私、一応お休み中なんだけど」
そんな呆れたような会話を交わしながら、私たちは街を歩き続けた。
ふと周囲を見渡した私は、その光景に少しだけ驚いて目を丸くした。
一昨日はあんなにも激しく燃え盛っていたはずの街が、完全とは言わないまでも、すでに急速に修理が進んでいたのだ。
崩れた石壁や瓦礫を、汗だくになりながら協力して運ぶ兵士たち。
焼け落ちた屋根に上り、威勢よく木槌を振るって直している大工たち。
そして、そんな慌ただしい土煙の中でも、お店を開けて逞しく商売を始めている人たちの姿があった。
誰もが絶望に立ち止まることなく、前を向いて力強く今日を生きている。
「帝国の人は、強いね」
感嘆の息とともにポツリとこぼした私の言葉に。
おじさんは、忙しなく復興へ向かう街並みを眩しそうに見つめながら、静かに頷いた。
「……ああ、そうだな」
やがて、私たちは一軒の立派な建物の前で足を止めた。
「ここが、この辺りで一番使われている服屋らしい。服を買うならここって場所みたいだ」
おじさんはそう言って、躊躇うことなく立派な扉を開けて中へと入っていく。
「お、おじさん……?」
私は慌てて、ガチャガチャと剣の音を鳴らしながらその後を追った。
中に入ると、そこは外の埃っぽい空気とは無縁の、きらびやかな別世界だった。
ふかふかの絨毯が敷かれた広い店内には、フリルやレースがふんだんにあしらわれた色とりどりのドレスから、仕立ての良い上品なタキシードまで、見たこともないような立派な服がずらりと並んでいる。
「……おじさん? このお店で合ってるの?」
明らかに、ちょっとした普段着を買いに来るような場所じゃない。
物騒な短剣と国宝をぶら下げている自分がひどく場違いに思えて、私はそわそわと辺りを見回した。
しかし、おじさんは全く気にした様子もなく、近くにいた店員に堂々と声をかけた。
「いいか?」
「はい! ご案内いたします!」
声をかけられた女性の店員さんは、私たちのちぐはぐで物騒な格好を見ても嫌な顔ひとつせず、完璧なプロの笑顔で歩み寄ってきた。
「この娘に、普段着二着、寝間着二着。……それと、社交界用に二着ずつ用意してくれ」
「しゃ、社交界用……!?」
予想外すぎる単語に、私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
普段着と寝間着はともかく、剣しか振れない私が、社交界なんて行く機会があるわけないのに!
だが、私の戸惑いなどお構いなしに、店員さんは深々と綺麗なお辞儀をした。
「かしこまりました。すべて、最高のものを見繕わせていただきます。……さあ、お嬢様。こちらですよ」
「えっ、あ、ちょっと待って……!」
有無を言わさぬ流れるような手際で、私は店員さんたちに囲まれ、店の奥の試着室へと連行されていく。
こうして、休む間もなく私の全身の採寸と、嵐のような着せ替えの時間が始まったのだった。
店員さんたちの手によって、文字通り着せ替え人形にされること一時間。
あっちへこっちへと引っ張り回され、ようやく解放された私は、どっと疲労を感じながら大きく息を吐き出した。
最終的に私が今着て帰ることにしたのは、動きやすくて丈夫な生地の服と、一目で気に入った仕立ての良いマントだった。
ズボンが置いてない……、というか案内してくれなくて、スカートなのがちょっと気になるけど、鏡の前で居合いの構えを取ってみると、不思議と動きやすく感じた。
その上から愛用のベルトを巻き、お馴染みの短剣と二振りの重たい国宝を下げる。
試着室の外へ出ると、おじさんがふかふかのソファに座り、優雅にコーヒーを飲みながらくつろいでいた。
「おお、終わったか」
「うん……疲れた……」
私が選んだ服以外の、普段着や寝間着、それに例の社交界用のドレスなどは、今日の夜にはおじさんの家まで直接届けてくれるらしい。
至れり尽くせりのサービス。
……間違いない、ここは絶対に貴族とかが使うような超高級なブティックだ。
私はコーヒーカップを置いたおじさんの前に立ち、まずは真っ直ぐに目を見て頭を下げた。
「おじさん。服、ありがとう」
「ああ」
事もなげにおじさんは言う。
「……でもね。ここの服、絶対に貴族とかが着るような高級品だよ?」
私がジト目でそう指摘すると、おじさんはきょとんとした顔で首を傾げた。
「そうなのか?昔の同期が『服を買うならここがいい』って言っていたから来たんだが」
……その同期の人、絶対にものすごく身分が高い人だ。
おじさんの交友関係の広さと金銭感覚に内心で呆れながらも、私は一番の懸念事項を口にした。
「それに、社交界用のドレスなんて絶対に使わないよ」
いくらなんでも勿体なさすぎる。
私がなおも抗議すると、おじさんは悪びれる様子もなく、ニヤリと口角を上げた。
「皇女の継承式、見たいだろ?」
「……っ」
その一言に、私は見事に言葉を詰まらせた。
あの気高く優しいお姫様が、正式にこの国のトップに立つ瞬間。それは、私たちが命懸けで守り抜いた結果でもある。
……見たいか見たくないかで言えば、絶対に見たい。
「……まあ、確かに」
完全に論破された私は、それ以上反論できず、なんだか悔しいやら嬉しいやらで、小さく呟いて項垂れるしかなかった。




