第51話 - α 受け継がれた剣
ふと、目が覚めた。
窓の外を見ると、空はまだ薄暗い青色に包まれている。夜明け前といった時間帯だろうか。
昨日あんなに泣いたというのに、不思議と目は冴えきっていた。
……わたしは、どうすればいいんだろう。
それは、漠然とした不安。
その不安を抱きながら、ベッドの中でしばらく天井を見つめていた、けど落ち着かない。
――やがて私はゆっくりと身を起こした。
「……久しぶりに、朝練しようかな」
誰に言うでもなく呟き、おじさんが用意してくれた服を着たままの姿で、昨日託された皇剣を手に取って外へ出た。
肌を刺すような冷たい朝の空気が、肺の奥まで染み渡る。
おじさんの家の庭は広いけれど、全く手入れがされておらず、足首が埋まるほどに草が生え放題だった。
その今自然な荒れ具合が、私には心地よかった。
皇剣の鞘をベルトに下げてからを抜き、刀身を眺める。
綺麗な刀身、白金と黄金が混ざり合ったような、神聖で眩い光……。
こんな綺麗な剣で練習なんてしていいのかと思ったけど、今の私にはこの剣しかない。
……少し振ってみよう、実践じゃない型の基本を。
試しに、宮廷剣術の基本の方を試してみる。
腰を落とし、2突きしてから横薙ぎに振るう、下から切り上げ、思い切り突く。
動きが少し硬い、型をなぞってなかった時間が長かったのかもしれない。
次に私は、庭の隅に転がっていた手頃な木材を拾い上げ、台になりそうな平らな石の上に立てて置いた。
そして、石から少し距離を取り、腰に下げた皇剣の柄に手をかけて静かに息を吐く。
――本で修めてから、本家本元のスメラギさんから教わった、居合術。
姿勢を極限まで低くし、居合の構えをとる。
頭を空っぽにして、ただ身体に染み付いた記憶だけをなぞっていく。
空気を裂く音すら置き去りにする速度で、抜刀。
横薙ぎに一閃する、『薄氷』。
そのまま、回るように振り抜いた勢いを利用して刃を返し、逆方向からもう一閃、『返し薄氷』を放つ。
刃の軌跡が空中に残像を描き、私は静かに皇剣を鞘へと滑り込ませた。
カチッ、と。
鍔が鳴り、剣が完全に鞘に収まったその瞬間。
立ててあった木材にピシッと二つの線が走り、綺麗な三つの塊となってズレた。
――それが重力に従って地面へ落ちるより早く。
私は再び柄を弾き、下から上へと真っ直ぐに切り上げる居合を放つ。
さらに、跳ね上がった切先を瞬時に反転させ、脳天から真っ二つにするように切り下げての『返し』
カチャッ。
再び、静かに剣を鞘に収める。
名を忘れた居合いの型――けれど体が覚えている。
残心を取った直後、空中に浮いていた三つの木材の塊は、さらに細かく両断され、九つのブロックに分かれてボロボロと石の台の上へと崩れ落ちた。
……スメラギさんは、もういない。
けれど、あの人が楽しそうに教えてくれたこの剣技は、間違いなく今の私の中に生きている。
崩れ落ちた木材のブロックを見つめながら、私は冷たい朝の空気の中で、もう一度深く、静かに深呼吸をした。




