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空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D


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第4話 - α 偽の死神と壊れた旋律

 ――――ズドンッ!


 おじさんの単発銃から、悲壮な感情を乗せた轟音が響いた。


 合図もない、問答無用の先制攻撃。


 放たれた弾丸は、寸分の狂いもなくクローンの眉間を捉えていた。


 しかし――。


 着弾のほんの数センチ手前。クローンは足元の砂を滑らせるようにして、くるりと独楽こまのように身体を反転させた。


「……なっ!?」


 おじさんの驚愕の声を置き去りにして、強装弾は虚空を切り裂き、闘技場の壁に巨大なクレーターを穿つ。


 そして、回転の勢いをそのまま殺意の推進力に変え、クローンが私たちに向かって一直線に突っ込んできた。


「クソっ!」


 おじさんの焦燥の音が響く。


 私は考えるよりも先に、おじさんを庇うように前へと飛び出し、左手一本で漆黒の大鎌を旋回させた。


 「やあっ!」


 ――ガギィンッ!!


 甲高い金属音が、闘技場に鳴り響く。


 私が旋回させた大鎌の石突いしづきでクローンの腹を捉えた、はずだったが、クローンは自身の持つ大鎌の『刃』の腹で、いとも容易く弾き返したのだ。


「まだっ!」


 私は弾かれた反動を殺さず、背中を軸にして再び大鎌を回転させる。


 オイルで滑る柄を自在に操り、上段からの叩きつけ、横薙ぎ、そして再び石突での刺突。


 まるで嵐のような連撃。


 だが、その全てが『無駄な音』として掻き消されていく。


 クローンは表情一つ変えることなく、大鎌の刃を使って私の攻撃を完璧に捌き、時には滑らせて威力を逃がしていく。


 ……すごい。あたしと同じ大鎌なのに、全然違う!


 私は痛感していた。


 私がやっているのは、ただの重い鉄の塊をふるってるだけの物。


 対して目の前のクローンは、大鎌という特殊な武器の重心、刃の角度、そして「引く」という特性を完全に理解した、まるで『完成された死神の舞』だ。


「――左だ!!」


 背後から、おじさんの鋭い声が飛んだ。


 私は弾かれた勢いに身を任せ、無意識のうちにクローンの攻撃を受け流すように左側へと滑り込み、一気に背後へと回り込む。


 私が射線から外れたその瞬間。


 ――――ズドンッ!


 再び、おじさんの単発銃から怒りの弾丸が放たれた。


 だが、クローンは背後にいる私を一瞥することもなく、おじさんの方へと大きく大鎌を振り被った。


 ――キィィィィィィンッ!!


 空気をつんざくような、異常な金属音。


 クローンは、横一文字に振るった大鎌の『刃』で、おじさんの放った見えない弾丸を、文字通り真っ二つに断ち切ったのだ。


「弾を……斬った……、だと!?」


 ありえない光景に息を呑む。


 だが、今の奴は弾丸を斬るために、大鎌を大きく振り切っている。隙だらけ!


 私は背後から、全身のバネを使って飛び上がり、首を刈り取るように大鎌の刃を叩き込んだ。


 ――ガァァァァァァンッ!!


 激しい火花が散る。


 クローンは弾丸を斬り払った遠心力をそのまま利用し、自分の大鎌を背後へと回して私の刃を真正面から受け止めていた。


 大鎌と大鎌が、ギリギリと嫌な音を立てて交差する。鍔迫り合いだ。


「……ぐ、…ぐうぅ……!」


 だが、片手しか使えない私と、両手でしっかりと柄を握るクローン。


 力押しで勝てるはずがない。


 私の身体が、ズルズルと砂の上を後退させられる。


 ……力じゃ勝てない。なら!


 私は左手のグリップ力を一瞬だけ抜き、オイルの滑りを利用して、交差した大鎌の『刃』に近い部分へと瞬時に持ち手を変えた。


 テコの原理。力点が変わったことで鍔迫り合いの力が透け、クローンの体勢がわずかに前のめりに崩れる。


「もらったぁッ!!」


 私はそのまま、下から顎をカチ割るように大鎌を斬り上げた。


 確実に入る!切り裂ける!そう思った、その刹那。


 カシンッ――。


 小気味よい金属音と共に、クローンの大鎌が中央から分離した。


「えっ……!?」


 一本の長い柄だと思っていたものが、一瞬にして『ショートサイス』と『小振りな剣』の二振りに分かれたのだ。


 クローンは分離したショートサイスを盾のようにして、私の渾身の斬り上げを難なく受け止める。


 そして、空いたもう一方の手――ダガーを逆手に持ったその刃が、防御の解けた私の首筋へと、毒蛇のように滑り込んできた。


 ……あ、死ぬ。


 死の冷気が肌を撫でた、次の瞬間。


 ダダダダダッ!!


 おじさんの持つもう一つの武器、短機関銃の乾いた銃声が響き渡った。


 弾丸の雨がクローンのダガーを弾き、体勢をわずかに崩す。


 クローンは私を盾にするように、私の腹を容赦なく蹴り飛ばした。


「うあっ……!」


 肺から空気が搾り出され、私はおじさんの足元へと無様に転がった。


 砂まみれになりながら、私は荒い息を吐き、それでも口角を上げて笑ってみせる。


「あはは……。この人?すっごく強いよ、おじさん」


「……笑っている場合か、馬鹿者が」


 冷や汗を流しながら笑う私を、おじさんは単発銃の排莢はいきょうを行いながら、ひどく険しい顔で見下ろしていた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 もし少しでも「面白い」「続きが気になる」「この先の展開に期待したい!」と思っていただけましたら、


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 これからもよろしくお願いいたします!



                    R・D

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