表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/118

第38話 - α 足りない覚悟

 銃を弾き飛ばされたメルは、驚愕のまま床にへたり込んだ。


 私はすかさずベッドから飛び出し、メルの身体の上へと馬乗りになってその動きを完全に押さえつける。


「……観念して」 


 もし暴れられ、この拘束が解かれたら、武器のない私じゃ抑えきれない


「……失敗、しちゃったか」


 だが、メルは抵抗する素振りすら一切見せなかった。


 ただ力なくそう呟いた彼女の目からは、ツーッと一筋の涙が静かにこぼれ落ちていた。


「……何故、ソフィ狙った?」


 私はメルの胸ぐらを掴み、ソフィを起こさないように極限まで声を殺して問い詰めた。


 メルは自嘲するように小さく笑い、震える声で言葉を絞り出す。


「この内乱が収まっても、皇位継承者が複数いたら……それが、また次の争いのタネになる。血みどろの内乱が、終わらなくなるのよ。だから……私があの子を……」


 国の未来を憂うがゆえの、暗殺。


 その声を聞いた私は、無言のまま、先ほど自分が投げて床に刺さっていた短剣を引き抜いた。


 そして。


 ――ゴッ!


「いっ……!」


 メルがソフィを撃つときに狙ったであろう場所――彼女の頭を、思い切り短剣の『柄』の部分で殴りつけた。


 鋭い痛みに悶絶し、メルが涙目で私を睨み上げる。


「痛い……? でもね」


 私は冷たく、けれど確かな怒りを込めて言い放った。


「あなたが撃とうとしたソフィに……あんな小さな子供に、あなたは今と同じか、それ以上の痛みを味あわせることになるの」


「……ッ」


「その痛みを背負う覚悟もない人が、国のためなんて大義名分を掲げて他人の命を奪うことは……あのお屋敷にいた公爵のような、簒奪者と何も変わらないよ」


 その私の話に、メルは叫ぶ。


「覚悟なら、私だって!」


 ある、そういいたいのだろうけど。


「なら何故、諦めてるの? あなたの体格なら私が短剣を引き抜く前に、この拘束から抜けられたはず。なのに動かない。一度防がれただけで抵抗をやめている」


 私はメルの胸ぐらをさらに強く締め上げた。


「自分だけ殺されないとでも思ってない? 自分が正しいと思ってない? 自分だけが特別だって、そう思ってない?」


 私のその言葉に、メルは息を呑み、反論の言葉を失ってうなだれた。


「――おい。……どういう状況だ?」


 その時、開け放たれた扉から、寝起きでひどく困惑した顔のおじさんが顔を出した。


 床に転がる銃、馬乗りになっている私、そして頭を押さえて泣いているメルを見て、完全に状況が読み込めていないらしい。


「……メルが、ソフィを撃とうとしたの」


 私は端的にそれだけを告げると、メルから手を離して立ち上がった。


 おじさんの顔に驚愕と、メルに対する呆れが入り混じるのを横目に見ながら、私は自分の短剣をホルスターへと静かに収める。


「私は寝ながら警戒に戻るから。おじさんも、その人連れて下で休んだら?」


 私が淡々とそう言うと、おじさんは深くため息をつき、「……分かった。こいつは俺が下で見張っておく」とだけ返し、項垂れるメルを引きずって部屋を出ていった。


 パタン、と静かに扉が閉まる。


 私は再びベッドへと潜り込んだ。


 隣では、私が殺気立っていたことも、自分が殺されかけたことも全く知らず、ソフィが小さく穏やかな寝息を立てている。


 ――偉そうな事を言ったけど、私も自分が正しいなんて思えてない。正しくありたいけど、私は生きることだけで精いっぱいだ。


 ――休もう。


 私は、隣にある柔らかな温もりを確かめるようにそっと寄り添うと、私自身も、今度こそ静かに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ