表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/114

第34話 - α 紛らわしい武器屋

 私の足が、ピタリと止まる。太ももに仕込んだ短剣の柄に、無意識に指先が動く。


 ソファに深く腰掛け寝息を立てているおじさんの向かい。


 そこには、私たちが見たこともない、見慣れない女性が一人、静かに立っていたのだ。


「……誰?」


 私はソフィを背中側に庇いながら、極限まで警戒して低く問い詰める。


 ――いつでも、一瞬で飛びかかれるように重心を落として。


「あら。私はね、メル。よろしく――」


 女性――メルは、飄々とした口調で自己紹介をしながら、おもむろに自分の懐へと手を入れた。


「動かないで」


 私は短く、冷たい声で警告した。


 だが、彼女は私の言葉を無視して、懐に入れた手をそのまま動かし続ける。


 武器を取り出す動き、そして帝国では、懐に銃という武器をしまう。


 ――敵だ。


 そう判断した瞬間、私の身体は本能のまま前へと弾き出されていた。


 太ももから短剣を引き抜き、床を蹴る。


 銃を取り出されて乱射でもされたら、おじさんやソフィに被害が出るかも知れない。


 狙いは一撃必殺、彼女の喉仏。


 一切の躊躇なく、その命を刈り取ろうと刃を振り抜いた。


「リゼ、待てッ!!」


 部屋の中に、おじさんの鋭い怒号が響き渡った。


「っ……!」


 ピタ、と。


 私の放った短剣の切っ先は、メルの細い首筋に触れるか触れないかの、ほんの数ミリの距離で完全に静止した。


 メルの顔から余裕の笑みが消え、一筋の冷や汗が頬を伝って落ちる。


「……そいつは、味方だ」


 ソファからガバッと身を起こしたおじさんが、少し息を荒らげながらそう告げた。


「ふぅ……」


 私は小さく息を吐き出し、構えていた短剣をゆっくりと下ろした。


 そして、まだ顔を引き攣らせているメルに向かって、ジロリと冷たい視線を向ける。


「……味方なら、あんまり紛らわしい動きしないで。死ぬよ」


「あ、あはは……ご、ごめんね……?」


 引きつった笑いを浮かべるメルから視線を外し、私は後ろで震えていたソフィを振り返った。


「おじさんが味方って言ってるから、大丈夫。怖がらせてごめんね、ソフィ」


「は、はい……」


 私がソフィの頭を撫でて安心させていると、ようやく状況を飲み込めたらしいメルが、ソファのおじさんに向かって抗議の声を上げた。


「ちょっとギリアム!なんですぐ止めてくれなかったのさ!私、今本気で首が飛ぶかと思ったんだけど!?」


 笑いながらも本気で抗議するメルに対し、おじさんは深くため息をついて忌々しそうに頭を掻いた。


「俺は少し寝るって言っただろ。そこの小娘の殺気に当てられて起きなかったら、今頃お前は本当に死んでたぞ」


「ええ〜、寝てたの!?」


 メルという人は大げさに驚いている、なんか警戒していたのがバカらしくなってきた


「お前のことだから、どうせ小娘を警戒させるような紛らわしい動きでもしたんだろ。自業自得だ」


 呆れたように吐き捨ててから、おじさんは改めて私とソフィの方へと向き直った。


「……こいつはメル。俺の馴染みで、武器屋みたいなもんだ」


 武器屋。


 その言葉を聞いて、私は大鎌を屋敷に置いてきてしまったことを思い出し、少しだけ彼女に対する興味が湧いた。


 武器、私にとってそれは、自分を表現するための物、なんだと思う。


 だから、この飄々とした女が、どんな武器を扱っているのか、詳しく聞いてみたいところだった。


 だが、おじさんは私とメルの間に割って入るように、短く息を吐いた。


「詳しい話は明日だ。小娘、お前たちはもう二階で寝ておけ」


「え?」


「メルに上の部屋を掃除してもらったからな、ベッドは使える状態になっているはずだ。今日はもう限界だろう」


 有無を言わせない、いつものぶっきらぼうな口調。


 確かに、闘技場からお城への潜入、そして公爵邸での激戦。


 私の身体も頭も、とっくに疲労のピークを超えている。


 ……でも、急に現れたこの『メル』っていう女の正体も、おじさんと彼女がこれから何を話すのかも、すごく気になる。


 もう少しだけここに残ろうか。


 私がそう思って口を開きかけた時だった。


「ふわぁ……」


 私の背中に隠れていたソフィが、小さな欠伸をこぼし、コクリと首を揺らした。


 そっと見下ろすと、彼女は私の服の裾をギュッと握りしめたまま、今にも閉じてしまいそうな重い瞼と必死に戦っていた。


 お湯に浸かって緊張が解けたことで、張り詰めていた彼女の心の糸も、限界を迎えたのだろうか。


 ――そっか。私の好奇心より、今はソフィを寝かせてあげるのが先だ。


「ソフィ、眠い?」


「あ……ご、ごめんなさい……」


 申し訳なさそうに目をこする彼女に、私は柔らかく微笑みかけた。


「ううん、謝らなくていいよ。……一緒に寝るから、もう大丈夫だからね」


「……はい」


 ソフィは安心したように、小さく頷いた。


 私は彼女の小さな手をしっかりと引き、おじさんの方へと振り返る。


「じゃあおじさん、あたしたちは先に寝てるね」


「ああ。ゆっくり休め」


 ソファに座り直したおじさんと、その横でひらひらと手を振る武器屋のメル。


 私は二人を居間に残し、ソフィを連れて、静かな二階の寝室へと続く階段を上っていった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 もし少しでも「面白い」「続きが気になる」「この先の展開に期待したい!」と思っていただけましたら、


 ページ下部にある【ブックマーク】や、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆の大きな励みになります!


 これからもよろしくお願いいたします!



                    R・D

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ