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空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D
第一部

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第27話 - α 憤慨の殺し、理性の暗殺

 暗闇の中、見張りの兵士が手にする懐中電灯の光が、門へと続く道を不規則的に照らしている。適当な見張りだ。


「――でよぉ、あの聖国人を殴ったときの顔が――」


 ――殺す……!尊厳を踏みにじる奴を……!


 光の軌道を避ける為に、茂みの中を縫うようにして走り、足音一つ立てずに下劣な話を自慢げに語る男の背後へと忍び寄る。


 無防備な背中。


 ――何も分からないまま、あの世へ逝け……!


 そこに、殺しの躊躇いは一ミリも存在しなかった。


 私は背後から左腕で兵士の顎を塞ぐと同時に、右手で握った短剣を、その首筋へ深々と突き立てた。


「ぐう……ッ!」


 声にならないくぐもった血の泡を漏らし、帝国兵の身体がビクンと跳ねて痙攣する。


 その微かな異音に、サボるように反対を見ていたもう一人の兵士が気付く。


「ん? どうした――」


 彼が懐中電灯を揺らし、ライトを向け振り返る。


「……ッ!」


 短剣を刺したまま死体を転がし、拘束を解いた左手で二本目を抜き、逆手に構えたその短剣を――


 ――順手へと持ち替えて、男が開いた『口』の中へ真っ直ぐに突き入れた。


「ガ、ァ……ッ!?」


 刃が喉を切り裂く。


 同時に、死体から離れて空いていた右手でホルダーから三本目の短剣を抜くと、そのまま男の頭部へ突き刺し、悲鳴を上げる隙すら一切与えずに脳を破壊した。


 私は絶命した二つの体を同時に支え、倒れる音を立てないようにゆっくりと茂みの中へ引きずり込み、見えない位置へと転がした。


 短剣を引き抜き、こびりついた血を無心で振り払う。


「……殺しに行こう」


 ――全員殺して、私が守るんだ。


 ……もう二度と、あんな残酷な処刑がされない為に。


 静かな夜の空気に溶け込んだ私の声は、自分でも驚くほど冷たく、ただ純粋な殺意だけを孕んでいた。


 私は血濡れた短剣をしまい、ザロウ公爵を守る豪華で重厚な門に静かに手をかける。


 軋む音を最小限に抑えて門を押し開き、私はすべての元凶が潜む屋敷、その庭へと侵入した。


 豪華な門をくぐり抜け、綺麗に手入れされた広大な庭へと足を踏み入れる。


 近衛さんやおじさんが言っていた。


 ザロウ公爵は極端な安全主義者で、かなり臆病な人物と。門の外にいた見張りでさえも呆れたようにボヤいていたほどだ。


 だからこそ、少しでも異変に気付かれれば、あのタヌキ親父は私兵を盾にして真っ先に逃げ出す可能性がある。


 とはいえ、庭には結構な兵士が詰めている。


 あとから来るおじさんは片足が不自由だし、隠密で屋敷の中に行くのは難しい。

 

 早く諸悪の根源を切り裂きたいけど、私ではお屋敷の構造が分からない。庭の掃討を先に済ませるべきだ。


 ……絶対に悟らせない。まずは、この庭の警備を音もなく片付ける必要がある。


 私は暗がりに身を潜めながら、腰のホルスターに触れた。


 残りの短剣は四本。それに加えて、ローランから奪った皇剣『プロウド』がある。


 入り組んだ屋敷の中に入れば、長い武器は壁や柱に当たって不利になる。


 だから、小回りの利く短剣と鋭い皇剣は、屋敷内部での戦闘用に極力温存しておきたい。


 先ほどは怒りの感情に任せて、短剣を三本も使って頭部や喉の奥へ深く突き刺してしまった。


 ……刃こぼれしなくて本当によかった。


 微妙な角度で骨に当たって武器を使い物にならなくしてしまえば、私だけじゃない、おじさんまで危険に晒すことになる。


 ――――ふぅう。


 私は小さく息を吐き、冷静さを欠いていた自分を反省して心の温度をさらに下げる。


 空間の広いこの庭なら、もっと確実で、武器を痛めない『狩り方』がある。


 私は背中に背負っていた巨大な武器――大鎌を、静かに取り出して構えた。


 ――行こう。


 闇に溶け込み、庭を不規則に巡回している見張りたちの背後へと影のように忍び寄る。


「……ん? 今、風が――」


 不審に思って振り返ろうとした兵士の首を、大鎌の刃が音もなく撫で斬る。


 コロン、と嫌な音を立てて首が落ちる前に、私は左手でその頭部を宙でキャッチし、同時に大鎌の柄で崩れ落ちる胴体を支えた。


 そのまま、血の跡を極力残さないように素早く茂みの奥へと引きずり込み、見えないように死体を隠す。


 そしてまた、次の獲物へ。


 一人、また一人。


 私は夜の庭を彷徨う死神となり、ザロウ公爵の目を完全に欺いたまま、無言で、そして確実に、警備の兵士たちの首を刈り取っていった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 もし少しでも「面白い」「続きが気になる」「この先の展開に期待したい!」と思っていただけましたら、


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 これからもよろしくお願いいたします!



                    R・D

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