第25話 - α 皇剣『プロウド』
極限の緊張感の中、私はいつでも抜刀できるよう剣の柄に手を添えたまま、燃え盛る城の回廊を駆け抜けた。
だが、意外なことに道中で敵の襲撃は一度もなかった。
ローランが倒れたことで死兵たちの指揮系統が完全に崩壊したのか、あるいは火の手を恐れて散り散りになったのか。
幸いにも、帝国を象徴する王城の造りは非常に頑丈で、崩落に巻き込まれる前に、私たちは無事に外の空気へと逃れることができた。
「はぁっ、はぁっ……」
むせ返るような煙から抜け出し、冷たい夜気を肺いっぱいに吸い込む。
「ギリアム将軍っ……!」
安全な場所までたどり着いた途端、近衛兵たちが地面に膝をつき、おじさんに向かって深く頭を下げた。
「本当に、感謝いたします。あなた様が駆けつけてくださらなければ、あのままではシャル様とシェラ様を守りきれませんでした……っ」
近衛兵の言葉に、まだ息を弾ませている十歳の少年――シャルとシェラも、おじさんを見上げて深々と頭を下げた。
「フン」
おじさんは短く鼻を鳴らし、跪く近衛兵たちを鋭い眼光で見下ろした。
「お前らが礼を言うのは俺じゃない、……それに、俺たちの仕事はまだ終わっちゃいねぇ」
おじさんは、燃え盛る帝都の空を忌々しそうに見上げた。
「ハト派のローランがここまでの凶行を起こした元凶――その発端となった『タカ派』の親玉を、これから殺しに行く」
……そうだ、この内乱を鎮めるだけじゃダメなんだ、派兵を押し進めてる、もう一人の権力闘争者がいる。
「将軍……!?」
近衛さんが驚いて目を見開いている、それは当たり前の反応なんだろう。偉い人を殺すなんて端的に言うんだから。
「この機に帝国のガンを一掃する、誰が後ろに付いてる? どうせ皇女を裏から操って、権力を握ろうとしたバカがいるんだろ。誰だ?」
ローランが第一皇子であるシャル殿下たちを担ぎ上げたように、強引に戦争を再開しようとしたタカ派もまた、神輿となる皇族を担ぎ上げているはず。
おじさんの容赦のない問いかけに、近衛兵はゴクリと唾を飲み込み、その名を口にした。
「……戦争至上主義の筆頭は、ザロウ公爵です」
「ザロウ……あのタヌキ親父か」
おじさんが苦虫を噛み潰したような顔になる。
近衛兵はさらに言葉を続けた。
「権力の象徴と言われている、帝国の二振りの剣。先ほど奪還した皇剣『プロウド』はローランに……そして、もう一振りの帝剣『インペル』は、ザロウ公爵に奪われていました」
視線を剣に落とす。皇剣『プロウド』――確かに、この剣は名剣といえるものだった。
「なるほどな」
おじさんは、私の腰に差されたプロウドをちらりと見て、納得したように顎を撫でた。
「ザロウは今、どこにいる?」
「ザロウ公爵は極端な安全主義者です。帝都がこれだけ混乱している以上、おそらく自身の強固な屋敷に引きこもって、私兵に守らせているかと」
「チッ。自分の撒いた火種で街が燃えてるってのに、自分だけは安全圏ってわけか。ふざけた野郎だ」
おじさんは呆れと怒りが混じったような声で吐き捨てると、近衛兵たちへ向き直った。
「わかった。お前たちは殿下たちを連れて、聖国騎士団の連中に合流しろ」
「聖国騎士団、ですか……!?」
「ああ。街の地下シェルターへ避難誘導をしているはずだ。……信じられないかもしれないが、今はあいつらの所が帝都で一番安全だ。行け」
敵国であったはずの聖国の騎士を頼れという予想外の指示に、近衛兵たちは一瞬戸惑ったが、ギリアム将軍の揺るぎない言葉を信じ、「はっ!」と力強く頷いた。
彼らが二人の幼い皇子達を連れて地下へと向かうのを見届けた後。
おじさんは杖を突き直し、私へと振り返った。
「……小娘、ついてこい」
――また殺すことになる、それでも『私』は、みんなに平和に暮らしてほしい……!
「うんっ!」
私は短く頷き、おじさんと共に、次なる標的――すべての元凶であるザロウ公爵の屋敷へと向かって、燃える帝都の夜を駆け出した。
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