第24話 - α 幼き皇子たちと、決死の脱出行
私と近衛さんたちの挟撃によって、ローラン率いる死兵の部隊は一人残らず刈り取られた。
「ふぅっ……」
私は短く息を吐き出すと、ローランから奪った長剣を、とりあえず抜き身のまま自分のベルトへ引っ掛けた。
それから、血の海と化した廊下を歩き、倒れた死体から自分が投げた短剣を無心で引き抜いていく。
刃の血を払い、ホルスターへしまう。
乱戦の中で紛失したものや、骨に当たって刃こぼれしてしまったものもあり、手元に戻ってきた残りは四本になっていた。
「ひ、ひぃぃ……っ」
その血塗れの事後処理を尻餅をついたまま見ていたローランが、顔面を蒼白にさせて無様に後退りした。
「お、お前は……闘技場の、『死神』ッ!!」
「闘技場の、死神だと!?」
ローランの叫びに反応して、近衛兵たちが歓喜の表情から一転、再び武器を構えてこちらへ防御態勢を取る。
……まずい。
誤解を解くか今すぐ引くべきだ。燃え盛る建物で私たちが交戦して、撤退時間がなくなるのはまずい。
私が一瞬どちらを選ぶか考えようとした、その時だった。
――ズドンッ!!
背後から、一切の感情を排した冷徹な発砲音が響いた。
放たれた弾丸は、後退りしながら叫んでいたローランの頭部を正確に撃ち抜き――彼は目を見開いたまま、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
「あ……」
呆気ない幕切れ。
硝煙を漂わせた銃を下ろしながら、痛む足を引きずって私の隣へと歩み出てきたのは、おじさんだった。
「ギ、ギリアム将軍っ! ギリアム将軍が来てくださったぞぉっ!」
「おおぉぉぉッ!」
かつての英雄の姿を認めた近衛兵たちが、死神への恐怖を忘れて、今度こそ心からの勝ち鬨を上げる。
「バカか。喜んでる場合じゃねぇ、早く皇子を連れてこい! ここを脱出するぞ!」
おじさんの鋭い一喝に、近衛兵たちは慌てて「は、はいっ!」と扉の奥へと駆け込んでいく。
その背中を見送った後、おじさんはローランの死体の腰から、豪奢な装飾が施された『鞘』をむしり取った。
「……皇剣『プロウド』……、国宝の剣を持つとは、分不相応な」
おじさんは血の海に沈むローランへ向けて短く吐き捨てると、ふと、隣にいる私へ呆れたような視線を向けた。
「おい小娘。抜き身で差すな、危ないだろ」
そう言って、ぽいっと私に向かって鞘を投げてよこす。
「あっ、ごめん」
私は飛んできた鞘を慌てて受け取ると、ベルトに引っ掛けていた剣をカチャッと納刀した。
それから少しして――。
「殿下! どうかこちらへ!」
近衛兵たちに守られるようにして、重厚な扉の奥から姿を現したのは――まだ幼さの残る、二人の子供だった。
兄と思われる十歳ぐらいの少年が、弟だろう七歳ぐらいの小さな男の子の手を、震えながらもしっかりと握りしめている。
……あんな小さな子たちが、この血みどろの権力闘争の中心にいたの?
その事実に少しだけ胸が痛んだが、今は感傷に浸っている場合じゃない。
周囲の炎は勢いを増し、崩落の危険も、煙による窒息の危険も迫っている。
「準備はできたな! 脱出するぞ!」
おじさんが鋭く通る声で号令をかけると、怯えた表情を見せながらも、二人の小さな皇子はこくりと無言で頷いた。
「先頭は任せて!護衛はお願い!」
私は彼らを少しでも安心させるように力強く声をかけると、部隊の最前列へと躍り出た。
燃え盛る炎が城の構造を刻一刻と変え、黒い煙が視界を奪っていく。
私は腰に納めた皇剣『プロウド』の柄に左手を添え、敵の気配があればいつでも、最速で抜刀できるように重心を落として構えた。
死角に潜むローランの残党による待ち伏せ。音を立てて崩れ落ちる瓦礫。
それだけじゃない、あのローランというハト派がこんな事までして手に入れようとした2人の皇子。
全く違う勢力の襲撃も考えられる。
あらゆる危険に神経を尖らせ、五感を限界まで研ぎ澄ましながら、私たちは地獄と化した王城からの撤退を開始した。
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R・D




