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空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D
第一部

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第23話 - α 剣戟と、死神の決意

 大階段を一段、また一段と登りながら、私はさらに警戒を強めていた。


 どこから死兵が飛び出してきても対処できるよう、短剣を握る手に力を込め、呼吸を細く保つ。


 だが、意外なことに最上階へたどり着くまでの間、奇襲は一度もなかった。


 そして、最上階の広々とした廊下へ飛び出そうとした、まさにその時。


 ――ガキンッ! ギィンッ!


 金属と金属が激しくぶつかり合う、生々しい剣戟の音が響き渡ってきた。


「……おじさん、なんか戦ってる」


 私は階段の陰に身を隠したまま、そっと廊下の奥を伺い、背後のおじさんに小声で伝えた。


 おじさんも痛む足を引きずりながら私の隣に並び、廊下の先へと視線を向ける。


「……ローラン……!」


 おじさんの口から、地を這うような低い声が漏れた。


 視線の先、激しい戦闘が繰り広げられている場所の少し後方で、豪奢な服を着た男が数人の護衛に守られながら偉そうに指示を出している。


「間違いない。あの後ろで威張り散らかしてる奴がローランだ」


 おじさんはギリッと歯を食いしばり、状況を素早く分析する。


「奴が直々に前線へ来てるってことは、この奥の部屋に本命の皇子がいるんだろ。……対峙してるのは恐らく皇子の近衛兵か。多勢に無勢の中、よく耐えてるな」


「……そうだね、室内のメリットを活かして常に少人数でしか攻撃できない布陣がしかれてる」


 ローランの死兵たちが波状攻撃を仕掛ける中、扉の前で数人の兵士たちが血塗れになりながらも必死に防衛線を維持していた。


 だが、突破されるのは時間の問題だ。


「どうするの?」


 私は短剣を握り直し、隣のおじさんに問いかけた。


「……奴を殺す」


 おじさんの目には、声には、一切の迷いがなかった。


「あの死兵どもを背後から挟撃して仕留める。……こんな地獄は、ここで終わりだ」


 ――こんな地獄は、ここで終わりだ。


 その言葉が、『私』の心の中で静かに反響した。


 そうだ。終わらせなきゃいけない。


 ……『私』の手が血で汚れることで、おじさんが生き残り、この街の火が消えるのなら。


 もう、躊躇っている場合じゃない。


「……うん、わかった。……殺すね」


 私は感情を押し殺し、短く、ただ事実だけを口にした。


 視線を落とし、腰のホルスターにある短剣の数を確認する。


 今、右手に構えているのが一本。そして、予備が四本。


 私は左手でホルスターからもう一本の短剣を静かに引き抜き、両手にそれぞれ逆手で構えた。


 大鎌が使えない今、これが私にとって最も確実に、最も速く敵の命を刈り取れる形。


「――行くよ」


 私は床を強く蹴り出し、死神の如き速度で、剣戟の渦巻く廊下へと真っ直ぐに突っ込む。


 後ろの護衛は4人、その奥にローラン、そしてその奥が近衛騎士と帝国兵の戦場ライン――。


 後ろが手薄だ、これなら――殺せる。


 私が走り出したその瞬間、背後から発砲音が響いた。


 ――ズドンッ!


 おじさんの放った弾丸が、ローランの後方を見張っていた護衛の脳天を正確に撃ち抜く。これ以上ない、完璧な奇襲の合図。


「な、なんだっ!?」


 爆音に反応して、即座に振り返った二人の護衛。


 銃を携帯してない……!遠距離から仕留められれば、安全に殺せる。


 逆手に構えていた二本の短剣を投擲する。


 その短剣は寸分の狂いもなく空を裂き、吸い込まれるように、二人の護衛の首元へ、深々と突き刺さった。


「が、は……ッ」


 血飛沫を上げて崩れ落ちる護衛たち。その肉体が床に激突する前に、私は走りながら腰のホルスターからさらに二本の短剣を引き抜いてた。


 ……奥にいる近衛さんはおそらく味方……!助けないと!


 狙うは、扉の前で近衛兵に斬りかかろうとしていた帝国兵。


「はあっ!」


 容赦なく放った短剣が、兵士の首の後ろを貫いて絶命させる。


 ――ズドンッ!


 さらに後ろからおじさんの力強い援護射撃が重なり、別の護衛の胸が撃ち抜かれ、その場に頽れた。


 残る短剣は、私の左手に握られた最後の一本。


 私はそれを、怯えて後退りしようとする最後の一人の護衛に向けて、全力で投げつけた。


 ドスッ! と重い音がして、最後の護衛が白目を剥いて倒れる。


 一瞬にしてすべての盾を失い、完全に孤立したローラン。


 その目の前へ、私は真っ直ぐに飛び込み、滑り込んだ。


「っ……!?」


 腰を抜かしかけているローランの懐へ潜り込み、その足元を狙って鋭い脚払いを叩き込む。


「ぶふぉっ!?」


 派手な音を立てて床に転がるローラン。


 もう後ろに射線を塞ぐ人はいない、この人のとどめはおじさんに任せられる。


 前線の救援が先だ!


 私は彼にトドメを刺す時間すら惜しみ、彼が腰に帯びていた豪奢な剣の柄を、すれ違いざまに強引に引き抜いた。


 手に入れた長剣を両手で握り直し、私はそのまま防衛線の扉へと群がっていた帝国兵たちの背後へ躍り出る。


「――はあッ!」


 鋭い踏み込みと共に、手にした剣を真一文字に一閃。


 背後からの予期せぬ一撃に、数人の兵士たちがまともな反撃すらできずに一気に斬り伏せられた。


 なんて斬れ味……!この剣、すごい業物だ。


 これがあるなら……!


「近衛さん! 挟撃! 攻めてっ!!」


 血路の中で、私が腹の底から大声を張り上げる。


 扉の前で満身創痍だった近衛兵たちが、その声に弾かれたように目を見開いた。


「え、援軍だ……! 逆賊どもを押し込めぇぇッ!!」


 一気に士気が跳ね上がった近衛兵たちが、死に物狂いで前方へと打って出る。


 ――ズドンッ!


 後ろからも援護射撃が通っている。


 前からは近衛兵、後ろからは私とおじさん。


 完全に逃げ場を失ったローランの死兵たちを、私たちは挟み撃ちにして、瞬く間にすべて仕留めきった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 もし少しでも「面白い」「続きが気になる」「この先の展開に期待したい!」と思っていただけましたら、


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 これからもよろしくお願いいたします!



                    R・D

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