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空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D
第一部

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第18話 - α 立ち上がる英雄、死神の扇動

「て、帝都で……内乱が起きました!!」


「内乱だと!?」


 おじさんは目を丸くして驚き、すぐさま鉄格子越しに身を乗り出した。


「一体どの勢力が起こしやがった!」


「ハト派の連中です! タカ派の奴らが、帝国兵を聖国に派兵して強引に戦争を再開させるつもりで……それを阻止するために、ハト派が武力反乱を起こしました!」


「あの馬鹿共……ッ!」


 ドンッ、とおじさんは苛立ちのままに鉄格子を殴りつけた。


「これ以上帝国を荒らしてどうする! いったい、いつまでくだらねぇ権力争いをしてやがるんだ!」


 怒りと、そして国を憂う深い絶望。


 おじさんのギリギリと歯を食いしばる横顔を見て、問いかける。


「……あたしは詳しいことは分からないけど。おじさんは、どうしたいの?」


「……」


 ――音が聞こえる、答えが決まってるのに、立ち上がる力がないと感じで、立ち上がるのを諦める音が。


「おじさんは、また戦争がしたい?」


 私の問いかけに、おじさんは拳を固く握り締め、深く、重い息を吐き出した。


「……俺はもう、戦争はごめんだ。これ以上、誰かが死ぬのも、殺し合うのも見たくねぇ」


 その言葉には、かつて前線で地獄を見てきた男の、嘘偽りのない本音が詰まっていた。


「そっか。じゃあ――止めに行こうよ!」


 私が大鎌を杖代わりに立ち上がり、明るくそう告げると、おじさんは自嘲気味に首を振った。


「馬鹿言え。俺一人でどうにかなるような規模じゃねぇ。ただの元兵士に、国を動かす力なんてあるわけねぇだろ……」


 諦めきったように笑うおじさん。


 でも、私は真っ直ぐに彼の目を見つめ返した。


「おじさん、一人じゃないよ」


「……?」


「私にも、今なら少しだけわかるんだ。人と人が殺し合って後に残るのは瓦礫だけ……、燃える街並み、逃げ惑う人々……。


 ……ここにいる戦争捕虜の人達は、そんな地獄を味わった人達が沢山いるんだ、……きっとまた、戦争を始めるなんて絶対に嫌だと思ってる」


 私は、あの業火に焼かれた街の熱と、悲鳴を思い出しながら、力強く言葉を紡いだ。


「だから、きっと……この闘技場にいる戦争捕虜の全員が、おじさんの味方になってくれるはずだよッ!」



 私のその言葉に、おじさんは小さく息を呑み――やがて、自嘲するような笑いをスッと引っ込めた。


「……お前は、本当に」


 おじさんは傍らにあった杖を突いて、ゆっくりと、だが力強く立ち上がった。


 その瞳には先ほどの諦めの色はなく、歴戦の兵士としての鋭い光が宿っている。


 おじさんは鉄格子の前に立つ看守へ鋭い視線を向けると、看守の腰の銃に手を伸ばし掛けるような威圧的な動作で、低くドスを効かせて凄んだ。


「……おい。俺はこれから、反乱を起こす」


 それは、看守を脅し、鍵を奪い取るための宣告だった。


 だが。


「――はいっ!」


 看守さんは全く怯えることなく、むしろ待っていましたと言わんばかりの満面の笑みで、ガチャリと牢屋の鍵を開け放ったのだ。


「ギリアムさん! 貴方が再起するのを、ずっと待ってました! さあ、案内する気満々ですから付いてきてください!」


「……は?」


 あっけにとられるおじさんを他所に、看守さんは胸を張り、戦争捕虜たちが捕らえられている区画へと迷いなく歩き出した。


「……おじさん、……あたしが言うのもアレなんだけど、看守さんの仕事って私たちの監視じゃ……?」


 いいのかな?おじさんはともかく私までこんな簡単に開放ちゃって。


「……あの看守は、……変わったやつだ」


 私たちは開け放たれた鉄格子を抜け、その変わったやつである看守さんの背中を追う。


「ねえおじさん、どんな人が必要になるの?」


 私が小走りで隣に並びながら聞くと、おじさんは本来の目的を思い出したように渋い顔で答えた。


「避難誘導が出来るやつが最優先だな。間違って戦闘狂なんざ解放しちまったら、それこそ街が火の海になって大変なことになる。慎重に選ばねえと……」


 ……確かに、この闘技場で血に酔い変わってしまった人達もいそう、……それなら。


「だったら、あの第一騎士団の人たちがいいんじゃないかな?」


 おじさんに話してみよう、あの真っ直ぐだった騎士の人を。


「心当たりがあるのか?」


 おじさんは、私の話を聞いてくれる。


「うん。マーシーさんって人。闘技場であたしに殺意がないって感じたら、ちゃんと名乗りを上げて一騎打ちに付き合ってくれたんだ。多分、すごく真っ直ぐな人だよ」


 私がそう言うと、前を歩いていた看守さんがバッと振り返った。


「マーシーならこっちです! 付いてきて!」


 看守さんは私の言葉に食い気味に反応し、廊下の奥へと勢いよく駆け出していく。


「あっ、待って!看守さん!おじさんは足がっ!」


 私も看守さんの背中を追って走り出す。


 後ろからは、おじさんの呆れ返ったような大きなため息が聞こえた。


「……あの看守の方が、俺よりよっぽど乗り気じゃねえか」


 おじさんはブツブツと文句を言いながらも、その口元には微かに、本当に微かにだが、笑みが浮かんでいた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 もし少しでも「面白い」「続きが気になる」「この先の展開に期待したい!」と思っていただけましたら、


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 これからもよろしくお願いいたします!



                    R・D

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