表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/114

第17話 - α 歴史の傷跡

 微睡みの後、再び目を覚ました時には、さっきまでの絶望感は嘘のように薄れ、心もすっかり落ち着きを取り戻していた。


 私の髪はいつの間にか綺麗に洗われていて、サラサラになっている。


 冷たい石造りの牢獄も、おじさんが隣にいてくれるだけで、今は不思議と居心地が悪くない。


「ねえ、おじさん。次の試合はどんな相手なのかな?」


 私は鎌に体重を預け、壁に寄りかかりながら、ふと気になって尋ねてみた。


「……はぁ」


 おじさんは呆れたように深々とため息をつくと、ジロリと私の方を睨んだ。


「……小娘、ここにはあまり慣れるなよ」


 鋭く、でもどこか私の精神状態を心配してくれているような忠告。


 それから、おじさんは腕を組んで鉄格子の外へと視線を向けた。


「……しばらくは、試合はないらしい」


「えっ、そうなの?」


 意外だった、私のことが嫌いで早く死ぬ所をみたい人が沢山いるって聞いたけど。


「ああ。俺の過去を利用してたんまり儲けた奴らが、今度はお前の人気にあやかりたいらしい。だから、価値を限界まで引き上げるために、そう易々と安売りはしないんだとよ」


 ……なるほど?どうやらあの悪趣味な闘技場の運営陣は、私を特別な見世物として出し惜しみするつもりらしい。


 自分の命が金稼ぎの道具にされていることには変わりないけれど、すぐにあの狂った砂の上に立たなくて済むのは事実だった。


「じゃあ、しばらく休憩だね!」


 私が無邪気に声を弾ませて言うと、おじさんは頭を抱えるようにして無言で呆れ返っていた。


「ふんふーんふーん♪」


 鼻歌に合わせて大鎌を牢のなかで振るう。


 十一文字に三連撃で切り払うカッコいい動き。


「どう?おじさん、カッコいいでしょ?」


 頭上でくるくる鎌を回して、いえいっ!とピースで決めポーズ、きっとあたしは決まってる!


「はあ……、武器で遊ぶな」


 おじさんのもっともな注意を受け、あははぁ……、と誤魔化すように笑う。


 ――こうでもしてないと不安で仕方がなかったから。


 ……聞いてもいいのかな?……戦争の話。


「……ねえ、おじさん」


 私は少しだけ遠慮がちに、問いかけた。


「その……帝国と聖国の戦争って、いつから始まってるの?」


 私が『死神の騎士』として大鎌を振るった、あの血塗られた夢。


 それが正しかったのか、何のためだったのかを知りたかった。


「……」


 おじさんは、今日何度目かわからない深いため息をつき、壁に背を預けた。


「前の皇帝が即位してからずっとだ。皇帝は『国家統一』を国是に掲げて、ひたすらに軍拡を進め、聖国に宣戦布告した。それからあっという間に泥沼の戦争だ」


 おじさんの声は、どこか遠くを見るように低く沈んでいた。


「軍拡をやりすぎて国力が疲弊してな。戦線が帝国領まで押し込まれたり、逆に押し返したり……。


 だが数年前、ついに『聖都決戦』が行われた。あと一歩、本当にあと一歩で聖都を落とすところまでいったんだ」


 そこで言葉を区切り、おじさんは忌々しそうに顔を顰める。


「だが、それと同時に……皇帝殺しの『フィーネ・イレイナ』という聖国の聖女が、皇帝を暗殺しやがった」


「聖女、が……?」


 聖女が暗殺……?聖女様ってもっとこう、清らかで優しいっていうイメージがあったんだけど。


「ああ。絶対的な頭を失った途端、貴族どもは次の玉座を狙って、慌てて兵を引き上げはじめた。それがくだらねぇ権力闘争の始まりだった」


 おじさんは自嘲するように鼻で笑い、薄暗い牢獄の天井を見上げた。


「それからずっと、帝国はこんな有様だ。長引く戦争と内輪揉めで国は疲弊しきり、民衆は娯楽に飢えている。


 だから、怒りの矛先を聖国に誘導したり、をこうして戦争捕虜や奴隷を剣闘士にして、血の娯楽で目を逸らさせているのさ」


 おじさんの静かな語り口から、この国の歪さと、底知れない絶望の深さがひしひしと伝わってくる。


「待っておじさん、イレイナってもしかして――」


 その時だった。


 慌ただしい足音が、静寂に包まれていた牢獄の廊下に響き渡る。


「ギリアムさんっ!」


 息を切らして鉄格子の前に飛び込んできたのは、あの不器用で優しい看守さんだった。


 彼の顔は真っ青に青ざめ、尋常ではない焦りに満ちている。


「どうした、そんなに慌てて」


 おじさんが眉をひそめて立ち上がる。


 看守さんは鉄格子を強く握り締め、震える声で叫んだ。


「て、帝都で……内乱が起きました!!」

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 もし少しでも「面白い」「続きが気になる」「この先の展開に期待したい!」と思っていただけましたら、


 ページ下部にある【ブックマーク】や、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆の大きな励みになります!


 これからもよろしくお願いいたします!



                    R・D

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ