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空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D
Lost Memory Short Story Collection

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Lost Memory 3 リゼ・イレイナと優しい兵士長

 家を飛び出し、行き場をなくして道端で泣いていた私を、モルドさんは「善意」という言葉だけで拾い上げ、自宅に仮住まいさせてくれた。


 そればかりか、魔法の才能が一切ない私のために、兵士長という彼自身の信用を使って『剣の実技のみ』で聖国騎士団の入団試験を受けられるよう、手はずまで整えてくれたのだ。


『ただし、剣の実技はトップクラスでなければ通過できないという条件付きだ。……頑張れよ、リゼ』


 モルドさんのその言葉と恩義に応えるため、私は迷いなく試験会場へと足を踏み入れた。


 結果は、圧倒的だった。


 魔法の実技をスルーした私は、並み居る受験者たちをごぼう抜きにし、見事トップの成績を叩き出した。


 それどころか、実技の最終試験では、試験官を務めた熟練の騎士をも『宮廷剣術』で圧倒し、完膚なきまでに叩き伏せた。


「見事だ。文句のつけようがない」


 試験をみて、報告を受けた騎士団長は、私の剣筋を思い返すように感嘆の息を吐き、その場で合格を言い渡してくれた。


「今日はもう帰っていいぞ。明日から、宿舎で過ごしてもらっても構わない。……モルドにも、よろしく言っておいてくれ」


 どうやら騎士団長はモルドさんと仲がいいみたい、コネを使ったから気が引けちゃうけど、合格は合格だ。


「はいっ!ありがとうございます!」


 私は深く一礼し、足取りも軽く試験会場を後にした。


 家に帰ってモルドさんに合格を報告すると、彼は自分のことのように破顔して喜んでくれた。


 奥さんのユリさんも「お祝いね!」と腕を振るい、テーブルには私の大好きな、美味しくて温かいご馳走が並べられた。


「明日から、騎士団の宿舎に泊まれるらしいんです」


 食後の温かいお茶を飲みながら、私は改まって二人に切り出した。


「急だけど、この家でお世話になるのは、今日が最後になります。……家を飛び出していき場のなかった私を拾ってくれて、本当に感謝しています」


 私が深く頭を下げると、モルドさんは少しだけ寂しそうに目を細め、ぽつりと呟いた。


「……そうか。寂しくなるな」


「リゼちゃん。苦しくなったらいつでも、ここに帰ってきていいのよ」


 ユリさんが、本当の母親のように優しく微笑みかけてくれる。


「……ありがとうございます」


 その温かさに、胸の奥がじんわりと熱くなった。


 そして、翌朝。


 荷物をまとめ、「お世話になりました」と頭を下げて出ていこうとする私を、モルドさんが呼び止めた。


「リゼ。門出の祝いだ」


 そう言って彼が差し出してきたのは、美しく手入れされた一振りの長剣だった。


 驚いて目を見開く私に、モルドさんはにこやかに笑いかける。


「騎士が丸腰なんて、笑われちまうぞぉ?」


「っ……」


 その冗談めかした優しい響きに、私の中で張り詰めていた何かが、ぷつりと切れた。


「ありがとう……モルドさん」


 受け取った剣の重み。それは、彼らが私に向けてくれた愛情の重さそのものだった。


 私はポロポロと涙を流しながら、笑って、剣を胸に抱きしめる。


「この剣で、あたしが……みんなを守るから」


「ああ。期待してるぞ、リゼ」


 これ以上ここにいたら、涙が堪えきれなくなって甘えてしまう。


 私はぐっと涙を拭い、モルドさんとユリさんに向かって、弾けるような声で叫んだ。


「……行ってきます!!」


 私は振り返ることなく、朝陽に照らされた騎士団の宿舎へと駆け出した。

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