Lost Memory 2 リゼ・イレイナと音を消す武器
私は、代々聖女という国の中枢を担う役割を受け継ぐイレイナ家に生まれた。
通常一人が持てる属性は一つだ。
だけど聖女は、必ず聖なる魔法とその人個人の性質を表す属性の強大な魔法の才能に恵まれて産まれる。
でも、私には魔法の才能がなかった。
お姉ちゃんは、白く美しい髪を持ち、神聖魔法と氷魔法の使い手として、若くしてお母様から聖女の地位を受け継いだ。
私は髪が黒く、イレイナ家の家紋がなければ何もできない子供だった。
『イレイナ様の搾りカス』『イレイナ家の恥』……色々な蔑称で呼ばれていた。
私にとって唯一の居場所は、訓練場だけだった。
木人を相手に、本で学んだ棒術や剣術、色々な武器の型を真似て、どうしてその武術の型が定義されたのか、それを考えるのが楽しかった。
「リゼは武の神様に愛されて生まれてきたのかも知れないわね」
お母様は、魔法が使えない私でも、愛してくれた。
「リゼ、大丈夫。髪も魔法も、その人の個性の一部でしかないわ」
お姉ちゃんは、いつだって優しかった。
「リゼ、この武術の本、一緒に読まないか?なんでも『四季一刀流』という東方に伝わる剣術らしいぞ?」
お父様も、社交界で私が居ることで迷惑が被っているのに、武術の本を買ってきてくれたり、一緒に読んだりしてくれた。
私は、愛されていたんだと思う。
だからこそ、私は辛かった。
私というイレイナ家に相応しくない子供が、家族を困らせていたから。
お姉ちゃんは、私と一緒に居ると、嘲笑の的になっていた。
お母様は、不貞を疑われていた。
お父様も、聖司教様から何度も養子に出すように勧められていた。
私には、人の感情が聴こえてくる、私が望もうとも、望まなくても。
その泥々とした音を聴くのが、辛かった。
聴こえてくる嫌な音をかき消すために、ただ無心で武器を振り続けた。
最初は刃という殺傷するための武器への嫌悪感から、守るための棒術を学んだ。
でも、棒術だけで守れる範囲には限界がある。一度武器を振るった後なら、守る為なら刃も――攻撃力も必要なことが私にも理解できる。
本を紐解き、宮廷剣術を修め、貴族の模範となるような剣技を磨いた。
四季一刀流を極め、居合術を――抜刀一閃に獣を斬り伏せる事が出来るようになった。
棒を振り回し、剣を打ち込み、居合の刃が空気を裂くその瞬間だけは、周囲の嫌な音が消えて明鏡止水の心持ちになれた。
それでも、家族に降りかかる誹謗中傷はなくならなかった。
……私が家にいたら、みんな不幸になっちゃうんだね。
だから私は、大好きな家族の心をこれ以上壊さないために、逃げるように家を出た。




