Lost Memory 1 リゼ・イレイナと型稽古
ある日の昼、訓練場で私が棒術の型を確認し終わり、残心を取っていると後ろから声が聞こえた。
「イレイナ卿、木剣での相手をお願いできないか?」
彼の名前はマーシー・エクシリア、こうやって私に毎回剣で挑んでくる変わり者だ。
「また私と撃ち合いたいんですか?エクシリア卿。
……あと毎回言ってますけど、イレイナ卿はやめてください、お姉ちゃんと混同されちゃうのは好きじゃない」
イレイナという姓は、ここ聖国では特別な意味を持っている、代々受け継がれている『聖女』が受け継ぐ姓なのだ。
「失礼失礼。改めてリゼ、剣術の稽古に付き合って欲しいんだ、お前ほど宮廷剣術に精通した騎士は他にいないからな」
「はあ、マーシーさんも懲りないですね、宮廷剣術なんてただの儀礼用の剣術なのに……」
宮廷剣術、かっこよく言ってるけど、ようは昔話に出てくるような、古い剣の型だ。そんなものに精通しているなんて言われても嬉しくない。
「まあいいですけど、お互いに加減はなしですよ?」
私は棒を置き木剣を手に取る、体の前で剣を構え、下段に構える。
「ありがたい、よろしく頼む」
マーシーさんは一礼し、大剣を模した木剣を構える。
「……よろしくお願いします」
私も一礼し、木剣の剣先を相手の足元に下げる。
大きく息を吐き、集中する。
「……参る!」
マーシーさんが大剣を横薙ぎに振るう。
「……甘い!」
私は足元に下げていた剣先を上げ受け流しながら前進し、一本踏み込んで柄でマーシーさんの頭を突く動作を寸止めで行った。
「その大振りは隙が大きすぎです、突きや切り下げ、切り払い、長さを上手く活かすように攻撃パターンを組み上げてください」
簡単なアドバイスをマーシーさんに送る、騎士の人は、戦場では鎧に守られてるからか一撃貰う前提で動く人が多い。だから型が雑だ、もう少し形稽古を増やしたほうがいいのに。
「あ、ああ……」
私は一度後退し、今度は八相の構え――木剣を立てて顔の横、耳の辺りで構える。
そうして今日は日が暮れるまで、この真っ直ぐな騎士と剣を合わせて過ごした。
―――――
「はあっ、はあっ」
気が付くと日が沈み、夜が来ていた。
「やはり剣術では勝てんな」
マーシーさんは、どこか吹っ切れたように話している。
「……マーシーさん達騎士の人は、鎧を過信してる節があります。
相手の攻撃を鎧で受け止めて、そのまま大剣で薙ぎ払うなんて、そんな力技でやっていたらいつか本当に死んじゃいますよ?」
私の話を聞いてマーシーさんは、何故か嬉しそうにしながら話してくれた。
「……ああ、そうなんだ。最近私にも娘ができてな、今までのような捨て身の攻撃より、安全な戦い方が出来ないか考えているんだ」
最近、いつにも増して、私と剣の稽古を求めていたけど、そんな背景があったとは。
「はあ……、そういう話ならもっと早くしてくださいよ、私が渡せる技なんて、古い剣型位ですけど、型稽古なら付き合いますよ」
「はっは、ありがとなリゼ。いつもツンツンしてるけど、本当に優しいやつだお前は」
そういってマーシーさんは笑いながら木剣を取った。
「大剣の型で良いんですね?始めますよ」
私も大剣を模した木剣を持ち出すと、マーシーさんと一緒に消灯まで型稽古を繰り返した。




