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空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D
第一部

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第13話 - α 憎悪の対象

 私に向けられた、ドス黒い憎悪が響く目。


 軍服の男は、おじさんが使っていたのと同じような無骨な短機関銃を構え、その銃口を真っ直ぐに私へと向けた。


「うおおおおおおッ!!」


 男の咆哮と共に、耳を劈くような轟音が鳴り響き、無数の銃弾が掃射される。


 私は慣れた感覚で咄嗟に大鎌の石突を足元の砂へと思い切り叩きつけ、大量の砂をかち上げた。


 即席の目眩ましを作り出し、自らの姿を暗闇と砂煙の中に隠す。


 ……砂は、あたしの味方っ!


 闘技場で、銃口の火花がチカチカと不気味に瞬いている。


 男は悲痛な叫びを上げながら、姿の見えない私に向かって、ただひたすらに銃弾を乱射し続けていた。


「よくも……よくも俺の仲間をォォッ!!」


 その激しい銃声の中には、ただの殺意だけじゃない。


 大事な人を理不尽に奪われた、張り裂けるような喪失感。


 ……怨嗟と憎悪のみが残ってしまった人間の、悲痛な心の音が、銃弾の雨となって溢れ出ているのが痛いほどに分かった。


 ごめんなさい……、あたしには何もできない……。ただ、せめて私にできる事を!


 殺さない!人の道は踏み外させない!


 砂煙の中で姿勢を極限まで低くし、大鎌の刃を意図的に砂へ擦り付けるように引きずった。


 ザザザァッ!とさらなる砂煙を巻き上げ、視界を奪いながら、這うような回避運動を取り続ける。


 銃の弱点はわかってる、おじさんがそれで苦労していたから。


 狙うのは一つ。弾切れになる、その瞬間。


 男の憎悪が空回りし、銃口が沈黙する時を、私は砂にまみれながらひたすらに待ち続けた。


 ――カチッ。


 けたたましい銃声が途切れ、空になった弾倉が虚しい金属音を鳴らした。


 ――今っ!!


 私は回避の軌道を急停止させ、砂煙の壁を突き破ってリロードをしている男の懐へと一気に接近した。


「なっ――!?」


 驚愕に見開かれた男の目。


 手元ではリロードを完了させているが、私に銃口を向ける時間はない!


 私は一切の躊躇を捨て、踏み込んだ勢いそのままに、大鎌の石突を男の腹部へと深々と突き込んだ。


「が、はっ……」


 重い一撃が男を打ち抜き、その手から短機関銃がポロリとこぼれ落ちる。


 「うっ……ぐぅう!」


 男はよろめき、後ろの壁に寄りかかる。だが意識を保ち、憎悪を込めて私を睨みつけている。


 死神を倒すまでは倒れない、そんな歪んだ強さが芯にある。


 ――そんなに、あたしが憎いの?……あたしが、なにをしたの?


 構え直す、この人は倒れない……!もっと確実に気絶させないと。


 そう考えていた時、男がごくっと、何かを飲み込んだように見えた。


 口にあらかじめ仕込まれていたものだろうか。


 ――何か仕掛けてくる……!そうはさせない!


 私はもう一度回避軌道を描きながら、接近を試みる。


 だが男はこちらを撃ってこない、それどころか短機関銃を投げ捨てて、帯剣していた剣を抜いた。


 ――銃を捨てた?


 それを見て私は瞬時に回避軌道を解き、砂を蹴って直線的に距離を詰めた。


 大鎌の柄を頭上でくるくると回転させ、遠心力で極限まで威力を高める。


 狙うのは、剣を持つ腕。あるいは胴体。


 今度こそ確実に気絶させる。


 そのための十分な威力を乗せた石突を、横薙ぎに全力で振り抜く!


 完璧なタイミングだった。


 当たる。そう確信した、だが。


 ――ガギィィィンッ!!


「なっ……!?」


 信じられないほどの重い衝撃が、大鎌を通して両腕に走った。


 遠心力を乗せた私の渾身の薙ぎ払いを、男は抜いたばかりの剣の腹で、ただ力任せに弾き返した。


 技術でも、体捌きでもない。圧倒的で理不尽なまでの『暴力』


「おおおおおォォォッ!!」


 男の喉から、獣のような濁った咆哮が轟く。


 その顔には無数の血管が不気味に浮かび上がり、充血した瞳は異様なほどに血走っていた。


 先ほど飲み込んだのは、ただの薬じゃない。


 身体能力を限界以上に引き上げ、痛覚すら麻痺させる劇薬だ!


「うあっ!」


 常軌を逸した馬鹿力に耐えきれず、私は大鎌ごと大きく後方へと吹き飛ばされてしまった。


 背中から砂に叩きつけられ、激しく咳き込む。


 すぐに立ち上がらなきゃ。


 そう焦る私の視界に、信じられない速度で急接近してくる男の姿が映った。


「アリアァァッ!!」


 先ほどまでの銃撃戦とは比べ物にならない、暴力的なまでのスピードと力。


 瞬きする間もなく肉薄した男の剣が、私の首を狙って無慈悲に振り下ろされる。


「……くっ!」 


 ――ガギィィ!


 鉄と鉄がぶつかる不快な音が響く、受け止めはしたがものすごい馬鹿力。このままでは鎌ごと圧死してしまう。


 「せあっ!」


 弓に射られて負傷した足で脚払いをし、体勢を僅かに崩したタイミングで、ギリギリ圧から抜け出す。


「……はあっ、はあっ!」


 距離をとって息継ぎをしている間にも、男は鬼の如く詰めてくる。


 ――どうする!?あの力、まともにやっても勝てない……!


 活路を何処かに拓かないと!


 闘技場の砂を蹴り、私は大鎌を抱えたまま、ただひたすらに逃げ回った。


 鬼ごっこのような無様な逃走劇に、観客席からは先程までの熱狂が嘘のように、割れんばかりのブーイングと罵声が降り注いできた。


「逃げるな! 戦え!」


「死神のくせに臆病者め!」


 息が上がり、肺が悲鳴を上げている。逃げているだけじゃ、いずれ体力が尽きて殺される。


 激しい闘争の中、背後から迫る男の剣が私の肩を浅く掠め、熱い痛みが走る。


「くっ、ぐうぅ!」


 ……逃げてもやられちゃう!……活路は前にやるしかないっ!


 私は覚悟を決め、急ブレーキをかけるように反転すると、持っていた漆黒の大鎌を、突進してくる男の目の前の砂地に向かって思い切り投げつけた。


 大鎌の巨大な刃が砂に深く突き刺さり、派手な砂煙が舞い上がる。


「目眩ましなど……!」


 男が力任せに大鎌を薙ぎ払おうとした、その一瞬の死角。


 私は両手に、看守さんが託してくれたあの二振りの『短剣』を握りしめ、砂煙の低い位置から男の懐へと滑り込んだ。


 狙うのは、機動力を支える両脚。


 ――シュッ、ザァッ!


「ぐおっ!?」


 鋭い短剣の刃が、男の太ももやふくらはぎの装甲の隙間を的確に切り裂く。


 怒り狂った男が、激痛をものともせず無茶苦茶に剣を振り下ろしてきた。


 受けては駄目だ、短剣ごと圧し斬られちゃう……!


 姿勢を低く保って、紙一重の回避でその凶刃を躱す。


 剣の風圧で頬を裂かれ、二の腕を薄く削がれても、致命傷でなければ構わない。


 ただひたすらに、獣のように地を這いながら、男の脚を何度も何度も切り裂いた。


「このォォッ、ちょこまかとォォッ!!」


 脚の筋肉をズタズタにされ、ついに男の機動力がガクンと落ちる。


 ――――今だっ!今しかない!


 後ろに跳躍しながら、両手に握っていた短剣を男に向けて全力で投げつける。


 一直線に飛んだ刃は、1本は外れたが、もう一本は剣を持たない男の無防備な左手――その手の甲に深々と突き刺さった。


「がぁああああっ!?」


 痛覚が麻痺しているはずの劇薬でも、手という繊細な器官に異物が刺さった反射的な驚きは隠せないみたいだ。


 男が、刺さった短剣を抜こうと左手に視線を落とした、その致命的な隙。


 私は砂に突き刺さっていた大鎌の柄を蹴り上げ、空中でその漆黒の刃を再び掴み取る。


 躊躇いはなかった。


 男が私に気付き、絶望と憎悪に満ちた目を向けた時には、すでに遅い。


「アリアァ……」


 男の口から零れた悲痛な呟きごと、私は大鎌を横一文字に全力で振り抜いた。


 ――ザンッ。


 鮮血が闘技場の空を舞う。


 私は無慈悲に、その男の首を刈り取った。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 もし少しでも「面白い」「続きが気になる」「この先の展開に期待したい!」と思っていただけましたら、


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 これからもよろしくお願いいたします!



                    R・D

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