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空白の少女と錆びた英雄 ――音を聴く大鎌の少女、帝国の闘技場で弾丸と舞う――  作者: R.D
第二部 中編

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第111話 - β 再会

 戦いは熾烈を極めていた。


 私の殺すための魔法を次々とかわし、不意打ちすら防がれて、


 ――圧倒的な剣圧が、私の展開した分厚い氷の盾を薄氷の如くに斬き散らした。


 私の外套を切り裂き、刃が首筋をギリギリに撫でる。


 そして、宙を舞う氷の欠片の向こう側。


 剣を振り抜いたその人影のフードが外れ、暗がりの中に素顔が露わになる。


「…………えっ」


 その顔を見た瞬間、私は完全に絶句した。


 魔法を紡ぐための思考も、胸を焦がしていたドロドロの殺意も、すべてが一瞬にして真っ白に吹き飛んだ。


 信じられない。幻覚なんかじゃない。


 カラン、と忌まわしい剣を取り落とし、突如として頭を抱えるようにして、そのまま糸が切れたように石畳へと倒れ伏したその人は。


 私がずっと探し求め、すべてを懸けて愛した――リゼ、その人だったのだから。


「……リゼ、っ」


 私は弾かれたように駆け寄り、冷たい石畳に倒れたその身体を抱き起した。


 間違いない。ずっと触れたかった、リゼの温もりだ。


 どうして、よりにもよってアリアの命を奪ったあの忌まわしい剣を持っているのか。


 どうして、こんな硝煙の都市にいるのか。


 頭の中で、無数の疑問が爆発するように駆け巡った。


 けれど、そんなことは、今はどうでもよかった。


 生きている。リゼが、私の目の前にいる。


 その事実さえあれば、他には何もいらない。


「もう……絶対に、絶対に離さない」


 私は気絶しているリゼの細い身体を、しっかりと自分の背中に背負い上げる。



 忌まわしい装飾が施されたあの剣――アリアの命を奪った剣が、冷たい石畳の上に転がっている。


 私はそれを拾うことすらしなかった。


 ただ込み上げる強烈な嫌悪感のままに、つま先で思い切り蹴り捨てる。


 ガランッ、と無様に路地のゴミ溜めへと転がっていく仇の剣を一瞥もせず、私は背中のリゼをしっかりと抱え直し、暗い路地裏を駆け出した。


 目指すは、この硝煙の都市を囲む巨大な外壁だ。


 騒ぎを大きくしすぎた。


 騒ぎが起こっている時に、このリゼの姿を見られれば、正規の城門など通れるはずもない。


 私は人目を避けながら裏通りを縫うように進み、そびえ立つ高い外壁の死角へとたどり着いた。


 ――凍てつけ、そして砕けろ。


 私は空いた片手を分厚い壁へと押し当て、魔力を流し込む。


 静かに、しかし極めて強引に。


 石造りの外壁の内部に浸透した水分を絶対零度で急速凍結させ、その膨張する力で構造そのものを内部から破壊する。


 ピキピキ……と嫌な音を立てて内側から凍りついた壁面は、次の瞬間、まるで砂上の楼閣のように音もなくボロボロと崩れ落ち、外へと繋がる人が一人通れるほどの穴を開けた。


「行くよ、リゼ……」


 私はその穴を潜り抜け、アッシュクロフトの外へと脱出する。


 背中から伝わってくる、リゼの確かな重み。そして、生きている証である温かい体温。


 それが私の冷え切った心を、ひどく熱く満たしてくれていた。


 立ち込める硝煙と泥の匂いを背に受けながら、私は歩みを止めない。


 背中の熱をただ一つの道標にするように、私は迷うことなく、都市を囲む深く暗い森林の中へと飛び込んでいった。

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