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【10.9万PV 感謝!】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
武芸者編ノ參  叛逆騎士と水竜編

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2話 ヌシのいる村と不穏な気配(虹耀暦1286年12月:アルクス14歳)

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


なにとぞよろしくお願い致します。

 『黒鉄の旋風』との合同依頼を請けることになったアルクス達6人一党――通称・”鬼火”の一党は現在、少し大きめの幌馬車を借りて都市から北西方面に移動中だ。


「その〈ドラッヘンクヴェーレ〉? って村はあとどれくらいなんですか?」


「えーと、あぁもうここらへんか……もう少ししたら見えてくるぞ。ここの丘を少し下ったとこだ」


 アルの質問に、幌から御者台の方へ頭を突き出して確認した『黒鉄の旋風』頭目レーゲンが答える。馬車はもう少しで丘を登り切るところだった。


「ま、村って言ってもギリギリ街じゃないってくらいの規模はあるんだけどね」


 同じ『黒鉄の旋風』副頭目のハンナも補足する。彼ら先輩一党の内、数名は行ったことがあるらしい。


「街にはしないんですか?」


 ラウラが訊ねた。観光地なら〈ゼーレンフィールン〉ほど発展させずとも、多少開発して集客を狙った方がいいのでは? と思ったのだ。


「村の方針なんだとさ。観光客が来るのは勿論ありがたいけど、開発で湖――不忍大沼(しのばずのおおぬま)に棲んでるヌシがどこかに行っちまったら寂しいし、嫌だからって過度に開発しないそうだ」


 御者台で暖かそうな格好をしたヨハンが駕籠の方へ声を投げかける。


「随分親しまれてるのね、その”ヌシ”って」


 魔物をありがたがるなんて人間にしては珍しい。凛華は率直な感想を溢した。


「元々”不忍”なんて言われてるくらいには目立つ大きな沼だったらしくてね」


 ハンナがそう言うと、ヨハンの双子の妹エマも経緯を語り始める。


「昔、その沼を頼って村ができたんだって。まだ帝国が出来る前――戦争中だね。その村も他の街みたいに戦火に呑まれて、村民達も『もうだめだ』って諦めかけてたとき、沼のヌシが現れて兵士を撃退したって話があるんだ。それから沼はずっと大事にされてきたそうだよ」


「へぇ~、なんかあったかい話だねえ」


 エマが話し終えると、シルフィエーラは緑瞳をパチパチさせて感想を述べた。魔物との共生や心を通わせたりする話は魔族には多いが、人間の言い伝えはそう多くない。


「で、その〈ドラッヘンクヴェーレ〉の周りに魔獣が増えてきたって?」


「のようだな。六等級が十名以上というのは村の防衛も考慮した数なんだろう」


 マルクガルムと森人剣士ケリアが話題を依頼内容に戻す。


「そんなにいるの? 周りは森で囲まれてるって話だけど、大型でも出たのかしらね」


 ケリアの恋人である弓術士プリムラは不思議そうな顔をした。


「森人基準の”囲まれてる”じゃねーぞ。お前らの囲まれてるは俺らで言えば樹海ん中だからな」


 レーゲンが訂正する。〈ドラッヘンクヴェーレ〉は一応きちんと道に接している。大沼がある関係上、周辺に林が多いというだけだ。


「確か……牙猪より餓狼の数がやたらと多いんだったな」


 詳細な内容として受付嬢からはそう聞いた、と思い出すようにソーニャが言う。


「大型は少ないって言ってたね」


「あいつらは食べらんないから微妙だわ」


 エーラと凛華がそう言うと、


「そだね。今回は土産はなしかなぁ」


 アルも残念そうに返す。食べられない癖に荒らすだけ荒らしていく餓狼は正しく害獣だ。


「お前らにとっちゃただの弱い魔獣なんだろうけどな。俺がガキの頃は怖かったもんだぞ」


「病気持ってたりするしね」


 苦笑いを浮かべるレーゲンにハンナも同意した。


 動きの素早い餓狼に噛まれるのは割と危険だ。そのまま食い殺されることもあるし、噛まれて逃げ切れたとしても多数の病原菌を持っている。


 子供が襲われれば、助からないことの方が多い魔獣として有名だ。


「危ないってよりは面倒な魔獣って認識だな。そっちの二人もそんな感覚じゃねーの?」


 とマルクが言えば、


「まあそうだな」


「植物が手伝ってくれるから正直脅威じゃないわね」


 ケリアとプリムラもそのように頷いた。


 【精霊感応】がある森人には体重の軽い餓狼はかなり楽な相手だ。足を引っ掛けたくらいじゃ止まろうとしない牙猪の方が厄介と言える。


「ふうっ、にしても今日は冷えるな。辺り一面雪だらけだぜ」


「交代する? こっちアルクスが火を浮かべてくれてるから暖かいよ」


「そうすっかな」


「じゃ交代ね――ってうわ寒っ!!」


「おぉ、こりゃ暖けえや」


 双子がそんな会話と共に御者台と荷台を交代した。ラウラはぷかぷか浮かんでいるアルの蒼炎を見てポソリと呟く。


「やっぱり”鬼火”ですね」


「ラウラ?」


「ふふっ、冗談です。でも”鬼火”ならいいじゃないですか?」


「良い意味だったっけ?」


 楽しそうに微笑む隣の少女へアルはジト目を向けた。


「今のあんたは龍焔使えないんだから甘んじて受け入れるしかないわよ」


 2人のやり取りを聞いていた凛華もクスクス笑う。


「”龍焔”とは、どんな炎なんだ? 普通の炎ではないのは語感からなんとなくわかるが」


 ソーニャはちょくちょく出てくる単語を疑問に思ったらしい。


「炎龍人の使う超高温の炎だよ。見た目は~……白っぽい炎かな? アルは結構早い段階から使えるようになってたよね」


「そうね、当時でも撃ち出せば高位魔獣の表面くらいなら焦がしてたわよ。雷撃と混ぜれば吹っ飛ばしてたわ」


「撃ち出すっつーか、全部投げてたけどな」


「癖なんだからしょうがないじゃん」


 エーラを筆頭にした龍焔の解説にラウラとソーニャは興味津々である。『黒鉄の旋風』は高位魔獣の表皮くらいなら焦がしていたという言葉に素直な驚嘆を示していた。


 魔法を使う高位魔獣はそこいらの魔獣とは較べ物にならないほど魔力への耐性が高い。


 倒せる人間の武芸者だっているが、属性魔力だけで傷をつけたり吹き飛ばしたりできる人間はそう多くない。


「今は使えねえのか?」


「封じちゃってますからね。最後まで解かないと龍気も龍焔も使えないんですよ。まぁ解いたら解いたで暴走しちゃいますけど」


 不思議そうにしているレーゲンにアルは頷く。要は現状、龍人族由来の強力な攻撃手段は実質使用不可であるということだ。


「炎が蒼くなったのはそれからよね?」


「ただの炎じゃ凛華達の属性魔力に太刀打ちできないし、明らかに威力も落ちてたからね」


 蒼炎は謂わば苦肉の策。しかし里を出る頃には当たり前になっていた。今では普通の炎を使った時の方が違和感を感じるくらいだ。


「今の蒼炎でも、その龍焔の方がまだ上なんですか?」


 ラウラが鋭い質問に難しい顔で考え込む。


「うぅん、今は~……当時のと変わんないくらいじゃない? 使い出した頃は龍焔の方が全然上だったけど」


「それで当時と変わらないくらいなのか」


 ソーニャは純粋に驚いた。


「炎龍人の血を引いてるからねぇ。その代わり桶いっぱいの水出すのにラウラ達の二万倍くらい魔力が必要だよ」


「極端だなぁ」


 話を聞いていたヨハンは途方もない倍数に呆れた顔をする。全属性が等しく扱える人間からすればあまりに馴染みのない話だ。


「魔族なんてそんなもんさ。苦手な属性はとことん扱えねえからな」


 マルクは然も当たり前といった顔で幌に背を預けるのだった。


 そうこうする内に目的地が見えてきたのか、御者を務めていたエマが後ろへ呼びかける。


「みんなー、もうすぐ着くよー」


「え、ホント――のわ寒っ! おっ! あそこが〈ドラッヘンクヴェーレ〉か」


「へぇー! なんか不思議な感じの村だね! 暇があったら見て回ろ!」


 幌から顔を覗かせたアルとエーラが声を上げた。


 馬車から見える〈ドラッヘンクヴェーレ〉は、街や都市のように立派で見上げるほどの防壁があるわけでも、ド派手と云うわけでもないが、村と呼ぶには些か華やかに過ぎる雰囲気を醸し出していた。


 アルの顔の上にひょっこりと頭を出した凛華は村の奥の澄んだ湖を見つける。


「あれが不忍大沼ね。確かにちっとも忍んでないわ」


「大沼っていうより湖ですね」


「確かに。デカいな」


「名付けた時は沼っぽかったんじゃねーか?」


「だんだん広げたのかな? それともそのヌシってのが大きくなってくのに連れて、沼も広がって湖になったとか?」


「それありそうだねぇ~」


「知ってそうな人に聞いてみましょ」


 吹き付ける寒風を無視して、幌の外へ顔を出したまま6人があれやこれやとやり取りを交わす。


「ふふ、こういうとこは年相応ね」


 ハンナはそんな彼らを微笑ましそうに眺めるのだった。



 ~・~・~・~



 〈ドラッヘンクヴェーレ〉についた『黒鉄の旋風』と”鬼火”の一党は、促されるままに依頼者である纏め役である村長(むらおさ)宅にいた。


「ようこそ、おいでくださいましたな。外は寒かったでしょう。ささ、まずはお茶でも」


 好々爺といった具合の纏め役が穏やかな顔で温かい茶を勧める。武芸者の到着は年明けになるだろうと覚悟していたところへ、三等級と五等級の一党が組んできてくれたのだ。


 厚く(もてな)すのも当然であった。


 二党は礼を言って、優しそうなご婦人が持ってきた蜂蜜と生姜の入った甘い茶を呑む。帝国の冬はこれが主流だ。特に仕事で酒が呑めぬ者などには重宝されている。


「お茶をありがとうございます、助かりました。早速ですが、依頼について詳しいお話を伺っても?」


 さすがに踏んできた場数が違う。レーゲンの対応は手慣れたものだ。


 まずは依頼内容と相手方の主張が合致しているかの確認を取るのが出来る武芸者というもの。少なくとも彼の先輩はそう教えてくれた。


「ええ勿論。ここ……一カ月ほどですな、餓狼の群れが出没するようになりまして。通常であればうちの猟師らで狩るのですが、数が多過ぎると報告が届きまして。詳しく聞いてみると、数頭の餓狼の群れが幾つか集まって大きな群れを成しているようなんです。うちの村には子供もおりますし、不忍大沼へのお客さん方もいらっしゃいますから『危ない』ということで依頼を出した、とこう云った具合でございますな」


 詳細な依頼内容と相違なさそうだ。纏め役の説明にレーゲンは一つ頷いて、アルに視線を向けた。


 ――お前から訊いとくことはないか?


 という意味だ。彼と目を合わせたアルが徐ろに問う。


「餓狼の群れ、で合ってますか? 他に大型の魔獣や牙猪なんかはいますか?」


 ラービュラント大森林に通じている森林には大抵の魔獣が生息している。その中でもどこにでも、それこそ林や丘なんかにも必ずいるのが牙猪だ。


「え、ええ。猟師が獲ったとは聞いておりますが、例年通りのようですな。大型の姿も見ておらんそうです。不忍大沼にいるヌシがおりますので、元々あまり近寄ってはこんのですよ」


 少年とも青年ともつかぬアルの認識票を見た纏め役は、少々驚きながらもきちんとした回答を寄越した。アル達の若さで個人四等級はそういない。


 協会の定める等級とは伊達や酔狂で与えられるものではない為、こういう反応をされる方が普通だ。


「なのに餓狼の群れだけは出てきた、ってことですね?」


「はい。観光客の中には大沼のヌシが呼んでいるんじゃないか? などと口さがないことを言う者もおりますが、絶対に有り得ません。代々ここに住んできた私の一族達ですら、一度として害を受けたことなどありませんからな。かくいう私も昔、溺れているところを救けてもらったこともあるくらいなのですよ」


 纏め役は憤懣やるかたないといった表情で饒舌に語った。ヌシとやらのせいだと言われたことは相当腹に据えかねることだったらしい。


 そのとき、纏め役の家の窓を夜天翡翠がコツコツと叩いた。上空から村を見てきたのだろう。


「三ツ足鴉? 群れておらんようですが」


 纏め役が不思議そうな顔を浮かべる。群れて人間を襲うこともある三ツ足鴉だが、自分より大きな生物に襲い掛かるようなことは滅多にない。


「ああ、使い魔なんですよ。窓を開けても良いですか? 汚させたりしませんから」


「え、ええ。そういうことでしたら」


 問われた纏め役は躊躇いながらも応じた。一応分類上は魔獣なのだ。不安そうな顔をしている。


「カアッ!」


 アルが窓をガラリと開けると、夜天翡翠はすぐに彼の左肩に翔び乗ってきて嬉しそうに啼いた。


「おかえり翡翠。どうだった?」


「カァッ! カァカァッ」


「楽しかったみたいだね」


「カァ~」


 使い魔が楽しそうにアルの頬へ黒塗れ羽を寄せる。背中の革鞄はもうすっかり馴染んだようだ。


「いやはや驚きました。それにしても美しい羽毛ですな」


 主に甘えているようにしか見えぬ魔獣に纏め役の表情が感心したように変わった。


「ええ、名前の由来にもなってるんですよ」


「そうでしたか。あなた方からヌシへの警戒心のようなものを感じられないのは、そういった事情がおありだったからなのでしょうな。武芸者の方もたまに寄られるのですが、やはり皆さんお仕事柄少し怖い目を向ける方もいらっしゃるのですよ」


 纏め役はかなりヌシへ情熱を持っているらしい。


「ハハハ、魔獣と魔物の区別もつかないのはまだまだ素人の武芸者ですよ。それにここの話は有名ですからね。話を戻しますが、我々はここで防衛すべきでしょうか? それとも森の方へ分け入るべきでしょうか?」


 レーゲンがそのように訊ねた。


「群れがどこにおるか我々もわかりませんでな。森の方……とも言い切れんのです。ですのでひとまずはここで防衛をして頂いて、現れたら討伐と群れの追跡に移って頂きたいと思っております」


 非常に合理的だ。纏め役側も年明け前に一度村の猟師連中や衛兵の真似事をしている者らにそうしてもらおうと思っていたのでスラスラと言葉が出た。


「なるほど……承知しました。そっちもいいか?」


「ええ、問題ありません」


 レーゲンが問えば、アルも仲間の顔を見ながらそう返す。


 するとそこへ、領主館の屋敷なんかとは違って多少広いだけの平屋だ――ドンドンと家の戸を叩く音が響いた。


 居間の方で暖炉に当たっていた老婦人が編み物を置いて戸を開ける。


 そこには荷物籠を担いだ中年の商人がいた。ふくよかな丸顔で腹も軽く出ている。


「こんにちは、奥さん。ああ、旦那さんもどうも。冬場ということで生姜茶なんて持ってきたんですが、ご入用じゃありませんか? あったまりますよぉ~」


 にこやかに商人が言うと、


「生姜茶ですか。少し頂こうかしら。あなたも飲みますよね?」


「ああ、頂いておきなさい」


 纏め役に確認を取った老婦人は向き直った。


「おいくらでしょう?」


「ひと缶で九ダーナと九百九十九ケントってとこです」


「あら意外とお安いのね」


「はは、そりゃこの時期こいつぁ売れますからね。お安くしとるんですよ。そいじゃあ毎度!」


 そんな会話を交わしている。商人はアル達を見ると、目を丸くしてすぐに呼び掛けた。


「そちらの武芸者さん方も、手前は宿の方におりますんで、何かご入用があればどうぞ!」


 そう言うと老婦人にもう一度にこやかな笑みを送って踵を返す。


「今の方は最近ここに来られるようになった商人でしてな。なかなか商売上手な方なのですよ」


 纏め役が微笑んで教えてくれた。


「そのようですね。さて、では我々も宿の方を取って仕事の準備をしに行くとしましょう」


 話を切り上げたレーゲンが立ち上がる。


「ああ、でしたら鹿の角が表に飾ってある宿へどうぞ。あなた方がいらしたとお聞きして、部屋を空けておくよう頼んでおりましたので。ああ、それと三日分の滞在費はこちらで持ちますよ」


 やたらと親切な対応だ。


 一般的には滞在費はこちら持ちで、依頼の成功報酬にそういった諸経費が含まれる。


 依頼を受領する時点でそこらへんの概算経費も計算しておかなければならないので案外、数字に強くなくては利益も薄くなってしまうのだ。


「よろしいので?」


 レーゲンはきょとんとした。紛れもない好待遇。しかし理由に心当たりがない。


「ええ、構いません。まさか年が明ける前に来て頂けるとは思っておりませんでしたから。それに三等級と五等級の一党の方々とも思っておりませんでな。こちらの気持ちです。それにここだけの話……他の村に較べても我らが〈ドラッヘンクヴェーレ〉は収入が豊かな方でしてな」


 纏め役が悪戯っぽく微笑んだ。


 命には代えられぬし、ここはヌシのおかげで観光客も多い。気持ち良く仕事をしてもらえるなら滞在費くらい安いものなのである。


(さっきの商人よりよっぽどやり手だな)


「なるほど。では、ありがたく」


 微苦笑を溢したレーゲンは経験豊富な武芸者らしく、軽く頭を下げて席を立ち、アル達も倣うように外へ出るのだった。


 それからすぐのこと。アルの袖をエーラがクイクイと引っ張る。


 うん? と目を向ければ、レーゲンの方にもケリアとプリムラが何言か報告していた。


「どしたの?」


「あの商人の人、歩いたとき剣持ってるみたいな音させてたよ。チリッて音もしてたから薄い鎖帷子(かたびら)みたいなのも着てるんじゃないかな」


 耳の良いエーラはそれを敏感に聞き取ったらしい。


「へっ? マジ?」


 アルが間抜けな顔で問い返す。そのまま親友の方を見れば、


「俺の鼻も金臭さは感じてたぜ。ただ、一人っぽかったし行商人ってそういうもんかと思ってた。血の匂いもさせてなかったからな」


 マルクは一応見過ごしてやった、という顔で返した。


「えっ、それじゃあの生姜茶――」


 ラウラが慌てて纏め役の家を仰ぎ見る。


「いや。毒の臭いはしなかった。たぶんちゃんとしたもんだとは思うぜ」


「どういうことなのかしら? 見た目はどこにでもいる商人のおっちゃんって感じだったわよね?」


「うむ。そう見せたい、とか……? うぅむ、わからん」


 凛華とソーニャがうーんと腕を組んで首を捻る。


 アルはこちらに歩み寄ってくるレーゲンへ訊ねた。


「そちらも同じような報告ですか?」


「おう。そっちにゃエーラ嬢ちゃんがいたんだったな。こっちもケリアとプリムラがあのおっさんから妙な金属の()()を拾ったらしい」


 森人の耳、三対が聞いている。あの男が商人でないというのは、ほぼ確定だろう。


「でも、どういうことなんでしょうね?」


「聞いて逃げられても面倒だし、明確な何かがあるわけでもねえしな」


 つまり現状、何もわからないということ。


「……急にキナ臭くなってきましたね」


 顎を擦るアルは左眼を細めてボヤいた。


「すまねぇな。単に数が多いだけだと思って呼んだんだけどよ」


 レーゲンが謝意に首を横に振る。参加すると決めた以上その責任は自分達にある。それに――――。


「不本意ですけど慣れてますから。とりあえずは――」


「おう。宿に荷物置いて、猟師達から話でも聞いてみるか」


 アルの台詞の末尾を引き取ったレーゲンが一つ頷いて見せ、宿の方を向く。




 こうして”鬼火”の一党と『黒鉄の旋風』の12名は「年明け前のそう難しくもない仕事のはずが、妙な風向きになってきた」と厭な予感に顔を顰めるのであった。

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