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【10.9万PV 感謝!】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
第2部 青年期 武芸者編ノ壱 新たな仲間と聖国の追手編

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断章5  再会する鉱人鍛冶師たち

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


なにとぞよろしくお願い致します。

 アルクスが過労で倒れ、領主館で目を覚ました日の昼頃のこと。


 帝国辺境の街〈ヴァルトシュタット〉の門前には、隠れ里から調査に来た鉱人族のキース・ペルメルと、鬼人族のイスルギ・八重蔵がいた。


 キースは左足を引き摺っているし、鉱人しか知らぬ坑道は直接〈ヴァルトシュタット〉に伸びているわけでもない。


 通常であればもっと時間がかかったところを、里長であるヴィオレッタが『転移術』である程度()()()くれたおかげでここまで早い到着となったのだ。


 入国審査官は八重蔵を見て何か問いたそうな表情を浮かべたが、口をつぐむ選択肢を取った。


 八重蔵もその様子に『娘の凛華でも連想させたか』と思いつつも、やはり何か言うことはない。


 審査官の方も自らそういった情報を漏らすことはないので、何とも奇妙な間が生まれてしまったのは致し方ないことだろう。


 長剣と直剣を腰に差した鬼人と杖をついた隻眼の鉱人は人間の街ではそれ相応に目立つ。魔族への悪感情がない帝国人でもさすがに遠巻きに見ていた。


「帝国人は魔族の友じゃなかったっけか? あいつら、大丈夫だったのかねぇ」


 八重蔵が呟くと、


「お前さんの見た目が物騒なんだよ。眼つきカタギじゃねえからな」


 とキースが唸るようにツッコむ。


「あ゛ぁ? 眼つき云々でお前に言われたかねーんだよ。そんで? お前の知り合いの鉱人ってなァどこにいんだ?」


「昔と変わってねえならあっちだ」


 首を巡らす八重にキースは目的地方向へ葉巻を向けて答えた。


「さっさと行くぞ。あいつらの話も聞かせてもらわにゃならんし」


「おうよ」


 仲が良いんだか悪いんだかわからない会話を交わして、鬼人と鉱人が歩き出す。目指すはアルクスから届いた手紙にあった、ダビドフ・ラークの鍛冶工房だ。



 

 〈ヴァルトシュタット〉の鉱人鍛冶師ダビドフ・ラークの工房はすぐに見つかった。


 キースの鍛冶場とそう変わらない。どうにも鉱人の鍛冶場というのは似たり寄ったりらしい。


「あれか?」


「おう、変わってなかったみてえだ」


 キースが「フゥ――……」と葉巻の煙を吐く。探す手間がかからなくて万々歳だ。これでも急いでいる。


 ガラリと鍛冶工房の戸を開いたところで、鉱人特有の低い声が奥の方から響いた。


「いらっしゃ-い。ちいっと待っててくれー!」


「悪いんだけどよぉー、客じゃあねぇんだあー!」


 八重蔵が大声で返すと、


「あん? 客じゃねーなら何だってんだ?」


 ダビドフがひょこりと顔を覗かせ――その目を真ん丸にする。


「おめえ! まさか、キースか!?」


「おう。久しぶりだな、ダビドフ」


 ダビドフの記憶にあるキースは隻眼じゃなかったし、足を悪くしている様子もなかったが、確かにキース・ペルメルだった。


「生きてるって話はアルクスの坊主どもから聞いてたが、こんなに早く再会するとは」


「俺もだ。すまねえな、あれから森の奥深くに引っ込んじまってて……なかなか出てくる気にもなれなくてよォ」


 バツの悪そうな表情を浮かべるキースに、ダビドフはゆるゆると首を横に振る。


「村があんなになっちまったんだ、しょうがねえよ。俺がお前の立場でも出てこねえだろうさ。ところでそっちの鬼人はあれかい? 凛華嬢ちゃんの親父ってとこかい?」


 ダビドフの誰何に八重蔵は少々驚いた。自慢ではないが凛華の顔立ちは非常に整っている。


 重剣を担いでいなければ涼やかな美少女で通る娘と、野武士のような見た目の八重蔵はあまり父娘には見られないのだ。


「わかるのかい?」


 不思議そうに訊ねれば、


「凛華嬢ちゃんとあんたの持ってる剣の気配がそっくりだぜ? 嬢ちゃんに剣教えたのはお前さんだろう?」


 と鍛冶師特有の感覚を以てダビドフは応えた。仮令(たとえ)、鉱人族じゃなくとも熟練の鍛冶師であれば、多少得物が違おうとその程度判別できる。


 ゆえに重剣や大剣を担いでいない八重蔵を見ただけでわかったのだ。


「あぁ勿論、キースと一緒に来た鬼人ってのもあるぜ?」


「そういうことか、なるほどな」


 つまりキースの打った剣を持っている凛華と、そのキースを連れて来た鬼人が無関係なはずもないという読みも働いたという意味だ。


「久々にあんな雑な扱いをされたぜ」


 ニヤッと笑うダビドフに、かつて人間のいる国を武者修行で回っていた八重蔵が正しく意味を理解する。


 人間は鉱人の打った剣を滅多矢鱈にありがたがるものだ。


「すまねえな。あいつら、里に鉱人も巨鬼もいるもんだから慣れきっちまってんだ」


「はははっ、構うこたァねえよ。久々に知らねえ同胞と話すのも悪くなかったしな」


 八重蔵が弁明すればダビドフは気にするなと手を振った。


 魔族同士の妙な心地よさを感じる会話を、人間の街でしている。なんとも妙な感覚だ。


「そんで、ここに来たのはキースの生存報告だけってワケじゃねえんだろう?」


 察しの良いダビドフが問えば、


「おう。今の状況が知りたくてな」


 キースは頷く。神殿騎士から少女2人を護って戦うことになったアルクスらが、現在どういう状況にいるのか。それが知りたかった。


「厄介な連中と戦り合ったらしいな」


 ダビドフがそう言うと、八重蔵とキースが素早く反応する。


「何か知ってんのかい?」


「同胞の(よしみ)で坊主から話聞いてたからな」


 ついでに言えばこの鉱人鍛冶師は、ここの武芸者協会の支部長とも仲が良い。事の顛末はしっかりと聞き出していた。


 のっぴきならない事情に巻き込まれた若い同胞に死んでほしくないと思うのは当然のことである。


「じゃあ、おめえ――」


「おうよ。何もかも全部知ってんぜ。あの六人が出てったのは一昨日の朝。出たキッカケは神殿騎士共がこの街の薬師を拷問したせいだ。狙ってるラウラとソーニャっていう人間の嬢ちゃん二人が街にいるのか聞き出して、燻りだす為だったらしい」


 怒りを含んだ言葉に隠れ里から来た2人も眉間に皺を寄せる。ラウラとソーニャが共和国の令嬢であることも、狙われた理由についても手紙に記してあった。


 しかし、神殿騎士が何も知らぬ街の住民を拷問したことまでは知らなかった。


 ――無関係の人間に手を出したというのか。捕らえたいが為だけに。


(相も変わらん外道共が……!)


「…………それで?」


「アルクスの坊主は連中を引き連れて、武芸都市方面に逃げ切ってやろうって決めたらしくてな。そしたら『黒鉄の旋風』もそれに参加するっつってよ――ああ、『黒鉄の旋風』ってのは被害に遭った薬師の友人が頭目やってる一党だ。六人の内二人は森人族のな」


「協力者もいたのか」


 有難いことだ、と八重蔵が心中で呟く。やはり帝国人は捨てたものではない。


「おう、俺が剣打ってやった連中さ」


「けど一昨日か…………今ほどこの足を疎ましく思ったこたァねえ」


 キースにはアルの父ユリウスに助けてもらったという恩がある。


「お前が行ったってどうしようもねえだろ」


 悔しそうな彼に八重は冷静に返した。が、こちらも僅かな焦りが見える。


「まあ待ちな。全員無事で今は武芸都市〈ウィルデリッタルト〉だ。『黒鉄の旋風』含めてな」


 ダビドフはさっさと結論を先に言うことにした。この2人をほっとくと、このまま武芸都市にだって乗り込みかねない。


「なんで知ってんだ?」


 情報通過ぎるだろう、と八重蔵が疑問を口すれば、


「武芸都市の領主が今朝方早馬を飛ばしてきたんだよ。街の周りに潜んでいたと思われる神殿騎士一六七名と準聖騎士一名は、坊主達が討伐したからもう心配ないってな」


 とダビドフが返す。


 街の住民に被害が出ている以上、取り纏め役や武芸者協会の支部長への報告をしておかなければ二進(にっち)三進(さっち)もいかんだろうというトビアスの判断だ。


 いずれ帝国の新聞社にも伝わるだろう。


「一六七人に、準聖騎士だと……!?」


 キースが村を滅ぼされた怒りを再燃させて低く唸る。


 八重蔵の方は武人だけあってやはり冷静だ。そもそも連中への怒りを忘れたことなどない。


 ただしそれだけの数を相手に一人も欠けなかった、という事実には素直に驚いていた。


「その『黒鉄の旋風』って一党が馬鹿強かったのか?」


 確認するようにダビドフへ問う。


「あいつらは三等級四名に四等級二名の三等級の一党だが、昇級したばっかりだ。つい最近祝ってやったから憶えてる。決して弱かねえ――が、魔族狩りやってるような連中、一五〇名越えを相手に大立ち回りなんざまだ出来んよ。


 おめぇら、もうわかってんだろ? アルクスの坊主さ。きっとあいつが策を巡らしたんだろうよ。なんつったって薬師の坊主が運ばれた癒院から出てきたあいつァ、尋常じゃねえ殺気と魔力漏らしてやがったからな」


 騒ぎを聞きつけてダビドフが工房を出たときには、既に被害を受けた薬師の青年(ギード)は癒院へと運ばれていた。


 その後すぐに出てきたアルに事情を問おうとしたダビドフだったが、その怒りの度合いを体現したような濃密な殺気と魔力がとてつもなくて声をかけられなかったのだ。


「……やっぱりアル坊達が主導か」


 キースは紫煙を吐き出しながら呟く。アル達4人の努力と実力は隠れ里にいる者なら大抵の者が知っている。


 その強さと知能が正しく()()()()()()のだ。並の兵じゃ轢き潰されてもおかしくない。


「容赦を捨てたんだろ。連中相手にゃ丁度いい」


 八重蔵は当面の危機が去ったとわかり、肩の力を抜いた。覚悟を以て送り出したが、それは心配しないことと同義ではない。


 成長してくれるのは嬉しい、だが一番に望むものは元気に無事でいること。それが親心というものだ。


「そうだな。ふぅー……とりあえず里に朗報を持って帰れそうで安心したぜ」


 キースがホッと胸を撫で下ろす。


 可愛がっていた里の子供達だし、そのうちの一人は恩人の息子だ。無事でいてくれと願う気持ちは一緒だった。


「マモン達にも報告入れといてやらなきゃな」


 そう言う八重蔵に頷いてキースが腰を上げる。


「おう、じゃあ行くか」


 さっさと帰ろうとする彼に鬼人は呆れたような顔をした。


「お前なぁ、今日はさすがに動かねーぞ。せっかく旧友に会ったんだろうが。酒くらい酌み交わすのが男の礼儀ってもんだ」


「いや、しかしよ――」


「ガキの遣いじゃあるめぇし、酒を酌み交わさねえ鉱人なんぞ鉱人の風上にも置けねえ。なあ? ダビドフ殿もそう思わねえかい?」


 ニッと笑う八重蔵に一瞬虚を衝かれたダビドフだったが、すぐに芝居がかった様子で「(しか)り」と顎髭を撫ぜる。


「八重蔵殿の言う通りだ。なに、良い店に案内してやるから安心しろ」


「お前ら急に結託してんじゃねーよ、何が”殿”だ…………はぁぁぁ、わかった。上手い酒とアテはあるんだろうな?」


 この流れを押し返すことは不可能だと察したキースはお手上げという仕草と共に、ダビドフへじろりと視線を送った。


「おう、任せときな」


 〈ヴァルトシュタット〉に住まう鉱人が胸をドンと叩いて請け合う。


「んじゃパーッと呑むか」


「ったく、呑兵衛が」


鉱人(呑兵衛)そんなこと(呑兵衛だなんて)言ってんじゃねーっての」

 

 暗い話題も晴れたとなれば酒も進む。


 こうして3人は昼も明るい内から、店が閉まる時間まで呑んで楽しい時間を過ごした。


 キースとダビドフは旧交をあたため、八重蔵は新たな呑み友と剣の話題から凛華とアルの話題などで盛り上がるのであった。



 * * *



 その後、かなりの日数をかけて隠れ里まで戻った八重蔵とキース。


 2人の移動中に夜天翡翠がアル達から手紙を届けてくれたことで、その報告結果自体はほとんど被っていた。


 しかし具体的な敵の人数や状況まではヴィオレッタらも、また手紙を書いたアルですら把握していなかった。


 八重蔵とキースの詳細な報告で家族らは青褪めたものの、これによって一連の騒動は収束を迎えることとなったのであった。

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