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【祝16.3万PV❗️】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
第2部 青年期<武芸者篇>1章 新たな仲間と聖国の追手篇

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10話 鍛冶師ダビドフ・ラーク

前話から地続きの話です。

 〈ヴァルトシュタット〉という街は周囲を草原や丘に囲まれ、少し行けば小規模ながら森林や川もある自然に恵まれた街だ。


 住民はその豊かな自然と武芸者協会発祥地の端くれという矜持の下で育っていくため、非常に快活な気風をしている者が多い。


 アルクスら6名を宿から送り出した女主人もその例に漏れず、街に一軒だけある鍛冶屋の場所を快く教えてくれた。


 うまい料理を出す露店や屋台なども付け加えながら教えてくれるものだから、シルフィエーラはいつもの3倍ほど活発になり、5人は引っ張られるように着いていくのだった。




 そうして、目的の鍛冶屋へ辿りついたのは昼もそこそこに過ぎた頃だ。


 入国審査や宿をとっている内に時間を取られ、おまけに露店を冷やかしたせいでいつの間にか午後になっていた。


 シルフィエーラは満足げに鹿肉串を食べ、『甘くて瑞々しい採れたて野菜!』との売り込み文句の蒸野菜や生野菜の盛り合わせをニコニコしながら頬張っている。


 帝国で品種改良されたものらしく、アルクスに渡された赤茄子(トマト)は本当に甘かった。


「あそこだな。じゃあ私は買ってくるから――」


「待った」


「待ちなさい」


「な、なんだ二人とも。サッと行ってパッと買ってくるだけだ」


 アルクスと凛華から鋭く呼び止められたソーニャが少々狼狽して、弁明するように言葉を重ねる。


「気になるから俺達も行く」


「そうね」


「いや、パッと買ってくると言っても、きちんとした剣を選ぶつもりだぞ? そんなドのつく初心者のような真似はせん」


「違う」


「どんな剣があるか見てみたいだけよ」


「……」


 ――昼食もあるだろうからと気を遣ったのに。


 そんな視線を向けられても、魔族の剣士2人の態度はちっとも揺らがなかった。


「諦めろ、故郷(さと)以外の鍛冶屋なんて見たことねーんだ。気になるんだろ」


 マルクガルムはさすがに理解している。


 ちなみに――弓術士なので鍛冶屋に全く以て興味のないシルフィエーラが露店で何かつまむモノを欲しがったのも、長くなりそうだと察していたからだ。


「そういうことでしたか」


 耳長娘の行動思考を悟ったらしいラウラが納得するように呟く。


「いる?」


 野菜の盛り合わせが乗っている器をシルフィエーラが差し出してきた。


 ラウラはひょいと人参を取りもぐもぐと食べてみる。


「おいしいですね」


「でしょ?」


 なんとなくこういうやり取りは珍しく、彼女にとっては楽しい。


「さ、行くわよ」


「ああ、行こう」


「あの……私の剣を見るんだよな?」


 凛華とアルクスはさっさと行ってしまった。


 なぜか一番武器を欲しているソーニャが後ろにつく形となって店内というか工房内へと踏み入れる。


 残りの3人もなんとなしに『冷やかしに見てみようかな』と、続くのだった。




 鍛冶屋の中はさすがに室温が高い。風は爽やかでも、今は夏だ。


 火を絶えず扱う工房内は蒸し暑かった。


 ――第一関門は合格。


 アルクスと凛華が内心で偉そうに評価を下す。


『夏場に涼しい鍛冶屋なんぞロクなもんじゃねえ』


 とは、隠れ里の鉱人鍛冶師キース・ペルメルの言である。


「お? らっしゃーい。夏場にこんなとこ来るなんざ数寄者(すきもん)がいたもんだ……ってなんだ、ご同輩じゃねえか」


 そう言って「よっこらしょ」っと腰を上げたのは、パンパンに膨れ上がったゴツい筋肉にアルクスやマルクガルムとそう変わらぬ身長の髭もじゃ男。


 キースと同じ鉱人族だった。


 途端、アルクスと凛華が揃ってガックリと肩を落とす。


 この分だと、里にある武器とさして変わりあるまい。


「おい、いきなりなんだ。見慣れてるのはわかったが、もちっと隠せよ」


「ごめんなさい」


「あまりにも見慣れてて」


「気持ちはわかるがよ……んで? 冷やかしか?」


 鉱人鍛冶師がキースとは異なる紙巻き煙草をぷかりとやって紫煙を吐き出す。


 匂いからして魔導薬につけた何かだろう。柑橘系のすっとした匂いがする。


「違いますよ、彼女に合いそうな武器を見繕って貰おうと思って」


「んぁ? そっちの騎士みてえなカッコの嬢ちゃんのか?」


「え、あ、はっ、はい」


 ジロリと鍛冶師に見られたソーニャは身を硬くした。


「そうです」


 どもった彼女の代わりにアルクスがうんうんと肯定する。


 鉱人鍛冶師は少女騎士をじいっと測るように見つめた。


 きっと大まかな見当をつけて剣を見せるのだろう。


 しかし、急に頭をガリガリと掻いて妙な表情を浮かべた。


「あー……調子狂うな。これでも鉱人鍛冶師ってありがたがられるもんなんだぜ?」


「そうなんですか?」


「そらァそうよ。火の精霊が見える俺らは鍛冶が得意だからな。出来上がるモンの質も人間のモンより大抵いいってな」


 その言葉を受けた凛華がハッとして恐れるように鍛冶師を見る。


「まさか……それで適当に打ったモノをとんでもない値段で――」


「んなことするかィ! 失礼な嬢ちゃんだな!」


 鍛冶師は慌ててどやすようなツッコミを入れた。


「違うのね。ふぅん……あ、確かにちゃんと打ってある」


 凛華もさすがになかったかと軽く舌を出し、適当に置いてある剣を抜いてみた。


 どうやら安い剣の一角(コーナー)だったらしいが、きちんと打ってあるようだ。


 重心の確認まで行う鬼娘に鉱人鍛冶師が苦々しい顔を向ける。


「自由な嬢ちゃんだな。まァ鍛冶屋の確認方法としちゃ正しいがよぅ」


「すいません」


 代わりに謝罪するアルクスへ、


「いいさ。これでホイホイこっちの言うこと鵜呑みにしちまうようじゃ心配するとこだった」


 鉱人鍛冶師はそう言って、鬼娘の背でぎらりと光る尾重剣を見やった。


「随分な業物だな」


 凛華が軽い動作で引き抜いて見せる。


 当然、柄から手は離さない。


 鍛冶師もわかっているのか、そのままじいっと剣身をジロジロ眺めている。


「……コイツを誰に打って貰った?」


「うちの故郷(さと)にいる鉱人のキース・ペルメルよ」


「あの野郎、生きてやがったか……どうりでいい仕事してやがる」


「知ってるの?」


 意外。と言う凛華に鍛冶師は鼻を鳴らした。


「そら知ってるわな。あいつが昔いた村とここはそこまで遠くもねえし、日用品なんか買いにちょくちょく来てたんだから。剣だぁ鍬だぁ卸してたし、よく知ってるさ。聖国の屑共に村が襲われてからは音沙汰なかったが……そうかィ、無事だったか」


「友達だったの?」


 どことなく嬉しそうな様子を見て取った凛華が問う。


「あ? あぁ、おう、まァな」


 鍛冶師は曖昧に首肯した。


 こういうところが男の面倒なところだ。


 おそらくアルクスとマルクガルムに互いのことを訊いても、似たような反応をするだろう。


「同類だぜ? 種族的にも職業的にも。酒を酌み交わすことだってあらァな」


 言い訳めいた肯定である。


「そりゃそうよね」


「名前、教えて下さい。手紙を出すこともあるので」


 納得する凛華の後ろからアルクスは訊ねた。


 出番? と、でも言うように肩の夜天翡翠が「カァ?」と小さく啼く。


「ダビドフ・ラーク。鍋蓋から大剣まで打てる〈ヴァルトシュタット〉唯一の鍛冶師だ」


「悪くない名乗りですね」


「へっ、そうだろ」


 鉱人鍛冶師――ダビドフの自己紹介にアルクスと凛華も返答として名乗っておくことにした。


「アルクスクス・シルト・ルミナスです」


「イスルギ・凛華よ」


「よろしくな」


 ダビドフが先程より格段に楽しそうな笑みを見せる。


 友人の鍛えた武器を持っている時点で信用度が段違いらしい。


 そのまま雑談に突入したところで、


「あのぉ……それで、私の剣は後どれくらい待てば良いだろうか?」


「「「あっ」」」


 ソーニャが大変申し訳なさそうに声をかけたのだった。




 剣を買いに来たことをコロッと忘れていたアルクスと凛華がその件を伝えると、ダビドフはすぐさま適当な剣を何本か持ってきた。


 好みや使い手に合わせて選択肢を絞っていく為の見本(サンプル)のようなものである。


 剣身の長短、身幅、厚み、柄の形状、重量が見事にバラバラだ。


「この中なら?」


「うーん…………これ、だろうか」


「んじゃこの中は?」


「えー……これ、だな」


「そんじゃこれなら?」


「これだ」


「うーし、大体わかった。うん、今はねえな」


 アッサリのたまったダビドフにアルクスと凛華が思わずズッ転ける。


 せっかく職人と剣士の会話っぽくてカッコよかったのに。


「ちょ、ちょっと!」


 どういうことよ? と、思わず言いかけた凛華に、


「ねえっつってもあれだぞ? 今はねえってだけで、打ちゃある。お前さんらの故郷みたいに個人専用なんて打ち方しねえんだよ」


「え、わかるんですか?」

 

 少々驚くアルクスに、


「その重剣も刀もお前らに癖が寄ってるのよ。ずうっと打ってりゃ、次第に腰だの背中だのに差さってるの見ただけでわかるようになんのさ」


 鍛冶師だけが持ってる感覚ってヤツよ。と、ダビドフがしたり顔で応えた。


「はえ~」


「さすがは専門家ね」


 素直に感嘆するアルクスと凛華に自慢げな笑みを見せた鉱人鍛冶師が、


「ってわけだから望みの形状とかそういうの言っときな。できるまではそこらへんの貸しといてやるよ」


 と、ソーニャへ言う。


 少女騎士はその言葉に身を震わせた。


「え……えっ? 鉱人の打った剣を扱わせてもらえるのか? しかも私個人用のものなんて」


 すっかり動転している。


 魔族同士の会話だからと気を遣っていれば、アルクスも凛華も平然としているどころか、後者に至っては軽く非礼に当たるようなことまでズケズケ言ってしまう。


 背筋に嫌な汗を掻いていたソーニャだったが、唐突なダビドフの言葉に固まってしまった。


 それというのも鉱人鍛冶師は気難しさが有名で、素人が下手に注文などしようものならそっぽを向いて数打物を指す。


 しかし、その数打物でも充分な質をしているのでタチが悪い、というのがよく聞いた話だったのだ。


「ほれ。これが正しい反応だぞ、お前さんら」


 ダビドフがソーニャを指しながら言う。


 しかし、魔族の剣士達は意にも介さなかった。


「遠慮しなくていいよ」


 命に関わるんだから。と、アルクスが言えば、


「そうよ。目的に合った形をちゃんと言っときなさいな」


 大は小を兼ねないんだから。と、凛華も言う。


「お前さんらな」


「ふ、二人ともっ、頼むから余計なことは言わんでくれ!」


 だが、2人の剣士が言うことは全く以て正しい。


 それゆえダビドフも半眼になって憮然とするしかなかった。


 この2人は剣というものをよくよく知っている。


 それがダビドフにはわかるのだ。


 立ち居振る舞いや雰囲気からビシビシと伝わってくるのは、若い魔族特有の荒々しさとは全く無縁の洗練された何か。


 戦意や殺気をおくびにも漏らさぬくせして、今すぐにでも戦闘に移れそうな気配。


 ――こいつらの意識の下には闘争が染み込んでやがる。


「ったく。そんで、嬢ちゃんはどんな剣がいいんだ?」


 ゆえに、ソーニャ本人はまだ素人に毛が生えた程度の腕前のようだが、この2人が指導するだろうことを見越して、個人用に打ってやると言ったのである。


「えっ? えーとだな、その……私は主人を護るための――簡単に折れない剣が欲しいんだ。できれば扱いやすい方が助かる。だからさっき選んだのより気持ち短くて……あとは、えーと」


(護る為の折れねえ剣か。まだまだ青い――が悪かねえ)


 ダビドフは心中で微笑ましく思った。


 しかし、慌てているソーニャが物理的にも青い顔色をしているので、どうどうと宥めにかかる。


「一度打ってやると言った言葉は撤回せんから落ち着け、嬢ちゃんよ。それよか、さっきのより短くなると、お前さんがもうちっと成長した時すぐに変えなきゃならんくなるぞ」


 ついでに問題点も指摘すれば、


「あっ、そ、そうか。じゃあ――」


 ソーニャは更に慌てて思考を巡らし始めた。


「落ち着きなさいよ」


 見かねた凛華がそう言うと、


「そうだよ? お茶でも呑んで」


 いつの間にか近くにいた健康的な小麦肌の耳長娘もそんなことを言う。


(そうだな、茶でも――)


 同意しかけたダビドフは、


「いや待て。茶は出さんぞ」


 はたと思い留まって魔族の少女を止めた。


 しかし、相手はあのシルフィエーラである。切り札を持っていた。


「鉱人族の好きそうなお茶っ葉、ボク持ってるよ。キースおじさんが葉巻吸いながらよく飲んでる」


「あたし冰鬼人なのよね。氷出せるわよ」


 耳長娘が腰の小革鞄(ポーチ)をポンポンと叩き、凛華が乗っかる。


 この娘はいつでもお茶を楽しめるように、と茶葉を密閉した葉に包んで携帯しているのだ。


 ダビドフはそれを聞いて考えてしまった。


 森人族の十八番は植物関連全般、そして多岐にわたる。


 彼が一番好きなのは無論酒だが、この蒸し暑いなかで冷えた森人印の茶を呑むのはさぞ旨かろう、と。


「……お前ら卑怯だぞ」


 ダビドフにはそれくらいしか言えなかった。


「火ぃ借りるね~」


 ひゃっはーっ! と、耳長娘が茶の準備をしに行く。


 露店で食べたいものを食べたので茶を呑んでまったりしたい、という実に自分勝手な欲望を相手に憎まれぬまま利用して達成する。


 いつものシルフィエーラの姿であった。


「すまん、ダビドフのおっちゃん」


 止めきれなかった。と、一見しただけでは種族の判らぬ葡萄茶色(ワインレッド)の髪をした青年が手を、パンと叩きながら謝る。


「魔族なのはわかるがお前さん、何族だ?」


 ダビドフは訊ねた。


「人狼だよ」


「はー……よくもまァバラバラな種族で集まったもんだ」


 呆れているような、感心しているような反応だ。


 基本的に魔族は同族同士で組むことの方が圧倒的に多い。


 バラバラな種族が少しずつ強みを出すより、全員が同じ強みを重ねて特化した方が効率的だとされているからだ。


 例外は弓の達人である森人くらいなものである。


「まーなーって、おっちゃん、アルの種族もわかったのか?」


「あ? そりゃあ……あァ? お前さん、種族は何だ? 抑えてんだか、薄めてんだかわからんが魔力的に人間じゃねえのだけはわかる」


 最初に鬼人族と一緒に歩いてきた為、なんとなくその類かと思ってみれば違う。角もない。


 変化(へんげ)する魔族は半数以上が武器を持たない。


 何より、アルクスの立ち居振る舞いは剣士のそれ。


 混乱しかけた頭でダビドフが問えば、アルクスは「敬語はもういっか」というような雰囲気で何の気なしに答えた。


「半龍人だよ」


「なんだ半龍人か。そんならって…………は?」


「その反応飽きたよ」


「まだ私達にしか明かしたことないと思うんですけど……ていうかあの時寝てましたよね?」


 ラウラの冷静なツッコミもダビドフには聞こえていないし、アルクスには効かない。


「はあ!? じゃあ何か!? お前さん、半魔族か!?」


「うんそう」


「コイツ、マジに面倒臭がってやがる」


 簡素(シンプル)過ぎる回答にマルクガルムが呆れる。


 この幼馴染はこういうところがとことん雑なのだ。


「お茶まだかな」


「「いや、そうじゃねえだろ」」


 あからさまに説明を面倒臭がるアルクスに、鍛冶師と人狼青年はツッコミを入れざるを得なかった。


「説明、しないんですか?」


 ラウラが困ったような笑みを浮かべる。


 この2日でわかったが、アルクスは割とテキトーな部分がある。


 自分の事を語りたがらない……などではなく、そんなのどうでもいいと思っている節があるのだ。


「別に説明することもないもん。母さんが龍人で父さんが人間ってだけだし」


 心底どうでも良さそうにアルクスがプイッとそっぽを向く。


 その時、空気を読まないソーニャが声を上げた。


「よーし、大体浮かんだぞ!」


「ダビドフさん、ひとつ良しなにおなしゃす」


 アルクスがササッと頭を下げる。


「お前さん、いい性格してんな」


 相当気になる話題だったが、半龍人本人がこの調子だ。


 無駄に喧伝せぬだけむしろ信憑性が高い。


 結局、その後、凛華とシルフィエーラが持ってきたキンキンのお茶を呑みながらソーニャの新しい剣の構想を聞くダビドフであった。


 久々に同胞と話すのはなかなか楽しい時間となったし、茶は悔しいことに旨かった。




 鍛冶屋を出て、もう昼食は露店でいいかと適当に見繕って食べた後。


 アルクスら6名は武芸者協会へと真っ直ぐに向かい、その建物の前にいた。


 高さはそこまでないが大きな建物だ。


 女主人曰く、1階の面積だけならこの街のどこの建物より広いらしい。


「いよいよね!」


「どんなとこかなぁ~」


 わくわくと興味津々な様子の凛華とシルフィエーラから押されるように、アルクスが建物へと足を踏み入れる。


 期待を抑えきれぬ2人が、たたたっと後に続き、緊張気味のラウラと借り物の剣を提げたソーニャが更に続く。


 マルクガルムもそんな5人に続いて武芸者協会へと入るのだった。

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