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【祝16.3万PV❗️】日輪の半龍人 -異種魔導合戦譚-  作者: 倉田 創藍
第2部 青年期<武芸者篇>1章 新たな仲間と聖国の追手篇

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8話 帝国へ向けて

このお話が主人公たちの帝国入り、その導入部となります。

 陽も出始めたばかりの早い頃。


 先に眠っていた男衆は途中で不寝番(ねずのばん)を交代し、早朝の現在、つい先刻(さっき)まで寝ていた女性陣4名の身支度を待ちつつ、野営地の片付けをしていた。


 と、いってもアルクスが『念動術』で天幕をグルグル巻きにしているだけだが。


「連中の胸甲(よろい)、人狼(おれ)の爪でも貫通は難しかったぞ」


「こっちも似たようなもんだよ。斬り貫(ぬ)けないっていうか、刃が逸れたから『蒼炎気刃』を使った」


「俺もだ。『雷光裂爪』で灼き斬るしかなかった」


「それにしても……装備の硬さに較べて、攻撃は随分お粗末だった気もする」


「落馬してたからな。あれだけ体勢崩されてりゃ無理もねーけど、もっとイカつい攻撃手段があっても不思議はねえ」


「だよなぁ」


「お前の親父さんが戦ったっつう聖騎士はそういうもんを使ってたんだろ?」


「らしいよ? でもそれらしいのは何も。装飾はゴテゴテしてたけど、鋼鉄製の槍とか剣っぽかった。弓と盾持ってる連中自体少なかったし」


「二人だったからナメてた、とかかね?」


「けど護衛の人達がいたんだろ?」


「あ、そういやそうか」


 2人とも首を傾げつつ、『少なくとも弱過ぎると考えるのは早計だ』と結論付けながら焚き火で湯を沸かして背嚢に天幕を括り付けていく。


 そこへ波打つ朱髪を揺らしてラウラ・シェーンベルグが歩いて来た。


 すぐ後ろには騎士鎧に身を包んだソーニャ・アインホルンもいる。


 昨日は確認も取らなかったが彼女の鎧も胸甲で、下半身は剣道の垂れのようなスカートに白基調の錆止めが塗られた金属板がついていた。


 籠手と足甲もある。


 その割にガチャガチャ言わないのは干渉材を使っているからのようだ。


 魔獣の皮革を使った靴や最低限の【撚糸】製の装備を身に着けている魔族組とは正反対だが、手間の掛かった品であることは一目瞭然。


「彼らの武器には魔晶石が仕込んであるんです」


 やってくるなりラウラが言う。こちらの会話が聞こえていたらしい。


「魔晶石? 埋めた時見つけられなかった気がするけど」


 一応吐き気と戦いながら装備を確かめていたアルクスだったが、それらしいものはなかったはずである。


「わかりやすいところにはついてないんです。弓の持ち手や鍔元に埋め込む機構があって、そこに嵌め込んであるんです」


「そんなのあったのか……気づかなかった」


 こんなことなら一つくらい持ってくるんだった。と、アルクスは唸って顎に手をやり、


「だったらなんでその魔晶石入りの武器を使わなかったんだろ?」


 疑問を呈してみた。


「頭目殿が副司令官らしき騎士を倒されたからでは? そもそも反撃されること自体、想定外のはずだ」

 

 ソーニャが応える。


 命令もなしにあの密集地帯で魔晶石を使うなど自傷行為そのものだろう、と。


「……なるほど」


(同士討ち(フレンドリーファイア)ってやつか)


「そう言われりゃ連中、練度も高くなかったしな。咄嗟に連携なんてできなかったんじゃねーの?」


 魔族組の連携は互いをよく知っているからこそ成り立つもの。


 近くを矢が掠めようと、属性魔力が奔り抜けようと気にしないのは信用と信頼のどちらもがあるからだ。


 マルクガルムの言うことも納得できる。


「といっても彼らは位の高い騎士ではないと思います。それこそ聖国の兵士から騎士に上がったくらいのはずです。私達を捕らえるのに精鋭は必要ないでしょうから」


「最新式の連中はまた別ってことか」


 アルクスの確認にラウラが形の良い眉を皺寄らせながら頷く。


「おそらくは、ですけどね。最初に襲って来た騎士はもっと多かったんです。私達の護衛を排除するために主力を割いたんではないかと」


「厄介な方に主力ぶつけて、残った連中が捕獲部隊か。とすると次の追っ手とぶつかったときゃあ、昨日ほど簡単にゃいかねえと思っといた方が良いな」


 そう言って無意識に鼻のシワを寄せたマルクガルムに、アルクスは視線を向けた。


「誤魔化しが利くのはどれくらいだと思う?」


 誤魔化し――神殿騎士の本隊と思われる連中が彼女らの捜索に乗り出すまでどのくらい掛かるかという話だ。


「ソーニャ。お前らがいた田舎の街っての、ここからどれくらいだ?」


 情報を欲したマルクガルムがソーニャへ問う。


 すると怪我をしていて感覚が微妙だった彼女の代わりに、ラウラが応えた。


「えっと……私達は街道から外れた道を迂回して、半日ほど逃げ続けてましたから正確な距離まではわかりませんけど、それでもそこそこあると思います。それこそ道沿いに三十km(キリ・メトロン)以上? かと」

 

 アルクスやマルクガルムの想定よりかなり逃げ延びていたようだ。


「連中には馬と装備があるし、アルが綺麗サッパリ埋めちまってるから痕跡を探す時間もある」


「かと言って探し続けたりはしないはず。目標を確保してない、って点を重視すると思う」


「なら……長くて三日、早くて二日ってとこか? 勿論、昨日を入れてな」


 馬要らずの人狼が自分の行軍速度を加味して計算結果をはじき出す。


「残ってるのは今日一日か。その間に帝国の端でいいから街へ辿り着くのが最善だな」


 アルクスは猶予が短い方で計算した。


「最初の街、随分急ぎになっちまうな。ていうか辿り着けるかね?」


「彼女ら二人を馬に乗せて、俺達は街道横を『陸舟(おかぶね)』で行く。もしくはここで馬を放して二人も『陸舟』に乗せる」


 どちらにしても今取れる最速の移動手段だ。


 街道を使わないのは冰の滑走路(コース)が誰かの目に触れる危険も考えてのことである。


「ふぅむ。お前らの馬、愛着か何かあるか? それか俺らにとっての翡翠みたいなやつか。ないならここで手放してもらった方がたぶん早えぞ」


 マルクガルムがラウラとソーニャにとっては唐突に視線を向けた。


 今までの意見交換の拍子(リズム)が捷過ぎて途中から見てるだけになってしまっていた2人は、少々慌てつつもなんとか応える。


「い、いや、私達の馬ではない。私兵の馬だ」


「ここで放すのに抵抗は?」


「私はありません。助けてくれた良い馬です。巻き込まれて死なせたりは、したくない」


 ラウラはそう応えると、優しい顔つきをした馬の鼻筋を撫でた。


「そうか、じゃあ鞍や手綱を外して放してやってくれ。それと、街道とは別の方に放してくれ。変に追われても可哀そうだ」


 すかさずアルクスの指示が飛ぶ。


「わ、わかりました。じゃあこっちにおいで」


 賢い馬なのだろう。ラウラに連れられて大人しくついて行った。


「俺はあいつらに伝えとくぞ、水場に用もあるし」


「頼んだ」


 アルクスが頷くとマルクガルムも身軽に走っていく。


 ソーニャは少しばかり畏敬の念を抱きながら彼の背を視線で追う。


「どうかした?」


 それがぼーっとしているように見え、アルクスは首を傾げた。


「あ、いや。頭目殿とマルクはこの一党の頭脳なのだなと」


「はは、そうは見えないかもしれないけど、このくらいの会話なら凛華とエーラもするよ。ラービュラント大森林を抜けて来たんだから」


「つまり……慣れの問題か」


 昨夜、凛華とシルフィエーラがソーニャと義姉にそのことを教えてくれた。


 驚愕しっぱなしだったが納得いった。


「そうだね。帝都まで一緒に行くんなら嫌でも慣れるさ。ってか、俺だけ”殿”とか要らないよ、戦闘中呼びにくいだろうし」


 そう言って苦く笑うアルクスにソーニャも同じく苦笑いを返す。


「すまない、なんとなく上下を気にしてしまうんだ。今後は控えよう」


「まぁ呼びやすいように呼んでくれればそれでいいさ」


 強要することもない。アルクスはそう結論付けて肩を竦めるのだった。




 それからおよそ40分後。


 時刻で言えば午前6時半前だ。


 既にアルクスを含めた6名は出発準備を整えた状態で、街道から100mほど離れた位置についていた。


 ラウラが野に放したあの馬はやはり賢い馬だったらしく、素直に駆けて行ったそうだ。


「じゃあ行こうか。翡翠、今日は頼むぞ」


「カァ!」


 アルクスの号令に凛華、シルフィエーラ、マルクガルムが無言で頷き、ラウラとソーニャがそわそわした様子を見せ、夜天翡翠は一声啼いてバサッと飛び立っていった。


 今回の夜天翡翠には使い魔として大事な役を任せている。


 街道沿いから外れないように目印となるガイド役だ。


「『陸舟』」


 アルクスが指をひょいっと下から上へ動かすと、途端に地中から土製の舟がボコリと顔を出した。


「おおっ!」


 ソーニャが素直に感嘆する。ラウラも声こそ上げなかったが、わくわくしたような表情を見せた。


 魔族はやっぱりこういうのが得意なんだなぁ、と多少勘違いした感想を抱いている。


「前よりちょっと大きいわね」


「長くなって、広くなった?」


 凛華とシルフィエーラは違いに気付いたらしい。


「二人増えたからね。あんまり横に広げても邪魔だし、縦に伸ばしても舵取りしにくいだろうからどっちも少しずつ広げたんだよ」


「ほほぉ、なるほどぉ~」


「いいんじゃない? あたし達の座るとこもちょっと広くなってるし」


 うきうきした様子で耳長娘と鬼娘が早速乗ってみようとしているのを尻目に、


「いつの間に弄ってたんだ?」


 マルクガルムは訊ねた。


「いや弄ってない。元から変えられるようにしてたんだよ」


「まさか……こういう事態を読んでたのか?」


「なわけないじゃん。土産持って里帰りすることもあるだろうと思って創ってたのが、上手いこといってるだけさ」


「あぁそういうことか。なるほどな」


 アッサリ返すアルクスにマルクガルムも手をポンと打ち合わせる。


 流石にあのヴィオレッタの直弟子なだけはある。


 術式に抜けや調整できる部分を残して完成度を高めておくのは彼女のやり方で、鍵語と術式への理解が深くなければ不可能だ。


 これはこれ、それはそれ、と似たような魔術をたくさん作らない――というか厭(いと)うのが最大の特徴である。


 そんなことを話している内に凛華とシルフィエーラは船首の方に乗り込み終えた。


 一方でラウラとソーニャは『どこに乗れば?』と、視線を彷徨わせている。


「あ、二人は後ろから一つ前の席で」


 少々申し訳なさそうなアルクスの声に、


「はい」


 いつでも抜けるように、と右手に妙な長さの仕込み杖染みた剣を持ったラウラが右側へ。


「承知した」


 盾を左腕に括り付けたソーニャが左側の座席についた。


 思いの外しっかりしている座席の前方には、座席に平行に棒が生えている。


 アルクスが彼女らの前に座り、術式に魔力を送り込む。


「二人とも座席の前のやつを掴んでて。三人とも、いいよ」


 言われるがままラウラとソーニャは棒――手すりに摑まった。


 その直後、シルフィエーラが『妖精の瞳』を発動させて草原の背の高い植物達をザッと左右に分(・)け(・)た(・)。


 凛華がそこへ冰の滑走路を放つ。


「道が……!」


「ああ。――おぉっ!?」


 一瞬で道が作られたことに目を丸くしたラウラとソーニャは、続いて後ろから突き飛ばされたような衝撃に驚いた。


 手すりを離さぬまま後ろを振り返れば、人狼となったマルクガルムが『陸舟』の縁に手を掛けている。


 一度見たとは言え、その怖い見た目に心臓を一瞬跳ね上げた2人に彼はニヤリと笑いつつ、だだんっと狼脚で大地を蹴りつけて『陸舟』を押した。


 ザザアア――ッと冰を削るような音と共に、魔術で出来た舟が滑り出す。


 最後に「もういっちょ」とマルクガルムがひと押しするなり、加速をかけた状態で跳び乗った。


「ひゃあっ!」


 人間の何倍もある人狼の牙が迫ってきたのが思っていたより怖かったらしく、ラウラが悲鳴を上げる。


「おいひでぇな」


 マルクガルムは人間態へゆらりと戻りながら文句を言った。


「す、すいません!」


「いいけどよ」


「ぷっ」


「アルてめっ!」


 噴き出した親友の声を聞き逃さなかったのか、マルクガルムが声を飛ばす。


「あっははは! そりゃ怖いさ!」


 耐えられなくなったアルクスは前を見たまま愉快そうに笑い声を上げた。


「ったく」


 ぼやきながらマルクガルムが後ろへ暴風を流していくと、『陸舟』の速度が徐々に増してきた。


「ほんとにすいません……すごいですね」


「ああ、こんな手段があるとは」


 ラウラとソーニャは手すりを握ったまま瞳を輝かせている。


 魔術や魔力運用の可能性と、馬車ほど速くはないものの馬で2人乗りして走るより断然楽だということに感動を覚えていた。


「アル~、これ馬の方が速いんじゃない?」


 ひと頻り笑い終わったところへ、シルフィエーラが振り返って声を掛けてくる。


 大森林を抜けるのに較べれば道案内も大して苦にならないらしい。


「速いだろうね。だから秘策、ってか本来の使い方をしてみようかなと思ってさ。凛華とエーラの負担が増しちゃうけど、やってみてもいい?」


「よくわかんないけどあたしは大丈夫よ。まだまだ余裕だもの」


「ボクもだいじょうぶ~。前より楽だしね」


「よーし、んじゃあやってみるか」


 アルクスはその言葉と共に『陸舟』の術式へと魔力を流した。


 すると平らな舟底に刃がジャキッと生えてくる。


 スケート靴についているブレード(あれ)が計3本。


 障害物と起伏だらけの大森林では自殺行為だと判断したアルクスがやらなかった、本来の『陸舟』だ。


(起伏の小さい平地(ここ)なら)


 と、アルクスは冰面と刃(ブレード)の接している面(エッジ)を出来る限り細くしていった。


 ザア―――ッという滑走音がみるみる変わっていく。


 舟底全面を削っていた先ほどに比べて、音自体がかなり小さい。


 アルクスは仕上げ、とばかりに足で突っ撥ねるように身体を固定。胴を捻って後ろを向くなり、


「みんな、掴まってなよ!」


 と警告を発する。


 ごぉぉおおおおおっ!! 


 直後、斜め上へ向けて蒼い爆炎を噴射した。


 片手とは言え、アルクスの加減なしの炎だ。


 噴射装置(ブースター)付きのソリと化した『陸舟』が蒼い尾を引いて急加速する。


「ひゃああっ!?」


「くううぅぅぅっ!」


 ラウラとソーニャは眼前で噴き上がった蒼炎、慣れぬ加速に驚いてぎゅうっと手すりにしがみついた。


「ちょ、ちょっとアル!」


「あんた加減考えなさい!」


 一方、森で滑走していた頃とは比べ物にならぬ重力加速度(G)に身体を押さえつけられたシルフィエーラと凛華が慌てて道を作っていく。


「負担増えるって言ったじゃん!」


 爆炎を噴射しながらアルクスは叫び返した。


(あと……四、三、二秒)


 心中で数え、噴射していた炎をひゅ……と止める。


「よし、こんなもんかな」


 『陸舟』は初期加速のおかげで、残りを慣性移動に任せても充分なほどの速度が出していた。


「だから加減ってもんがあんのよ!」


「無理そうなら言って。速度落とすから」


 アルクスの何とものんびりした返事に、


「こんのっ! やってやろうじゃないの!」


 鬼娘がぴきりと青筋を立てる。


「余裕そうなのが腹立つなぁ、もぉ。翡翠! もっと疾く飛んでいいよ!」


「カァ!」


 耳長娘も瞳を鮮緑に輝かせ、草むらを分けていく。


 上空に手足の如く枝葉を伸ばす樹木もいない。


 燃やす心配もないのなら、いっそ爆発力を推進力へ変えてしまおうというアルクスの試みは上手く行った。


 冰面をザ……ッと削りながら『陸舟』が進んでいく。


 先頭に座っている凛華とシルフィエーラは、もろに加速の恐怖を味わってお冠だが、それ以上に対応が忙しくて怒るどころではない。


 とんでもない速度で進むせいで、滑走路(コース)は出来上がり次第、数秒と置かずに消(・)費(・)さ(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)。


 アルクスはよっこいしょと座席に座り直し、「なかなか捷いじゃん」とひとつ頷いた。


「凛華ぁー、魔力が半分切ったら教えて。追っ手のこともあるし、休憩取るから」


「調子いいわねほんと! わかったわよ!」


 と叫び返すも、凛華だって魔族だ。


 この半月の間もいつも通り操魔核を鍛え続けていたので、魔力量もそこそこ上がっている。


(まだまだ余裕っぽいな)


 とアルクスは予測を立てて、心地良い恐怖感(スリル)に身を任せた。


「悪くねーなこれ」


 おそらく彼以外で唯一楽しんでいるであろう、マルクガルムも爽快さに声を上げる。


「そうだろそうだろ」


 わかってくれるか。と、アルクスが振り返れば、ラウラとソーニャが揃って恨みがましい視線を向けていた。


 座席ひとつ分ほど離れていたとはいえ、近くを通る爆炎に、何より味わったことのない加速重力(G)が恐くないはずもない。


「…………今度はちゃんと言ってくださいね」


「……アル殿、吹き飛ばされるかと思ったぞ」


「ごめん加速した」


「「先に言って下さい(くれ)」」


 2人からツッコミ以上文句未満(クレーム)を受けるアルクスをマルクガルムがケラケラ笑う。


 舟なのかソリなのか、もはや判らぬ『陸舟』は馬の襲歩(ギャロップ)を優に超える速度で草原を滑走していくのだった。

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