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【10.1万PV 感謝!】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
少年期ノ肆 旅立ち編
46/219

断章8  開発秘話:『気刃の術』

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


今回も第1章に係る短編となっておりますが、なにとぞよろしくお願いいたします。

 後に様々な理由で大陸に名を馳せるアルクス・シルト・ルミナス。


 彼の使う魔術は非常に実戦的で有用なものが多いことで知られているが、特殊なものが多いことでも有名だ。


 と云うのも既存の定型術式ですら自分好みに改造するのは当たり前。


 更には仲間達へ個々人に合わせた専用改造(カスタマイズ)も行い、果ては「ないなら創っちまえ」と一から鍵語を並べ始めて新魔術をポンポン創ることもしばしば。


 結局のところ何を主張したいのかと言えば、アルクス・シルト・ルミナスという男はとにかく既存の魔術をそのまま用いることが少ない――――どころかほぼないということである。


 完成度が高いとされている『念動術』すら弄り回し、それを基礎として派生魔術まで創っているのだから筋金入りだ。


 そんな彼が扱う魔術には術を扱える者であれば知らぬ者がいない、と言われるほどの術式や構成概念が幾つもある。


 しかし、その中で最も著名と言える魔術は間違いなく『気刃の術』だと断言できるだろう。


 なぜなら『気刃の術』を必要としているのは、《《専門知識を学んでいないものの》》行使する必要があり、術を使う体力と魔力のある者――――つまり魔族を含めた武芸者や一部の軍人、騎士達だからである。


 当然ながら、その数は魔導師や魔術師よりも多い。


 新たな術を創り出せるほどの知見はあるか?


 術理をしっかりと理解できているか?


 魔術への馴染みは一般人より深いものの、そう問われれば「NO」と答えざるを得ない彼らにとって『気刃の術』とは、ここぞという時に使う切り札や必殺技のようなものなのだ。


 本人が後に『焔気刃(えんきじん)』ないしは『蒼焔気刃』と呼称し、学院時代は『蒼炎気刃(そうえんきじん)』と呼んでいた魔術。


 その術理は、刀身に闘気を流し込むことで武器そのものを頑健にし、更に刀身から溢れた闘気を焔へと具象化するというもの。


 闘気から変容した焔は、属性魔力を凌駕する超高密度・純度、高出力化に伴って超高熱の刀身を形成する。


 アル以外が使う場合でも闘気の固定化は最低限、並の属性魔力を遥かに凌ぐ属性が扱えるという、個人の扱える中でも最上位群に位置する破壊力を実現できる。


 現在、アル本人はそこに様々な調節を施しているし、『蒼焔気刃』はかなり有名になってしまったが、その術式が開発されるに至った経緯は意外と知られていない。



* * *



 時はアルクスが12歳の頃―――――龍気の暴走が頻発していた頃にまで遡る。


 まだ『八針封刻紋(はっしんふうこくもん)』も施していないため、頭髪は銀色で虹彩は真紅だ。


 里を出ると宣言したアルの心は、無事に新年を迎えたというのにも関わらず、ちっとも晴れやかではなかった。


「落ち着いたか?」


 声を掛けてきた八重蔵が刀を降ろして、歩み寄ってくる。


 出郷を宣言してから此の方、八重蔵としか稽古していない。


 暴走する危険があるせいだ。


 凛華と鍛錬しながらそうなるわけにはいかない。


 アルと八重蔵の意見が正しく一致した結果である。


「……はい」


 アルはゆっくり「ふぅ~~~っ」と息を吐いた。


 これで何度目だろうか?


 龍気を使えば即座におかしくなり、使う気がなくとも勝手に出てきておかしくなる。


「あー……とりあえずソイツをどうにかするのが先決だな。 ま、そんなに落ち込むな。 今日は一旦やめにしよう。 身体の感覚も少しずつ戻ってきてるみたいだし焦るこたァねえさ」


「はい」


 ポンポンと軽く頭に手を乗せる師にアルはゆるゆると頷いた。


「うし、じゃあ解散。戻るか」


「もう少し、落ち着いてから戻ります」


「そか、わかった。一人で稽古したりするなよ?」


「はい」


「ん。じゃ、先戻るわ」


 そう言って八重蔵は鍛錬場から去っていった。


 アルは師の背を見送ると、鍛錬場の端まで移動する。


 そのまましばし黙りこくっていたが、突然ワアッ!と気炎を上げた。


「こんなのやってられるか!!あったま来たぞ……!!」


 そのままドスッと座り込む。


 いい加減我慢の限界だ。


 ”魔法”が使えなくても軽く落ち込む程度で済んだが、さすがに他人を意図せず傷つける可能性があって、おまけに制御も効かず、更には予期すら出来ないというのは相当なストレスだった。


「こうなったら魔術で何とかしてやる……!」


 アルは呟くと右眼に魔力を込める。


 真紅の虹彩が押し広がり、瞳孔へ流星群が殺到していく。


 『釈葉(しゃくよう)の魔眼』を発動させたのだ。


「どうすれば良い?」


 独り言ちつつ中空へと指を走らせる。


 少し稽古しただけでこれだ。


 毎度毎度、剣の師につき合って貰っているのに進展もない。


 それどころか暴走するまでの時間は短くなってすらいる。


 刃引きした刀を使って危機感を薄れさせても効果もまるでなし。


 申し訳なさで気も滅入る。


 アルは己への怒りでぐつぐつと煮え滾った頭をフル回転させた。


「……暴走してもすぐに発動できるような術がいる。 生まれた龍気をどうにか消さないと。 単純に消すなら放出が一番簡単だろうけど……その前に暴走する気がする。チッ、理想は生まれた直後に消費することだけど、魔術に闘気は使えない」


 ぶつくさ呟きながら頭を捻り、鍵語を空へ描いていく。



~・~・~・~



 今は1月。夕暮れから夜になるまでは相応に早い。


  既に暗くなっていたが、流星に似た輝きは鍛錬場の端で途切れることなく浮いたままだった。


 アルは『釈葉の魔眼』だけを開き、暗さも寒さも感じないかのように一心不乱に鍵語を書き連ねては捨てていく。


 必要なのは即時発動が可能であること。


 そして生成され続ける龍気を消すことだ。


「アル?」


 その時、声が降ってきた。


 アルが右眼を向けると、そこにはよく知っている森人の少女シルフィエーラがいた。


 いや彼女だけではない。凛華とマルクガルムもいた。


 里内にいないアルを探しに来たようだ。


「もう遅いわよ?」


 早く帰りましょう?と言う凛華にアルは渋い顔を向ける。


 この数時間、時を忘れひたすら試行錯誤していたがまだ上手く形になっていなかったのだ。


「……うん」


「何してたんだ?」


 マルクが不思議そうに訊ねる。


「頭に来たから魔術創ってた」


「頭に来たって何にだよ?」


「勝手に龍気が出てきて、暴走しかけることにさ」


「あー…………それでそんな躍起になってたのか」


「そ」


 アルの返事は端的だ。指もいまだに動き続けている。


「じゃ、あと少しはつき合ったげるわ。もうちょっとしたら引き摺ってでも里に戻すからね」


「うん」


「寒くなかったの?」


「寒いの?」


「今日は里の中にいたからちょっと薄着なんだ~」


「あたしもよ」


 チラリと少女らに眼をやったアルは左手で『念動術』を発動させ、地面をさらうように落ちている枝をひょいひょいと一纏めにすると、ボウッと火を点けた。


 待つ気になったらしい3人に寒い思いをさせるのは忍びないと思ったのだろう。


「ありがとー」


「助かるわ」


「ま、最悪俺は『人狼化』すればいいんだけどな」


「ムサいからやめなさいよ」


「ムサっ……お前それ悪口だぞ」


 そんな具合の会話を聞き流しながら指を動かしていたアルだったが、ピタリと動きを止める。


「どしたの?」


 覗き込んでくる耳長娘の声にも反応がない。


 アルの視線の先には焚き火が置いてあった。


 パチパチと微かな音をさせて炎と白煙を上げる熾火。


 エーラは凛華とマルクへ肩を竦めて見せる。


「炎。龍気を炎に変換……なんとかなんないかな?普通は無理だけど……いや待てよ?魔力から”属性変化”する構図を見本にして置き換えれば……いける?」


 そう呟くとアルはまた何かを描き出す。


 3人はそんな幼馴染の姿を言葉少なに眺めている。


 こうなったらもう行くとこまで行かないと戻ってこない。


 以前アルが『風切刃』を『鎌鼬』に改造していた時も、切実さと魔眼こそ今ほどではなかったが鍵語表と睨めっこしながら上の空だった記憶がある。


 それからたっぷり30分は経っただろう。


 やにわにアルが立ち上がる。


「基礎の術式はこれでいいはず。上手くいったらその先だ」


 ここが肝心。術式の(コア)に当たる構成。


「できたのか?」


 マルクはアルが創り上げたらしい、こじんまりとしながらも複雑に入り組んだ術式を見て質問を投げかけた。


「うん。ちょっとだけ龍気を使うから離れてて。ヤバそうだったら殴って気絶させてくれたらいいから」


 アルは人狼族の親友へ、一方的に物騒な注文を頼むと深めに息を吸う。


 そして刃引きされた刀を引き抜き、拳を巡る程度の魔力を龍気へ変換すると同時に体外――――刃の方へと流していく。


「頼む、上手くいっててくれ」


 直後、すぐに”基礎”と呼んでいた術をサッと描いた。


 刀身を撫でるように描かれた魔術が発動する。



 ゴオ――――ッ!



 たちまち濃い白色を帯びた炎が鍔元から噴き出した。龍焔だ。


 それは未来のアルが見れば、初期の方に使っていた『炎気刃』にすら達していない不定形で頼りない炎であったが、とにかく成功であった。


 魔力の”属性変化”を参考にした闘気の”具象化”。


 思わずアルはガッツポーズを取る。


「よおしっ!これで次に行ける」


「ねぇ今のって……」


「魔力、じゃなかったわね」


「龍気が消えた?いや、ちげえ。使()()()のか」


 ジッと見ていた3人は驚いて目を瞠った。


 闘気とは謂わば魔力を燃焼させた()()だ。


 そこから先はない。それが常識。


 そんなことをせずとも充分に強いのだ。


 だが、今アルは何をした?


 驚愕と疑問を浮かべる3人を尻目にアルは次の作業へと移っていた。


「後は刀身型に形成させて、魔力もわざと吸うようにしとくか。ってそれよかこの式をもっと整理しないと――――」


 先程の基礎を更に洗練させ、追加の術式を組み上げては消し、また組み上げ直しては配置し直していく。


 3人はアルを呼びに来たことを忘れ、見守ることにした。


 何やらとんでもない魔術になるような予感がしてならなかったのだ。



~・~・~・~



 それから1時間後。


 『気刃の術』と呼ばれる魔術の原型がようやく組み上がった。


 今現在は使われていないが、ワザと闘気を馬鹿食いさせたり、体外へ吸い出す効果を付与した術式もくっついていたりしている。


 その結果を見せてもらった3人がその1年後、自分用に用意したり、してもらったりするくらいには内実が伴った魅力的な魔術であった。


 これで少なくとも対処療法的ではあるが暴走を抑える目途が立つことになる。


 興奮している3人と達成感で満足したアルはしっかり帰りが遅くなり、新年早々長めのお叱りを受けることとなるのであった。


 しかし、既存概念を打ち壊した新魔術だ。


 後日、弟子の持ってきた術を視たヴィオレッタは問題点――――燃費の悪さやアル限定で言えば武器が必要であるなどの指摘はしたものの、ほとんど手放しで誉めまくったのだった。


 こうしてアルクスと云えばと連想される独自(オリジナル)魔術『気刃の術』は荒削りではありながらも完成したのである。


 その後調整を加えること多数、特に『八針封刻紋』を施してからは大改修が行われ現在の『気刃の術』の基礎に近いものが出来上がったのだ。



* * * 



 これがアルクスが『気刃の術』を開発した経緯である。


 今現在、この術式は――――。


「単位当たりの火力を大幅に上昇させる有用なものであるものの、実力者が使わなければマトモに扱うことも適わず、魔力枯渇を起こして命取りになる」


 との評価を貰う、既存概念を打ち壊した魔術としてアルクス共々有名だ。


 きちんと扱えるようになって初めて一人前の戦士、とまで言われるようになったこの術が、実はアルクスがブチギレた挙句、たった1日で雛型を創り上げていたという話は案外知られていない。

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