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【10.9万PV 感謝!】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
少年期ノ肆 旅立ち編

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1話 新たな魔術『炎気刃』(虹耀暦1285年2月:アルクス12歳)

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


今回は準備段階ということで少なめです。なにとぞよろしくお願いいたします。

 アルクスが出郷予定だという話は瞬く間に里中を巡り、住民達に衝撃を与えることとなった。


 ヴィオレッタがアルの決意を聞いた翌朝、彼の幼馴染達の家へ話をすると共に里長として指導方針を告げたのだ。


 少なくとも自分はこれから弟子を外でもやっていけるように鍛えていく。


 他の子らがどうするかはわからないが剣の師たる八重蔵には彼にそれだけの実力をつけさせるように、と。


 八重蔵はほんの数瞬驚いたもののすぐに納得したような神妙な表情を見せ、その日の内にキースと源治の鍛冶師らへと伝えて大いに驚愕させた。


『アルがいずれ里を出る』


 彼ら2名からすれば寝耳に水。


 その話は即座に拡散され、まだ出て行く目途すら立っていないアルは気の早い大人達から「驚いたぞ」「いつ里を出るんだ? 頑張るんだぞ」「お前ならやっていける」と至る所で声をかけられ、子供達から「どうして出て行くの?」と質問攻めに遭った。


 憮然とした顔のアルに鍛冶師2人が平謝りすることになったのは言うまでもない。



 * * *



 今は2月。年越しを無事に迎え、寒さもピークを迎える頃だ。


 場所はいつもの狩猟場手前にある鍛錬場、ではない。


 簡易狩猟場の森の奥、狩猟限界線に沿って新設された武闘場だ。


 鍛錬場(ここ)なら良かろうと地形を変えるほど暴れる者がいるせいで整備が面倒という苦情というか陳情を解決すべく、(かね)てよりヴィオレッタ主導で計画されていた場である。


 そこにアルと彼の剣の師範イスルギ・八重蔵は対峙していた。


 すでに抜き放っていた刀を構えた剣鬼が”魔法”を発動させる。


 【戦化粧】が基礎形【無垢の相】だ。


 (にわか)に目元へ広がった朱色の隈取は、娘である凛華のそれより色濃くハッキリしている。


「お前が中伝を取らねえ限り、里を出るのはなし。わかってんな?」


「はい!」


 アルは背筋を伸ばして吼えるように応えた。


 未熟者がノコノコ出て行ったところで呆気なく野垂れ死ぬだけ。


 死にかけた経験がアルにより深い理解を与えていた。


「よぉし、じゃ今日からは対人戦闘を主眼に置いた戦い方も教えていく。凛華との仕合はあくまで稽古の一つだが、今回からやんのは実戦――命の奪り合いを想定したもんだ。何使ったって構わねえからそのつもりでな」


「はい!」


 八重蔵が刃引きされた打刀を真っ直ぐ突きつけるように片手で構える。


 切っ先は潰してあるが、刺そうと思えばサックリ刺さる。


 結局のところ、刃の表面積が狭ければ斬れるし刺さるのだ。つまり大して実剣と変わらない。


 アルも緊張した様子で同じく刃引きされた打刀を正眼に構えた。


 朱鞘(あかざや)の太刀はしばらくお留守番だ。


「んじゃ、いくぞ~」


 八重蔵は軽い声とは裏腹に、小さく鋭い三連突きをヒュ……パッと放ってきた。


 対人戦で無暗矢鱈とブンブン剣を振り回すような奴は、余程の死にたがりか愚か者だけだ。 


 相手の力量もわからぬ裡は大振りなどしない。


 それを教えるような様子見の太刀筋。


 アルは正しく意図を理解して最小の動きで見切り、


「しッ!!」


 即座に速度重視の一太刀を水平に斬り返す。一文字斬りだ。


 八重蔵は落ち着き払って、しなるように繰り出されたアルの一太刀を柄頭でカァンと弾きざま、一気にダンッと間合いを詰めて袈裟懸けに振り下ろす。


 体重の乗った重く、捷い一太刀。


 二手目で呼吸(リズム)を急転させた師範にアルはぎょっと目を剥き、


「うっ!?」


 ギリギリで刀を引き戻して防いだ。しかし、動きが止まってしまう。


 釘付けにされたと気付いた時には、


「ぐ、ぶぁ……っ!?」


 腹を蹴り飛ばされていた。


「防ぐな。いなすか、躱せ。闘気を使われてたらどうする? 刀ってのは折れず、曲がらず、よく斬れる。この三つを突き詰めて作ったもんだ。じゃあ敵も同じような打ち方の得物を使ってたらどうだ? ん? 答えは単純だ。力量にデケえ差でもねえ限り軽い方が曲がっちまうし、刃も欠けちまう。


 結局んとこ、刀ってのは斬ることのみに特化した代物なんだよ。()()()()()ために、折れねえし曲がらねえ。反ってるのだって切断力を上げる為だ。真っ向から受け止めるのはそこまで得意じゃねえのよ。だから重剣や大剣でも扱ってねえ限り打ち合うな、防ぐな、動きを止めるな。そんな暇あったら炎の一つでもぶつけてこい」


「っつぅ……はいっ!」


 痛みを堪えて立ち上がったアルはすぐさま駆け出した。


 両手で打刀を上段に構え、間合いに入るや否や袈裟懸けにシパッと振り下ろす。


 だが、やはり八重蔵は余裕のある態度を崩さず、左半身を前に差し出してするりと躱した。


「はあッ!」


 そこへ柄から左手を離したアルがゴウッと爆炎を放った。


 単発ではなく放射、火炎の噴流だ。


 これならと一瞬考えたアルだったが、一拍もせぬ内にハッとして、その場から転がるように跳び退いた。


 直後、火炎流を斬り裂いて剣閃が飛来する。


「いっ!?」


 魔力の起こりを読んだ八重蔵がバックステップを踏み、火炎噴流を散らすついでに魔力を込めた剣圧を飛ばしたのだ。


 それをスレスレで躱し、体勢を立て直そうとするアルに八重蔵が容赦なく仕掛ける。


 トンッ、トンッと軽やかにステップを踏んだかと思いきや、低い姿勢でドンッと鋭く踏み込み、刀身に左手を添え、打ち出すようにヒュッと風を射貫きながら突き出した。


 石火の如き片手突き。狙いは首だ。


 関節部を完全に覆いつくせるような防具はなく、鎧に覆われた胴部にある心臓より実戦では狙い易い。


「~~っう゛!?」


 空気の膜を劈いて奔る切っ先に身体が強張りそうな恐怖を覚えたアルだが、なんとか歯を食い縛ってギギッ、キイイン……ッとなんとか逸らす。


 衝撃で火花が跳び散る。


 しかし八重蔵はそこまで織り込み済みだったらしい。


 逸らされたことなどお構いなしに当身を食らわせた。


「がっ!?」


 鼻っ柱に肩をぶつけられてアルが怯む。


 そこへ容赦なく八重蔵の引き戻した刀が右逆袈裟に斬り上げられた。


 アルの左脇腹を狙う剣閃。


「うっ……くぅっ!」


 なんとか転げるように斜め前へと躱したアルだったが、次いで繰り出された剣鬼の左腕は防げなかった。


「ぐっ!?」


 喉元を掴まれ、一回転。


 鬼人の膂力と遠心力で以て容赦なく投げ飛ばされる。


「がっ! ぐっ!? ぶぁ……っ!?」


 ゴロゴロと武闘場の土を上げながら転がっていき、


「ぐ……ッ!」


 無理矢理受け身を取った。


 しかし、顔を上げて即座にハッとする。


 視界いっぱいに十字の剣閃が迫っていたからだ。


 先程も八重蔵が使っていた、魔力を利用して剣圧を飛ばす技術。


(ヤバい、直撃す(あた)る!)



 ビキ…………ッ!



 やにわに真紅の龍眼に入っていたヒビが割れた。


 次の瞬間、無意識に変換された龍気がアルの右腕に集まり、闇雲に振るわれた刃が十字の剣閃を乱暴に掻き散らす。


(くそ、またか!)


 霧散した剣圧を確認している間も惜しいとアルは叫んだ。


「『炎気刃(えんきじん)』ッ!」


 すると刀の鍔元から白っぽい炎が噴き出して刀身を呑み込み、みるみる内に元の2倍ほどまで刀身の幅が広がった。


 まるで炎によって構成された湾刀のような形状で、強い魔力の波動を放っている。


 それに伴ってヒビ割れた虹彩が元に戻っていく。


 これこそが年越し前にアルが発奮して完成させ、今も尚、微調整を加え続けている新しい独自魔術だ。


 と、いうのも怪我が治って数回、龍人の本能らしきものが表に出ようとする事態が頻発した。


 いずれも何かある前にアルが動きを完全に止めたので大事に至ることはなかったが、何かあるたびに立ち止まって深呼吸を繰り返し、落ち着くまで動けない。


 おまけにクサクサして荒れた気分になる。


 それに対し「やってられるか!」とアルは早々にキレたのだ。


 そして龍気による暴走を防ごうと躍起になって術式を弄り、創り上げた魔術がこの『炎気刃』。汎用型魔術『気刃の術』の大元である。


 刀身に轟々と纏わりついて刃を形成している炎は、()()()()()にした高純度・高出力の龍焔だ。


 頭をカッカさせたアルが魔力の”属性変化”を見本に、闘気の”具象化”を術式に落とし込んで仕上げたもので、師のヴィオレッタをして「革新的かつ秀逸な出来」だと言わしめ、その威力も絶大である。


 なんと言っても高純度化された高出力の龍焔ないしは属性魔力を武器に纏うのだ。


 数枚重ねられた建設用の鉄板くらいなら容易に灼き斬ってしまう。


 しかし、代わりに致命的な弱点がある。


 まず第一に燃費。つまり魔力効率がとことん悪い。


 そもそも魔力を燃焼させて生み出す闘気にはその時点で微細なロスが発生している。


 その闘気をさらに燃料にするのだから魔力の消費効率が良いはずもない。


 シンプルに例えると”闘気”が()()()、『炎気刃』で発生する龍焔が()()()という位置づけに当たるのである。


 そしてもう一つ。


 これはアルにのみ致命的な点ではあるが、武器がないと――つまり体外へ龍気を出せないと暴走を抑制できないという点だ。


 これが出郷条件をクリアできない理由だった。


 そんな弱点を考慮してもヴィオレッタが秀逸と評したのは、誰でもマトモに扱える術であるという点がまず最初にある。


 魔導師と呼ばれる者達の中には、いわゆる再現性という点において難を抱えている魔術を独自術式だと主張する者がいる。


 ヴィオレッタから言わせれば偶然の産物でしかない。


 アルの創った術式はそこをしっかり突破していた。


 それほど構成及び構築理論が整っていたのである。


 次に、その内容だ。魔力の”属性変化”を手本にした闘気の”具象化”。


 魔導師たるヴィオレッタからすれば、今までの常識を別視点で切り抜いて見せられたようなものだった。


 というのも魔力と闘気は不可逆の関係にある。


 要は、闘気から魔力へ戻すことは不可能なのだ。


 そして魔術は属性魔力では起動しない。


 この2点が闘気と、物理現象を引き起こす属性魔力との縁を薄れさせていた。


 勿論、闘気を体外で用いるという技術自体は遥か昔から存在している。


 しかし、その絶対的事実に目をつけ、視点を変え、闘気から高純度化された高出力属性魔力を生み出すというのは新たな概念とも呼べるものだったのだ。


 魔術鍵語が読める『釈葉(しゃくよう)の魔眼』を持っていたとしても、着想がなければ実現はまず以て不可能。


 ゆえにヴィオレッタはアルが照れるほど散々褒めちぎったのだった。


「ふーっ、ふー……」


『炎気刃』によって刃に形成された波打つ龍焔が、アルの龍気を体外へとグングン吸っていく。


 瞳玉と呼称される正常な龍眼に戻ったアルは、


「――――ッ!」


 真紅の残光を靡かせて疾駆。


 切っ先を左斜め後ろへ、肩越し構えと居合構えの中間――左脇構えで剣技を放つ。


 ――――六道穿光流・風の型、火の型の混成技『豪焔嵐舞(ごうえんらんぶ)』。


 一直線に駆け、師の間合いギリギリ一歩外で体勢を一気に下へ落とす。


 次いで、ググッと下半身に溜め込んだ勢いと脚のバネを利用して、前方へ跳躍するや否や右回転しながら刃を解き放った。


「であああッ!」


 龍焔を纏った剣閃が螺旋を描いて八重蔵へ迫る。


 穏剣に近い左の脇構えと『炎気刃』の相性が今のところ最も発揮されやすい、攻撃に重きを置いた回転突撃剣技。


 チッという軽い舌打ちと共に八重蔵は有効範囲から飛び退った。


 ――あの龍焔は厄介だ。


 アルが通り抜けた地面には深い熔断跡が残っている。


 魔術によって間合いが広がり、炎熱と呼ぶのにはあまりに生温い熔岩級の熱で大地は一部が変質していた。


 『豪炎嵐舞』を放ち終えたアルは動きを止めず、【陣風】で八重蔵の右側に飛び出すと、


「しッ!」


 と、左袈裟懸けに振るった。


 すると刀身を覆っていた龍焔が矢尻型に凝縮。


 剣閃が飛翔して八重蔵へと襲い掛かる。


 アルの独自(オリジナル)混成技『飛焔烈衝(ひえんれっしょう)』。


 どうやら自分のやっていた技を土壇場で改造(アレンジ)したらしい、と八重蔵は察して口の端を軽く吊り上げる。


 弟子の強さへの貪欲さを良しとしつつも、その程度ではまだまだと刀を上段にスッと構え――――。


 『飛焔烈衝』が到達する寸前にカッと眼を見開いて、轟ッ!! と振り下ろす。


 それだけで龍焔の剣閃が掻き消えた。


「お?」


 だが、空気中に解けた焔の先にアルはいない。


 八重蔵は「ほお」と焦る様子も見せぬまま、振り向きざま最短コースで刀を突き出すように振るい、ピタッと止めた。


「う……!?」


 そこには八重蔵の背後から片手で逆袈裟斬りを放つ直前のアルが動きを止めていた。


 首には師の添えた刃。


(完全に()られた)


「……参り、ました」


「ん。ま、上出来な方だろ。息整えな」


 師が無造作に刃を引くとアルが「ぶはああ~~~っ!」と息を吐きながら座り込む。


「どうだ? 『刃先潰してるからなんだってんだ?』って思ったろ?」


 八重蔵は涼しい顔でドカリと座り込んだ。


 肩でゼェゼェと息をするアルには頷くことしか出来ない。


「命の奪い合いだ。相手からの殺気や気迫、時には怨みや執念なんかが混じった剣が飛んでくる。そんなもんに身ィ晒して斬り合うんだ。慣れない内は実際より刃先も鋭くも太くも見えるし、重く感じる。だから息なんてすぐに上がっちまうのさ。魔獣相手じゃこうはならねえ。実際、ならなかったろ?」


「はぁ、はぁ……はい。対人戦闘って、こういう、ことですか」


「そーゆーことさ」


 すぐに息が苦しくなり、身体が重く感じた理由。


 故意に剣気や殺気をぶつけられ、その重圧によって体力を大きく損耗したのだとアルは遅まきながら理解した。


「ま、今ので戦い方自体はそう悪いもんでもなかったぜ。さすがに凛華とまともに打ち合ってるだけはある。あいつァ加減なんてほっぽり出すときがあるからな」


「あー……」


 わからないでもない。大体負けそうなときだ。


 ――凛華は負けず嫌いだから。


 アルがそんなことを思っていると、


「あぁそういやお前、凛華に『美人だ』って褒めたらしいじゃねーか。照れてたぜ」


 八重蔵が雑談を始めた。とは云っても八重蔵自身あえて突っ込んでは聞かない。


 今のアルが誰かと自分が好い仲になるなど、きっと考えもしていないだろうことはお見通しだった。


 普段通り穏やかに見える背中にピンと張りつめた緊張感のようなものが常に感じられる。


「元々美人ですし、【修羅桔梗(おにききょう)の相】が似合ってたから褒めただけですよ?」


 アルはあまりに平然と答えた。不思議そうな顔すらしている。


 やはり自分と誰かが、など考えもしていない。


 このくらいの歳ならそろそろ異性を意識する頃だ。


 だと言うのに何の照らいもなければ、恥じらい一つなかった。


 八重蔵はその態度から確信に至る。


 弟子がそういったことを思考から軒並み排除している、と。


 考えなければ……想わなければ、傷つくことも悲しむこともないから。


 きょとんとするアルを見て八重蔵は珍しく溜め息をついた。


(そいつぁ相手の想いも無視するってことだぞ)


 と、思うがそれを気付かせてやるのは己の役目ではない。


「そうかい。ま、見た目は水葵(かあちゃん)に似てっからな。さて、今回は対人稽古の初日だ。あんま根詰めたってしゃあねーし、今日は帰るか」


「はい。ありがとうございました」


 なんとかと云った風情で立ち上がったアルが一礼する。


「おう、おつかれさん」


 八重蔵も背筋を正した。


 ここらへんは最初にしっかり叩き込んだこともあって、キッチリしているし八重蔵も意識してメリハリをつけている。


 剣はなぁなぁで上手くなる類ではない。


 そして挨拶を終えれば、もう師範と門下生でもない。


 親友の息子と近所のおじさんだ。


「なあ、アル。紅の奴に剣習わせるにはどうしたらいいと思う?」


「……また水葵ねえさんに怒られるよ?」


「やーっぱ無理かねぇ……」


 そんなことを言いながらアルと八重蔵は帰路に着くのだった。



 ☆ ★ ☆



 少々どころか随分な呆れ顔のマルクガルムは背後に声を掛けた。


「おーい、行ったぞ」


 すると凛華とシルフィエーラの2人がガサガサと草むらを揺らして頭を出す。


 3人は先ほどまで稽古をしていた八重蔵とアルを見ていたのだ。


 六道穿光流を修めているあの2人は矢鱈と気配に敏感なので、ここなら大丈夫だろうという遠くから様子を探っていたのである。


「……あんなに激しい稽古初めて見たよ。凛華と稽古してるときより戦い方も荒っぽかったね」


「対人戦の練習なんだろ? にしたって二人とも刃引きしてても意味ねえ攻撃ばっかだったな。こないだ創った『炎気刃』も使ってたし」


「龍気が出ちゃっても止めずに闘ってたわね」


 凛華は父から「今日から型の稽古以外は別々で稽古だ」と告げられた。


 それはアルが出郷予定だから。


 しかし、凛華とエーラはこの状況に納得していない、というかそこそこ不満である。


 なぜならヴィオレッタから「アルが里を出る」と聞いたとき、ノータイムで自分達も一緒に行くと言ったら「ダメだ」との返事を貰ったのだ。


 エーラは父ラファルより母シルファリスから。凛華は父から強く反対された。


『許可が欲しいのなら明確な理由を提示しろ、ただの仲良しこよしで行こうというつもりなら絶対に許可は出さん』


 と、言葉こそ違えどこのような内容だった。


 ちなみにマルクは丸一日吟味した次の日に「俺もあいつといっしょに行く」と言うと、父マモンから二つ返事で「行ってこい」との許可を得ている。


 母マチルダは嫌がったが、息子の顔を見て渋々、本当に渋々了承した。


 マルクは一晩中考えて、答えを導き出したのだ。


 幼い頃から親しくしてきた友としてアルのことが心配なのは当然。


 だが、それ以上に飢えていた。


 妹や母を、友を護り、助けられるだけの力。


 あのときのような不甲斐ない思いを、苦い後悔をしないで済むだけの強さを。


 外の世界ならその機会もきっと多いはず。


 その決意を見たからこそ、マモンは拍子抜けするほどアッサリと許可を出したのだ。


 もう少し待って、ヴィオレッタの魔術講義を受けることになる。


 なぜなら彼の出郷条件にもアルと同じ帝国の魔導学院入学があるからだ。


 どんなところか不安になったマルクが訊ねると吸血族の大魔導曰く、そこは魔導師を養成するための学校だそうで、アルほどの知識や技術は要らないとのこと。


 おまけに受験料もヴィオレッタが生徒の為なら安いものだとアルと同様に負担してくれる運びとなっている。


 そんなマルクは現在、うんうん唸って不満を表明するエーラと凛華に半眼を向けていた。


 ぶっちゃけアルと一緒に行きたい理由なんて傍から見ていれば一発でわかるのに、本人達はどうやら気づいていないらしい。


 面倒臭そうに「はぁ」とタメ息をつき、


「なあお前ら、悩むくらいならアルんとこ行ってこいよ。何かわかるかもしんないだろ?」


 と言ってみる。


 別にアルはよそよそしい態度を取ったりしていないのだから。


 話せばさすがに気付くだろ、とマルクが出した案に2人はピタリと動きを止め、


「や、でもほらボクらが許可出してもらえなかったって聞いたらアルは変に遠慮とかしそうだし」


「そ、そうね、あたしもそう思う。すぐ考え込んじゃうから」


 モジモジ、ウジウジ言い訳じみたコトをのたまい始めた。非常にらしくない。


(こいつら……めんどくせぇ)


 マルクは再度、心中で大きな大きな溜め息をつく。



 彼女らが自身の胸に眠る想い(こたえ)を見つけ出すまであと二週間ちょっと、アルはそれまで妙な視線に落ち着かない日々を過ごすのであった。

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