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【10.9万PV 感謝!】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
第3部 青年期 魔導学院編ノ壱 入学編

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15話 ある日の隠れ里(虹耀暦1288年1月:アルクス15歳)

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


なにとぞよろしくお願い致します。

 帝都ほどではないが、真冬の隠れ里には連日のように雪が降る。


 と云っても降るのは粉雪に近い――軽く粒の小さなものがほとんどなので、そこまで降り積もることもない。


 また、主に雪が降る時間帯も陽が落ち始めてからが多く、早朝でなければ滅多に積もっているところは見られない。


 1月も終わりが近付き、ようやく里帰りしたことを心身ともに実感できた『不知火』のアルクス、凛華、シルフィエーラ、マルクガルムの4名、そして異境で暮らす見たこともない珍しい種族に慣れてきたラウラとソーニャの2名は、その日自由行動を取っていた。


 各々で自由に過ごすこともある6名だが、普段から仲が良く一緒にいることも多い。


 しかし隠れ里はその立地や建造理念上、なんとなく里全体が家のような雰囲気を醸し出している。


 生まれ育った故郷ということもあり、ようやく羽を伸ばしたアルの様子とルミナス家のぬくもりのおかげですっかりラウラとソーニャも寛げるようになったのだ。


 なにせ隠れ里(ここ)にはアルが半魔族であることを謗る者もいなければ、共和国出身の2人を狙う輩もいない。


 おまけに魔族組はほとんどが顔見知りで、尚且つ金をあくせく稼ぐべく武芸者活動に精を出す必要もないのだから、帰ってきた頃より6名の顔も和らぐのが自然というものだろう。




 時刻は昼過ぎ、殊更に寒くもなく、風も比較的穏やかな頃。


 『不知火』に所属する6名のうち、男性陣を除いた女性陣4名は『仕立屋通り』のとある一軒に訪れていた。


「小町おねえさんいる~?」


 鼻の頭を赤くしたエーラが戸をガラリと開く。途端に暖かい空気と独特な香りがふわりと漂ってきた。


「いるわね、この感じだと」


 凛華が慣れたように入っていき、「ふぅ~あったかい」と身体をほぐしながら靴をぽいぽいと脱ぎだす。


 ここは少々特殊な造りをしていて、靴を脱ぐだけの4人には大き過ぎる玄関があり、あとは全面土足厳禁だ。


 履き物を脱ぐ習慣が根付いている隠れ里でも、土間すらないのはこの仕立屋通りの数軒くらいである。


「お邪魔します。わ、綺麗な反物」


「お邪魔する。おお、魔獣の革もあるのか」


 入ってすぐにラウラが所狭しと詰め込まれた反物の棚に、ソーニャが手触りの良さそうな魔獣の革が積まれた一角に目を奪われている内に、この仕立屋の主がするすると音もなくやってきた。


「あららぁ、凛華ちゃんとエーラちゃんじゃないのぉ~。やあっと来てくれたのねぇ。ん~、おや? そっちの()達は新顔さんじゃないのぉ~。いらっしゃ~い」


 煽情的かつ特徴的なしなのついた話し方をする女性だ。


 しかしそれ以上に目立つのはその体躯。上半身がほっそりとした人型で、下半身がぷっくりと丸っこい胴に細長い脚が8本ついている。


 このおよそ人間の見た目からはかけ離れている彼女は、蜘蛛人族で名を小町と言い、これでも『仕立屋通り』の代表者である。


「こ、こんにちは」


「お、お邪魔している」


 蜘蛛の単眼を思わせる黒くツヤのある瞳に見つめられたラウラとソーニャは、おっかなびっくりと云った様子で会釈した。


 途端に小町は手入れの行き届いた黒髪を妖しく揺らめかせて首を傾げる。


「人間、なのよねぇ~? おねぇさん、これでも結構怖がられちゃう見た目のはずなんだけどぉ? 悲鳴の一つも上げないなんて意外ねぇ」


 蜘蛛人族は顎も人のそれとは違い、左右に分かれて開く。見慣れていない人間なら間違いなく跳び上がって怖がるし、知らない子供なら魔族でも泣かれることはままある。


 それゆえの発言であったのだがラウラが、


「その、同族っぽい方々を何度か見かけたことがありましたし、凛華達から優しい女性だと聞いていましたから」


 と述べ、


「マルクを知っているし、怖がるよりも先に色っぽさを強く感じた」


 と、ソーニャが応えた。


 それに、何より女性に対していきなり怖がるのは失礼だろう、と姉妹で口を揃えて言えば、小町は黒い眼を何度かパチパチとやって嬉しそうに笑みを浮かべる。


「んふふ~、外の人にそう言ってもらえるのって結構嬉しいものなのねぇ~。もう知ってるかもしれないけどぉ、おねぇさんは小町ってんだ~。お好きに呼んでちょうだいな?」


 そして楽しそうに袖をゆらゆら振って自己紹介した。


「あ……あ、えっとラウラです。よろしくお願いします」


「そ、ソーニャだ。その、よろしく」


 抱きしめれば折れそうな上半身、それとは相反する少々太ましめな胴体、普通の人体構造では起こり得ない独特な身体の揺らし方は、艶めかしさの塊にしか見えず、人間の少女達は目のやり場に困って顔を赤らめる。


 その反応に小町はますます嬉しそうに笑う。年下の異種族に理由もなく怖がられると云うのは案外傷つくものだ。


「よろしくねぇ~。で、で? 凛華ちゃんとエーラちゃんの上着の調子はどぉかしらぁ~? 今も着てくれてるみたいだけどぉ~。髪飾りも似合ってるわよぅ」


 小町はひょひょいと鬼娘と耳長娘に近づいて訊ねた。


 顔はにこやかだが、腕は彼女らの着ている短外套(ケープ)短裾上衣(クロップドトップス)の調子を手際良く確かめている。


 魔族組の着ている胴当てや防衣、そして鬼娘と耳長娘が大事にしている簪と飾り帯形の髪留め(マジェステ)紅い嘴形の髪留め(ヘアクリップ)を手ずから作ったのは彼女なのだ。気になるのも当然だろう。


「良い感じだよ! 風の精も呼び込めるし!」


 そう応えてエーラが裾をちょろっと伸ばす。


「ええ、おかげで怪我らしい怪我もないわ。戦闘の邪魔にもならないし」


 凛華も軽く袖を振って答えた。


 戦闘中は袖口を軽く窄めたり、肩口を広めにしたりと案外地味なところを変化させている鬼娘だが、尾重剣を振り回す際、それが出来るのと出来ないのでは大違いなのである。


「んふふ、そうでしょお~? この感じなら手直しも要らなそうだぁねぇ」


 小町が上機嫌でうんうんと頷く。己の作品が役に立っていると言われるのは嬉しいことだ。仕立てた身としては大満足である。


「あ、そうそう。気になってたんだけど、アルちゃんの龍鱗布はど~お? あればっかりはトリシャの鱗だから、いまいち予想ついてなくってねぇ~」


 小町が思い出したように質問を重ねると、


「「「「…………」」」」


 『不知火』の女性陣4名は一斉に沈黙した。


「え、えぇ、なにその反応……ってまさか、役に立ってない感じなのぉ?」


 肩を落とす妖艶過ぎる職人にラウラが慌てて口を開く。


「い、いえっ! 役には立ってます! 立ってますけど……」


 おそらく小町の想定している役立ち方ではない。そんな気がしてならない。というか絶対違う。


「仕様と違う使い方をしてるというか何というか」


「防具として使ってないのよ」


 オブラートに包むソーニャと歯に衣着せぬ凛華。


「一番自由は利くっぽいんだけどねぇ」


 あははー、とエーラが笑う。この4人にとってアルが龍鱗布を防具扱いしてないことなど、今更も今更である。


 困ったのは小町だ。


「どういうことなのぉそれ? じゃあ何に使ってるのよぉ~?」


 困惑しきりで訊ねると、


「敵の武器に絡みつけたり」


「魔獣の口縛ったり」


「高いとこから落下傘みたいに広げて降りたり」


「翅みたいにして先端から蒼炎を噴き出して加速や方向転換に使ったり。最後のは最近よくやるようになった使い方だな」


 と4人の少女は次々に答えた。


 おかしい。「防ぐ」という言葉が一切入っていない。


 つまり防具を渡したと思っていたら、便利な腕のように扱われているということだ。


「……ねぇ、おねぇさんは武器渡したつもりないんだけどぉ~?」


 小町が渋ぅ~い顔で言うも、


「それはアルに言ってよ。ヤバい場面ではあたし達に着せるし」


「それで自分は血塗れになってるもんね。ハラハラしちゃうよ」


「手当てしてると薄い傷跡が幾つもあるんです。結構長いのもあって」


 三人娘はそれより渋面になった。眉も八の字にして困り顔だ。


「んん~トリシャから聞いてたけど、罪作りな男だぁねぇ。まぁ、そういうのは惚れてる女が諭してやるもんさぁ~」


 詠うように教えを説く年上の蜘蛛人族に三人娘は、ほんの少しだけ頬を赤らめながら目を見合わせて頷く。


(ありゃりゃあ、こいつぁ本気も本気だぁね)


 アルちゃんも大変だぁ、と小町は思いながら、件の半龍人と兄弟のように育ってきた人狼青年がいないことに気付いた。


「そのアルちゃんとマルクちゃんはいないみたいだけどぉ~?」


「マルクなら朝からフィーナが遊びに付き合えって言ったとかで、鼻の下伸ばしてついて行った」


 ソーニャの物言いは何とも辛辣である。ちなみにローリエ家で女子会を開いて以来、ラウラとソーニャはマルクの妹アドルフィーナともエーラの姉シルファリスとも随分仲良くなった。


「アルはなんか趣味を探しに行くんだってさ」


「どゆことよぉ? マルクちゃんはわかるわよぉ? フィーナちゃんのこと溺愛してるものねぇ。でもアルちゃんの方は、おねぇさんわっかんないわぁ~」


 早い時期から兄の紅椿にだけ反抗の牙を剥いたどこぞの鬼娘とは大違いで、アドルフィーナは態度こそあれだが兄のことをちゃんと慕っているのだ。


 要は寂しがって遊べとねだったのだろう。


 しかしアルの方はまったくわからない。


 趣味を探すとは?


 小町がありありと疑問符を浮かべてエーラを見る。


「えとね、アルって暇さえあったら稽古とか術式弄ってるでしょ?」


「そうねぇ、おねぇさんでも知ってるくらいよぉ」


 ついでに言うとトリシャからも愚痴られている。いっぺん自宅の屋根に大穴を開けたこともあったはずだ。


「昨日それを前世の自分に指摘されちゃったんだって」


『刀戻ってきてねえし、休みで暇なのはわかるけどよ……お前、趣味の一つもねえのかよ? おっしょさんが言ってたろ、遊びながら学ぶのが一番って。そんな真面目腐ってどーすんだ? 無趣味なやつなんてつまんねーぞ』


 と言われたらしい、と凛華が言う。


「それが結構堪えたみたいで、朝から『今日は趣味を探しに行く! 見つけるったら見つけるんだい!』と」


 ラウラがその先を紡ぐと、


「そういうことねぇ~。魔術を創るのも趣味って言って良かったんじゃな~い?」


 小町は疑問を呈してみた。しかし4人は首を振り、困ったようにソーニャがこう言う。


「私達もそう言ってみたのだが、『楽しみながら創る気持ちを忘れたから、その気持ちを取り戻しに行く』と」


「あー……武芸者さんだもんねぇ。戦う術が多いのぉ?」


「ほとんど戦闘に使えそうなものばっかりよ。だからまぁ息抜きになるなら良いんじゃないかしら? って送り出したの。今頃何してるのかしらね」


「迷走してそう」


 そう言って凛華とエーラが顔を見合わせる。これでもアル以外は割と趣味はあるのだ。


 マルクは意外と濫読(らんどく)家で、暇があれば協会の初心者用手引書から歴史書、文学、魔術教本まで雑多な系統を寝っ転がって読み散らしている。


 凛華は鍛冶屋や武器屋を巡り、武具を見て回りに出かけることもしばしば。ごくまれにだが気に入った短剣などは観賞用として買うこともあるくらいだ。


 エーラは散策そのものを趣味としていて、気になれば茶店だろうと薬問屋だろうと頓着もせずにのれんをくぐる。


 そしてラウラは魔導券売機の手伝いをして以来、魔導具の置いてある店や工房を見て回るのが趣味になった。民生のものは案外安いので、彼女個人の財布からお金を出すこともままある。アルの前世で言う家電好きみたいなものだ。


 ソーニャはそんな彼らに付き合う事も多いのだが、実は園芸を趣味としており、拠点家(ホーム)の中庭や玄関に「どうだろうか?」と耳長娘に相談しながら花を植えたり、育てたりが日課である。


 翻ってアルは、と言えば――――。


「一時期は舟遊びしてましたけど」


「気を紛らわせたかっただけっぽかったもんねぇ」


 ラウラとエーラの言う通り、時たまフラリと出て行くこともあるが大抵は必要に駆られてだ。


 舟遊びも学院で珍獣扱いを受けたストレス解消としてぼーっとしに行っただけで、特段好きというわけでもない。


「そっかぁ。でもたぶん何か見つかるわよぉ~? こう見えてもおねぇさんの勘は当たるからねぇ」


 幼い頃から周囲に置いていかれないように、と突っ走っていたアルだ。きっと余裕が生まれたのはつい最近だろう。


 そう思った小町がお姉さん風を吹かせる。伊達に歳食っちゃいませんよ、と。


 見た目は妖艶なのに小粋に笑ってみせる小町がなんだかカッコよくて、4人は顔を見合わせ、


「ま、アルのことは今は良いのよ。今日は小町ねえさんに仕立てをしてもらおうと思ってきたんだから」


 凛華が本題を口にした。すると小町は顔をパッと綻ばせ、


「おぉ~、おねぇさんの腕を頼りに来たってかい? 嬉しいねぇ~」


 と、採寸用の巻き尺を懐からいそいそと取り出す。


「ボクらが着てるのも新調したいし、ラウラとソーニャの鎧下を【撚糸(よりいと)】で作ったらどうかと思ってね~」


 エーラの説明にラウラが頷いて、


「きちんとしたものは妙に派手だったりで普段から着辛いですし、細身なのは戦闘で破けやすいんです」


 と補足し、


「夏場は蒸れて厚いしな」


 とソーニャが苦々しく言った。特に鼻の良いマルクに、乙女としても仲間としても気を使うので案外苦労しているのだ。


 小町はほんほんと首を縦に振り、黒い眼をツツッとラウラの胸甲とソーニャの鎧の上を走らせる。


「なぁるほどぉ~。隠れ里(うち)の戦士達も【撚糸】で出来た(まも)(ごろも)着てってるし、良いとこに目ぇつけたねぇ」


 そして巻き尺をじゃらっと伸ばしながら「さぁてお仕事だぞぉ~」と言いつつするすると滑らかに動き出す。


「あ、待って」


 しかし凛華が手をサッと上げて止めた。


「うぅん? 細かい注文ならいつも通り後で聞くよぉ~?」


 首を傾げる小町。


「前、アルの匂い袋頼んだ時もお礼渡したでしょ? 今回もボクら、ちゃーんと持ってきたんだ」


 そう言ってエーラが大きめの缶を取り出す。以前持ってきた花油の瓶よりも断然大きい。きっと小さな容器に移して使うことを考えてのことだろう。


「わぁ、また持って来てくれたのぉ? ありがとねぇ~」


「小町ねえさん、癒院で軟膏貰ってたでしょ? 今回は椿の匂いがするのを手伝ってきたのよ」


「え、ほんと? うちの好きな匂い覚えてたんだぁ。んふふ~、おねぇさんうんと張り切っちゃうからぁ~」


 大事そうに軟膏入りの缶を貰った小町は軽く蓋を開けて「んん、良い匂い~」と笑む。


「あの、私達からも。お口に合うと良いのですが」


 更にラウラとソーニャが包みを手渡した。


 隠れ里では金銭取引がない代わり、こういう贈り・贈られの文化が根付いていると聞いて急ぎ作ったものだ。


「え、なぁに? わぁ~っ! お饅頭と羊羹! おねぇさんの大好物なのよぉ~!」


 包みの中には掌大の薄桃色をした饅頭と、学院でラウラが気に入った羊羹が入っていた。


 ルミナス家の台所を借りて昨夜と今朝に女性陣4名で作ったものである。


 ちなみに材料は帝都の拠点家(ホーム)に買い置きしていたもので、勿体ないからと持って来ていたのだ。


「今一つい~い?」


「勿論、どうぞ」


 と、言ってソーニャがサッと包みを持ってやる。


「それじゃ、頂くわねぇ」


 小町はふわふわもっちりとした饅頭を掴み上げパクっと一口齧って目をとろけさせ、次いで残りを左右に開く口を大きく開けて一口でぺろりといった。


 表情のおかげなのか、その美貌のおかげなのかはわからないが、妙な色気のある仕草だ。


「んふふ、ふふっ、美味しいぃ~」


 コクンと細い喉を鳴らして饅頭を一つ食べ終えた小町が幸せそうな顔で笑む。


 ラウラがホッとし、ソーニャも胸を撫で下ろした。如何せん料理はしても菓子の類は作り慣れていないのだ。


「良かった。お饅頭の方は早めに召し上がって下さいね」


「んふふぅ~これでもおねぇさんはよく食べるおねぇさんでねぇ。これだけ美味しかったら今日中に無くなるってなもんで、心配はいらないよぉ~。そいじゃ、気合い入れてお仕事しましょうかぁ~!」


 里の新顔2人と幼い頃から知っている2人にニッコリと笑い掛けた小町は、楽しそうに身体を揺らし、


「「「「おー」」」」


 『不知火』の女性陣もうきうきとした表情で拳を突き上げるのだった。



 * * *



 女性陣4名が楽しい時間を過ごして家路に着いた頃で――「陽も暮れてきたしそろそろ帰ろうか」とマルクが妹とその友人の双子と連れ立って西門をくぐった頃のことである。


 何としても趣味を見つけて帰る、と息巻いたアルもまた里の前に帰ってきていた。


 あろうことか、飛竜に乗って。


 里を練り歩いても趣味が見つからなかったので「どうしよ」と焦った挙句、戦士の一人に許可を貰い、割合危険な魔獣がいる方面の北門から森へ抜け、そこで飛竜と出会ったのである。


 ラービュラント大森林にいる飛竜でも、龍人族の血を引くアルには友好的ですぐに懐いてくれたこともあり、背に乗せてもらったり、一緒に魔獣を狩ったりしていたのだが暗くなってきた。


 そこで何をトチ狂ったのか、アルは「騎竜が趣味って良くない?」と前世の嗜好に引っ張られたらしく、そのまま「えいやっ」と背に乗って隠れ里までひとっ飛びで帰ってきたのである。しかも、西門側に。


 当然、外の広場にいた住民達は仰天し、大慌てで戦士団が駆けつけてきた。


 しかし当の飛竜は大人しく、おまけにアルはのほほんとした顔で「やっぱ迅いなぁ、お前。寒かったけど一瞬だったぞ~?」などと、かいぐりかいぐりしている始末。


 結果として、アルは帰ってきて初めての大目玉をヴィオレッタから、拳骨をトリシャと八重蔵からもらうことになるのだった。


 尚、しっかり息子へ拳骨を落としたトリシャだったが、数分もせぬ内に「でも、この子可愛いわねぇ」とアルと似たようなことをのたまった挙句――……親子揃って「里の外で飼って良いか?」とヴィオレッタの下へ直談判しに行ったのは、住民の記憶にも新しいルミナス家の破天荒エピソードとして語られることになる。

評価や応援等頂くと非常にうれしいです!


是非ともよろしくお願いします!

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