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【10.9万PV 感謝!】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
第3部 青年期 魔導学院編ノ壱 入学編

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14話 あたたかな冬の隠れ里(虹耀暦1288年1月:アルクス15歳)

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


なにとぞよろしくお願い致します。

 『不知火』のアルクス、凛華、ソーニャの3人の剣士が鉱人と巨鬼の営む鍛冶屋を出たのは、太陽が南の空に低く上がった頃だった。


 すぐに冷えた空気が3人を包み込んだが、活動を始めた隠れ里の住人達と時刻のおかげで、朝より幾らか和らいで感じる。


 白い雪の傘をかぶった木々の合間をひょうひょうと泳いで吹きつける寒風が、ジットリ汗ばみそうなほど蒸し暑い『鍛冶屋通り』には丁度良いくらいだ。


 そのまま居続ければ良い塩梅に過ごせそうではあったものの、


「ソーニャに里を案内しながら三人と合流しようか」


「そうね。って言っても、広さ自体は〈ヴァルトシュタット〉とそう変わらないけどね」


「頼む。正直なところ、新鮮なものばかりで見て回りたかったのだ」


 アルと凛華は好奇心溢れる顔で辺りをキョロキョロと見回すソーニャを連れ、残りの仲間達3人と合流すべく歩き出したのだった。



 * * *



 隠れ里は帝国辺境の街〈ヴァルトシュタット〉と違って、北南に伸びた長方形型で角を丸く敷地を取っている。


 いずれ人が増えることも考えてそのような形になったのだが、実際に入居者と呼べるのは2年近く前に移住してきた人虎族くらいなものだ。


 また主線となってる大通りは3本ほどしかなく、種族間の体躯に大きな差があるので種族ごとに寄り集まって生活しているのが一般的である。


 しかし、あくまで通常はそうなりやすいというだけで、探せばアルの幼馴染達の家々の如く同胞達とはまったく違うところに居を構えている者達もいたりする。


 そういった者達は大抵、隠れ里建造初期からいた者達で、「じゃあここがウチね」と云った具合で好きに居宅を決めた結果だったりする。




 忙しなく首を巡らしているソーニャにそんな説明をしつつ、昨日も行った湯屋や食堂、酒場、ヴィオレッタの居宅、『仕立屋通り』、癒院、東西南北の門を案内して回ったアルと凛華は結局、家事や非番の者が中央広場で炊き出しを始めた頃になってようやっと、探していた3人と合流した。


 どうやらラウラを連れたマルクガルムとシルフィエーラは、アル達3人と全く同じ方向に里を巡っていたらしい。


 追いつかないのも道理である。


「おう、すっかり昼になっちまったな。ってソーニャのそりゃなんだ?」


 マルクの言う”それ”とは、ソーニャが担いでいるやたらとゴツい大楯のことだ。


 錆こそ浮いていないが普段持っている手入れの行き届いた盾と違い、表面は鈍色で見るからに鈍重そうな印象を受ける。


「整備に預けたら、代わりはこれしかないと言われたのだ」


 応えたソーニャは不慣れそうに大楯を担ぎ直した。


 この大楯は隠れ里建造時、魔獣を抑え込む狙いでほんの一瞬だけ使われたものだ。


 が、戦闘民族のいる隠れ里の住民達にはほぼ必要なかったので、文字通りお蔵入りしていたものである。


 キースが引っ張り出してきたのだが、当然身体の出来上がっていないソーニャには些か大き過ぎる。


 しかし、ないよりは精神的に遥かにマシだ。


「そこまでして必要なの?」


 いっそなくても良いじゃない? どうせ少しの間でしょう?


 そんな心の声が聞こえてきそうな義姉に、


「落ち着かんのだ。剣も代わりのものだし」


 ソーニャは唇を尖らせて答えた。


「アルの代わりの刀はわかるけど、よく重剣なんて打ってたね、キースおじさん」


 エーラも瞳をクリクリさせて凛華に問う。


 幼馴染の鬼娘が担いでいるのは、尾重剣とそう変わらない大きさの、黒鋼っぽい剣身の太い重剣。


「父さんのよ。あんまり使わないでしょうし、さっきうちの蔵から持ってきたのよ」


「ああ、八重蔵おじさんのかぁ」


 耳長娘は木皿に入っていた小さな果実(ベリー)をパクッと口に放り込みながら、のほほんと納得した。


「二本ないの落ち着かないや」


 アルは普段から命を預けている得物が二振りともないせいでソワついている。


 普通の二本差しは刀と脇差だし、代わりに借りたのは源治がきちんと打った太刀だが、重みが足りなくて何とも頼りない。


 身体が右に傾いでいく気さえする。


「どんくらいかかんだ? 鞘尻とか結構擦り減ってたろ?」


「一週間ってさ」


 実戦用として拵えてもらった鞘尻や柄頭で思いっきり敵を打ち据えたりしていたので、かなり損耗していた。それはわかっている。


 それでも落ち着かない、とアルは渋い顔でマルクに溢した。


「まぁまぁ、戻ってくるまではゆっくり休暇にしようよ。なんやかんやでボクらずっと動きっぱなしだったでしょ?」


 そう言ってエーラがほいっと果実をアルの口に入れてやる。


 学院に行って、休みは武芸者活動をして、何もない日は月に1、2日。


 それでも案外それぞれ自由に過ごす時間はあったのだが、言われてみればその通りである。


「それもそっか」


 もにゅもにゅと口を動かしたアルはぽつりと同意した。


「学院長にもゆっくりしてこいと言われてましたし、隠れ里(ここ)ではお金を稼ぐ必要もないそうですから、羽を伸ばしませんと」


 それに私とソーニャには珍しいものばかりなんですよ? とラウラが花咲くように微笑む。


 周りは魔族ばかりで少し怖かったものの、練り歩いてもマルクとエーラの仲間として見られていた為か心無い言葉をぶつけられることはなかった。


 それはソーニャも同じだ。


 アルは昨日より緊張の和らいだ彼女らの顔を見つめ――……ふと視線を切って辺りを見渡す。


 なるほど、確かに人間の街とは似ても似つかない。


 階層の高い大規模な煉瓦造りの商業施設や、戦棋盤の目のように整然と区画整理された帝都と、高くとも3階建てくらいしかなく、どうにも平らな印象で多種多様な種族が市の如く雑然と賑わっている隠れ里は、対照的だ。


 どちらにも風情がある。


 それは間違いないが、ラウラとソーニャにとっては紛れもなくここは異境と呼べる土地なのだ。

 

 ようやくそのことに気付いたアルはいつの間にやら詰まっていた肩の力を抜く。


「だね。里を楽しんでもらおっか」


 そしてニコリと笑った。


「そうね、まだまだ見せてないとこもいっぱいあるもの」


「ホントですか? 見たいです」


「だねっ。武闘場もまだだし、小町おねぇさんの仕立屋さんも案内したいもん!」


 華やいだ雰囲気で三人娘がきゃいきゃいとはしゃぐ。


「武闘場まであるのか?」


 さすがは魔族なのだなぁ、とソーニャが一人感心する。


「あー……まぁどうしても稽古してると草っぱらがボロボロになっちまうからって造られたんだよ」


 マルクはどこか気恥ずかしそうに答えた。


 その様子にソーニャはピピンと来る。


 間違いなくボロボロにしていた筆頭はこの4人だろうと思ったのだ。


 彼らとしては遺憾なことに、その見立ては正しい。


 無論、筆頭と云うだけで他にも理由は幾つかあるものの、簡易狩猟場前の草原をぺんぺん草も生えないほどに焼き払って、頼まれもしていないのにザクザクと耕したのは紛れもなくこの4人である。


「じゃ昼食べたら訓練場の方を案内しようか」


「おう。あ、今『訓練場』って言わないらしいぜ。武闘場が出来たから」


「えっ? じゃあなんてーの?」


「単に外の広場とか原っぱとかだってよ。フィーナに聞いた」


「まじか。いつの間に」


 マルクに教えてもらったアルが軽い衝撃を受ける隣で、エーラがお腹をくぅと鳴らした。


「ねね、ボク早くごはんにしたい」


 小さな果実(ベリー)を頬張っていたはずだが、育ち盛りの耳長娘には足らなかったらしい。


「はいはい、今日は母さんがお昼用意してるって言ってたわよ」


「そんじゃ凛華んちだね! さっ、早く行こっ!」


 タタタッと走り出す耳長娘に炊き出しのおばちゃん達が声を掛けてくる。


「あら、今日はこっちじゃなかったのねぇ」


「うん! 凜華んちだよ!」


「あ、それならこれだけでも持ってって食べてちょうだい。うちの人が大っきな鹿を取ってきたのよ〜?」


 大鍋をかき混ぜている山羊角族の女性が手慣れた様子でパパっと中身をよそってエーラに渡す。


 昼食のおかずにもう一品どうぞ、という意味だ。


「わ、ありがと!」


 中は鹿肉と芋の煮っころがし。


 甘辛く煮付けられた芋とホロホロ崩れる肉、細切りにされた生姜がシャキシャキと小気味の良い歯応えを与えてくれる――隠れ里でも定番の料理だ。


「ありがと、おねーさん」


 明らかに一人分以上ある煮っころがしを見てアルも礼を告げると、


「あらら? あれまぁ! マルクスちゃんじゃないの! んまぁ〜色男になっちゃって!」


 おばちゃん達が騒ぎ出す。


「マルクちゃんもそうだけど、めっきり男らしくなったわねぇ。女の子が放っておかないわよ?」


「ねぇ~、それに魔力も凄いわ。うちの子に見習わせなくちゃ」


 などと姦しい。


「そっちの子がソーニャちゃん?」


「は、はい! 少しの間ですがよろしく――」


 お願い致す、と言い掛けたソーニャをおばちゃん達がきゃあきゃあと遮った。


「ただの年寄り相手に固い、固い。もっと近所のおばちゃんにでも接するように軽くでいいわよぅ」


 女性というのは男性より横のコミュニティが強い傾向にあるので、先にエーラとマルクでラウラを紹介していたのだ。


「何か困ったことがあったらババ共にお言いよ?」


「は、はい。かたじけない」

 

 中年女性くらいにしか見えないおばちゃん達の勢いに呑まれてソーニャはコクコクと頷いた。


「凛々しくって可愛いわねぇ。わたしにもそんな頃があったわぁ。懐かしい」


「嘘をお言いでないよ。アンタこのくらいの頃は狒々相手に相撲取ってたじゃないさ」


「ちょっとお!?」


 ドッ、と広場に笑いが生まれる。


 その笑いがちっとも下品でなく、陽だまりのように暖かでラウラとソーニャは自然と顔を綻ばせた。


「そろそろ行こーぜ。姐さん達、飯あんがとさん」


 マルクがソーニャの背をトンと叩いて優しく促すように押していく。


「あ、で、ではまた!」


「じゃね」


 アル達もそれに倣うように歩き出した。


 その様子を見ていたおばちゃん達はニコニコと彼らを見送った後、


「見た? マルクちゃんとソーニャちゃんのあの感じ!」


「見た見た! 新婚さんみたいな雰囲気よねぇ」


「初々しいわ~」


「あたしにもあんな頃があった」


「馬鹿をお言い。あんたは旦那の耳引っ張って回ってたじゃないか」


「ちょ、ちょっとお義母さん!」


 木杓片手に広場をいっそう騒がしくさせていくのであった。



 * * *



 凛華の母、水葵が腕を振るった昼食をイスルギ家で摂り終えた『不知火』の6名は西門をくぐり、訓練場――もとい外の広場に出てきていた。


 草原しかない外の広場では、すでに煮炊き場で昼食を摂り終えたらしい子供達が元気いっぱいでワーキャーと走り回っている。


 子供は風の子とはよく言ったものだ。


 アル達も身体の芯を温めてくれる昼餉のおかげでポカポカしている為か、多少の寒風はそこまで気にならない、とはいえあれだけ走り回る気にもならない。


 その内、数名の子がチラッと6名に目をやり、瞳を真ん丸にして甲高い児童特有の声を上げた。


「あーっ! アルクス兄ちゃんたちだ!」


「ほんとだ! あんちゃんたち帰ってきたってほんとだったんだ!」


「わぁ、凛ねえもエーラねえも美人さんになってるよ!」


「アルにいとマルクにい……カッコいい」


「うしろの人たちって誰かな?」


「なんか、におい違うね」


 口々に声を上げながら「わーっ」と駆けてくる子供達に6名はすぐに取り囲まれた。


 集まったのは大体5~9歳くらいの子供達だ。


「や、久しぶり。皆、背伸びたなぁ。元気にしてたか?」


 アルはニッコリ笑って近くにいた男の子の髪をクシャクシャと掻き回す。


「元気だよ! アルにいたちはお休みで帰ってきたってきいたけどそうなの?」


 くすぐったそうにした男の子が疑問を投げかけた。


「うん、ひと月くらいかな」


「みじかい!」


「三月からまた学院が始まっちゃうからね」


「アルクス兄ちゃんのこて、カッコいい!」


「はは、だろ~? 誕生日に貰ったんだよ」


 アルが無邪気な子供達へ穏やかに接する。


 なんとなくその光景をラウラは良いなと思った。


「この人たちだあれ? お友だち?」


 すると小さな女の子たちがラウラとソーニャを指差した。


 気になっていたようだ。


「あたし達の仲間よ。こっちがラウラで、そっちがソーニャっていうの」


 凛華の紹介に子供達の視線が2人に集まる。


「ええと、よろしくね」


「よろしくな」


 2人はおずおずと慎重に子供達と視線の高さを合わせて挨拶した。


「へぇ~、凛ねえたちといっしょに戦ってるんだ。すごいねぇ」


「おねえちゃんたちは何の魔族なの?」


 純粋な質問にラウラは一瞬戸惑い、やがて慎重に口を開く。


「えっと、私達は義理の姉妹で二人とも人間なんですよ」


 すると子供達はキョトンとした後、アルの方を見た。


「にんげん……じゃあ、アルにいと半分おなじ?」


 問いかけてくる子供の目に少しだけ脅えが混じる。


 アルのことはよく知っているので怖くない、が知らない人間はやはり怖い。


 人間の――――否、聖国の心証が悪過ぎるせいだ。


「うん、そうだよ。お淑やかに見えるけど二人とも魔術の腕も確かだし、聖国の敵を一緒に倒したんだ」

 

 だからこそ、アルはハッキリと言い切った。


 2人をあんな連中と同列に語るなど万死に値する。


「ふえっ!? せーこくってあの?」


 効果は劇的だ。子供達は透き通る眼を真ん丸に見開いて仰天した。


「そうさ。そこの騎士共相手に戦い抜いたんだぜ? 根性あんだろ?」


 マルクも、「怯えられたか」と身を引きかけていたソーニャの肩に手を置き、アルを援護するように教えてやる。


「ほんとぅ!?」


 キラキラした顔を向ける子供達に、凛華とエーラが「本当よ」「もっちろん」と頷いた。


「おねえちゃんたち、すごいんだね!」


 魔族はこと戦いに関することで嘘はつかない。


 4人のお墨付きまであるのならそれは紛れもない真実である。


 その結論に至った子供達は、少々不安そうにしていたラウラとソーニャにおずおずと歩み寄り、小さな手を伸ばした。


「えとね、お話きかせて?」


「ええ、勿論です」


 可愛らしい魔族の少女にラウラは心底嬉しそうに笑いかける。


「うんと……よく見たらぼくらとあんまりかわんない?」


「ああ、私達はアル殿と同じで魔法は使えないが、君らとそんなに変わらないぞ」


 膝をついてソーニャが語り掛けると、男の子はじいっと萌黄色の瞳を見つめ、やがて首をこくんっと縦に振った。


「さっきは追いかけっこでもしてたのか?」


「ううん、フィーナちゃんがカラスの使いま? と遊んでたから混ぜてもらったの」


 ソーニャは「ああ、なるほど」と言って男の子の髪を軽く撫でると、


「その鴉は私達の仲間だ」


 と教えた。子供達がキョトンとする。


「あっ! 兄ちゃん、アル兄! そっち行ったよ!」


 そこへ煮炊き場の近くにいたアドルフィーナの声が届いた。


 そちらへ目をやると、胸の一部だけ艶のある紫羽でほとんどが黒濡れ羽の三ツ足鴉がひゅおうっと勢い良くこちらへ翔んできていた。


「わ、ひゃっ!?」


「わわっ!」


 子供達が思わず身を竦ませる。


 しかし、三ツ足鴉はひゅいっとアル達の前で急上昇し、すぐさまバサバサと翼を広げて主人の左肩へ舞い降りてきた。


「翡翠、ごはんは食べさせてもらったかい?」


 アルは慣れたように首筋を掻いてやりながら訊ねる。


 夜天翡翠はカカカ、と喉を鳴らすように軽く鳴いて膨らませた羽毛を主人に擦りつけた。


「フィーナの相手してくれてありがとな」


 マルクがそう言うと、


「カァ~」


 大型の三ツ足鴉は「どーいたしまして」と言いたげにひと鳴きする。


「少し休憩する?」


「カァ~」


 草っ原で羽織風にした龍鱗布の袖を靡かせ、魔獣と戯れる妖異な雰囲気を滲ませる青年剣士の姿は、贔屓目に見なくともサマになっていた。


 子供達はその光景をぽーっと見て、


「使いまかっこいい!」


「ぼくもほしいなぁ」


 と男子達がはしゃぎ、


「かっこいいよね、アル兄って」


「凛ねえに凍らされてキンキンになっちゃうよ?」


 とおませな女子達がそんなことを言った。


「なぁんですってぇ~?」


 凛華はパッと女の子を抱え上げて脇腹をくすぐり始め、「きゃはははっ!」と笑い声が上がる。


 そこにアドルフィーナと一緒にいた双子が軽やかに駆けてきた。


「アルクス兄ちゃん! マルク兄ちゃんも久しぶり!」


「お姉ちゃんたちも久しぶり!」


 元気いっぱいで飛びつくように挨拶する、黄土色の髪によく似た顔つきの男女の双子。年頃はアドルフィーナと同じくらい。


 かつてアル達4人が高位魔獣〈刃鱗土竜〉から助けた人虎族のエリオットとアニカだ。


「二人とも久しぶり」


「よ、お前らも伸びたなぁ」


 アルとマルクは破顔して双子の頭を撫でた。この双子はよく4人に懐いていたのだ。


「フィーナと一緒に稽古つけてもらってるんだってね~。調子はどう?」


 エーラも嬉しそうにニコニコして訊ねると、


「マモンおじさんと族長つよい」


「ぜんぜん当たらない」


「魔法もつかってないのに負けるんだよ?」


 追いついてきたアドルフィーナと双子は少々情けなさそうに眉を八の字にさせた。


「そんなもんさ。俺だって里出るまで親父に魔法使わせたことねえぞ」


「マルク兄ちゃんでも?」


 うそぉ、そんなに強いの? と、エリオットが愕然とする。


「まぁな。でも今ならわかんねえぞ? 俺らも成長したからな」


 そう言ってマルクがニッと笑ってみせた。


「お姉ちゃんたち、お休み中稽古するの?」


「ええ、剣預けてるからそれが戻り次第やるわよ」


「ボクらはできないこともないんだけど、たまには休まないとねぇ」


 エリオットよりやや甘えん坊な雰囲気のアニカに凛華とエーラはお姉さん風を吹かせている。


「アル兄、そういえばガッコーって魔術教えるんだよね?」


「そうだよ」


 正しくは魔導学院ね、と言いながらアルは親友の妹に頷いた。


「じゃあ前よりまた魔術のウデ上がったの?」


「うん、上がった。見せよっか?」


 アルがそう言うと、アドルフィーナと双子を含む子供達がワイワイ騒ぎだした。


 子供達の面倒を見ていた頃から彼ら4人は、よく魔法や魔術を使って遊び場を用意したりしていたのでテンションが上がったのだ。


「みたいみたい!」


「ねぇどんなの?」


「ぼくまた砂のお城みたいなのがいい!」


 期待に目を輝かせる子供達を前に、アルは顎を擦って仲間達へやんちゃな顔を向けた。


「皆、手伝ってくれない?」


「構わないわよ」


「どんなのにする~?」


「勿論です。大掛かりなものにします?」


「大丈夫なのか? アル殿のあの顔は悪戯を企んでる時のものに見えるが」


「加減は弁えてるだろ、たぶんな」


 その後、万年樹コースターからヒントを得て――アルの前世の遊園地にあったような空中ブランコやゴンドラ、冰のコースを利用したソリ遊びで子供達を楽しませる6人であった。




 尚、『不知火』が帝都に戻った頃、子供の相手をする年上達が「いやいやそんなのやり方わかんないよ!? 勘弁してえ!?」と悲鳴を上げることになるのだが、それはまた別の話である。



 ☆ ★ ☆



 アルと凛華に剣を教えたイスルギ・八重蔵は、無頼漢か呑んだくれにしか見えぬ雰囲気を纏って源治とキース・ペルメルの鍛冶屋を訪れていた。


 用件は一つ。


「うす。あいつらの剣、どうなってた?」


 引き戸を開け、開口一番にそんな質問を投げつけた。


「八重蔵か。見たんなら気付いてんだろ?」


 キースは既に作業中だ。簡単なところから終わらせようということで、ソーニャの盾の腕を通す革を取り外しているところである。


「一年であんなになっちまうたぁ、どえらいもん打ったなぁ」


「馬っ鹿、そんなわけなかろうや」


 源治は空色の刀身眩い龍牙刀の目釘を、丁寧な手付きでコンコンと叩き抜きながら唸った。


「もう色付きやがったのか」


 里でも指折りの大剣豪たる八重蔵でも龍牙刀の変化には目を瞠ってしまう。


 元々妙な雰囲気の妖刀だったが、あの4人が里を出て行くときにはこれほど匂い立つような妖しい魔力を発してはいなかった。


「アル坊は、ありゃ何度か死線を踏み越えとるぞ。壁を叩き壊したのかもしれん」


 源治の言う”壁”とは力量の限界のことだ。八重蔵の見立てでは娘の凛華よりアルの方が先に壁にぶつかると思っていた。


 魔法が使えないと云うのは、強さという観点に於いてその分だけ可能性が減ることと同義だ。


 しかし、まさか既に壁にぶち当たっていて、おまけにぶち壊してしまっているとは思ってもみなかった。


「マジかよ」


「おそらくは……だがの。どうも、どこからか振るい方が変わっとる。打ったわしがアル坊に警戒されとらんから触れるが、そうでない者が触れれば容赦なく牙を剥くぞ、龍牙刀(こいつ)


 半ば呪物めいた効果を持つようになった妖刀を前に、八重蔵と源治は揃って低く唸る。


 たった1年と少しでどれほど成長したのだろうか? 


 活躍を読んだ程度では真に掴めない。


「そんだけ追い詰められたってことか。マモンのヤツも反応が異常だったっつってたしな」


 師としては期待する己と、親友の息子を見守る親父として心配になる己が、八重蔵の中でせめぎ合う。


「龍血を封じとるせいだろうの。人里に降りてすぐ厄介事に巻き込まれたせいもあろうや」


 気を張っておったのは。と、源治は言葉を紡いだ。


「ま、里長殿もそのつもりで里帰りさせたんだろ。剣の腕は気になるだろうが、ちったぁ休ませんだぞ、八重蔵」


 キースが手元に集中したまま鬼人族の剣豪に釘を刺す。


「わぁってらい。俺が急かすよりアイツが手前を急かしちまうからな。ま、様子を見るさ」


 そんじゃな、と告げて八重蔵はふらりと鍛冶屋を後にした。


 すれ違う年若い戦士達と挨拶を交わし、なんとなく外の広場に足を向ける。


 そこには楽しそうにはしゃぐ子供達と『不知火』の6名がいた。


 肩の荷を下ろして歳相応の顔を見せる彼らだが、そこにほんの少しだけ弛緩した疲労を滲ませている。


 きっと……少しずつ、少しずつ、(おり)のように溜まっていった疲れなのだろう。


 八重蔵はしばし広場を眺め――。


「ま、こういう時間用意してやんのも大人の仕事だわな」


 と、軽く鬼歯を剥いて笑むとその場を後にしたのだった。 

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