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【10.4万PV 感謝!】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
武芸者編ノ陸 芸術都市トルバドールプラッツ編

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14話  少女達の闘争  (虹耀暦1287年6月末:アルクス15歳)

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


なにとぞよろしくお願い致します。

 時刻は昼過ぎ。崖下に遠く河川を望む渓谷では魔導列車が疾走していた。


 しかし、魔導列車を見たことのある者ならば誰でも声を上げたであろう。


 なぜなら、その車列には()()()()()()()()()()()()()からだ。


 今現在、機関車部を含めた一等車、二等車、三等車、展望車両、四等車、五等車の七両編成の魔導列車は二等車と三等車の連結部を溶かして切り離されてしまっている。


 一等車と二等車にいた役者陣と警備、そしてラウラとソーニャ、レイチェルは三等車以降で見回りに出ていた残りの5名と分断されてしまったのだ。


「ちっ・・・・!」


 オスヴァルトは細剣を片手に舌打ちした。


 役者陣の数だけ警備を雇ったがすでに二人は死んでおり、一人は内通者。


 つまり三十名ほどにも満たない数しかいない。


 おまけに一等車と二等車に分散して乗っているせいですぐには助けに行けない。


「オラオラどうしたぁ!」


「ぐっ、押さえろ!何としても守り抜け!」


 眼前では少なくなった警備とその倍とは言わないまでも数的に優勢な傭兵共が短い得物をぶつけ合っていた。


 どちらも屋内でも振りやすい警棒のような鉄鞭と手斧や小剣だが、どう見ても警備側が押されている。


 それも当然だろう。


 潜めるはずもない整備用の隙間から現れた傭兵共に指令役である警備責任者を殺され、おまけに裏切者までいた。


 そして守るべき護衛対象は背後のオスヴァルト達だけでなく、二等車にもいる。


 焦りが注意力を削ぎ、動揺が死を誘う。


「足元がお留守ですよーってなァ!」


「ごっ!?」


「ハッハァ!馬鹿がよォ!」


「かッ!?」


 横合いから左足を小剣で斬り落とされた警備が体勢を崩し、正面の傭兵が手斧を肩に叩きつけた。


「グうッ!」


「ヒャハッ!?死んどけや!」


 振り下ろされる手斧に警備は硬直してしまう。


 しかし―――――


「『蒼火撃』!」


 傭兵の顔面にラウラが杖剣を用いて放った蒼炎がボウッ!と突き刺さった。


「ブげゃッ!?」


「てぇあああああああッ!」


 バタバタと藻掻く傭兵へ向けて車両中央部から駆け込んだソーニャが鋭く直剣を突き込む。


「けハ・・・・ッ!?」


 ついさっきまで哄笑を上げていた傭兵はカクンと首を押さえて倒れ込んだ。


「何やってんだマヌケが!」


 警備に不意打ちをくれたもう一人の傭兵がソーニャに小剣を上段から叩きつける。


 だが、真っ当な職にありつけず落ちぶれた自称傭兵程度の一撃にソーニャが慌てるはずもない。


 ―――――こんな連中に!


 カァン―――――!


 盾を掲げて一撃を凌いだソーニャは返す刀で直剣を低く振るった。


「イっぎぇ!」


 右膝を抉り取られるように斬り裂かれた傭兵が悲鳴を上げる。


「『蒼火撃』!」


 そこへ狙い澄ましたラウラの一撃が飛び、傭兵の横っ面を張り飛ばした。


「ふんっ・・・おおおッ!」


 倒れ込む傭兵の首に直剣を宛がい、そのまま無理矢理引き裂いたソーニャは倒れていた警備を引き摺って車両中央にまで急いで戻る。


「この方の止血を!」


 ラウラはソーニャが引っ張ってきた警備を背後で固まっている役者陣へ任せ、指示を飛ばした。


「わ、わかった!」


「ど、どうすりゃいいんだよこれ・・・足が」


「うっぷ!」


 狙われているクラウディアを含めた10数名の役者陣はラウラに気圧されて頷きはするものの動きは鈍く、顔も土気色になっている。


 無理もない。刃傷沙汰と無縁な者がほとんどだ。


 間近に迫る死という概念に怯えてマトモな思考が出来なくても当然。しかし、そうも言っていられないのだ。


 ほっとく間に警備は失血死してしまう。


 ラウラが必死に警備と傭兵に視線を走らせつつ歯噛みしていると、


「アンタ達情けないこと言ってんじゃないわよ!誰の為に戦ってくれてると思ってんの!?」


 ディートリンデが大声を張って仲間達を鼓舞しつつ膝をついた。


 震えている己を無理矢理張り飛ばしたのだろう。頬を赤く腫らしているし顔色も悪い。


 それでも落ちていたらしき布を警備の膝に宛がい、ぎゅうっと絞ろうとしている。


 しかし、血を見て手が震えるのか力が入らない。


「リンデさん、僕も手伝います!」


 そこにイグナーツが膝を落として彼女の持っていた布をひったくるようにしてぎゅうっと絞っていく。


 無駄に力が入っているのか至る所に青筋が浮かんでいた。


「肩の傷も押さえて下さい!出血を止めて!」


 ラウラが『蒼火撃』を機関車側の傭兵へ放った後、視線をチラリと背後にやって指示を飛ばす。


「わ、わかった!」


「はい!」


「く、くそう・・・・なんでおれらがこんな」


「泣き言は後にしてよ!」


 役者陣はディートリンデとイグナーツに引っ張られるように動き出した。


「そこ!」


 レイチェルが引き鉄を引いて、収束率の高い光術弾と鉱術弾をガァン!ガァン!と撃ち放つ。


 狙いは組み合っている警備と傭兵が一瞬離れた隙間。


「・・・・は?」


 己の胸にぽっかり空いた穴に傭兵が唖然とし、


「助かる!」


 警備は刹那、呆然としたが即座に鉄鞭を敵の頭にぐしゃりと叩きつけた。


「チッ、誰か後ろの武芸者ガキ共黙らせろや!メンドくせーんだよ!」


「じゃあテメエが行けや!」


 傭兵達が叫び合い、数人がすぐに警備の網を突破してくる。


 無理もない。車両中央に体勢を低くした役者陣。


 その周囲をラウラ、ソーニャ、レイチェル、そしてオスヴァルトが慌ただしく駆け回り、その前後を守るように警備が張っているのだが、数に差があり過ぎるのだ。


 30名を切ってしまった警備と50名を超える傭兵ではどうしようもない。


 ほぼ倍の人数に押し込まれている。


 ギリギリ保っているだけでも奇跡だろう。


「きゃあっ!」


「うっ、うわぁっ!」


 迫ってくる傭兵に役者陣が悲鳴を上げて後退る。


 しかしソーニャは逆にドン!と踏み込み、


「『隠蛇いんじゃ帯壺おびつぼ』!はあッ!」


 左腕に展開させた蛇型の『帯壺』に盾の把手を掴ませてブン!と突き出すように射出した。


 スマッシュのような動作で撃ち出された金属盾を傭兵は「ヘっ!」と笑う。


「盾投げるなんぞぉぉおおおッ!?」


 しかし手斧で打ち払おうとした金属盾の重量に驚愕の声を上げ、得物を弾き飛ばされる。


 最大20倍の質量増加効果を受けた金属盾が重くないはずがない。


「風!雷!二連!」


 そこにレイチェルが風術弾と雷術弾を浴びせかけた。


 風術弾は迫ってきていたもう一人の腹へ、雷術弾を得物を弾かれた傭兵の目へ。


「おブっ!?」


「ギャアッ!?」


 風に腹を殴りつけられた傭兵が呼気と体液を吐き出し、目を灼かれた傭兵が顔を押さえて悲鳴を上げる。


「でぇああああッ!」


「どおおおおおッ!」


 そこにソーニャとオスヴァルトが駆け込み、直剣と細剣を振るった。


「ギャア・・・・ケふ?」


 目を押さえていた傭兵がソーニャによって掻っ捌かれた喉を撫でて崩れ落ち、


「イぎッ・・・・げあッ!?」


 オスヴァルトによって頸動脈を裂かれ、目をくり抜かれた傭兵が頽れる。


「ラウラ!伏せろ!」


 機関車側に回っていたラウラにソーニャの声が届いた。


 と同時、ラウラは目前の二人の傭兵のことなどお構いなしにしゃがむ。


「はあああああああッ!」


 ソーニャは盾に雷属性魔力を宿し、『帯壺』をガラガラ!と回しながら鞭の如く振るった。


「ぐっ・・・・重ってえッ!」


「チッ、ワケわかんねえことしてんじゃねーぞッ!」


 雷を纏った重打に傭兵二人が怯む。


 その隙をラウラは見逃さない。


「『蒼火撃・かさね』!」


 傭兵の腹に突き付け、容赦なく杖剣による魔術を発動させた。


「おっ・・・ボっ!?」


 轟!と斜め上を狙って放たれた五層の直列術式が蒼炎を吹き、傭兵の腹を灼き貫く。


「てンめェ!」


 腹に大穴をあけられて白目を剥く同僚にもう一人の傭兵がいきり立って手斧を掲げた。


「『燐炎波濤りんえんはとうつむぎ』」


 しかしラウラは焦らずに左手を向け、刻印指輪によって『複製』された並列術式を発動させる。


「おがァ!?―――――ぎぃええええええええッ!?」


 生み出された蒼炎の噴流に呑まれ、傭兵は火達磨のまま窓をバリン!と破って落ちていった。


「す、すげ・・・」


「こんな若い子が・・・」


 役者陣が息を呑む。


 斬った張ったの世界にいないとは言え、まだまだ成人もしていない若者達がこれほど戦えるだなんて思いもよらなかった。


 ようやく思考できる程度になった彼らには鮮烈な彼女らの働きが希望に見えてきていた。


 オスヴァルトはこの機を逃さず、吼えるように鼓舞する。


「警備!貴君らのおかげでまだまだ耐えられる!踏み留まってみせろ!」


「「「「は!」」」」


 警備達は応じると「おおおおッ!」と発奮し、傭兵共へ怒りを叩きつけるように鉄鞭を振るった。


 きっと機関車にいる運転手は泡を食っているだろう。


 それでも列車を止めず、走らせているのは非常事態のマニュアルに則っているからだ。


 魔導機関が積まれている機関車は守りが重厚で幾重にも防性術式が敷かれている。


 走行中は魔導機関の魔力によって起動されているものなので並の傭兵には突破する術がない。


 アルの『釈葉の魔眼』が一時的失明エラーを起こしたのもこれを視たせいだ。


 しかし止まれば解除される。


 その上ここは渓谷。鉄道憲兵隊も救助に来るにはかなりの時間を要するだろう。


 ゆえに急いで走るしかないのだ。


 二等車にいた役者陣もオスヴァルトの「鍵を閉めて籠城しなさい!」との一声で鍵を閉めているせいで傭兵共もまだ手が出せていない。


 オスヴァルトに応えた警備達は、最悪でもこのまま帝都まで辿り着けば鉄道憲兵隊が来るとわかっているのでここが正念場だと気炎を吐いてみせる。


 だが、ほんの少しの希望が見えてきたからこそ彼らは失念していた。



 傭兵共がどこに、どうやって潜んでいたのか。その謎が解かれていないことに。



「おぉーい、シメオンの旦那ァ。思ってたよりメンドいぜぇアイツら?

 アレやってくれよ、アレ。さっさと畳んじまおーや。

 そんでもってお楽しみといこーぜぇ?」


 最初に降りて来たフザけた態度の傭兵が返り血を浴びたまま傭兵の頭領に声を投げかける。


「団長って呼べっつったろ。あれァ魔力を使うって何回言やあ良いんだ」


 シメオンは鉤状両刃剣ケペシュを持ったまま嫌そうに答えた。


「しかし、団長。このままり合ってもあのバッキャロウの言う通り時間ばっかりかかりやすぜ」


 チンピラのような傭兵の次に降りて来た大男が抗弁する。周りの傭兵が持っているより一回り大きな手斧には血がべっとりと付着していた。


「チッ、しゃあねえ。テメエら!アレやるぞ!」


 シメオンの一声に「おおっ!」「やっとかよ、あー、メンド臭かった」と傭兵共が口々にのたまう。


「やるぞオラ!」


 とシメオンが一等車の内壁に手を当てて叫んだ瞬間。



 警備の立っている床がギュン、ギュン、ギュンと()()()。それも縦横関係なく。



「「「「なっ!?」」」」


「もーらいィッ!」


「こんなに前出ちゃダメだよなァッ!?」


 立っていた床が勝手に動いて傭兵が数人待機しているところに突っ込んでしまう形となった警備が首に手斧を叩き込まれて絶命する。


 他も似たような反応だった。


 押していたはずなのにいつの間にか傭兵との間が()()()()つんのめってしまう警備の背中を傭兵共が斬り裂く。


「な、バカな・・・!」


「最期のセリフはそれで良いんだなァ?オラよぉッ!」

 

「ガハッ!?」


「何が起こって・・・!」


 オスヴァルトは歯噛みする。目の前にいた警備達が気づけば四方に移動していた。


 間違いなくあのシメオンとか言う傭兵共の頭領のせいだ。


 そこまで考えたオスヴァルトは、咄嗟に魔術を紡ぐ。


「『火炎槍』!」


 士官学校卒のオスヴァルトとて定型魔術くらい使いこなせる。不自然に開いた空間のおかげで警備に当てずに放てると撃ち放った術だった。


 しかし、


「どはあっ!?」


「おっと、危ねえな。にしてもヒドい領主サマだ。味方に魔術ブチ当てるなんてよ」


 ギュンと動いた床が警備を無理矢理動かし、シメオンの前に移動させてしまったのだ。


「しまっ―――――!」


「馬鹿だねぇ。オラ、テメェは死んどけ」


「がは―――――ッ!?」


 オスヴァルトが止める間もなく、シメオンは警備を鉤状両刃剣ケペシュで斬り裂く。


「団長!上!上!」


「わかった、そのまま行け!」


 応じるシメオン。


「遊ぼうぜねーちゃん達!」


 傭兵の一人が窓枠に足を引っかけた瞬間、()()()()()()()()()()


 そのまま傭兵は警備を跳び越え、役者陣の前に降り立つ。


 車両の天井が伸びなければとても出来ないような芸当。


「ひっ!」


「う・・・あ・・・・」


 役者陣が怯むと同時にソーニャは駆けた。


「はぁあああああッ!」


 しかし床が動いて無理矢理距離を取らされたソーニャの直剣が空を切る。


 目の前の事象に眉を跳ね上げるソーニャ。


「おっと。そっちじゃねえ・・・よォッ!」


 傭兵はガラ空きになったソーニャの真横へ()()()()()移動して喜色に塗れた声で手斧を振り下ろさんとした。


「ソーニャ!『蒼火撃』!」


 そこにラウラが『蒼火撃』を放つ。


「うおっ・・・プヒュ~、肝が冷えたぜ」


 だが、更に床が動いて傭兵を回避させた。


「てぇああああああッ!」


 ソーニャは恐れずに突っ込む。


 ―――――こいつら自体の練度は高くない!ならば!


 ビュッと鋭く放たれたソーニャの突きに傭兵が冷や汗を掻きつつも、やはり床が急に動いて無理矢理躱しされた。


 ―――――避けられるとわかっているならこちらにも手はある!


「『雷閃花』!」


 ソーニャは左手で魔術を放つ。


 床を移動していた傭兵の左手を樹状に伸びた雷が掠った。


「づッ!?団長!もちっと丁寧に頼むぜ!」


「うるせえ、さっさと殺れ!」


 傭兵とシメオンの応酬に気付いたレイチェルは、


「ラウラちゃん!ちょっと試したいことがあるの!」


 とラウラに言い置いて、シメオンの方をチラリと視線で示す。


「こちらも粗方の予想はつけました!そちらを頼みます!」


 ラウラはソーニャの援護に向かいながら叫んだ。


「うん!」


 レイチェルはあえて警護へ援護の術式弾を放ちながらシメオンの方を向く。


「ラウラか!」


 ソーニャの背中にラウラは己の背中をピッタリと合わせた。


「ええ!ソーニャ、怪我は?」


 ほんの少し一人で戦っていた間に掠ってしまったのかソーニャの右肩からは少しだけ血が滲んでいる。


「問題ない!あんなイカサマなぞなくともマルクは私の背後を取れる。それに比べればあんなチンピラ大したことはない!」


「あンだと!?」


 ソーニャが不敵に笑い、傭兵が気色ばんだ。


「なら倒してみろやァッ!」


 そして汚い雄叫びと共に突っ込んでくる。


 ―――――やはり素の力量は高くないな!


「はッ!」


 ガァン!と手斧を盾で弾き、そこにラウラが


「『蒼火撃』!」


 と目を瞠る速度で魔術を放った。


「チッ!」


 傭兵はほぼ動けなかった自身を自覚しつつ、床の移動でどうにか躱す。


 即座にラウラとソーニャは背中合わせでピッタリくっついた。これで死角はない。


「メンドくせえ!」


 傭兵が叫んだ瞬間、ラウラとソーニャのいた床が動いて無理矢理引き離される。


「くっ!」


「・・・・・」


「ヒャハハハッ!まずは一人ィ!」


 ギュウンと動いた床がラウラの方へ傭兵を動かした。


「今!」


 そのとき、レイチェルが術式弾を()()()()()向けて放つ。


 属性は光、つまり光術弾だ。


「ぬっおおおっ!?」


 魔導機構銃で放たれる術式弾は並の魔術とは弾速が大きく違う。


 特に光術弾はレイチェルの放つ術式弾の中でも随一の弾速を誇っている。


 ゆえにシメオンは野卑な顔を驚愕に彩らせて内壁から()()()()、屈んでやり過ごした。


 一瞬前まで頭のあった位置を光術弾が貫く。


 手入れもされていない黒髪を冷や汗と共に振りつつ、シメオンはハッとした。


「『蒼火撃』」


 その瞬間、ラウラが目前に迫った傭兵の顔面に蒼炎を放つ。


「バカがァ―――――アギャあッ!?」


 移動すると思って回避動作も入れなかった傭兵は並の炎より高温の蒼炎を顔面にぶち当てられて悲鳴を上げた。


「でぇあああああッ!」


 そこに突っ込んできたソーニャが首筋に直剣を突き込む。


「ギャアッ―――――ぐベッ!?」


 首の骨をゴキッと折られ、そのまま突き抜けた直剣に首を貫通され、傭兵が糸の切れた人形のように頽れた。


「今のでわかったよ、二人とも」


 レイチェルは確信を持って述べる。このわけの分からない状況を少しでも見通そうと試した甲斐があったというもの。


「ええ、こちらも理解できました」


 ラウラもまさかと半信半疑に思っていた己の推論が正しかったのだと確信を持って頷いた。


「アル殿とディートが感じていた感覚は正しかったな」


 ソーニャは右腕を軽く触れてそう溢す。できれば当たっていて欲しくなかったところだ。


「何がわかったのか私に教えてくれ」


 オスヴァルトが問うた。彼女らの冷静な判断力は彼にとっては救いだ。


 まだ何とか出来るかもしれないという希望が湧いてくる。


「あの男はおそらく”異能者”です」


 ラウラは確信を持って告げた。魔導具を使っている様子も見られず、かといって術式を組んでいるようにも見えない。


「”異能者”!?」


 オスヴァルトは驚愕する。


「たぶん手で触れている間は空間の形を自由に変えられるんだと思います」


「それも手で触れている間、あと一度に一人というか特定の空間だけ。でも変えられた場所が()()わけじゃない」


 ラウラにレイチェルが追随した。それを確かめる為に光術弾を放ったのだ。


 倒せればそれで良かったが、前方に傭兵を展開し、また警備より武芸者である自身らを最も警戒していた為できなかった。


「・・・な、るほど」


 オスヴァルトは彼女らの言が正しいことを悟る。床板の継ぎ目は渦を巻くようにぐにゃりと歪んだままだった。


「なるほどな。連中があれだけの数潜めていたのは、上の空間を()()したからか。

 だが、(はた)から見ても()()()()()()()()()()()()()()


 鋭い意見を述べるソーニャ。


「うん、あいつが捻じ曲げているのは外界と干渉しない限られた空間だけと思って間違いないと思う」


 レイチェルは二人が戦っている間も絶え間なく思考し、観察した結果を述べた。


「なるほど、好き放題に空間を弄ることができるなら今頃クラウディア殿は攫われていてもおかしくないな」


「ええ。それに代償は魔力。おそらくあの男自身、魔力量はそう多くないはず」


 ―――――あの短時間にこれほど・・・!


 考察する三人にオスヴァルトは舌を巻く。


 どれだけ死線を潜ればここまでの結果が出せるというのか。


「おいおいシメオンの旦那ァ、見破られちまったぜ」


「チッ、うるせえぞ!やるこた変わらねえ!さっさと潰せ!」


 シメオンはイラついて舌打ち混じりにバンと内壁に手を当てた。


「警備!今聞いた通りだ!連中のイカサマは見破った!個別に動け!」


「「「「「は!」」」」」」


 オスヴァルトの発破に成すがままだった数の減った警備が呼応する。

 

「クソが!テメエらチンタラしてんじゃねえ!」


 シメオンの怒声に傭兵共は「へいへい」「チッ、メンドーな仕事だぜ」「さっさとっちまおーぜ」と声を上げて、攻勢を強めるのだった。


「アルさん・・・」


 ラウラは誰にも聞こえぬよう呟く。


「・・・マルク、急いでくれ」


 ソーニャも歯を食い縛った。


「ディーくん・・・」


 レイチェルは自然と名を呼んでしまう。


 彼女らは三人とも経験に則って虚勢を張っているだけだ。


 そして動きながらもわかってしまった。


 この均衡がそう長く続かないことを。


 いずれ食い散らかされてしまうことを。


 少女ら三人は願いを秘めて懸命に戦い続ける。

評価や応援等頂くと非常にうれしいです!


是非ともよろしくお願いします!

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