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【祝!99,000PV】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
少年期ノ弐 仲間との成長編
14/218

5話 悩みの種 (アルクス7歳の春)

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


また、最初は世界観説明もあり非常にゆっくりとしか進められませんが、なにとぞよろしくお願いいたします。

 翌朝アルクスは訓練場の奥、つまり簡易狩猟場の手前に立っていた。


 ここは完全な平地となっていて植物の背も低い。


 誰が決めたわけでもないが西門を抜けた草原の里寄りは遊び場や屋外キャンプ場もどき、奥は鍛錬場といった使われ方をしている。


 アルと向かい合っているのは二本角を生やした鬼人族の少女。


 イスルギ・凛華だ。


 両者はまだまだ幼い容貌をきりりっとさせ、子供丈の武器を握り締めて視線を交わらせていた。


 そこへ、2人のほど近くで立っていた八重蔵が活の入った号令を掛ける。


「はじめえぃっ!」


 その大音声を聞くや否やアルと凛華は互いへ向けてタタッと駆け出した。


 先制攻撃を仕掛けたのは凛華だ。


 剣筋を読ませぬよう右手の長剣を背後へ靡かせ、左手に逆手持ちした直剣を軽く突き出すように構えて突撃。


 勢いを殺さぬまま「はあっ!」と左手で殴りつけるように直剣を振るう。


 稽古用とはいえ刃引きがされただけの金属の塊だ。当たればタダでは済まない。


 迫りくる頭部狙いの左薙ぎにアルは、考える間も少なく右斜め前方へと飛び出した。


 直剣を潜り抜けた先は凛華から見て左後方。脇がガラ空きだ。


「たあっ」


 右手に握っている剣棍(けんこん)――――直剣より短い刃付きの棍棒を右薙ぎに振りかぶる。


 が、凛華は躱されたと見るやすぐさま左手の直剣を振り抜いた。


 慣性の法則は彼女をその場でグルンッと時計回りに回転させ、凛華はそれに合わせて右手の長剣をぶん回す。


 半円を描いてビュッと振るわれる長剣。


 アルは「うぃっ!?」と呻き、慌てて剣棍で受け止めた。


 しかし、体格の変わらない相手が遠心力を乗せて見舞った一撃だ。思わずよろよろとたたらを踏んでしまう。


 そんな隙を見逃す凛華ではなかった。


 順手に持ち替えていた左の直剣を「しッ!」という呼気と共に突き出してくる。


 手足のバネを利用した一直線の刺突。


「~~っ!?」


 アルは今度こそ逡巡し、迷った末に両手で剣棍を構えて防御姿勢をとった。



 ガッ……キィン――――ッ!



 打ち合わされた金属が甲高い音と火花を上げる。


(よし!)


 芯を捉えた。


 凛華は直剣を通じて得た手応えに内心で大きく頷いた。


 それとは対照的にアルは「うぁ……っ!?」とジンジン痺れる両手を庇いながら、鍛錬場の土草をおたおたと踏みつけて後退する。


 体勢を崩されこそしなかったものの、凛華相手には詰みの一歩手前のようなものだ。


 現に追撃に移った彼女がすぐ目の前にまで踏み込んできていた。


「く……!」


 アルは苦し紛れながらもお返し!とばかりに「りゃあっ!」と剣棍を唐竹に振り下ろす。


 虚を衝く一撃……のはず。


 しかし、凛華はしっかりと読んでいたらしく、振り下ろされた剣棍を逆手に持ち替え直した直剣でアッサリと振り払った(パリィした)


「いっ!?」


 剣棍があらぬ軌道で逸れていく。とっさに引き戻せるほど軽いものではない。これでは完全な詰みだ。


 凛華は勝ちを確信して右肩に引っ掛けていた長剣を「たあっ!」と豪快に振り下ろす。


「ぅ、まだぁっ!」


 それでも諦めたくないアルは重い剣棍をポイッと放り捨てながら左手を伸ばし、凛華の右手首を掴むと同時に懐へ踏み込んだ。


 そのまま半身を押し付けるようにぶつけ、掴んだ相手の右肩をグイッと引き寄せる。


 ハッとした凛華はまずいと思ったのか抜けようともがく。が、ここまでくればアルの方が早い。


 凛華の右腕を下に引き込みながら「せいっ!」と踵で彼女の右足を蹴り払った。


 見様見真似の払腰(はらいごし)だ。


 だが体勢を崩されていても凛華の闘志は少しも衰えない。


 身体が地に落ちる前にグンッと腰を外へ捻り、戻す勢いのままアルの腰を「はっ!」と蹴りつけた。


 アルは「ずえっ!?」と空気を吐き出しながら押され、咄嗟に剣棍を引っ掴むように拾うと同時に振り向いて――――……。


 ピタリと動きを止めた。


 土のかけらをくっつけていた凛華が爛々とした青い目で己の首筋にクロスさせた長剣と直剣を突きつけていたからだ。


「そこまで!」


 八重蔵が終了の合図を飛ばす。


 すぐさまアルと凛華は武器を下ろした。


「ぷはぁ~、あたしの勝ちよ」


 額に張り付いた前髪を振るって凜華が汗を拭う。


「はぁ、はぁ……ふぅ~……」


 アルはへたり込みこそしないものの肩を落とした。


 ―――――また負けた。


 そんな2人へ水の入った竹筒を投げ渡しながら八重蔵が声をかける。


「ほい、おつかれさん。んじゃそれぞれの課題だ」


 竹筒から水を飲んでいた両者が背筋をピンと伸ばす。


「まずは勝った方から。 凛華、たとえ勝ったと確信しても雑になるな。 勝つまでは気を緩ませるな。 あんな大振りしなかったらアルに転ばされることもなく勝ててたはずだ。 それと、いつも言ってるが力み過ぎだ」


「はい!」


 父とは言え稽古中。凛華はしっかり門下生として返事をする。


 剣棍を弾いた後、最短コースで長剣を振り下ろせば楽に勝てていた。つい余計な力が入ってしまった。


 凛華は素直に反省する。


「次、負けた方」


「はい……」


 アルは力なく返事を返した。


 一本角の剣鬼は苦笑をこぼしながら褒めるべき点と問題点をしっかりと告げる。


「お前は運動神経も動体視力も別に悪かあねぇ。 贔屓目なしでも凛華の剣は歳の割にゃ捷いし重い。 勿論まだ荒削りだがな。 龍眼もどきを使ってなくてもそれが見えてるし、ビビっても冷静になれる。 ついでに機転も利く。 けど肝心要の動きがてんでバラバラだ。


 思考と身体が合ってねえんだよ。 防ぎたいのか、攻撃したいのか、自分でもわかってねえから攻撃が手打ちで単調になってんだ。 重たい剣棍なら凜華の剣を無理矢理押しのけることもできた。 ”魔法”なしなら尚更な。 その調子だとたぶん剣棍も向いてねえぞ、捨ててたしな。 もちっと自分の性質を掴まねえと武器も定まんねえぞ」


 八重蔵は2人に”魔法”も()()()()()も使わせずに鍛錬させている。


 魔族同士の民族紛争時代にとある戦士が『地金の上に才と努力が芽吹く』という格言を残しているからだ。


 才能と努力はしっかりとした地盤――――つまり基礎があってこそ初めて生きるという意味である。


 才能だけでは努力を背景にした者の粘り強さに勝てず、間違った基礎の上に努力を積み重ねた者は正道の努力には敵わなかった。


 それゆえ生まれた言葉であり、現在もその考え方に則った指導がこの里のあらゆる分野で行われている。


 ろくでもない紛争続きの中で生まれた数少ない良い風習と言えよう。


 ゆえにこそ八重蔵は2人に型の練習も反復して行わせ、下駄(魔法)を抜いた部分をとことん鍛えているのだ。


「はい……ありがとうございます」


 この半年間、たびたび言われていた宣告をまたもや受けたアルはがっくりとうなだれた。


 早くて2週間、長くてひと月のペースで言われるがまま武器を変えている。


 長剣と直剣の二刀流であるツェシュタール流双剣術は2週間の方だった。


 その後は長重剣(バスタードソード)直剣(ロングソード)両大剣(ツーハンドソード)小剣(ショートソード)長槍(パイク)短槍(スピア)(ハンマー)棍棒斧(バトルアックス)の順で挑戦し、尽く向いていないとの結論を下された。


 振り方や扱い方は型としてきちんと学んでいるので振れないことはない。


 振って見せろと言われれば「まぁ問題ない」と言われる。


 しかし、いざ地稽古だとなると途端にダメだ。上手くいかない。


 どうしたいのかアル自身にもわからなくなってしまう。


 今日とて棍棒がうまくいかないので八重蔵が変わり種として剣棍を用意したのだがやはりだめだった。


 自分ではしっかり振っているつもりだが簡単に防がれる。


 防御しようとするも身体は咄嗟に別の動きをしようとする。


 そのせいでチグハグな行動を取ってしまい、後手後手に回ってしまう。


 ここ最近は大きくなってきた違和感やモヤモヤとした迷いを抱えながら稽古をするのが常だった。


「はぁ~……」


 こうしてため息をつくのも習慣化しつつある。


「ま、予想はしてたけどなぁ。 とりあえずどう動きたいのか自分で答えを見つけねえといくら振ったって実戦じゃ使いもんにならんだろうさ。 後手に回っても的確に有効打を返せる、ってんなら問題ねえけどよ」


「です、よね……はぁ」


「そう落ち込むな。棍はすっぱり諦めちまえ。今日はまた剣寄りのもんを持ってきたぞ。振り方教えてやっから。な?」


「……はい先生。新しい武器おねがいします」


 そう励ます師にアルは力なくだが頭を下げる。さすがに切り替えられない。


「元気出しなさいよアル。あたしも付き合ったげるし。先生、今日はどんな武器ですか?」


 凛華の励ましもいつも通りだ。


 何とも情けない気分でいっぱいだ。


 地稽古をやるようになってから今回で126戦2勝121敗3引き分け。


 惨憺たる結果だ。励ましの言葉も板について当然だろう。


「おう、今日持ってきたのはコレだ」


 それは明らかに今まで使ってきた剣より重たそうな幅の広い剣だった。


 いわゆる大剣というやつだ。


 7歳児たちの稽古用だけにこんなものまでよく作ったものである。


「大剣、ですよね?」


 アルの確認に八重蔵が頷き、


「そうだ。いっそツェシュタール流大剣術を教えてみようかと思ってな。こいつは大剣の中でも曲者(くせもん)でな。重剣っつう種類の大剣だ」


 と、説明を加えた。


 普通の武器を持ってきた結果、アルはすべて不向きだったという経験に基づいて癖の強いものを選んできたのだ。


「くせもん?両大剣より横幅が広いからですか?」


 重剣と呼ばれた大剣は以前ダメ出しを食らった両大剣の横幅より1.8倍ほどもある。


「それだけじゃねえ。ほれ、見てみな」


 八重蔵は地面に突き立てた重剣をクルっと回し、刃先をアルと凛華に見せた。


 見るべきは刃先ではなく剣身の厚みだ。


 アルが以前扱った両大剣の厚みは剣身全体が均一だったのに対し、これは剣先に向かうにつれてなだらかに薄くなっている。


「だんだん薄くなってってるわねこれ。こんなの重心が……あ、だからこんなに(つか)が長いのね」


 刀剣類が大好きな凛華は重剣をすぐさま分析してそんな風に呟いた。


 どこから仕入れてくるのか剣の知識だけはアルでは較べ物にならないほど豊富だ。


「そうだ。ついでに言うなら鍔から真っ直ぐ三角形型に広がってねえのも重心の為だ。そのまま伸びてりゃ手前に重心が来すぎてマトモに振れねえからな」


 八重蔵からの補足が入る。


 剣の師が言う通り、重剣の鍔下部分はその両端の角を抉られたような見た目をしている。


 これのおかげで鍔元にかかるはずの重心がそこから拳2、3個分剣先側に寄っているのだろう。


「どんな扱い方するんですか?」


 アルが訊きたいのは重剣のコンセプトについてだ。


 先端部が普通の大剣より薄いので斬れ味は良いだろうということしかわからない。


「こいつは俺より親父――――あぁ、凛華の爺さんな。 その親父の得意な武器でな。 このぶっとい剣身で攻撃を弾くなり防ぐなりして、逆に振るう時は……えー、あー、説明が面倒だな。 簡単に言うか。


 重剣ってのはな。 馬上槍、盾、大剣、この三つの要素をぶち込んだ多目的近接武器ってやつだ。 薄い切っ先は並の大剣より鋭く、剣身のど真ん中は金属盾並みに分厚い。 だから大剣の癖に斬れ味がやたら高くて、振れるヤツが振ればちっとばかし異様な剣速が出る。 並の大剣より手元側に重心が寄ってるもんだから思ってるより突きも出しやすい。 そこに重量が乗る。 とまぁ、扱いにくさならピカイチの大剣だ。 半分趣味武器みてえなとこもあるんだが、親父はそんなもん使ってたのにべらぼうに強くてなぁ」


 長い説明を聞き終えたアルは眉を下げた。絶対扱えないと思ったからだ。


「先生、槍も大剣も向いてないぼくになんでこんなのもってきたんですか?」


「はははっ! 変わり種の武器なら可能性があるかもと思ってな。 あとは、まぁ最近悩んでたろ?ちっとは楽しんでもらおうと思ってよ。 真面目に楽しくってのは案外相反しねえもんなんだぜ? まだお前は七歳だ。焦らなくたっていいんだよ。 こっちはお前が真面目にやってる限り絶対見放したりしねえ。 それが言いたかったのさ」


 八重蔵は鬼歯を見せてニッと笑った。アルはその茶目っ気のある温かな野武士のような風貌をじいっと見つめる。


 最近はわざわざ時間を取って剣を教えてもらってるのに正直申し訳ないと思って焦っていた。


 どうやらお見通しのようだ。


 ややあってアルは青白い銀髪をこっくんと縦に振る。


「そう……ですね。うんっ、もうちょっと楽しんでやってみます」


 柔軟さに欠いていたのかもしれない。


 アルは八重蔵の笑みにニッカリ笑み返した。しょげていた紅い瞳にも光が戻っている。


「そういえば先生。父さんは剣どうだったんですか?」


 稽古を始めたての頃、こんな風にいろんなことを聞いてたなと思ったアルは訊ねてみることにした。


「お?ユリウスのやつか。ハッキリ言って剣の腕は並だったな。上手くもなけりゃ下手でもねぇ、基本は大体できるってくらいか」


 ユリウスのことを思い出しつつ、八重蔵は顎を擦りながら空を見上げる。


「並かぁ。じゃあぼくが下手なのは別のとこからかなぁ」


 そう返すアルの表情は特に沈んでいない。余裕を取り戻したようだ。


「はっはっは。まぁそう焦んな。あ。でもユリウスのやつ、盾は上手かったんだよ」


「盾、ですか?」


 ユリウスの戦闘型(バトルスタイル)を思い出したらしい八重蔵が語る。


「おうよ、なんでも自分の家が盾に所縁(ゆかり)があるとかなんとか。 『剣は頼ってくれるな、けど盾ならドンと任せとけ』っつってたな。 実際持たせると固えのよ、やたらめったら。 受ける、そらす、突く、殴るは当たり前でよ。 斬りかかってもなかなか届かねえし届かせねえ。 剣なんて持たずに両手に盾持ってた方が強えんじゃねえのか?なんて俺らから煽られてたよ」


 懐かしい記憶だ。八重蔵は無意識にほころぶ。


「盾かぁ、里に教えてくれる人いなさそー」


 ―――――本当に父さんと仲良かったんだなぁ。


 アルはそう思いながら里内にいる人達の顔を思い浮かべて残念に思った。


 盾を持っていそうな人自体ほとんど見たことがない。


「いねえだろうなぁ。俺もユリウスみてえな盾捌きはできねえし」


 八重蔵も少し残念そうである。覚えいてればユリウスの技術をアルに引き継がせることも出来たろうに、と。


 そこで両者は「あれ?」と顔を見合わせた。


「「凛華は?」」


 どちらからともなくそう言って、鬼娘を探すように周囲を見回す。


 するとどこからともなく、ヒュヒュンッという音が風に乗って流れてきた。


 アルと八重蔵はそちらを見て唖然とする。


 凛華が重剣を振り回していた。


 ダンッと踏み込んで一直線の刺突、そのまま流れるように左袈裟、手元でクルリと刃を回し、自身ごと回転しながら右薙ぎ、今度は逆回りしながら左薙ぎ、そして唐竹に振り下ろす。


 隈取のような朱色のアイラインが引かれ、凛華の力強い青い眼を強調していた。


 最近色合いが濃くなってきた『戦化粧』。


 ”魔法”を使ってはいるが明らかに重剣を扱えている。剣下手なアルでも一目見てわかるほどには様になっていた。


 そこで凛華が視線に気付いたらしい。


 アルと八重蔵に手をぶんぶん振り、元気いっぱいの様子でこう叫んだ。


「なんかこれ使いやすいわ!あたし今度からこれ使おうかしら!」


「先生ぇ~……」


「……すまん」


 さっきよりも更に情けない声でアルは師を呼ぶ。


 娘に『少しは空気を読め』と思いつつも謝ることしか出来ない八重蔵であった。

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