表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【10.9万PV 感謝!】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
武芸者編ノ伍 鋼業都市アイゼンリーベンシュタット編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/223

10話  女侯爵と元武芸都市領主  (虹耀暦1287年4月:アルクス15歳)

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


なにとぞよろしくお願い致します。

 鋼業都市アイゼンリーベンシュタット。


 この地を治めているのはパトリツィア・シュミットという市井では熱血女侯爵として名高いキリッとした女性だ。


歳はもう40手前だというのに20代後半にしか見えないほど若々しく、活気に溢れている。


 こげ茶色の手入れが行き届いた長髪を靡かせて威風堂々と歩くその姿は領民達から広く支持され、働く女性や家庭で夫を待つ奥様方の憧れの的だ。


 また、しっかりと恋愛結婚にて入り婿を取っており、いまだ子はいないがそれでも世継ぎの心配をさせないほどには仲睦まじいことでも有名である。


アイゼンリーベンシュタットの南側、それそのものが防壁と呼ばれるほど頑健な城を居城が彼女と夫の居城兼領主館。その名もシュルスシュタイン城。


 要塞とも、優美な城とも受け取れる歴史ある独特の建築様式はアルクスをして『日本とヨーロッパの古城を足して二で割ったような感覚なのに全然違和感がない』と言わしめた、シュミット家の誇りを具現化した城だ。


 今日はそのシュルスシュタイン城に珍客が訪れた。


 パトリツィアの夫であり、政務の補佐を務めるライナー・シュミットは来客の名と顔を確認するとすぐに応接室へと通すよう伝達し、自身は妻を呼びに急ぐことになった。


 通された客は彼らと面識のあるそこそこに大柄な老人。


 白髪の混じった珍客は、老人と呼ぶには首を傾げそうなほどに矍鑠かくしゃくとした動作で腰を折り、口上を述べる。


「お久しぶりでございます。パトリツィア閣下並びにライナー様もご壮健のようで何よりのことと存じ上げます」


「その口調はよしてはくれないか?」


 しかしパトリツィアは苦笑して手を振った。隣のライナーも困った笑みを浮かべている。


「しかし」


「私が庭で槍を振り回して遊んでいる頃には武芸都市で当主としてその辣腕を振るっていた者に偉そうになどできぬよ。私はそこまで恥知らずではないつもりだ」


 パトリツィアがそう言ったことで老年の男性は顔を上げ、悪戯っぽく笑みを浮かべた。


「そこまで言われては仕方ありませんな。久しいですな、パトリツィア嬢、ライナー殿」


「お久しぶりです、ランドルフ殿」


「ふふ、この歳で嬢とはなかなか言う」


「老いさらばえた私からすればまだまだ令嬢と呼んで相応しく見えるのです。お許しいただきたい」


「はははっ、許そう。若く見られて不快に思う女などいない」


 そう。珍客とはアルクスの祖父であり、また元武芸都市領主ランドルフ・シルトその人である。護衛をたった2人だけ連れてきたと聞いたときはパトリツィアとライナーは納得すると同時に呆れたものだ。


 かのシルト家の者はやたらとフットワークが軽い。武芸者として受け継がれてきた血の成せる業だろうか。


「しかし、老いさらばえたとはまた大法螺を吹いたな。数年前会った時より更に頑健そうに見えるぞ」


 パトリツィアは世辞でも何でもなくそんな言葉を吐く。実際、彼女の記憶よりランドルフの動きはキビキビしていた。30歳も上なぞとは到底思えない。


「家督を譲ってかなりの月日が経ちましたからな。それに、最近は毎日朝から妻と散歩に出かけたり身体を動かしたりしておるのですよ」


 ほっほ、と好々爺の如く笑ってそう返すランドルフ。ちなみにこの運動と言うのがなかなか曲者である。


 というのもアルは武芸都市を発つ前『操魔核を鍛えれば魔力の質も深まるし、そうすれば長生きしやすいって傾向があるから今度生まれてくる孫のことも長く見られますよ。これ置いてきますね』と言った上で『吸魔陣・改』という緩やかに魔力を吸い出す術式を残していった。


 身体へ急激な負荷がかかる『吸魔陣』と違って、『改』はゆっくり魔力を流れ出させていく。そのため丁度良い運動になっているのだ。


 ランドルフと妻であるメリッサはほぼ毎朝これを使いながら散歩に出かけている。ランドルフに至っては『黒鉄の旋風』と混じって孫イリスに槍を教えていたりするので、数年前より明らかに身体のキレが良くなっていた。


「仲睦まじいようで何よりです」


 ライナーが優しそうに笑むと、ランドルフもまた楽しそうに言葉を返す。


「いやいや、そちらも仲睦まじいという話はそれはもう年がら年中聞き及んでおるところですぞ」


「はは、お恥ずかしい」


 照れを見せる夫を可愛く思いつつパトリツィアは本題に入ることにした。


「して、ランドルフ殿。此度は如何様で参ったのだ?こういうのは早く済ませておきたいタチでな」


「ああ、これは失敬。今度、我らが都市ウィルデリッタルトに新しく大衆浴場を立てようとしておりましてな。森人に問うてみたところ、浴槽は木や石の方が良かろうが、建物そのものはやはり鋼材に頼るのが一番と聞いたので纏まった量の買い付けに来た次第です」


「鋼材か、では取引に?」


「ええ、言い値で買いたいと言いたいところですが生憎と今財政を握っているのは息子ですからな。恨まれない程度に負けてもらってくれと言われてきた、とまあこんな具合です」


「はははっ!相も変わらず腹をさらけ出して交渉に入るのだな、シルトの者は」


「トビアスが、いやトビアス殿がああなるのもわかるというものです」


 パトリツィアとライナーは愉快そうに笑う。あまりに清々しく言い切るものだから負けてもいいかと思ってしまうのだ。


 特にライナーはトビアスをよく知っている。あの子にしてこの父ありだと思ってしまった。


「根っからの貴族というわけでもありませんでな。いまだに家訓に残っているほどですぞ。『薄い粥なら麦より蕎麦』と」


 ランドルフがそう言うとパトリツィアとライナーはたまらず声を上げて笑う。シルト家は亡国の騎士が煤だらけの鎧でボランティア活動をしていたところに貴族位を受けて興った家だ。今でこそ領主館もあるが最初はあばら家だったと聞いている。そのため伯爵家としても割と質素な生活を送っている方だ。


 家訓として残っている先の言葉も腹に溜まりやすい蕎麦粥があれば、生きていくことくらいならできるし、そうなりたくなければ驕らず、弛まずを心掛けろという教訓である。


「やはりシルト家の者は清々しいな。北部の連中にも聞かせてやりたいくらいだ」


「とおっしゃると北部は相変わらずですか」


「うむ。正直北部自体が二分されていてな。まったく王国に毒されおって」


 パトリツィアは強気そうな顔を忌々し気に歪めてみせた。北部貴族は南部貴族と違って仮想敵国が王国しかいない。その為かやたらと貴族同士でぶつかるし、帝国貴族らしくない価値観を持っているのだ。


 これには帝都で働く中央貴族も、呼び出されるたび無駄な時間を過ごすことになる南部貴族もほとほと嫌気が差している。


「と話が逸れたな、あんな連中はどうでもいい。大衆浴場と言っていたな?規模はどれほどになるのだ?」


「数軒建てる予定でして、規模は・・・うぅむ。平均的な武芸者協会の支部と同等くらい、が理想ですな」


 ランドルフはそう言った。理想は隠れ里の湯屋である。大き過ぎず小さ過ぎず、みすぼらしくなければそれで良い。


「数軒・・・新しい施策ですか?」


 ライナーは不思議そうに問うてくるが、ランドルフはただ隠れ里の風呂が忘れられないだけである。


「はははっ、施策などではありませぬよ。ただ最近大勢と風呂に入るという経験をさせてもらいましてな。あの雰囲気に当てられておるのです」


 酒まで入ってどんちゃん騒ぎになったときのことを思い返したランドルフが少年のような笑みを讃えた。あれは楽しかった、素直にそう思える。


「大勢と?」


 ライナーは少々驚いた。当然である。貴族のランドルフが大勢と入ったと言ったのだから。


「左様。良いものですぞ、他愛もない話に興じながら疲れを流すというのも」


「ほほう。そう言われると体験してみたい気もしますね」


「武芸都市に来たときは是非とも行ってみると良いですぞ、トビアスも喜びましょう」


「友と雑談しながら汗を流す、か。悪くないですね」


 すっかりその気になってしまった夫とニコニコしているランドルフにパトリツィアは困った笑みを浮かべて話を戻しにかかった。


「それは良い案だと思うが、とりあえず話を詰めないか?ランドルフ殿とゆっくり話に興じるのは後でも構わぬだろう」


「ああ、そうだった。すまない」


「すみませぬな、息子の友人に久しぶり会って上がってしもうたようです」


「構わんさ。本当に貴族か?と思うほど話しやすいのだから私とて同性ならそうなっていただろう」


 パトリツィアはそんな風に言いながら手を振ってランドルフと交渉にかかる。どちらもやり手の貴族だ。良い落としどころを見つけるのにそう時間はかからなかった。



***



 数時間後、夕食の席に呼ばれたランドルフは護衛二人を伴ってシュミット家の食卓についていた。


「しかし、パトリツィア殿が組合に話を通すまでに時間がかかるとは一体何があったのです?」


 ランドルフは少々遠目の向かいにいるパトリツィアへ問う。途端、彼女は形の良い眉を八の字にさせた。


「氏族の馬鹿共が騒いでいるのだ。最近は抗争だのなんだのでやたらと兵が割かれるし、都市まちが荒れている。まったく厄介な」


 現在、様々な氏族がぶつかり合っているのだ。初めてと言っても良いくらいに荒れ始めた都市を守るのに領軍の兵も国軍もてんやわんやな状態となっている。


 一度30名近くの武芸者が拘置所にぶち込まれるなどという事態も起きていたし、その直後に殺人まで起こってしまった。


 それを皮切りにするかのように都市のあらゆる場所で突然武芸者同士がやり合い始めるようになってしまい対応に追われている。


「氏族同士の抗争・・・ですか?あ、ごめんなさい」


「構わぬよ。護衛も一緒で良いと言ったのは私だ」


 パトリツィアは白い肌をした森人の女性へそう言った。彼女はランドルフの護衛の一人だ。


「我々には馴染みがないな」


 もう一人の森人の護衛―――男性の方はよくわからないといった表情を浮かべている。


「武芸都市には氏族がおらん。そもそも支援組織として協会があるのだから群れずとも本来問題はない。君達の一党がそうであるようにな」


 ランドルフは『黒鉄の旋風』所属の森人ケリアとプリムラへそう告げた。彼らの一党は三等級、そしてこの場にいる二人は個人でも三等級だ。


「まったくその通りだ。貴君らの爪の垢でも飲ませれば連中も少しは落ち着くのやもしれんな」


 パトリツィアは本当に困っているらしい。


「まぁまぁ。一応探りは入れてますがどうにもこうにも。相手が武芸者である以上こちらも下手に兵の数を絞れませんし、困ったものですよ」


 ライナーも肩を竦めた。最近はそのせいで色々と業務に差し支えが生じている。


「というわけで話をつけて運搬日程が決まるまではこちらの迎賓館に滞在して頂きたい。勿論そちらの護衛二人も。それともし町に降りることがあるのなら重々注意してもらいたい。今のところ民間人に被害は出ていないが何軒かは店先を壊された、という報告が来ている」


「感謝致しますぞ」


 疲れた顔で告げてくるパトリツィアへランドルフは深く頷いた。ケリアとプリムラも気を引き締める。そこでライナーがおずおずとした様子で声をかけてきた。


「ところでランドルフ殿・・・その、トビアス殿は息災でしょうか?」


「うむ?息子なら怪我も病気もないですが、どうされた?」


 キョトンとするランドルフ。


「いえ、便りが最近来なくなったのでゼーレンフィールンの件以降に怪我や病気でもしたのかと気になっていたのです。去年の中ほどまでは『兄上の手がかりはないだろうか?そちらにいたりしないか?』とそんな文面の手紙を定期的に受けておりましたもので」


 ライナーがそう言うと、ランドルフは「ははぁ」と納得すると同時に少々申し訳なさそうな顔をした。すっかり解決してしまったのでトビアスも忘れていたのだろう。頭から吹き飛ぶほどには衝撃的なことが多かったのだから。


「それは失礼を。トビアスは元気にしておりますよ。便りが来なくなったのは問題が解決したからなのです」


「えっ?トビアス殿の兄上が、ユリウス殿が見つかったのですか!?」


 驚きに目を瞠るライナー。もう10年以上音信不通だと聞いていた。パトリツィアも驚愕している。


「それで、ユリウス殿はどこにいたのだ?」


「え?パトリツィア、ユリウス殿を知ってるのかい?」


 妻の反応に顔見知りのような気がしたライナーは問うた。トビアスと士官学校からの友人である自分はユリウスとも知己ではあるが、パトリツィアはその2年ほど学年が下だ。入学した頃にはユリウスはいなかったはずである。


「ああ。その昔、と言っても大昔だな。私が十歳にも満たない幼い頃だ。侯爵家主催の社交会に顔を出したユリウス殿に助言を貰ったことがあってな」


「息子が助言を?」


 驚愕するランドルフ。ユリウスからそんな話は聞いていない。


「ああ・・・当時から私は侯爵家を継ぎたいと考えていた。子供は私しかいないし、母はあまり身体が強くない。しかし父や周囲の者はかなり難色を示していてな。それで私は、まぁ有り体に言って不貞腐れていたのだ」


「そこにユリウス殿が?」


「うむ。しょげている私を無視して、護衛に手合わせというか手ほどきをしてくれと頼んできた。自分は武芸者になりたいのだと言ってな」


 懐かしそうに、笑みを隠さずパトリツィアは言う。


「息子がすみませぬ。武芸者になるのは止めておらんかったのですが、一応何かあった時に頼れる者がいれば良いと考えて社交会には参加させておったのです」


 ランドルフは言い訳染みた言葉を口にした。今更失礼なことをやっていなかっただろうな?などと心配しなければならないとは。


「いや、当時の私はそんなユリウス殿に呆気に取られてしまってな。他の貴族の子息達は、まだ子供の私にやたらとすり寄ってくるような連中ばかりのなかで。義務は果たしたと言わんばかりに私への挨拶を適当に済ませて護衛へ挑むような者はいなかった」


「それは・・・いないだろうね」


 侯爵家と言えば、皇族の血を引かない実質最高位に属する貴族だ。無視する者の方が稀有である。


「すみませぬ」


 ランドルフはそれしか言えなかった。


「いやいや、それが鮮烈でな。勢いに押されて許可を出したのだが、当時のユリウス殿はそこまで強くなかった。しかし何回地面に転がされても楽しそうに突っ込んでいく。それが不思議でな。幼いながら話してみたいと思ったのだ」


「そこで、助言を?」


「うむ。たどたどしく侯爵家を継ぎたいが父親はあまり許してくれそうもない。でも私はこの都市が好きで、だから民を守りたいのだと・・・拙かっただろうな、そんな風に話した。ユリウス殿は泥だらけの格好で『なら行動で示すしかない。何言われても、何か一つでも、前に進み続けてればいつか誰かわかってくれるさ。そう気にするなよ。ま、俺は武芸者になりたいって言ったらアッサリ許可出たんだけどな、あはは』などと言ってくれてな」


 パトリツィアにとって最初に家格を気にせずハッキリと言ってくれた他人。それがユリウス・シルトだった。


「・・・そういえば一度礼服をボロボロにして帰ってきた事がありましたな。妻にしこたま叱られておりましたが・・・そうですか、そんなことが」


 ランドルフは結果オーライか?という顔をしながら懐かしむ。あのときはメリッサがかなり怒っていた。高い礼服だったのにとか、なんで社交会に剣を持って行ったんだとかなんとか。


「うむ。その日から私は勝手に行動を起こすことにした。自分が継ぐと周囲に知らしめるためにな。今にして思えば父上は侯爵家の重みもしがらみも私に背負わせたくなかったのだろう」


 パトリツィアは早逝した母と隠居している父を思いつつそう述べる。今では父の気持ちも理解していた。面倒事が多い。


「そうだったのか」


「うむ。そんなわけで、かの御仁は私が侯爵家の当主をやる切っ掛けを作ってくれたのだ。ライナーとトビアス殿が行方が知れぬと言っていたのは私も気になっていてな」


「なるほど。トビアス殿も大概奔放だったけどユリウス殿はかなり自由だったからなぁ。あ、それでランドルフ殿。ユリウス殿は今どちらに?」


 妻に頷いてライナーが客人に問う。ランドルフは一瞬沈黙し、そして穏やかに告げた。


「・・・今は、穏やかに眠っております」


「「っ!?」」


 衝撃が走り抜ける。穏やかな眠り、それが意味するところを二人は正しく理解した。


「そんな・・・」


「・・・すまぬ、ランドルフ殿」


 二の句が継げないライナー。ハッとしたパトリツィアはすぐさま謝罪する。無神経過ぎた、と。しかしランドルフはゆっくりとかぶりを振った。


「他人の口から語られる思い出というのも良きものでありましたから気に病まれずとも良いのです。それに心の整理はもう終えておりますれば」


「そうか。しかし――――」


 聞いて良いものかどうか。パトリツィアがそう言い掛けたところでランドルフは更に衝撃の一言を告げた。


「それに、良い孫を遺しておりましたからな。あやつに似て少々無鉄砲ではありますが」


 ケリアとプリムラは視線を合わせつつ苦笑いを溢す。少々?あの子(アルクス)はそんな程度で済む孫ではない。『月刊武芸者』は彼らとて読んだ。ランドルフがあんぐりと口を開けていたのはまだまだ記憶に新しい。


「孫・・・!?」


「では、ユリウス殿に子供が―――」


「私もつい最近初めて会いまして、ユリウスにそっくりな目をしておるのですよ」


 ほっほ、と微笑むランドルフ。イリスもアルクスも彼にとっては自慢の孫達だ。


「そう、でしたか。では武芸都市にそのお孫さんが?」


「そちらの孫は武芸者でしてな。今は山岳都市か、もしかしたらこの都市におるやもしれません」


「なっ、武芸者!?」


 ランドルフの言葉に驚愕を禁じ得ないパトリツィアとライナー。ユリウスは武芸者で危険に巻き込まれたのではないのか?そう思わずにはいられない。


「この都市に・・・」


「眼を見ればすぐにあやつの子だとわかるでしょう。特にライナー殿なら」


「それほど似て・・・いえ、ランドルフ殿。ユリウス殿は武芸者で依頼中に亡くなったのではないのですか?」


 同じ職業についている彼の息子をなぜ保護しないのか?そんな視線を送るライナーへランドルフは笑みを向ける。


「あの子は、良い仲間達と帝都を目指しておるのです。ターフェル魔導学院へ入学するために」


「魔導学院へ?」


「左様。それと、ユリウスは依頼中に命を落としたわけではありませんぞ」


「では、どうして?病気ではないのだろう?」


「ええ。魔族狩りを行っていた聖騎士率いる神殿騎士とぶつかって討ち死にしたのです」


「なんだと!?」


「聖国の者と・・・!?」


「ええ。魔族を助け、何人もの神殿騎士を討ち果たして力尽きたと聞いております。孫が持っておったのは私があやつに贈った剣。折れたそれを持っておったから孫だとわかったのです」


「「・・・・・」」


 パトリツィアとライナーは二の句が継げない。情報が重すぎる。ケリアとプリムラは少々驚いた顔をしていた。アルが半龍人であることは知っていたが、細かい事情までは知らなかったのだ。


「ランドルフ殿・・・すまないがもう少し詳しく聞きたい」


「ええ、話すつもりでおりました。トビアスと同じく、私もまた聖国へ断固とした態度を取ると決めておりましたので。パトリツィア殿、いえ閣下が味方になってくれれば心強いというもの」


 ランドルフの眼光が鋭く光る。彼の本気が見て取れた。


「初めから、これを?」


 ライナーが問うと、


「いえ、少しずつ根を広げていくつもりでした。少なくとも南部貴族は纏まっておかなければ。先の軍事侵攻以来そう思っておりましたので」


 ランドルフはそう返した。復讐がしたいのではないのだ。それではユリウスの死を穢してしまう。


「・・・なるほど。卿の話を聞こう」


 パトリツィアは南部貴族を纏める貴族として、ランドルフに向かい合うのだった。




 季節は変わり始め、日が落ちる時間は遅くなってきているはずだというのに、都市には正体不明の闇が広まりつつある。


 貴族達が有意義な談議を重ねる一方で『黄金こがねの荒熊亭』に滞在しているアル達”鬼火”の一党及び『紅蓮の疾風』の8名はのっぴきならない騒動の渦中にいた。


評価や応援等頂くと非常にうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ