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第70話 王宮筆頭実務顧問室、最初の一か月報告

 王宮筆頭実務顧問室が発足してから、一か月が経った。


 一か月。


 文字にすると短い。


 だが、クラリスの机の上に積まれた報告書の束を見ると、とても一か月分とは思えなかった。


 善意確認制度の初期運用報告。


 慈善記録官室の不備記録と改善表。


 社交界標準様式の普及状況。


 財務院確認費協議の進捗。


 王太子府署名確認改革と差し戻し分類。


 ミレーヌ補佐見習い仮合格報告。


 北方慈善交易路共同調査案。


 エリオット監査官の人事候補保留記録。


 そして、最後に一冊。


 王宮筆頭実務顧問室 勤務状況報告


 クラリスはその表紙を見て、少しだけ視線を逸らした。


 イリスが見逃すはずもなかった。


「お嬢様」


「はい」


「その報告書から目を逸らされましたね」


「気のせいです」


「では、音読いたしましょうか」


「しなくていいわ」


 クラリスは即答した。


 イリスは、いつもの涼しい顔で報告書を手に取る。


「本日は国王陛下への月次報告です。顧問室の勤務状況も正式項目です」


「分かっています」


「本当に?」


「本当に」


「では、ご自分で持ってください」


 クラリスは少しだけためらい、勤務状況報告を受け取った。


 紙は軽い。


 だが、中身は重い。


 終業時刻遵守率。

 休息規定の運用状況。

 補佐官への分担状況。

 職務範囲外依頼の拒否件数。

 夜間対応件数。

 持ち帰り未遂件数。


 最後の項目だけは納得がいかなかった。


「持ち帰り未遂件数は、正式項目に必要かしら」


「必要です」


 イリスは言い切った。


「未遂です」


「未遂だからこそ記録します。発生傾向を把握できます」


「……最近、あなたの言葉がますます顧問室寄りになっているわ」


「お嬢様の影響でございます」


 そう言われると、返す言葉がない。


 オスカーが、横で別の資料を整えながら小さく笑った。


「よいことです。顧問室の監査対象が顧問室自身である、というのは重要です」


「オスカー様まで」


「記録上、非常に健全です」


 健全。


 その言葉を聞いて、クラリスはさらに複雑な顔になった。


 自分の終業時刻まで国王陛下の前に出るのが健全なのか。


 だが、確かに必要ではある。


 王宮筆頭実務顧問室は、見えない仕事を見えるようにするための部署だ。


 ならば、クラリス自身の働き方も見えなければならない。


 自分だけを例外にした瞬間、この職はまた「便利な人」の場所へ戻ってしまう。


「分かりました」


 クラリスは勤務状況報告を他の資料の上に置いた。


「隠しません」


「よろしいかと」


 イリスは満足そうに頷いた。


 国王執務室での月次報告は、午前第三刻から始まった。


 出席者は、国王アレクシス、王妃エレオノーラ、王太子ジュリアス、王弟レオンハルト。


 王妃執務院からマルタ女官長。


 慈善記録官室からセリア記録官と、補佐見習いのミレーヌ。


 社交界代表としてローゼン侯爵夫人。


 財務院からグレゴール参事官とエリオット監査官。


 王太子府からライオネルと若い書記官トーマ。


 記録係はオスカー。


 そして、クラリスの後ろにイリス。


 月次報告としては、かなり人数が多い。


 それだけ、この一か月の改革が王宮中に枝を伸ばしたということだった。


 国王は資料の表紙を見て、低く言った。


「一か月で、随分と厚くなったな」


「はい」


 クラリスは礼をして答えた。


「厚くなりすぎないよう、今後は要約版と詳細版を分ける予定です」


 国王の口元が少しだけ動いた。


「それも報告書にあるのか」


「はい」


「よろしい。始めよ」


 クラリスは最初の資料を開いた。


「まず、善意確認制度の初期運用についてご報告いたします」


 南施療院への膝掛け三十枚は、受領先確認、現物確認ともに完了。


 孤児院への冬服補填も、年齢帯別の受領確認が完了。


 包帯布については、医療用規格と儀礼布の混同を防ぐため、品目分類表を改訂中。


 未着報告については、三件の相談があり、そのうち一件は商会報告と受領先記録の不一致として調査中。


「未着報告が三件」


 王妃が静かに言った。


「はい」


 クラリスは頷く。


「ただし、制度開始前なら声が上がらなかった可能性があります。報告が出たこと自体は、悪い兆候だけではありません」


 フィオナ司祭はいないが、彼女の言葉を思い出す。


 処罰だけでは次の冬服は届かない。


 届かなかったと書けること。


 それもまた、届かせるための一歩だった。


 次に、慈善記録官室の報告へ移る。


 セリア記録官が立ち上がった。


「慈善記録官室では、初月に受領書三十二件、照会文十七件、差し戻し九件を扱いました。不備の主な内容は、受領者名漏れ、数量記載不足、発送前確認と受領先確認の混同、空欄理由不明です」


 声は少し緊張しているが、はっきりしていた。


 マルタ女官長が横で静かに見守っている。


 セリアは続ける。


「改善として、照会文例集を作成中です。また、ミレーヌ補佐見習いの不備記録をもとに、“相手が答えられる照会文”の研修資料を追加しました」


 ミレーヌの肩が、ぴくりと動いた。


 自分の不備が国王の前で報告された。


 以前なら、恥ずかしさで顔を真っ赤にしていたかもしれない。


 今も、少し赤くなっている。


 だが、逃げてはいない。


 国王がミレーヌを見る。


「ミレーヌ・フォン・エルディア」


「はい」


「補佐見習い試験に仮合格したと聞いている」


「はい。三か月の見習い期間をいただきました」


「何を学んだ」


 短い問いだった。


 だが、重い。


 ミレーヌは一度だけ息を吸った。


 そして、まっすぐ答えた。


「私は、全部できる補佐ではありません」


 部屋が静かになった。


 ミレーヌは続ける。


「できないことを分けられる補佐になります。分からないことを分からないまま進めず、空欄を勝手に埋めず、必要な部署へ回します」


 国王はしばらく彼女を見ていた。


 やがて、深く頷いた。


「よい」


 その一言で、ミレーヌの目が揺れた。


 だが、泣かなかった。


 マルタ女官長が、少しだけ満足そうに目を伏せる。


「三か月の見習い継続を認める」


「ありがとうございます」


 ミレーヌは深く礼をした。


 次は、社交界標準様式の普及状況。


 ローゼン侯爵夫人が、いつもの優雅な所作で資料を開いた。


「社交界では、標準記録様式に対して、予想通り反発が出ております」


 国王の眉がわずかに動いた。


 ローゼンは続ける。


「善意に帳簿を持ち込むのは無粋、という意見。王宮が社交界を管理するつもりでは、という懸念。侍女の控えまで外へ出すことへの抵抗。いずれも想定内ですわ」


「想定内か」


「はい。むしろ、出てくるべき反発が出ています」


 ローゼンは、扇を閉じたまま言った。


「一方で、若い夫人を中心に、空欄を隠さず出す動きも始まっています。リント男爵夫人は、昨年の寄付毛布について受領先確認がないことを記録として提出しました」


 王妃が静かに頷いた。


「勇気のいることですね」


「ええ。社交界では、空欄を出すことは恥と見られがちです。ですが今は、“次に確認できる空欄は、よい空欄”という言葉で説明しております」


 オスカーが記録しながら、少しだけ口元を緩めた。


 その言葉は、すでに顧問室内でもよく使われ始めている。


 ローゼンは最後に、少しだけ扇を動かした。


「敵は増えました。ですが、記録用紙を手に取る夫人も増えました。社交界としては、差し引きで前進です」


 国王は低く笑った。


「そなたらしい報告だ」


「恐れ入ります」


 次に、財務院確認費協議。


 グレゴール参事官が立ち上がった。


 その表情は、相変わらず硬い。


 だが、この一か月で少し変わったところもある。


 以前なら「確認費」という言葉を嫌悪していた。


 今も嫌っているかもしれないが、少なくとも正面から扱うようになった。


「財務院では、確認費基準草案を作成中です」


 グレゴールは言った。


「過去帳簿の調査により、確認費相当支出が馬車代、臨時手当、書記手当、記録紙代等の名目で処理されていた例が確認されました」


 国王が目を細める。


「つまり、確認費は新しい費用ではなかったということか」


「はい。新設というより、既存の必要経費を明文化する性質が強いと判断しております」


 その言い方は、財務院の面子を保つものだった。


 隠していたのではない。


 散らばっていたものを整理する。


 クラリスは、グレゴールがこの表現を選んだことを静かに評価した。


 グレゴールは続ける。


「ただし、濫用防止のため、危険度分類に基づく上限設定が必要です。低額・定型支援、中額・季節支援、高額・再仕立て品、外国産物資、過去未着経路、それぞれ確認段階を分ける草案を作成中です」


 エリオットが補足資料を配る。


 赤字の入った古い帳簿の写しも添付されていた。


 財務院の古い帳簿に入った赤。


 それが今、国王の前に出ている。


 エリオットは少し緊張していたが、立って説明した。


「確認費相当支出は、王妃執務院が強く機能していた時期には比較的明確に見られました。その後、雑費化、統合、削減が進み、最終的に確認作業そのものが無償労働や慣例に依存したと考えられます」


 国王は、しばらく資料を見ていた。


「よく調べた」


 エリオットの背筋が伸びる。


「ありがとうございます」


 グレゴールの表情は読めない。


 だが、否定はしなかった。


 次は、王太子府。


 ジュリアスが自ら立った。


「王太子府では、署名確認手順の見直しを継続しています」


 彼の前には、三枚の札が置かれている。


 署名は読む


 差し戻しは罰ではなく確認


 謝罪ではなく仕組みを


 国王がそれを見て、ほんの少しだけ眉を動かした。


 ジュリアスは気づいているのかいないのか、そのまま報告を続けた。


「差し戻し箱の設置後、初期には一日で箱がいっぱいになる事態が発生しました。差し戻し理由を分類した結果、根拠資料の保管場所不明、添付忘れ、実確認者名漏れが多いと判明しました」


 ライオネルが補足する。


「現在、差し戻し対応一時チームを設置し、通常決裁班、差し戻し分類班、根拠資料台帳班に分けております。処理速度はまだ以前より遅いですが、差し戻し理由の重複は減少傾向です」


 トーマが資料を出した。


 根拠資料台帳の試作。


 若い字だが、整理されている。


 ジュリアスは、少しだけ部下たちを見てから言った。


「以前の王太子府は、速さを優先しすぎていました。今後は、確認を省いて速くするのではなく、不備を減らして速くする方向へ改めます」


 その言葉は、以前の彼からは出なかっただろう。


 クラリスは静かに聞いた。


 過去は消えない。


 しかし、変化は確かにある。


 次に、北方慈善交易路共同調査案。


 クラリスが再び立った。


「ノルヴァルト公国より、北方慈善交易路の共同管理案が提案されました。現時点では、直ちに共同管理へ進むのではなく、毛織物と薬草布の二品目に絞った三か月の共同調査案として整理しております」


 セルゲイ大使は今日の会議には出席していない。


 だが、彼からの書簡が添付されている。


 クラリスは概要を説明した。


 輸出元記録。

 港湾到着記録。

 国内中継記録。

 商会保管記録。

 最終受領先確認。


 五段階で見る。


 財務院は関税・港湾・商会契約記録を担当。


 王妃執務院と慈善記録官室は受領先確認を担当。


 王太子府は外交窓口。


 王弟府は調査手順の安全確認。


 王宮筆頭実務顧問室は、制度設計と部署間照会整理を担当。ただし単独管理はしない。


 国王は、最後の文言を見て頷いた。


「単独管理しない。よい」


「はい」


 クラリスは答える。


「顧問室が国際交易路まで単独で抱えることは、制度の趣旨に反します」


「分かっているならよい」


 国王の声には、少しだけ笑みが混じっていた。


 イリスが後ろで静かに控えている。


 何も言わないが、たぶん後で「本当に分かっておられるか確認します」と言う顔だった。


 最後に、王宮筆頭実務顧問室の勤務状況報告が来た。


 クラリスは、少しだけ息を整えた。


 国王が表紙を見た瞬間、面白そうな顔になる。


「これが、顧問室自身の報告か」


「はい」


 クラリスが答えようとした時、イリスが一歩前に出た。


「本項目につきましては、私よりご報告いたします」


 クラリスは思わず振り向いた。


「イリス」


「客観性のためでございます」


 国王が笑いをこらえるような顔をした。


「許す。報告せよ」


 イリスは、少しも遠慮しなかった。


「王宮筆頭実務顧問室、発足初月の勤務状況についてご報告いたします。終業時刻遵守率は七割。残り三割は改善対象です」


 部屋の空気が一瞬止まり、それからあちこちで小さな笑いが漏れた。


 王妃は口元に手を添えている。


 レオンハルトは完全に笑いをこらえている。


 ジュリアスも肩を震わせていた。


 クラリスは、顔が熱くなるのを感じた。


「続けます」


 イリスは平然としている。


「休息規定は概ね遵守。ただし、財務院人事照会時に終業後の書類確認未遂が一件。北方慈善交易路提案書受領日に持ち帰り未遂が一件。王太子府差し戻し分類後の追加助言書作成未遂が一件」


「未遂が多いな」


 国王が言った。


「はい。止めました」


 イリスが即答した。


 さらに笑いが漏れる。


 クラリスはもう諦めた。


 これは必要な報告なのだ。


 必要なのだが、恥ずかしいものは恥ずかしい。


「補佐官への分担状況は改善傾向です」


 イリスは続ける。


「特に、慈善記録官室の照会文例集、王太子府差し戻し分類、財務院確認費基準草案については、クラリス顧問がすべてを抱えず、各担当へ戻すことができました」


 少しだけ空気が真面目に戻る。


「一方で、国際案件に関しては、顧問室へ仕事が集中する恐れがございます。新たに“国際案件”の箱を設置しましたが、箱を増やしただけでは業務量は減りません」


 クラリスは、そこで少しだけ目を閉じた。


 その通りすぎる。


 国王が頷いた。


「重要な指摘だ」


「はい」


 イリスは最後に言った。


「王宮筆頭実務顧問室は、見えない仕事を見えるようにする部署です。ゆえに、顧問室自身の見えない負担も、今後継続して報告いたします」


 国王は、しばらくイリスを見ていた。


 やがて、深く頷く。


「続けよ」


「承知いたしました」


 イリスは礼をして下がった。


 クラリスは、小声で言った。


「あとで話しましょう」


「記録上必要でございました」


「分かっています」


 悔しいが、分かっている。


 月次報告の最後、国王は全員を見回した。


「一か月で、王宮は随分と騒がしくなった」


 誰も否定しなかった。


 実際、騒がしくなった。


 財務院は怒り、王太子府は止まり、社交界は敵を作り、慈善記録官室は空欄を差し戻し、国際交易路まで火種として現れた。


 だが、国王は続けた。


「だが、以前の静けさは、見えていなかっただけでもある」


 その言葉に、クラリスは静かに顔を上げた。


「未着も、不備も、無償労働も、署名の形骸化も、見えていなかったから静かだった。今は見えている。だから騒がしい」


 王妃が穏やかに頷く。


「必要な騒がしさですね」


「そうだな」


 国王は報告書を閉じた。


「王宮筆頭実務顧問室の初月報告を承認する。各制度は継続。ただし、業務量と休息規定の監査も継続せよ」


「承知いたしました」


 クラリスは礼をした。


 その隣で、イリスも礼をする。


 どちらかというと、イリスの方が満足そうだった。


 会議が終わった後、ミレーヌがクラリスのもとへ来た。


「お姉様」


「今日は、お疲れ様」


「ありがとうございます」


 ミレーヌは、まだ少し緊張しているようだった。


 だが、その顔には確かな喜びもある。


「国王陛下に、見習い継続を認めていただきました」


「ええ」


「三か月後、正式採用されるかは分かりません」


「はい」


「でも、今日の報告に自分の仕事が入っていたことが……その、嬉しかったです」


 クラリスは微笑んだ。


「あなたの仕事です」


 ミレーヌは深く頷いた。


「はい」


 それから少しだけ小声で言った。


「それと、イリスさんの報告、すごかったですね」


「ええ」


「お姉様の終業時刻遵守率まで……」


「忘れたいわ」


「でも、必要なんですよね」


「そうなのよ」


 二人は、少しだけ笑った。


 王宮筆頭実務顧問室へ戻ると、机の上にはいつもの箱が並んでいた。


 緊急

 明日でよい

 誰かに任せる

 断る

 名前をつける

 現物を確認する

 今日は帰る


 そして、一か月の間に増えた新しい箱。


 国際案件


 クラリスは、その箱を見て、少しだけ頭を抱えた。


「やはり、存在感がありますね」


 オスカーが言った。


「できれば存在しないでほしかったです」


「しかし、すでに書類が入っています」


「ええ」


 北方慈善交易路共同調査案。


 財務院との役割整理。


 ノルヴァルト公国からの書簡。


 毛織物と薬草布の品目分類。


 箱の中身は、すでに十分重い。


 イリスがその横に立ち、空の札を一枚取り出した。


「まだ増やすの?」


「必要かもしれません」


「何を?」


 イリスは少し考え、こう書いた。


 増やす前に減らす


 クラリスは、その札を見て黙った。


 正論だった。


 非常に。


「国際案件の箱の横に置きましょう」


「ええ……置きましょう」


 クラリスは抵抗しなかった。


 月次報告は終わった。


 けれど、改革は終わっていない。


 むしろ、ここからさらに広がる。


 国内の善意確認制度。

 社交界の標準様式。

 財務院の確認費。

 王太子府の差し戻し改革。

 ミレーヌの見習い期間。

 エリオットを巡る財務院内部の火種。

 そして、北方慈善交易路。


 クラリスは椅子に座り、月次報告書の控えを閉じた。


 一か月前、王宮は三日で止まった。


 その止まった王宮を動かすために、記録を始めた。


 だが、記録を始めるということは、静かだった場所を騒がしくすることでもあった。


 見えていなかったものが見える。

 空欄が見える。

 不備が見える。

 負担が見える。

 怒りが見える。


 見えるから、直せる。


 それがこの一か月で分かったことだった。


 夕方。


 イリスが、いつもの札を置いた。


 今日は帰る


 クラリスは、机の上の国際案件箱を見た。


 共同調査の初期案を少しだけ見直したい。


 財務院への次回照会文も、下書きだけしておきたい。


 ミレーヌの三か月課題表も、もう一度読みたい。


 ジュリアスの一時チーム報告も気になる。


 だが、今日の月次報告で言われたばかりだ。


 終業時刻遵守率、七割。


 残り三割は改善対象。


 クラリスは、ゆっくり立ち上がった。


「帰ります」


 イリスは、満足そうに頷いた。


「はい」


 扉を閉める直前、クラリスはもう一度、机の上を見た。


 国際案件の箱。


 その横の札。


 増やす前に減らす


 たぶん、次の一か月はもっと騒がしくなる。


 でも、今日は帰る。


 王宮筆頭実務顧問室の最初の一か月は、そうして終わった。

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