グループ面接
公爵領に戻ってきたアナスタジアは、自身で言っていた通り次の日からさっそく動き出していた。
旅の疲れを光魔法で強引に癒やした彼女は、『ニブル酒造』の第二醸造所でジッと会議室に座っている。
隣には『ニブル酒造』の最高責任者としてこの場に立っているエッカと、特注で作ってもらった椅子(どこからどう見てもファミレスとかにある子供用の椅子)に座って得意満面な様子のクロノスの姿があった。
「それでは次のグループの人達を呼んできて下さい」
アナスタジアの言葉を聞いた者達が、五人ずつ入ってくる。
彼女がここに来てまず最初にやらなければいけないのが、公爵領で『ニブル酒造』を立ち上げるための従業員の募集だ。
エッカ自身がいなくなるため、彼は王都の第一醸造所に優秀な人材のほとんどを在留させた。
そのためここにやってきている従業員希望者は皆、現地で新たに採用することになった者達ばかり。
ただ事前に第二醸造所の建設については布告をし、人員募集についても大々的に行っていたため、希望者の中には遠隔地からわざわざ公爵領まで、面接を受けるために足を運んでいる者も多い。
書類選考でかなり数は絞ったのだが、それでもアナスタジアが面接で捌かなければならない人数はとにかく多かった。
「えっと……ではエヴァさん、まずはここで働こうと思った動機について……」
前世で新卒の頃に行っていた就活を参考にしながら、志望動機や来歴、現在が持つ職能などについて話を聞かせてもらう。
第一醸造所を作った時はやってきた人達はのはほとんどが未経験であり、皆とにかく職を探してやってきていた。
だが既に『ニブル酒造』は酒造界隈で頭角を現し始めており、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで成長している真っ最中だ。
その勢いにあやかりたいと思う人間が多いらしく、やってくる人材は未経験者だけではなく、わざわざ遠方からやってくる酒造の経験者が非常に多かった。
中にはきらびやかな経歴を持つ者達も多い。
「はい、私は実は以前『ファミリア酒蔵』にて赤ワインの製造管理人をしておりまして……」
ビールやワインの醸造を行っていた職人や現場の管理を行う管理人、更には酒造そのものに責任を持つ親方までやってきている。
中には経験年数が優に二十年を超えるベテランまでやってきているのだから、職人達に取っても『ニブル酒造』というものがどれだけ魅力的に映っているのかというのが窺える。
アナスタジアはその後も普通に質問を行っていくが、これは実はかなり形式的なものだ。
彼女がこうして行っている最終面接を受ける時点で事前に書類選考と従業員達による面接を突破しているため、経歴としても人品としても問題はない。
ではなぜ彼女がわざわざ立ち会いで面接をしているかといえば……
『あのエヴァって子とドンギラって名前の親方はダメだね。何度も嘘を吐いてたし、情報を盗んだらそのまま消えるつもりだと思うよ。管理職をしてたっていうエイダスも何かを隠してたから、紐付きだと思うよ』
大精霊であるクロノスの持つ眼力を使い、スパイを選別するためである。
なぜ『ニブル酒造』だけがあれほど上手いビールを造ることができるのか。
その秘密を探ろうとしている者達は非常に多い。
直接的な潜入捜査員や脅しの類いはなくなったが、機会があれば自身の手の者を滑り込ませようとしている者達が出てくるのは少し考えればわかる。
一応事前に契約書を巻いて守秘義務や退職後も数年間の黙秘を罰則込みで義務づけている『ニブル酒造』ではあるが、現代と比べれば倫理観などが大分緩いこの世界ではそれをしっかりと守ってくれる人を探すのは難しい。
秘密の漏洩を行った場合『ニブル酒造』が被った被害を弁済することになっているので間違いなく生涯罰則金支払いのための無賃労働が確定してしまうのだが、そんなもの蹴ってしまえばいいとやってくる悪辣な紐付きの者達も多かった。
彼らのようなガンを一度中に入れてしまえば、『ニブル酒造』の優位は消え去ってしまう。 更に言えば今回採用人数を多めに取っているのは今回ニブルヘイム公爵領で行う新たな試み……蒸留酒の作成も並行して行うためである。
蒸留酒作成の肝となる蒸留器に関しては、既に作成方法自体が世の中に出回っているビールと比べても特に機密性が高い。
そのために採用は慎重を期して行う必要があった。
「しかし……本当にスパイが多いですね」
「そうね……嫌になっちゃうわ」
うんざりした様子で呟くエッカに、アナスタジアはコクコクと頷いた。
かなり長い時間面接をしているのだが、こうして最終面接に残っている経験者はそのほとんどがスパイで、アナスタジアもかなり疲れ気味なのだ。
『まあガチガチのスパイって感じじゃない人も多いけどね。僕の読心の場合、もし機密を手に入れたら高値でどっかに売ってやろうかなっていう野心なんかも全部悪心として読み取っちゃうから』
精霊は人の感情の好悪を読み取ることができる。
具体的な考えが全てわかってしまうほど万能のものではないらしが、それでもクロノスは対象をジッと見つめれば、『ニブル酒造』のために働こうとしているのか、それとも害をなそうとしているのかが一瞬でわかってしまう。
自分が何を考えているのかを読み取られてしまうのはおそろしくもあるのだが、こういう時には実に頼もしい。
実際クロノスがいなければ、間違いなく通していたという人畜無害そうなスパイも何人か発見できている。
無論中には純粋に酒造りが好きで好待遇で酒が造れる『ニブル酒造』で働こうとしている者達も多い。
彼らには是非頑張ってもらいたい。
そう思いながらアナスタジアはポリポリと糖分補給をしてから、グッと背筋を伸ばした。
「そうしたら次のグループの人達を呼んできてちょうだい」
こうして醸造所の従業員の面接は無事に終わり、次の日。
アナスタジアは蒸留酒製作のためにスザクの背に乗ると、ある場所へと向かっていた。
「さて、それじゃあ行くわよ……ドワーフ達のところへ!」
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