理由
あとがきに大切なお知らせがあります!
ぜひ最後までご覧になってください!
『やはり空を飛ぶのは気持ちがいいな……』
スザクの背にまたがると、一瞬のうちにどんどんと公爵邸が小さくなっていく。
アナスタジアのことを見上げながら指を差し何やら叫んでいる者の姿が見えたが、彼女はそれにはまったく気付かないふりをした。
そういえば父にもクロノスやスザクのことは話していないということを、背中に乗った今になってようやく思い出したのだ。
(うん、私は何も見ていない! そういうことにしておきましょ!)
アナスタジアは眼下に広がる公爵領を見下ろしていると、スザクがばさりと翼を羽ばたかせる。
一体どういう原理なのか、彼が翼を動かすだけでめまぐるしい勢いで周囲の景色が移り変わっていく。
――彼女がこんな風に突如としてスザクに飛び乗ったのには、もちろん理由がある。
蒸留器は金属によって作られる。
アナスタジアはまずは作りやすい焼酎から作成を行うつもりなのだが、その後にはウイスキーやブランデーなどを作ることも考慮すると、蒸留器は銅によって作ることが望ましかった。
(そもそもステンレスは作れないし、鉄だけだと絶対に鉄臭い味になるし……)
この世界ではクロムやニッケルと言った金属は未だ存在すら見つけられていない。
最悪の場合は鉄でやる予定だが、味を求めるのであればなんとしてでも銅を使いたいところだった。
蒸留器を作成するためには銅の高い細工技術が必要なのだが……それができる人材が、ニブルヘイム公爵領にはいないのだ。
自分の故郷だから忌憚ない意見を言えるが、領都ヘルダイムは王都と比べればかなりの田舎である。
鍛冶師がいないわけではないが、彼らはどちらかといえば騎馬民族と戦うための剣や槍、鏃などの専門家。
アナスタジアが求めているような、巨大な銅製の工芸品や細工品などを長年作ってきましたなどというような職人はほとんどいない。
なのでアナスタジアが蒸留器を造ろうとするのであれば、外部から力を借りる必要があった。
そのために彼女が目を付けたのが、公爵領にほど近いところに住んでいると言われているドワーフ達である。
「ドワーフって、私は今まで一度も会ったことないのよね」
『基本的には気の良い人達だよ』
『うむ、我が火山などに居た時にはいろいろと貢ぎ物を送られたりもしたな』
クロノス達の言葉に相づちを返しながら、アナスタジアはあっという間に近付いてきた目的地のヴォラキア活火山を見つめていた。
ドワーフというのは、低くてずんぐりむっくりとした体型に鋼のような肉体を敷き詰め、そしてたっぷりのあごひげを蓄えている亜人と呼ばれる種族の一つである。
彼らは火山や鉱山の麓で生活を営んでおり、鉄と火と酒と共に生きると言われている種族だ。
基本的に偏屈な職人気質の種族であり、人間とは没交渉。
かつてはニブルヘイム公爵もその力を借りようとしたらしいが、けんもほろろに断られていこうは不干渉を保ったままらしい。
ちなみに『プリンセス・アラモード』では他にもエルフや獣人などが存在している。
アナスタジアは未だ、どの種族とも会ったことはない。
彼女からすると不思議なのだが、精霊は亜人ではなく魔力生命体という魔物の一種に入るのだとか。
「酒好きのドワーフ達なら、新しいお酒を造るためといえば協力してくれるはずよね!」
『そんなに単純に……いきそうだから怖いよねぇ』
『ああ、アナスタジアの酒に関する情熱は、ドワーフにめちゃくちゃ刺さりそうだからな』
この世界にはミスリルやオリハルコン、ヒヒイロカネといった前世ではなかった金属も存在している。
ひょっとすればそれらを使えば、前世では作れなかったような蒸留器が作れたりするかもしれない。
まだ見ぬ未来に思いを馳せていると、スザクが着陸する。
アナスタジアがゆっくり地面に下りると、真っ黒な地肌をむき出しにしてる鉱山があった。
「本当にここにドワーフがいるのかしら?」
『えっと……うん、いるね。ほら、あそこに見えてる洞穴の奥の方に三人ほどいるよ』
時空魔法の使い手であるクロノスは空間把握能力が高く、その索敵能力はどんな相手でも不意打ちが不可能なほどに高い。
彼に言われるがまま向かってみると、そこにはたしかに出入り口を押さえて警戒をしているらしいドワーフ達の姿があった。
「貴様……何者だッ!?」
「えっと……酒を愛する者です!」
「……」
「お仕事の話をしに来たのですが、ドワーフの方達と話をするならまず酒盛りからかなと思いまして。お酒の方は用意してありますから、まずは一緒に飲みましょう!」
アナスタジアは一瞬迷ってから、ドワーフの人達が気に入りそうな自己紹介をすることにした。
ドワーフはとにかく鍛冶仕事と酒が好き。
鍛冶仕事には全然詳しくないが、お酒に関してなら一家言も二家言もある。
アナスタジアはそのまま亜空間から『ジーニーエール』と『スピリットラガー』の樽をドスンと地面に置いた。
大丈夫、酒ならある。
「これは話のわかる人族が来たものだ!」
「宴だ! 酒盛りだ!」
「いぇい!」
騒ぎ始めたドワーフ達に混じってピースサインをしているアナスタジアを見て、クロノスとスザクは完全に呆れていた。
『どうしよう、アナスタジアがあまりにも一瞬でドワーフ達に馴染みすぎている……』
『……ひょっとしてアナスタジアは、ドワーフの血を引いているのではないか?』
失礼しちゃうわと内心でぷんすかと怒りながらも、お酒を飲む理由ができて満足げに笑うアナスタジアであった。
酒飲みというのは、お酒を飲む理由などあればあるほどいいものなのだ。
新作の短編を書きました!
↓のリンクから読めますので、そちらもぜひ応援よろしくお願いします!




