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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第一冊 桜のこより

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6/12

白い袱紗(3)



【お疲れ様です、佑樹さん】


 コーヒーとクッキーと一緒に差し出された紙に、私の口元が緩む。


「まぁ、いつもの事なんだけどね……」


 神楽さんに任されて、まだ日が浅いけど、それなりに本の勉強はしたし、かなりの本好きだと自負している。そんな私に本の〈処理〉を依頼するなんて。


 遣る瀬無さに、思わずぼやいてしまう。


 ぼやきながらも、白い袱紗に入れられたままの本をそっとテーブルに置く。


【……この本、命が宿ってますね】


 見えない同居人さんの言葉に、私は微妙な表情になる。


「う〜ん、命が宿っているというよりも、強い想いが命をもったという方が近い気がするわ」


 死者とは違う僅かな違和感が気になった。


 見えない同居人さんにそう答えた直後、タイミングよくテーブルに置いてあったスマホが震えた。画面を見ると、慶介からだった。


 あの夫婦の事だろう。護国神社経由だったからね。


「もしもし、慶介」


『ああ、俺だ。今日来たか?』


「来たわよ。今さっき、帰ったところ」


『そっか……で、中身は見たか?』


(今回は、やけにサービスがいいわね)


『まだ見てないわ。そんなにヤバそうには思えないけど』


 チラリと、白い袱紗に視線を向けてから答える。


『そうか……お前がそう言うのなら、間違いないな。でも、あの夫婦が言うには、勝手に動いていたそうだ。それから、一人連れて逝かれたらしい。確か、甥と言っていたな。死因は交通事故だ。何でも、死の間際、やたら独り言か多くて心配していたって、言っていたな。それに……その本、実は棺桶に入れていたらしい』


 でものあたりから、慶介の声のトーンが段々低くなる。


(ふ〜ん。独り言が多くて、勝手に動いて、連れて逝ったね……連れて逝く程、悪いモノには見えないけど)


 それが本当なら、かなり厄介な案件だわ。


「分かった。それを含めて、こちら側で請け負うわ。……でさ、前々から気になる事があるんだけど」


『何だ?』


「白い布に包む理由は分かるよ。まっさらな白い布は、悪い気を閉じ込める作用があるからね。でもさぁ、何で、依頼に来る人が、慶介の所で売っている袱紗に包んで持って来るわけ?」


 捨てられずにいる白い袱紗が、家に何個もある。これが意外と邪魔なのよね。


『そんなの決まってるだろ。一応、俺の家で祈祷している、有り難い商品だからな。人気商品だぞ。まっさらな白い布が必要な状態で、神社にそれと代わる物があれば、絶対飛び付くよな』


 慶介は全く悪ぶれない。


(そうだろうなって思ってたけど……それって)


『がめつくない? 神社なのに、俗物過ぎる』


『はぁ〜〜何、言ってるんだ。うちが、土地に根付いたそこそこ有名な神社っていっても、色々維持費に金が掛かるんだよ。祈祷料だけで賄えるわけねーだろ。これもちゃんとした商売だ。現に、相談に訪れた人達の希望と安心に繋がるのだから、構わねーだろ』


 不機嫌そうにそう答えると、慶介は電話を切った。私は小さく溜め息を吐くと、テーブルにスマホを置く。


 ぶっちゃけ、慶介の言ってる事は間違いないと思う。言葉は選んでないけどね。確かに、神社の修繕や維持費にお金が掛かると思う。有名なら、それなりにね。


(だけどさぁ、もう少しオブラートに包もうよ。一応、神職なんだから)


 呆れながらも、慶介が言っていた台詞が引っ掛かっていた。


(勝手に動いたっていうのも気になるけど、それよりも……)


 ――甥を連れて逝った。


 そっちの方が気になる。


 それが事実か、偶然なのかは分からないが、少なくとも、あの夫婦は連れて逝かれたと考え信じている。


 つまり、そう導き出されるような事が起きていたのは、間違いないようね。


【本当に、連れて逝ったと思いますか?】


 見えない同居人さんが尋ねる。

 

「思わない。人を連れて逝った者達のような、ドス黒いものを感じないもの」


【私もそう思います】


 見えない同居人さんも同意見のようで、私は内心ホッとする。


 確かに、ドス黒いものは感じない。反対に、純粋な強い想いを感じた。


 純粋で強い想いは、下手したら悪い影響を受け、黒色に染まってしまうことがある。


 しかし今回は、明らかに染まってはいない。


 なのにあの夫婦は、慶介に甥が連れて逝かれたと語った。だから、ここに誘導されたのだけど……考えても(らち)があかない。


「……取り敢えず、本人に訊いてみるのが、一番手っ取り早いよね」


 そう呟くと、私は白い袱紗を手に取った。


 

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