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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第一冊 桜のこより

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5/13

白い袱紗(2)



「……あの……店主は?」


 店内を見渡し、戸惑いながら旦那さんが尋ねる。


「店主は私ですが」


 いつもの事なので、特に不快に思う事なく答える。


「貴女が店主ですか!? ……とても、お若いですね」


 一番大きい声だった。戸惑っていた表情が、次第に困惑へと変わっていく。そしてその後、不安なものへと変わった。


 これもまた、いつもの事。


(まだ十九歳の小娘だからね、仕方ないと思うけど、やっぱり少し傷付くわ)


「ええ、二年前に先代から託されました。若輩者である私が相手では、不安に思われて当然でしょう。もし、〈鑑定〉を不安視されるのなら、別の方に視て頂いても構いませんが」


 苦笑しそうなったけど、出来る限り真摯な態度で夫婦に提案する。


 内心では、そんな事出来ないって分かっていたけどね、敢えて選択肢を提示した。


 意地悪じゃないわよ。確かに若輩者って言われて傷付いたけど、ここで出て行くようなら、神楽書店が関わるレベルじゃないもの。その事を判断するためにも、この質問は必要だったの。


 神楽書店が取り扱う本は、一般書以外に、決して表に出してはいけない〈禁書〉の類いもあるの。販売は勿論しないわ。


 そういった訳アリの書物を保管管理するのも、神楽書店の大事な仕事なの。神楽さんが、直ぐに愛しい人を探しに行けなかった理由は、まさにそこにあった。


 閉めるとして、まず一番にしなくちゃいけない事は、〈禁書〉を保管出来る場所を探さなければならない事だ。


 運良く見付かったとして、次に必要なのは、管理人を見付ける事。


 それが、一番の難関だと思う。管理人が〈禁書〉の魅力に取り憑かれ、心を奪われたら、それこそ大惨事が起きるからね。大きな力は、時にして災いになるものよ。


 といって、神楽さんのように、それらを抑え封印するような特別な力は、私にはないわ。只の見える子に過ぎないもの。私が管理人の仕事が出来るのは、この店内に術式が仕込まれているから。その術式によって、私は力を行使出来ている。


 言い換えれば、私は門番に過ぎないの。


 だから、〈禁書〉を読み解く事は出来ない。読み解く事が出来なければ、力に溺れる事もない。反対に、そこそこ潜在能が高いらしいから、取り憑かれる事もない。


 あくまで表面上は、私が神楽書店の店主って名乗ってるけど、本当の意味で、店主は今も神楽さんだった。


〈禁書〉を取り扱っているせいか、この本屋に来店するのは訳アリの方ばかり。そもそも、人でない方が多いしね。その方達には、そこそこ有名だから看板は必要ない。


 中には、この夫婦のように、(いわ)く付きの本が迷い込んでくる。大半が、護国神社経由だけどね。他には、古本屋経由かな。


 私の提案に困惑し、戸惑いを見せ、躊躇(ちゅうちょ)する旦那さんの腕を引っ張りながら、奥さんは震える声で必死に訴える。


「……私はこれ以上耐えられないわ。ここでいいじゃない。宮司さんの紹介なんだから」


(一刻も早く、本を手放したいようね。やっぱり、〈鑑定〉ではなさそうね)


「…………分かった。店主さんを信じよう」


(旦那さん自身、本を手放したい気持ちの方が大きかったようね)


 とても険しい表情のまま、旦那さんは数分考えた末、そう決断する。そして、自分の腕にしがみ付き懇願する奥さんに告げた。その決断に、奥さんの顔に僅かだけど笑みが浮かんだ。


 二人共、かなり緊張している。それでも、何処か安堵しているようだった。


 旦那さんは持っていた白い袱紗ごと、やや乱暴に私に渡す。まるで、押し付けるようだった。私は黙ってそれを受け取る。


「この本の〈鑑定〉をなさいますか? それとも、買い取りをご希望ですか?」


 これは、最終確認。とても重要な事。


「〈鑑定〉も買い取りも不要でお願いしたい。正直な所、この本の〈処理〉を頼みたいのだが……」


 とても言い(にく)そうにしながらも、旦那さんは希望を口にする。


(処理ね……)


 心の中で呟く。


「畏まりました。この本を無料で引き取りましょう」


(ここは、本屋なんだけどね)


 内心複雑に思いながらも、私は営業用の笑みを浮かべ引き受けた。


「ありがたい。くれぐれも、宜しくお願いします」


 旦那さんはくれぐれもという言葉に、特に力を込めた。


「分かりました」


 私がそう答えると、夫婦は憑き物が落ちたかのような、安心した表情を浮かべた。そのまま、早足で本屋を出て行く。


 まぁこれも、特に珍しい事じゃない。


 逃げ出さなくてもいいのにって、いつも思う。でも当事者からしたら、入れ物である白い袱紗すら恐怖なのだろう。


 だから私は、敢えて別件で来店した人に関しては、名前も住所も訊かないようにしている。


 だって、この夫婦のように、別件でここに本を持って来る大半の人達は、持って来た本と本気で縁を切りたいのだから。私が名前を訊いて縁を繋いだままにしているのは、依頼者にとって本意じゃないし、有益な事じゃないからね。




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