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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第四冊 手帳

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49/50

神様でも無理な事



 暦上では秋になったのに、まだまだ暑い日が続く今日この頃。


 最近はとても静か。特に問題もなく、平和な毎日が続いている。そうそう、巻き込まれるのは御免だわ。平和が一番。つくづく、そう思うよ。


 あんな騒ぎを起こした張本人とは、死神様の討伐以後会っていない。電話も着信拒否しているし、そもそも、神楽書店に入って来れないからね。一応、ラインはプロックはしていないけど、トークを送ってこないし、私も護国神社と距離を取っているから、尚更機会はないわ。


(普通の神経なら、顔出せないでしょ)


 そんな風に思っていたら、知らないうちに慶介は護国神社を出て、違う街に夜逃げ同然に出て行った事を風の精から聞いた。


 表向きは、療養のために、宮司長が知り合いの神社に預けたって話だけどね。そうせざる得なかったと思うよ。今はどうか分からないけど、いくら祭神様の加護があったとしても、福をもたらす付喪神様に拒否られた人間が、宮司の仕事に就けないでしょ。宮司の本来の仕事は、祭を執り行うのだから。経営はその次の次だよ。


 といって、そのまま住まわせるのは、慶介にとっても精神的に苦痛でしょうね。まぁ、預け先で、宮司ではなく、禰宜(ねぎ)としてなら受け入れるって話だったみたいだけど。


 どっちにせよ、慶介も宮司長達にとっても、苦渋の選択だったと思うよ。努力していたの知っているからね、それが一瞬で全てが無になったのたから。


 でも、同情はしない。それだけの事をしでかしたのは、慶介自身だからね。


 だけどね、一言くらい謝罪なり報告があってもよかったと思うのは、私だけかな。付喪神様達は知っていたみたいだけどね。


 身から出た(さび)だけど、本心は少し嬉しいの。向こうでも、神職として頑張るそうだから。慶介、本当に真面目に一生懸命、宮司の仕事頑張っていたからね。


 もし、これから先、何処かで再会したとしても、以前のように気楽に話す事は出来ないと思う。だけど、慶介の未来に幸あれと祈ってる。嘗ての友達としてね。


 それから日をあかずに、今度は高橋さんが旅立った。


 魔物騒ぎから一か月後の深夜に、四十九日が終わったからね。これ以上留まると、罪に問われるから仕方ない。


 紺と高橋さんにとって、三度目の別れ――


 今度こそ、もう二度と会えないかもしれないのに、紺も高橋さんも笑っていた。目に一杯の涙を溜めながら。


 旅立つ瞬間まで、笑っていたわ。


 何か吹っ切れたような、本当に良い笑顔だった。


 あれ程、高橋さんをけちょんけちょんに言っていた蒼と陸も目を真っ赤にしていたし、矢那さんに至っては大泣きだった。あの朱里様も、神妙だったしね。私もちょっと泣いちゃった。


 何だかんだと言っても、皆、高橋さんの事結構気に入っていたんだよね。だって、無条件に自分達を受け入れ、普通に接してくれた、数少ない人間だったからね。


(ほんと……別れって悲しいよね。どんなものでも)


 でもね、紺と高橋さんは良い別れ方をしたと思う。私と慶介みたいな、最低な別れ方をした後だから、特にそう感じるの。


 だって、二人共、前を向いて別れられたからね。


 だから、一歩踏み出した時、自然と身体も一緒に付いていくの。後ろ向きだとそうならないからね。わだかまりや後悔とか、色々あると思うけど、後ろ向きの場合は前に踏み出しても、マイナスかプラマイゼロだから。


(向きを変えるのって、ほんと大変なんだよ)


 そういう私も、今だに変えられないでいる。


 神楽さんから神楽書店を引き継いで、一生懸命、悪戦苦闘しながら働いているけど、今だに引き摺っているの。あんな別れ方以外なかったのかって……今も考えている。


 最初に裏切ったのは、私。


 それでも、父は私を愛してくれた。実の親は利用はしても、愛してくれる事はなかったのに。


 拒否されるのは仕方ない。慶介と同じで、それだけの事をしたのだから。それでも、拒否されても、無理矢理にでも父の前に立ち続けていたら、謝ったら、少しは前向きになれたのかな……ほんと、自分勝手よね。自分が楽になりたいから、気持ちを押し付けるなんて最低だわ。


 後悔だけが、今も残る。


(一生、この想いを抱えて生きて行くんだろうな)


 だからこそ、願ったの。


 紺と高橋さんに、後悔しない別れが出来るようにと。そんな願い、願うまでもなかったけどね。


 素直に喜べない自分が、心底嫌になる。


 ちょっとだけ泣きながら、ふと、考えてしまったの。


 一度でいい。もし、過去に戻れる力を神様に与えられたら、私はあの日に戻りたいと。


 父と最後に会った、あの瞬間に――


 強く拒絶され、固く閉ざされたドアや窓を壊してでも、私は父の前に立つわ。そして、謝る。そのためだけに。でもそれって、結局、父の為じゃなくて自分の為なんだよね。分かってるわ。


(ほんと……自分が嫌になる)


 感動的な場面を思い出して、苦笑してしまう。それでも、戻りたいと切に願ってしまうの。


(戻れる訳ないのにね……)


 こんな不思議だらけの本屋を営んでいるのに、手立ても方法もないんだから。それに、神様でも無理だって理解してるわ。


 死んだ人間を生き返らせる事も、過去に戻る事もね。



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