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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第三冊 夏衣

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46/50

それって、何ていうか知ってる



 風の精が窓をノックする。開けると、『もう大丈夫だよ』と教えてくれた。お礼に、金平糖をあげる。風の精は嬉しそうに、両手で抱えながら飛んで行く。


【本当に、(おもむ)くのですか?】


 溜め息を吐きながら上着を手に取る私に、家神様が訊いてきた。


「夢見が悪いからね。それに、もう決着は付いてるようだし、大丈夫でしょ」


 さすがに戦闘中なら、私も赴くなんて馬鹿な事はしないわ。死神様達の邪魔にはなりたくないからね。それに、自分の命も大事だし。慶介は自業自得だけど。


 苦笑しながらドアを開け、外に出る。そして、護国神社に向かって歩く。


 現場は死神様達が張った結界のおかげで、参拝客には気付かれてはいない。まぁ、ここまで来る参拝客は少ないけど。


 到着すると、そこはちょっとしたカオス状態だった。


 死神様に押さえ付けられ、慶介は砂利石の上で腹這いになっている。押さえ付けていたのは、宮司長を連れて来た死神様だった。


 呆れた事に、慶介は「止めろ」とか「慈悲はないのか」とか、今だに甘い事をほざいている。私はそれを冷たい目で一瞥した後、〈魔物〉に視線を移す。


 慶介達からやや離れた場所に〈魔物〉はいた。


 無数の釘のようなものが全身に突き刺さり、地面に縫い付けられていた。直ぐ横には、白さんが大鎌を〈魔物〉の首元に当てている。


 風の精が言っていた通り、決着は既に付いていた。


〈魔物〉は言葉を発する力もないようだった。原型を保つのもやっとのようだった。


 それでも、慶介を見詰め、必死で手を伸ばそうと足掻いている。


(これもある意味、欲かもしれない)


 食欲よりも大きかった欲――


 そう考えると憐れね。人の自我を失っても欲したのは、人の温かみ。手の温もりなんて……悲しいわ。だけど、少年が犯した罪は到底許されないものよ。罪が免除されるような軽いものじゃないの。


『……佑樹殿?』


 死神様様が私に気付く。


「死神様、慶介を離してもらえませんか?」


 まさか、私がそんな事を言い出すとは思っていなかったみたい。死神様は驚きを隠せないでいる。


「佑樹!! 分かってくれたんだな!!」


 反対に、慶介はとても嬉しそうで興奮していた。


(味方が増えたと勘違いしているみたいね、ほんと馬鹿)


 あまりにも馬鹿すぎて、苦笑する。その笑みも勘違いしてそう。


『離してやれ』


 白さんが配下に指示を出す。


『いいんですか?』


『ああ』


 周囲にいる死神様達は、苦虫を噛み潰したような渋く険しい顔で、私と慶介を見ている。特に目の前にいる死神様は、とても険しい表情をしていた。


 何か言いたそうだ。それでも、上司である白さんに命じられたら離すしかない。渋々だが、死神様は慶介の上から退く。


 拘束が解かれた慶介は、一目散に〈魔物〉の元に駆け寄る。


〈魔物〉は歓喜な表情を浮かべる。


 しかし直ぐに、戸惑う。慶介の足が止まったからだ。


「どうしたの? この子を救うんじゃなかったの?」


 私は慶介の隣に立ち、冷たい声で尋ねた。


「…………」


 慶介は無言のまま立ち(すく)んでいる。


「まさか、怖くなった訳じゃないよね。宮司長が、この子に殺され掛けたのに、救いたいから、私に力を貸せって命令してきたのに」


「…………分かってる」


 どうにか、慶介は言葉を絞り出す。


 こうなるって、分かっていた。


 只の人間が、擬態していない〈魔物〉を目の前にして、平然でいられる訳がないじゃない。いくら、感情が高ぶってても。命の危機から回避する本能は、全ての感情を凌駕(りょうが)するのよ。


 私は慶介の背中を少しだけ押した。


 一歩前に出ただけなのに、ヒッと悲鳴を上げ、慶介は後退る。足が(もつ)れ、尻餅を付く。腰を抜かしたのか立てないようだ。その身体は小刻みに震えていた。


『……お…兄ちゃん……ど…うした……の…………』


 その台詞が止めを刺した。


 完全に恐怖に支配された慶介は、赤ちゃんがハイハイするような格好で逃げ出した。


 それを見た〈魔物〉の目から、涙がボロボロと流れ落ちる。


「……慶介、あんなに綺麗事を語って、説教までしてきたのに、その状態ってあまりにも情けなくない。そういうの、何て言うか知ってる? 偽善って言うのよ」


 混乱した中でも、私の声が届いたのか、偽善という言葉に反応しただけなのか、分からないが、慶介の身体の震えは止まっていた。慶介は小さな声で「違う、違う」と、同じ単語を繰り返し呟きながら、隣に立つ私を見上げる。


「偽善者」


 慶介に視線を合わせ、私はもう一度告げた。


 モゴモゴと何か言い訳をしている慶介を無視して、私は〈魔物〉の直ぐ前まで近付くと、両膝を地面に付いた。砂利石が膝に食い込み痛い。


 それでも、私は両手を伸ばし〈魔物〉に伸ばした。




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