同じ事を言うのね
ドアベルが静かになってからも、私はまだドア前に立っていた。そんな私の耳に、茫然としたまま呟く慶介の声が届いた。
「…………親父をこんな目に合わせたのは、あの子なんだな」
静かな店内に慶介の声が響いた。その声に怒りはない。
(あの子ね……)
ほとほと、呆れるわ。兄が襲われ父親が死に掛けたのに、慶介の中では、〈魔物〉は可哀想な少年のままなのね。何処まで、お目出度いの。
「だったら、何?」
自然と突き放すような言い方になる。
「親父がこうなったのは、全部、俺のせいだよな」
(何を今更。一応、自覚はあったのね)
「間違いなくそうね。あの〈魔物〉が欲しいのは、慶介だからね」
「……やっぱり、そうだよな」
(何が言いたいの?)
考え込む慶介に、不信感が募る。無言の私を気にする事なく、慶介は口を開いた。
「この近くで、死神があの子と戦ってるんだよな?」
慶介の言い様に、不快感しかない。
あれほど、神を差別するなと指摘したばかりなのに、彼は何も聞いてはいなかった。慶介の中では、死神様を敬う気持ちはなく、反対に悪者なのね。
「……死神様ね。で、何が言いたいの?」
不快感を隠すことなく、私は訂正する。
慶介に何を言っても無駄だと、改めて理解したわ。でも内心は、不快感だけではなかったの。
(嫌な予感がする)
「だったら、俺が片付けないといけないな」
(何目線なの、マジ頭痛くなる)
真剣な顔をして、慶介か馬鹿な事をほざいた。何度、私はこの馬鹿のせいで、溜め息を吐いただろう。
「慶介が行って何が出来るの? っていうか、何しに行くの?」
いい加減、話を打ち切りたい。
「凡人の俺には何も出来ない。だから、佑樹、俺に付いて来て欲しい。頼む!!」
(こいつ、今、何て言ったの……?)
聞き間違いじゃないよね。
今、この馬鹿は、私に付いて来て欲しいと言った。
さっき、殺され掛けたのを見ていた筈なのに。そもそも、私を巻き込んだ自覚がないのもおかしい。
(なのに、更に私を巻き込もうとしてるの?)
ましてや、私を矢面に立たせようとしてるよね。マジ、いい根性してるわ。
「はぁ!? 何言ってるの!? これ以上、阿呆な事を抜かしてると、ここを放り出すよ」
今まで出した事のない冷たい声で、私は最終通告をする。
店内の空気は一気に五度程下がったよ。私の直ぐ横でかなり怒っているからね。
今まで色々な経験をしているけど、ここまで身勝手な奴を見た事がない。正義感を振りかざし、自分の願望のために、他者の命を軽んじる。それを身勝手と言わずに何て言うの。ましてや、本人は全く、その事に気付いてはいない。
まさか、友人だと思っていた人が、こんな人間だったなんて、自分の人を見る目のなさに嫌気が差す。
「来てくれるなら、いくらでも頭を下げる。頼む、俺に力を貸してくれ!!」
(来てくれるなら、頭を下げるか……)
順序逆よね。この馬鹿は、完全に私を舐め切ってる。高橋さんの言葉も無意味だった。勿論、私の答えは決まっている。
「嫌よ」
「友達だろ!!」
「それは、この件が起きるまでね。今は心底、慶介、あんたと縁を切りたいと願ってるわ。ていうか、切るし」
「佑樹!!」
声を上げ怒鳴っても、私の考えは変わらない。
「次、同じ事を抜かしたら、躊躇なく、ここから放り出す」
二度目の最終通告なんて、おかしいわね。次は絶対ない。皆には甘いと怒られそう。
馬鹿な慶介でも、私が本気だと思ったようね。一瞬、目を見開き、顔を怒りで歪め押し黙る。
「……特別な力を与えられているのに、それを使わないのは罪だ」
暫く押し黙った後、慶介は私を睨み付け言い放った。
(――慶介も、あいつらと同じ事を言うのね)
陰で私の悪口を言い、そのくせ、私を利用して金儲けをしていた、あの醜い大人達と同じ台詞を。
「……人とは違う力を持っているからこそ、その力の使い道には気を付けなければならない。少なくとも、〈魔物〉にも、愚か者のために使う力は持っていないわ。悪いけど、今すぐ、ここから出て行って。そして二度と、私の前に顔を出さないで」
きっぱりと決別の言葉を口にした。もう目も合わさない。背を向ける。
慶介は信じられない顔をしていた。自分の思い通りにいかなくて、訳の分からない謎理論を叫ぶ。そんな彼を、家神様が遠慮なく叩き出した。無様に地面に転がる慶介に、ご丁寧に塩を振ってるよ。




