君に訊きたいのだか
「……ほんとに、本屋の仕事をしてるんだな」
高橋さんに色々教えてもっていると、隅からぼそっと声がした。その声に、私と高橋さんは書類から目を上げ、冷めた目で慶介を一瞥する。
「うち、本屋だけど。何、喧嘩売ってるの? 邪魔しないでくれる」
「別に、喧嘩吹っ掛けてるつもりはねーよ」
慶介が不貞腐れたように言い捨てる。その姿を見て、私は呆れ果てていたけど、高橋さんは違ったようだ。
『君は何様だ? 何故、神谷さんに対して敬意を払わない』
静かだが、圧のある声音で慶介に尋ねた。
「高橋さん、今更言っても無駄よ。これだけ、答えを提示しても、自分が信じたい現実しか信じない人に何を言っても無駄。そもそも、宮司長の言葉を大袈裟だと言って信じなかったしね。まぁ、その結果は、自ずと背負うのだから、別にどうでもいい」
この地に福をもたらす付喪神様達は、慶介を切り捨てた。その総意に、意義を唱えるつもりはないわ。
私がそう答えると、高橋さんは慶介を哀れな者を見る目で見た。
「どういう意味だ?」
「……以前、私は警告した筈よ」
それで話を終わらす予定だったけど、慶介がまたしても声を荒げた。
「全てを失うってやつか!! お前、また卑怯な真似をするつもりか!? あれだけ、俺達に世話になりながら!!」
(慶介は一生真実は見えないようね、もういいわ)
完全に冷めた。絆は初めからなかったのだと、はっきり分かったわ。
『……心底、呆れるな』
ほんの二週間しかいない、高橋さんが分かる事を、この男は分からない。呆れを通り越して、もう無だわ。でも、これだけはきちんと否定しておかないと。
「なってないわよ。寧ろ、手を貸していたのは私の方。はっきり言うけど、護国神社から紹介された人から、お金は貰った事はないわよ。一度もね。こっちは、仕事の合間にボランティアをしていただけよ。慶介は商売をしていたようだけどね、それももう無し。これから先、私達は護国神社と距離を置く。この件が済み次第、こちらが呼ばない限り、貴方達はここには来れない」
はっきりと告げた。理解するかしないかはどうでもいい。
「ボランティア……」
(反応するのはそこ?)
もう、開いた口が塞がらないわ。隣を見れば、高橋さんも同じ反応をしていた。
「大体、五分も居ずに、本や物を置いていくだけ。椅子を勧めても座らずに帰って行くのが大半ね。置いていった物は、こちら側で処理をしてるわ。これって、完全にボランティアでしょ。強いて言うなら、マイナスよ。違う?」
「…………」
(マジで苛つく)
「自分に都合が悪いと黙り込む。ほんと、いい癖よね。まぁいいわ。ボランティアももう終わり。これ以上、慶介と関わり合うつもりはないわ。勿論、護国神社ともね」
「……上から目線だな」
慶介の台詞にブチ切れそうになったけど、何とか抑え込む。代わりに、付喪神様達や家神様が完全にブチ切れていた。室温が三度程下がったよ。
文句を言おうとしたら、隣から冷え冷えとした声がした。高橋さんだ。彼は静かに問い掛ける。
『……一つ宮司である君に訊きたいのだが、宮司とは神に仕える者ではなかったのか? それとも、君が使えているのは祭神様だけかね。私はその方面には疎くてね、神に仕え、神の声を聞き、神と同じ社に住み、寝食を共にする。そして、祭事をする者を、君達は何と呼ぶ? ……神谷さん、ここは奥宮であり斎宮なのではないか?』
ズバリ訊かれるとは思わなかった。
(高橋さんの観察力って半端ないわね。でもまぁ、答えは散りばめられていたけどね)
「そう、奥宮であり斎宮を兼ねているわ。正式なものではないけどね。……ここは、神様が休んでおられる神聖な場所。慶介、貴方が〈魔物〉呼ばわりした方々がね。付喪神様だから、あやかしだとも思った? 死神様が死に関わる神だから、邪神だと思った? 付喪神様や死神様の恩恵を当たり前のように受けていて、何差別してるの? 何選んでるの? 言っておくけど、私は慶介、貴方や、貴方の父親の宮司長よりも遥か遥か上の身分なの。それなりに、決定権もあるわ。でもね、最終的な決定権は神々にある。貴方は、嫌われたの。そして、拒否された。宮司が神様に嫌われるなんて、これから先、何も出来ないわね。っていうか、させてもらえないでしょうね」
そう告げ、切り捨てた。
「う、嘘だ!! でまかせを言うな!! 俺は信じない!! 信じるか!!」
慶介は血走った目で私を見、怒鳴り付ける。それを見て、溜め息を吐く。
「……私も悪い所があったと思うわ。友達だと思って、立場を曖昧にしていたのが悪かったのね。反省しないとね。あと……でまかせだと思うなら、そう思えばいい。直ぐに現実を知る事になるから」
そう告げ、私は話を打ち切った。完全に言葉を失い、茫然としている慶介を無視して、仕事に戻ろうとしたら、ドアが乱暴に開いた。
ドアベルが派手に鳴る。
飛び込んで来たのは、死神様と少し白髪がある人間だった。




