どうして想像しないの
客注商品のリストと追加商品のリスト。それから、売店からの取り寄せ商品のリストをプリントアウトする。
B5の用紙三枚をホッチキスでとめると、漏れてないかチェックする。紺と高橋さんが手伝ってくれた。ほんと、助かる。
今回は、いつもと比べて少し発注量が多い。売店からの取り寄せ商品が増えているのが気になるけど。
『本以外の品もかなり多いな』
リストを見ながら、高橋さんが指摘する。
「そうなのよ。これ以上多くなるようだったら、一度、売店の店長に釘を刺さないといけないわね。自分の所は自分でしろって。それでも文句を言うなら、手を引こうかな。護国神社の件もそうだけど、一回、全てを見直さないといけないかも」
『それで良いと思う。なーなになった時点で、対等の関係ではない。そういう輩は、早々に切り捨てるべきだ。割増料金も回収もきちんとした上でだ』
(さすが、経営の神様、決断が早いし的確だわ)
「高橋さん、今だけ、先生とお呼びしてもいいですか?」
私が尊敬の眼差しを向けると、高橋さんは少し照れ、紺はとっても嬉しそうに笑っている。
『先生は止めてくれ。でも、時間はまだあるし、教えられる所は教えよう』
「感謝します。経営の神様に教わる機会なんてないもの。でも、私は一番下でいいですから。気が向いた時にアドバイスくれたら助かります」
『……ほんと、君は無欲だね』
そんな話をしながら、作業を再開する。そのうち、蒼と陸も箱詰めを手伝ってくれた。矢那さんも手伝ってくれる。
「追加注文の一部は月末に回すとして……取り敢えず、明後日の便で送るのは、客注商品と雑誌をメインに。売店の分は三分の一だけでいいかな」
ブツブツと呟きながら、本棚から本を次々と抜いていく。
ある程度予想して仕入れた分が、綺麗になくなっていく。この瞬間が好きだ。無くなると気持ちいいよね。それに面白い。
(でも、こうして見ると、つくづく思うのよね)
『地獄の鬼も神様も、好む物は人とたいして変わらないから面白い』
高橋さんが私の隣に立ち、今思っていた事を代弁してくれた。
「ほんと、それ。若い女鬼さんや女神様はファッション誌が人気だし、コスメとかも興味があるの。時代かもしれないけど、意外と同人誌が売れたりするの。でも考えてみれば、それも当然かも知れないわね。今は関係性が希薄になって来たけど、人と人ならざる者達は良き隣人なの。それを忘れたのは、人の方」
私の話を、高橋さんは静かに聞いていた。
『……宮司のくせに、あいつは、何も分かっておらぬ』
いつの間にか傍にいた朱里様が、忌々しそうに口を開く。
『佑殿が仰った言葉の意味を、考える素振りすらないわね。助言も、脅しだと思っているわ』
呆れた口調で、矢那さんも参戦してきた。でも、声音には怒りと不快感に満ちていた。
蒼と陸、紺は完全無視。慶介をそこら辺に転がっている石と同じ扱いをしている。完全に慶介を見放されていた。
口調はキツくても、まだ朱里様や矢那さんは見放してはいない。でも、それは時間の問題だ。私達の会話が聞こえていても、慶介の目からは苛立ちと不満に満ちていた。怒鳴りはしない。
慶介が学習したのは、口を開いたら猿轡をされるという事だけだった。
「…………どうして、想像出来ないの」
そんな慶介を見て、心の声を口にしてしまった。私が発した声は、とてもとても小さかった。慶介には届かないし響かない。
(慶介……少しでも、想像したことある?)
あの少年の姿をした〈魔物〉に喰われた亡者と生者の事を――
知ってるよね。白さん達からも教えてもらった筈だし、私も何回も言ったよね。喰われるって事は、〈消滅〉するって事なんだよ。
それは今世だけでなく、来世も、来来世も、来来来世も、それから先の人生も、無惨に奪われた事なの。
(どうして、その事に気付かないの? 想像しないの? 彼らが一番の被害者じゃないの?)
『『佑、それは違うよ。出来ないんじゃない。しようとしないの。だから気付かないし、想像しようとしないから、視野が狭いままなんだよ』』
蒼と陸が容赦なく確信を突く。それが答えだった。
『その通りね……』
矢那さんが静かに同意する。朱里様も頷いた。その瞬間、朱里様も矢那さんの空気が変わったの。当然、隣にいた高橋さんも気付いた。
『……あの男、本当に愚かだな』
辛辣だか、高橋さんはまだ言葉を選んでくれている。だが私には、その後に続く台詞がはっきりと聞こえていた。
――今、この瞬間、全てを失ったのに。




