慈悲
「――で、白さん。この本屋の周囲に何人配置しているんですか?」
そろそろ、種明かしをしてもいいと思ったので、訊いてみた。
(白さん達も、ある意味、慶介を囮にしてるのよね、現在進行形で)
『……相変わらず、察しがいいな』
「只の保護だとは思ってませんよ。ここに、あの魔物が襲撃するのを狙っているんでしょ」
あれほど、執着を見せたのよ。ここを襲撃する可能性は否定出来ないわ。そもそも、慶介を諦める気はなさそうだし。私的には、死神様の作戦には賛成かな。本屋いる限り、付喪神様の身は安全だからね。外で暴れるのは別に構わない。
『あくまで、念のためにとは思わないんだな』
「思うわけないでしょ。あれはど執着しているのに」
〈魔物〉は慶介を喰わなかった。
普通なら、慶介か神楽書店に来るまでに喰われていた筈だ。会ったその瞬間にね。なのに、今も五体満足でここにいる。それだけ理由は十分でしょ。
それだけでと思うかもしれないけど、本能に近いというか、純粋に欲求そのものを具現化したような〈魔物〉が、食欲よりも、慶介を優先すること事態、とても珍しい話だわ。
つまり、本能の欲求を越える何があったて事になる。
『正直に言えば、六対四の割合で、来ないと考えている奴が多いな』
(ふ〜ん、なるほど。飽きたと考えてるのね)
「それで、白さんは?」
『……来る方に賭けているな。佑樹はどっちだ?』
「私も、来る方に賭けますね」
迷わず答える。すると、不思議そうに白さんが尋ねて来る。
『どうして、そう考える?』
「勘ですね……実際に魔物と対峙した時に感じたし。それに、あの目は……」
途中で、言葉を濁す。
『あの目?』
「私が魔物なら慶介を引き離した時の、あの目……あれは、憎しみそのでした。邪魔する私を排除しようとする目……」
『憎しみか……』
白さんが、何かを考え込むように呟いた時だった。
「なら、人間に戻せる可能性があるんじゃないか? 憎しみの感情があるってことは、そういう事だろ? もし戻れるなら、慈悲を掛けて、ここに来る亡者と同じ様にに扱ったらいいんじゃないか」
黙って私達のやり取りを大人しく聞いていた慶介が、また性懲りもなく口を挟んできた。ほんと、懲りないわね。
「優しい、優しい慶介君は、魔物にさえ慈悲の心を持つように言うのね」
溜め息混じりににそう言えば、慶介は馬鹿にされたと感じたよう。低い声で威嚇する様に反論する。
「それの、何が悪い」
「悪くははいわよ。人それぞれの考え方があるんだし、否定はしないわよ。でもね、私は魔物に対して、慈悲の心なんて一欠片も持ち合わせていないわ。一欠片もね。……白さんはどう?」
私は隣にいる白さんに話を振る。
『俺もないな』
勿論、即答だ。
(当然よね)
でも、慶介は全く納得していない。それどころか、信じられない事を聞いたかのように、不快感をもろに表に出す。
そんな慶介を見て、私はまた溜め息を吐く。
「………何故? そんなに冷たくなれるんだ?」
(冷たい? 心外だね)
「私から見れば、慶介、貴方の方が余程冷たい人間のように見えるけどね。それに、本当に私が冷たい人間なら、慶介、貴方をとっくに外に放り出してるわ。だって、貴方は宮司でありながら、この地に福をもたらす神々に無礼を働き怒らせたのよ。そして、今も神を差別している」
突き放すように答える。
一瞬言葉につまったが、納得していない慶介は、尚も私に対して文句を言おうとしたが、聞くのも面倒くさくて、強制的に黙ってもらった。
本来の本屋の仕事もあるからね。慶介に付き合っている時間なんてない。それに、白さんも仕事に戻ったし。
「慶介、少しは視野を広げてみたら? まぁ、そう言っても、納得しないだろうけど。このままだと、ほんと、全部失うわよ」
そう声を掛けてから、私は仕事に戻った。たぶん、慶介の考えは変わらないなと思いながら。




