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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第三冊 夏衣

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40/50

慈悲



「――で、白さん。この本屋の周囲に何人配置しているんですか?」


 そろそろ、種明かしをしてもいいと思ったので、訊いてみた。


(白さん達も、ある意味、慶介を囮にしてるのよね、現在進行形で)


『……相変わらず、察しがいいな』


「只の保護だとは思ってませんよ。ここに、あの魔物が襲撃するのを狙っているんでしょ」


 あれほど、執着を見せたのよ。ここを襲撃する可能性は否定出来ないわ。そもそも、慶介を諦める気はなさそうだし。私的には、死神様の作戦には賛成かな。本屋いる限り、付喪神様の身は安全だからね。外で暴れるのは別に構わない。


『あくまで、念のためにとは思わないんだな』


「思うわけないでしょ。あれはど執着しているのに」


〈魔物〉は慶介を喰わなかった。


 普通なら、慶介か神楽書店に来るまでに喰われていた筈だ。会ったその瞬間にね。なのに、今も五体満足でここにいる。それだけ理由は十分でしょ。


 それだけでと思うかもしれないけど、本能に近いというか、純粋に欲求そのものを具現化したような〈魔物〉が、食欲よりも、慶介を優先すること事態、とても珍しい話だわ。


 つまり、本能の欲求を越える何があったて事になる。


『正直に言えば、六対四の割合で、来ないと考えている奴が多いな』


(ふ〜ん、なるほど。飽きたと考えてるのね)


「それで、白さんは?」 


『……来る方に賭けているな。佑樹はどっちだ?』


「私も、来る方に賭けますね」


 迷わず答える。すると、不思議そうに白さんが尋ねて来る。


『どうして、そう考える?』


「勘ですね……実際に魔物と対峙した時に感じたし。それに、あの目は……」


 途中で、言葉を濁す。


『あの目?』


「私が魔物なら慶介を引き離した時の、あの目……あれは、憎しみそのでした。邪魔する私を排除しようとする目……」


『憎しみか……』


 白さんが、何かを考え込むように呟いた時だった。


「なら、人間に戻せる可能性があるんじゃないか? 憎しみの感情があるってことは、そういう事だろ? もし戻れるなら、慈悲を掛けて、ここに来る亡者と同じ様にに扱ったらいいんじゃないか」


 黙って私達のやり取りを大人しく聞いていた慶介が、また性懲りもなく口を挟んできた。ほんと、懲りないわね。


「優しい、優しい慶介君は、魔物にさえ慈悲の心を持つように言うのね」


 溜め息混じりににそう言えば、慶介は馬鹿にされたと感じたよう。低い声で威嚇する様に反論する。  


「それの、何が悪い」


「悪くははいわよ。人それぞれの考え方があるんだし、否定はしないわよ。でもね、私は魔物に対して、慈悲の心なんて一欠片も持ち合わせていないわ。一欠片もね。……白さんはどう?」 


 私は隣にいる白さんに話を振る。


『俺もないな』


 勿論、即答だ。


(当然よね)


 でも、慶介は全く納得していない。それどころか、信じられない事を聞いたかのように、不快感をもろに表に出す。


 そんな慶介を見て、私はまた溜め息を吐く。


「………何故? そんなに冷たくなれるんだ?」


(冷たい? 心外だね)


「私から見れば、慶介、貴方の方が余程冷たい人間のように見えるけどね。それに、本当に私が冷たい人間なら、慶介、貴方をとっくに外に放り出してるわ。だって、貴方は宮司でありながら、この地に福をもたらす神々に無礼を働き怒らせたのよ。そして、今も神を差別している」


 突き放すように答える。

 

 一瞬言葉につまったが、納得していない慶介は、尚も私に対して文句を言おうとしたが、聞くのも面倒くさくて、強制的に黙ってもらった。


 本来の本屋の仕事もあるからね。慶介に付き合っている時間なんてない。それに、白さんも仕事に戻ったし。


「慶介、少しは視野を広げてみたら? まぁ、そう言っても、納得しないだろうけど。このままだと、ほんと、全部失うわよ」


 そう声を掛けてから、私は仕事に戻った。たぶん、慶介の考えは変わらないなと思いながら。



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