距離
また、酷い言葉を吐かれるかもしれないけど、大丈夫。私は顔を上げると、慶介と向き合う事にした。
慶介は冷や汗を流しながら、ガタガタと震えていた。今更、怖くなったようね。もはや、虚勢すら張れずにいる。
当然だと思う。
神に属する朱里様の怒気をまともに受けたからね。加護持ちとはいえ、普通の人間が耐えられる訳ないわ。それに、今まで皆、神気を抑えてくれていたのに、今は抑えていない。それだけでも、人には毒だわ。
ちょっと可哀想だと思うけど、私以外の、そこにいる者達は、皆慶介に同情する事はなかった。隣にいる慶介の家族もだ。それ程、彼は酷い態度を私達にとった。その責任を彼は取らなければならない。
「慶介は気付いているの? いや、今はそんな状態じゃないか。私を〈魔物〉と罵ったんだよ。そこまでなら、まだ許せる。とても、傷付いたけどね。でも、付喪神様と死神様を私の仲間だと言ったのは、完全にアウト。よく分からないって顔をしてるわね。つまり、慶介、貴方は遠回しに、この地に福をもたらす神を魔物と罵ったのよ。宮司なのにね。考えられない失態だよね。でもさぁ、知ってたよね、ここをサポートするって事はそういう意味なのだと。忘れてしまったのかな? それとも、初めから信じてなかった? まぁ、どっちでもいいけど」
そこまで一気に言ってやった。随分、砕いて教えてあげたつもり。なのに、いまいち、よく分かってなさそう。もう呆れて、何もいう気が失ったわ。
重ねて、丁寧に繰り返し教えてあげる程親切でもない。そんな気持ちもないし、もういいかな。なんか吹っ切れたよ。
この時、私の中に残っていた僅かな情が、完全に消えた。
感情ない冷め切った目で、私は慶介を見下ろす。慶介の目が一瞬見開き揺れた。
「慶介、貴方の戯言にこれ以上付き合う気はないの。時間がもったいないしね。っていうか、必要ないし。だって、魔物の影響を受けたとはいえ、さっき怒鳴った言葉は本音だよね。どうやら、慶介の中では、この書店も護国神社のお情けらしいから、こんなお荷物はいらないよね。という事で、神楽書店は、護国神社とは最低限の付き合いしかしないから。もう、ここに来る必要も資格もいらないよね。そうそう、死神様が魔物について詳しく知りたいそうだから、協力してね。そして、さっさと出て行ってくれると助かるわ」
私なりの決別の言葉。
それに対して、苦々しく顔を歪め、私を睨み付ける慶介。ほんと、学習しないわね。反対に、慶介の家族は絶望で放心状態だ。
慶介、これでも怒ってるのよ。
私の大切な存在を〈魔物〉って罵倒した事にね。
『……ここからは、俺達の出番だな。さて、詳しく話してもらおうか。少年の姿をした魔物についてな。素直な態度を期待する。まぁ、お前が辛いだけだから,俺達は別にどっちでも構わん』
白さんはそう告げると、ニヤリと笑った。他の死神様たちも同じような笑みを浮かべている。
(うっわ……全員黒っ)
勿論、声にはしないわ。
私と付喪神様達は、白さん率いる死神様達にその場を譲り、後ろに下がった。




