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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第三冊 夏衣

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36/50

三年の意味



 真夜中の一時なのに、店内は圧迫感が半端ない。


 当然と言えば当然だけどね。百八十センチを有に越えるガタイが良い男性が五人居るから、特にそう感じるかも。入り切らなくて、残りの十人は周囲を巡回している。皆、白さんの部隊の人達だよ。


 ましてや、死神様プラスこの家に住む全員が一階に降りてきていた。後は、関係者として、慶介の父親と兄も召集されていた。二人共、護国神社で働いている。宮司長と宮司だ。


 計十五名と慶介が、深夜一箇所に集まっていた。


 狭くて当たり前。っていうか、息苦しい。


 まぁでも、宮司長さん達に比べたらマシかな。彼らは、店内の隅で恐怖で(おのの)いて、震えているからね。この状況、針の(むしろ)っていうねかよね。それは生温いかな。


 それに比べたら、すし詰め状態はマシよね。


 慶介だけは今だに状況が飲み込めていないのか、まだ何処か、他人事だって思っている感じがする。家族の顔を見てもそうなんだから、もう呆れるわ。


 特に、宮司長さんの顔色は青色を通り越して、白色になっていた。念のために、前もって電話で報告したの。大事な御子息を一晩預かるわけだし。ここで知るよりいいでしょ。


 慶介のしでかした事の重大さに、慶介以外の人間は理解しているけど、当の本人は全く理解していない。心底、同情するわ。でも、自業自得よね。教育を怠っていたのだから。その兆候はあったと思うわよ。


 全員揃ったので、白さんが部下に指示を出す。部下は頷き、慶介を荷物のように部屋の中央に引っ張って来て転がす。 


 慶介は神様達に囲まれた。


『佑樹、この拘束具外してくれないか』


 白さんが凍える程怒気を含んだ声で言った。


「外すのはいいけど、まだ影響は残ってますよ」


〈魔物〉が現れた事は、白さんから掛かってきた電話で伝えたし、その直ぐ後にここに来たから、実況見分は済んでいた。


 店内も消毒済み。


 後は、当事者から話を聞くだけだった。だけど、慶介が興奮して話せる状態じゃなかったの。だから、時間を置いて、再度集まった訳。


 死神様達がここに居るのは、勿論、〈魔物〉についての情報収集のためだ。何でも、長年尻尾が掴めなかった奴らしい。


 白さん(いわ)く、かなり凶悪なんだって。まぁ、あれだけ濃く、瘴気のような重い靄に包まれていたら凶悪でしょ。


 本当なら、〈浄化〉が済んだ時点で、慶介の拘束を解くつもりでいた。だけど、いざ解こうとしたら、また掴み掛かって来たんだよね。私、か弱き女性だよ。で、仕方なく、もう一度拘束したの。


〈魔物〉の影響なのか、本心からか、現時点では判断が難しかった。


『構わん。暴れたら、取り押さえるだけだ』


 白さんらしい台詞だね。


「頼もしいですね。だったら、口元だけ外しましょうか? 欲しいのは、〈魔物〉の情報ですよね」


 あまりにも口汚く私を(ののし)るから、猿轡(さるぐつわ)を噛ませていたの。


 慶介は私の大切な友人だった。心が冷めていても、乱暴な事はしたくはない。したくないけど、するしかなかった。慶介のためにも。


 外した途端、慶介は激しく咳き込む。


 それを冷めた目で、死神様と家神様、付喪神様達は見下ろしている。


 咳き込みながらも、慶介は私達を睨み付け、反抗的な態度を取った。私は呆れを通り越して哀れになったよ。悲しくなった。


 慶介は何も分かっていない。


(聞いてる筈だよね、この本屋がどういう所なのか。どんな役割を果たしているのか)


 意図せず、店内の隅にいる宮司長達に視線を移した。それは、私だけじゃなかった。考えるのは皆同じだ。


『……護国神社の総意と捉えてもよいのだな』


 怒りを通り越して、全身を凍えさせるような冷たい声が、朱里様の口から放たれた。


「も、申し訳ありません!! 我が愚息がとんでもない事をしでかし、本当に申し訳ありませんでした!!」


 宮司長と兄が飛び出し、咳き込む慶介の隣で正座し、額を床に擦り付けながら必死で謝罪する。


 知っている人が頭を下げる姿を見るのは、とてもとても嫌なものだ。出来れば止めて欲しいけど、私に は止められない。止める権利も持たない。事が出来るのは、私じゃないから。だから、謝罪の言葉を聞くしかない。


「お、親父!! 何で、頭を下げてんだよ!! こんな奴らに!!」


 謝罪を止めたのは、付喪神様ではなく慶介だった。


「黙れ!! お前は誰に対してものを申しているのか、分かっているのか!!」


 宮司長は叱責すると同時に、慶介を殴打する。見る見るうちに、頬が腫れ上がり、真っ赤に染まった。結構、手加減なしに殴ったようだ。


(まぁ、当然よね)


 これでも、かなり甘い方だ。


 これで気付いてくれたらいいのだけど。心からそう思った。なんと(ののし)られても、慶介は私の友人だった。そう簡単に切り捨てられるものじゃなかったの。


 付き合いは三年だけど、それが短いのか長いのかは、よく分からない。だけど、その三年間は決して薄いものじゃなかったと信じたい。


(そう信じていたのは、私だけなの……)


 私を突き刺すような、憎しみに満ちた目を受け止めながら、心の中で問い掛けた。


 答えは直ぐに返って来た。


「お前か!! お前のせいか!! 佑樹、お前が親父と兄貴を(たぶら)かしたのか!! あの子を〈魔物〉って言っていたな。〈魔物〉のお前がよく口にしたよな。こんなお仲間まで連れて来て、俺達人間を脅すのか。どこまで、性根が腐ってるんだ!! 恥を知れ!!」


 どうやら、私の独りよがりだったみたい。心が急速に冷えていく。


「そっか……違ったんだね……慶介も私を〈魔物〉、化け物って言うんだね」


 そう呟いた声は、とてもとても小さかった。



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