魔物
慶介が神楽書店に連れて来たのは、まさしく〈魔物〉そのものだった。
厄介な事に、愛らしい少年の皮を被った、超庇護欲をくすぐる容姿。
(魔物らしいと言えば、らしいわね)
神楽さんがいた時に対処した〈魔物〉は、もっと幼い姿をしていた。
〈魔物〉は人を惑わす。
惑わし易いためなのか、それとも、元となる魂が幼くて純粋だからか、庇護欲を餌に、獲物を油断して喰らう。まるで、食虫植物のよう。ただ、餌は虫じゃないけど。
亡者ならば魂を。
生者ならば命と魂を。
そうやって、大勢の亡者の魂を取り込み、時には、生きている人間の命と魂を取り込んで、産まれた化け物。
それを、〈魔物〉と言わずに、何を〈魔物〉と言うのだろう。
(……魔物には、何処かに核がある筈なんだけど)
核さえ壊せば、〈魔物〉を退治する事が出来る。
でも、正面切って戦うのは無謀だわ。死神様クラスの戦闘力がないと。
そもそも、私戦闘力低いし。はっきり言って、無理。出来るとしたら、追い出す事ぐらい。それでも、ギリギリ出来るかどうか。神楽さんクラスなら、退治できるけどね……私の実力なら、どう転んでも不可能。
二階は、家神様の見えない同居人さんがしっかり護ってくれてるから、大丈夫だけど。慶介に関しては大丈夫じゃない。
慶介が〈魔物〉の傍を離れないと、手が出せない。こういうのって、八方塞がり、四面楚歌っていうんだよね。
(マジ、どうしたらいいの?)
必死で打開策を考える。そんな私を邪魔するように、慶介が苛々した口調で怒鳴る。
「――佑樹、聞いてるのか!?」
心底、慶介をぶん殴りたい。
「ごめん、聞いてなかったわ。で、何?」
必死で怒りを抑え込んでるせいで、淡々とした口調になった。却って、慶介には効いたみたい。
「チッ!! 聞いてなかったのかよ!! この子の親を見付けてやりたいんだ。手伝え」
(手伝えね……)
普段、口が悪くても命令しないのに。精神が影響し始めてるかもしれない。だとしても、腹が立つけどね。
「悪いけど、暇じゃないの。手伝えない」
まさか、断られるとは思っていなかったみたいね。慶介は顔を歪め、私を睨み付ける。
「あぁ!? 可愛そうだと思わねーのかよ!! こんな子供が、親を捜して泣いてるんだぞ!! それに、お前は亡者を保護するのが仕事じゃねーか!!」
慶介は私を恫喝してきた。
「確かに、慶介の言う通り、本屋の仕事以外に、この本屋に来た亡者を保護しているわ」
――感情的になってはいけない。
神楽さんの教えを思い出す。
〈魔物〉の前で感情を乱す事は、付け入る隙を与える事と同じ事。
「だったら!?」
「保護の言葉の意味分かってる? 預かっているだけなの。私はここを訪れた亡者に、これといって、今まで何もした事はないわ。寧ろ、したらいけないしね」
「横井春の時は、手を貸していただろうが!!」
「貸してはないわよ。私はあくまで、契約に基づいてやったまで。それに……」
言葉を濁す私に、慶介は「何だ!? はっきり言え!!」と怒鳴り付ける。
その様子を見て、呆れて溜め息を吐く。
(さっきまで腹が立って仕方なかったけど、妙に冷静になってきたわ)
淡々と話す事が功を奏したかもしれない。それに、ほんの少しだけと、吐き気も頭痛も治まって来た。
「……それに、その子は亡者じゃない。だから、対象外」
「ざけんな!! 面倒くさいからって、言っていい事と悪い事があるだろーが!! 薄情な奴だな!! 見損なった。もう、お前には頼まない。いいか、今後一切、お前に仕事を振らねーからな!!」
正直、別に振って貰わなくても構わない。実際、無料で引き受けてるし。少なくとも、人間からは貰っていない。それに、別に降ってくれなくても、それなりに収入はあるから問題ないわ。
「いいよ、別に。一向に構わないわ」
断られるとは思っていなかったでしょうね。
明らかに、慶介は激しく動揺した。
「はぁ!? 俺達が仕事振らなきゃ、この店は直ぐに潰れるだろうが!!」
他消毒されていても、今吐き出された言葉は本心。
(まさか、そんな風に思っていたとはね……)
父親である宮司長から、この店の事と役割を聞いている筈なのに。それでも、内心では、そう思っていたのね。ちょっと悲しくなるわ。
怒りに支配された慶介は気付かない。怒りな任せて吐いた言葉の意味を――
「……慶介、あんた終わったわね」




